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遠藤探偵事務所の事件譚
Day4-6

「だいぶ進んでんなぁ」

目しぱのマンションには、みーきゃんと数人の捜査員が居た。

『まぁ…何か事件があったわけじゃないしねぇ。…あ!そこの人!礼状まだ無いんだからあんまり色々と持ち出さないでよ!』

みーきゃんはパンツスーツで腕を組み仁王立ちで部屋の中央から指示を出している。
年齢から恐らく一番年下だろうが、周りの捜査員達は『はい喜んで〜☆』とみーきゃんの言うとおりに動いていた。
私、意外とモテるのよ?と言っていたみーきゃんの言葉はあながち嘘ではないようだ。

確かに黙っていれば美人だ。
黙っていればである。


「なんかわかった?」

遠藤は、部屋の中で忙しそうに調べている捜査員を見渡しながら遠慮がちに尋ねた。

『特になんにも。指紋は目しぱさんのものしかないし、防犯カメラも付いてないって管理人さんが言ってたし。詰んだ!!』

両手を広げてお手上げ状態だ。

『誰か居たってホントなのかな…』

確かに。隣の住人から聞いた話しからすると誰かと話していたのは間違いない。
しかし姿を確認したわけではないのだ。

「そういうのって部屋の荒らされ方見たら大体わかるんじゃないの?物取りなのかただ荒らされただけなのか。よくあるドロボーの手口っていうの?」

『いや、それがね。なぁんか素人っぽいのよねー』

すると背後からまた捜査員が近づいてきた。

【みーきゃん警部。下駄箱にある靴はどうしますか?】

遠藤と話している間にも忙しなく捜査員から指示を仰がれている。
警部ともなるとやはりそれなりに忙しいらしい。

あぁ…それはいいわ。と、部屋を見渡しながらみーきゃんは言う。

【わかりました】

捜査員は持ち場へと戻っていった。

『悪いわね…話の腰折っちゃって』

「いや、それは全然いいんだけど。さっきの素人っぽいてどゆこと??」

『暇なんで他人の部屋勝手に荒らしてみたんだけど質問ある?的な?』

「なんだよそれっ」

みーきゃんが言うにはどうやらこの部屋は【意図的に散らかした】感じがするらしい。あくまでも勘らしいのだが。
空き巣に入られたり誰かが暴れたりした感じとは少し違う。

【みーきゃん警部!こっちに飲みかけのオロナミンCが!】

捜査員がまたリビングから呼んでいる。

『あー、恐らく巨人ファンだったのね。一応鑑識にまわして!』

みーきゃんは首だけ捻って捜査員に叫ぶ。

「荒探ししたんじゃなくて見せかけの為ってこと?」

遠藤は、気にしてたら埒が明かないと思いみーきゃんとの話を続けた。

『ザックリ言えば、ダイナミックに探し物してた?って感じ』

「ふむ…」

【みーきゃん警部!こちらにはリンゴとハチミツが!】

『恐らく今夜はカレーね。一応、西城秀樹にまわして!』

わかりました!と捜査員の返事。

「………。えーと、ダイナミックな探し物って?」

『普通なら知人とか大家さんとかコンビニ店員とか、なんらか色々な物から指紋やら何かしら出てもおかしくないのよ』

「でもそれすら無いと」

『そうそう。あちこちに目しぱの指紋はあるのに不自然すぎると思わない?』

「…俺にはわからんけどそんなもんなの?」

【みーきゃん警部!こちらの床に、生のイカが落ちています!】

『なんですって!…なるほど。イカが落ちていたとなると、ここはかつて広大な海だったことがうかがえるわ…』

よし!早速冒険だ!船を出せ!野郎ども!島が見えるぞ!と竹輪を双眼鏡にして楽しそうに騒いでいる。

「お前らさっきからなんなんだよ!黙って聞いてたけど捜査する気ないだろ!」

そんな様子を見守っていた遠藤も流石に口を挟んだ。

『もぉ、なに怒ってんのよー。ジョークよジョーク』

みーきゃんと捜査員はテヘペロ☆と笑っている。

『さて、あなた達はもういいわ。署に戻って目しぱさんの捜索続けてちょうだい』

みーきゃんの指示で捜査員達は【出港〜!】と去って行った。

『さてと。これでゆっくり話せるわね』

「お前も参加してたろーが」

『まぁまぁ。えーと、結論から言うとね、ここ…本当に目しぱさんの家なのかしら?』

みーきゃんの言うことにも一理あった。
いくら綺麗好きだとしても徹底して他人の指紋が無い。
そこまで几帳面な人間は居ないとも言い切れないが、今までの調べでわかっている目しぱの性格から考えて腑に落ちない点が多かった。

「確かに生活感も全く無いよなー」

『そうなのよ。恐らくここでは生活していない。寝泊まりしている他の場所があるはずよ』

そう言うとみーきゃんはポケットから一枚の写真を出してきた。

「なにこれ?」

遠藤が手にした写真には見覚えのある男達が写っていた。

「この人達って!」

『そうよ。太虎さんと目しぱさんよ』

草原らしい広い場所で、肩を組んで笑っている2人組。顔は若いが恐らく間違いない。
なぜならその内の1人はツッパリ棒を持っているからだ。

「今までの情報から、昔からの知り合いだろうってのはわかってたけど。これで完璧に繋がりはできたってことか」

そうね、とみーきゃんは頷く。

「あれ?…でもこの奥の方に写ってるもう一人の人って誰だ??」

よく見ると二人の後ろには背中を向けて座っている人物が居た。
身体の角度から肩より上、頭部の部分は全く見えないが、恐らく同じ年齢くらいの男性だった。

『うーん。私も気にはなってるんだけど、もしかしてリナ助さん?』

「……」


写真が古いうえに、かなり小さく写っているので判別は難しい。
みーきゃんは、写真を見つめる遠藤に視線を向けボソリと言った。

『もしかして、まだ関係者がいるんじゃないかしら?』

「…そうだなぁ」

写っていたのは肩から下、ほとんど身体半分のみ。ここから誰なのか特定するよは至難の技だ。

部屋の中は静まり返り、外から聞こえる車の音だけが響いていた。
すると玄関のドアが大きな音を立てて突然開いた。


【みーきゃん警部!大変です!】

走り込んできたのは先程の捜査員。

『どうしたの?冒険終わった?ラフテル着いた?』

【あの!それが…見つかったんです!】

「!!もしかして目しぱさん?!」

遠藤は思わず身を乗り出し口を挟んだ。

【はい!そうなんですけど…】

捜査員は大きく深呼吸をした。

【そこの公園の公衆トイレです。見つかりました】

「わかった。すぐに行くわ。身柄は確保出来てるの?」

みーきゃんはソファーに置いてあった鞄を掴むと玄関に歩き始める。


【…身柄確保は出来てます】



【もう動きませんが】



『え?』


また被害者が出た。

被害者なのか?

どうして、調べ尽くしたはずのこんな近くに?


遠藤は警察に対する挑戦的な、それでいて猟奇的な悪意を感じた。



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