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RE:START(男主)
巻き込まれた、関係のない事
 

 緊張が張りつめたような、ピリピリとした静寂。その中で漆器と金属がぶつかる、カチャカチャと言う音だけが唯一の音となっていた。


 その音を立てる俺達の前にいるのは、この店の店長だ。緊張な面影で手の中にあるストップウォッチを見つめている。多分、そのストップウォッチには、たった今14"21の数字を示しただろう。


 俺は、目の前の皿を見る。残り三割。これなら余裕で食べ終わる。


 通常の5人前を30分以内に食べるとタダになるし、賞金1万が手には入る。それが俺の選んだ大食いだった。


 ちなみに、隣の席にいるシズクは、それの1.5倍入っている、ヤツを食べている。どうやらあれは、俺と同じ時間で食べ終わると賞金が二倍になるらしい。

 俺もあれくらいの量なら食べれなくはないが、元々、オーキドさんに奢って貰わない為に選んだメニューだ。そこまで腹は空いていないし。まぁ、いいかと言う感じで。


(にしても、速いだろう)


 ちらりと、シズクの皿を見たが、減り方が異様すぎる。普通の女性より、若干細く見えたのだが……量が全然違うのに、残りが俺よりも少ないなんてどういう胃袋をしているのだろうか?


 まぁ、俺が言うのはおかしいけど。


「残り5分!」


「ワニワ、ワニワ!」


「コーン!」


 店長の掛け声と共に、声を上げるダイルとシズクのロコン。確か、コロンと言う名前だった気がする。


 と言うか、ダイル。今持ってる頑張れって書かれた扇子は誰から貰った。なんか、可愛いぞお前。


「ごちそうさまでした!」


「……ごちそう、さま」


「おぉ!!」


 ほぼ同時に食べ終わった俺達に、感銘の声と拍手が起こる。シズクは、満面の笑みで「どうもどうも」と手を上げていたが、俺はなんとなく居心地の悪さを感じたのでこっそりとその輪から抜けて、オーキドさんの元へと向かった。


「いや〜、シズクもそうじゃが、コウくんも沢山食べるのじゃな」


「……こっちに、来てから、です」


 そう。こんなに食べれるようになったのは、こっちに来てからなのだ。


 以前住んでいた場所は、土壌自体がもう枯れ果てていた。そのせいか、作物が全く取れず、また豪族達が殆どの食料を買い占めていたので、下級な者達は、毎日の食べ物に困るような生活をしていた。
 

岩のように固い焼いただけの小麦の塊。泥や砂が混ざった水。しなびれた野菜のカスが入ったスープ。


 これだけ食べれれば、贅沢な方だ。と言うより、まともな食べ物なんて産まれてから今まで食べた事なんて無かった。


 なので、こちらに来て一生かけても食べれないようなものが次々と出てきて正直驚いた。博士に、こんな豪勢なモノを食べても良いのかと本気で訪ねてしまった。


 お陰で、博士とヨウジにはかなり心配されたが。


 その反動なのか、こちらで生活するようになってからは、かなりの量を食べるようになっていた。それでも全く太らないからある意味凄い。


「それじゃ、俺は、行きます。お食事、ありがとう、ござい、ました」


「時間があったら、マサラに来ると良い」


「はい」


 さてと、帰ろうかとリュックを持った瞬間、食堂のドアが乱暴に開かれる。入ってきたのは、真っ青になった1人の青年。どうしたのだろうか?


「大変だ! ラジオとうが黒ずくめの男達が占拠しちまった!!」


「……」


 男の言葉に反応した人達が、様々に騒ぎ出す。中には、野次馬根性丸出しでラジオとうに向かう奴もいた。


 そんな中で俺の感想は、だだ一言。


(だから、なに?)


 別に俺にとっては、ラジオとうなんてどうだって良い。その中で何が起きようが、起こらなからろうが、俺には全く関係ないことだ。


「ダイル、行く。店長、賞金」


「あ、はいよ」


「ワニワ?」


 家族になってからダイルの定位置になってしまった俺の肩に乗りながら、ダイルは首を傾げた。行かなくて良いの? なんて、愚問だ。


「行かなくて、良い」


 行くだけ無駄だ。


 このお金で博士やヨウジにお土産でも買って行こう。


 そう思いながら、店を出ようとした瞬間、ダイルが乗っていない方の肩を掴まれた。それは、がしりという音が聞こえそうな程。


「どこに、行くんですか? コウさん」


「……帰る」


「はぁ!?」


 俺の肩を掴んでいたシズクは、素っ頓狂な声を上げた。声でかい。騒ぐなら、もう少し離れてくれ。


「何でですか!? 悪の組織がラジオとうを占拠してるんですよ。それで帰るっておかしいでしょ!!」


「どこが?」


「全部! と言うか、帰るって発言が出てくる事自体、信じられない」


「なんで?」


「私達はポケモントレーナーですよ! トレーナーが一般市民を守らなくてどうすんですか!」


「俺、トレーナー、じゃない。ウツギ、博士の、お手伝い」


「なら、尚更です!! あの中にポケモンが捕まっているかもしれないじゃないですか!」


「別に、ダイルと、トウリが、無事なら、良い」


「ああもう! 揚げ足ばっか取って!! 良いから行きましょう!」


「……」


 思ったよりも強い力で今度は腕を引っ張られ、定食屋を後にする。振り払うのは簡単だが、後が色々大変そうだから辞めた。女の恨みは、執念深くて何時までも引き摺るって言うし。


「正義の名の下、悪を退治にマサラタウンのシズク行きます!!」


「……」


 ごめん、ヨウジ。帰るの少し遅れそうだ。



 

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あきゅろす。
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