RE:START(男主)
この中で、一番恐ろしい人は
「コウさん!」
「え?」
なんと、周りに飛散した電撃が、近くにあったコードを爆発させたのだ。しかも、運悪くそれに繋がっていた機材が倒れてかていた。その下にいたのは、俺から少し離れた所にいたダイル。
倒れてきている物は、金属でまだ電撃の雷を纏っている。水タイプのダイルには、かみなりタイプの技はこうかばつぐん。それに、あれに押しつぶされたら、小さなダイルは潰されてしまう。
「ダイル!!」
気付いた瞬間、走る。それでも、ギリギリ間に合うか、間に合わないか位だ。間に合ってくれ。そう心の中で必死に祈りながら、手を伸ばす。
バチバチ! ガシャガシャガシャ!! カラカラカラ。
「コウさん、ダイル!!」
「……」
悲鳴に近いシズクの声を聞きながら、俺は自分の上に落ちてきた機材をどかす。普通の人なら失神するような電撃と激痛が体に走ったが、これ位ならとうに慣れた。
胸に抱えたダイルは、怪我はないものの、俺を通じで電撃を受けたらしく、ぐったりとしていた。
「ダイル。休んでて」
彼をボールに戻し、俺は青年と男性に戻ったサンダースを見る。瞬間、一気にサンダースとの距離を詰め、彼の喉を掴み上げる。
「かは!」
「シャイン!!」
青年は、サンダースを助けようとするが、俺はそいつを蹴飛ばし、地に倒す。こいつを殺すのは後だ。
「お前の、せいで、ダイルが、傷、付いた」
「ぁ……」
「俺が、庇わな、ければ、ダイルは、死んでた、かも、しれない」
「う、ぁ……」
「お前は、ダイルを、殺そうと、した。俺の、大切な、家族、を」
「ちが……」
「違わ、ない。お前は、殺そうと、した。だから、俺も、殺す」
サンダースの喉元を締めていた手に、力を入れた。
彼は、俺の手を引っ掻くなどの抵抗を懸命にしている。だが、俺の中には、怒りの炎しかなく、全く痛みを感じない。それに、ダイルがこれ以上の痛みを味わってたかもしれないと思うと、こんなの痛みに入らなかった。
「ダイルを、俺の、家族を、傷付けた、罰。その、命で、償え」
「やめて―――!」
もう殆どサンダースが抵抗しなくなった頃、悲痛な叫び声と共に、背中に衝撃が走る。不意打ちだったせいか、サンダースの首を掴んでいた手を離してしまった。
咳き込む彼の前に立ったのは、涙目の青年。
「もう、やめておにぃちゃん。シャインを殺さないで!!」
「……どけ」
「いやだ!」
「そいつは、俺の、家族を、傷付けた」
「シャインもぼくのかぞくなの! ぼくをひつようとしてくれる。たいせつな人なの。シャインがいなくなったら、またぼく一人ぼっちになっちゃう。そんなの、いやだよぉ」
「ノア、さ……ま」
「……」
泣き叫ぶ青年を見て、不意に悟った。
嗚呼、そうか。この子は、俺と一緒だ。以前の世界で、家族と言う名の他人の温もりを求めた悲しき自分と。
俺にとってのダイルとトウリが、青年にとってはシャインなんだろう。
俺は、それを奪おうとしていたのか。
「ごめん。やり、すぎた」
そっと、青年の頭を撫でる。ダイルは傷を負ったが、死んでない。なら、これ位の罰で充分じゃないか。
シャインに抱きついている青年に、軽く溜め息を吐いていると、ぽんと誰かに肩を叩かれた。
「も〜、びっくりさせないで下さいよ。コウさん」
「あ、シズク」
「なんか、いたんだ的な発言しないで下さい」
「ごめん。忘れてた」
「さらりと酷い! けど良かったです。コウさんがシャインを殺さなくて」
シズクの言葉に、俺は首を傾げる。
「なんで?」
「え?」
「なんで、俺が、シャインを、殺さ、なくて、良かった、の?」
「だって、例え相手がポケモンだって、殺しちゃいけないんですよ! それは、許されない事です!!」
「だから、なんで?」
俺の言葉に、シズクは目を見開く。まさか、と彼女の唇が動いた気がした。
「コウさん……他の人やポケモンを殺しても良いって思ってませんか?」
否定して欲しい。そうシズクの目は、必死に訴えていた。お願いだから、肯定しないでと。
けど、ここで嘘を付くのは彼女に失礼だろう。だから、俺は正直な気持ちを言葉にする。
「殺しは、汚れる。それ、以上の、事は、感じない」
「うそ……」
「うそ、じゃない。本当」
俺は、罪という概念を全く持ち合わせていない。きっと、あの世界で暮らしていた時に、狂ったのだろう。
こちらに来てからは、博士達に迷惑をかけてはいけないと思っているから、やっていない。だが、もしも、彼らに出会わず、1人でこの世界を生きるという事になっていたら……自分は迷い無く、他者が罪と呼ぶものに手を染めていただろう。
そして、これからも俺は、大切な者が正当な理由以外で傷付けば、この手を躊躇い無く汚す。
(もしかしたら、この中で一番恐ろしいのは、俺かもしれないな)
「俺は、シズクが、思ってる、ような、人間、じゃ、ないよ」
俺は、わらった。
世間でいう、悪人に似合うであろう、歪みきったどす黒い笑みで――。
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