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遠藤探偵事務所の事件譚
Day4-4

「マッハGO!GO!マッハGO!GO!マッハGO!GO!GO〜♪」

砂羽は軽快に歌いながら運転している。
カーナビに住所を登録し走っているが、下手したらカーナビのほうが遅れるのではないかというスピードで走る。
助手席ではドア上についている取っ手を両手で掴む遠藤が座っていた。

「お前もう一回教習所行ってこい!てかこの取っ手みたいのも初めて使ったわ!」

助手席側にしか付いていないドア上にある取っ手のようなもの。
ここを握っていいのはご年配の主婦か新人営業マンの付き添いで助手席に乗っている営業部長くらいだ。
あれは何故握るのだろうと日々不思議だったが、今は無くてはならないものとなっている。

「ボスだって急いでるんでしょー?次!曲がりますよ!しっかり掴まっててくださいね」

言うが早いかギアを入れ替えグンと車体が左に揺れる。

「死ぬーーーーーーーー!」






『すいませーん。こっから先はパレードの為に車通れないんですよ。迂回してもらえますか?』

順調にマンションに近づいていたが、10分ほど走った所で行き詰まった。
みーきゃんが言っていたパレードだ。
交通規制がかかっているようで、思うように進めない。

先程から何ヵ所も迂回させられ、そろそろ別の移動手段を考えなくてはならない。


「また迂回かよ!砂羽!マンションまであとどれくらいだ?」

カーナビを操作し現在地を確認する。

「えーと…あ、たぶんあのマンションですね」

砂羽は遠藤の前に腕を伸ばし、窓の外を指差す。
視線を向けると少し先に古びたマンションが見えた。
距離的には走って行けそうだ。

「オレここで降りるわ。お前は後から来い」

「わかりました。そこの公園の駐車場に停めてすぐ行きます」

シートベルトを外し、遠藤はマンションに走った。

しかし、パレードのせいか人が多く思うように進めない。
やっとの思いでマンション前までたどり着いた時には息が上がっていた。

「結構時間かかったな…」

荒れる息を整えながらエレベーターのボタンを押す。
しかし、どうやらエレベーターはたった今、上に登ったところのようで、表示回数は2階へと上がっていっていた。

「なんで一台しか無いんだよ!」

エレベーターを待っている余裕もあまりない。
もしかしたらエレベーターで上がったのは目しぱかもしれないからだ。

急いで辺りを見回すと【非常階段】の文字が見えた。

「えっと、目しぱさんの部屋って……5階??」

体力が無いのは百も承知。
数回屈伸をして階段をかけ上がった。




ピンポーン

インターフォンを押すが返事は無い。
どうやら目しぱはこのマンションには戻っていないらしい。

ドンドンドン!

「目しぱさーん!いらっしゃいますかー!」

遠藤は一応ドアを叩いてみるが応答は無い。

ドンドンドン!ドンドンドン!

すると扉が開いた。
しかし開いたらのは隣の部屋。

『あの〜どうかされましたか?』

顔を出したのは女性。
ドアチェーンをかけたまま、隙間からこっそりと覗いている。

「あ…騒がしくてすみません。あの…お伺いいしたいんですが、ここの部屋の方ってご存じですか?」

『…あなた誰ですか?』

女性は眉間に皺を寄せ、怪しいモノでも見るように警戒していた。

「すみません。わたくし探偵をやっております遠藤と申します」

ドアの隙間から名刺を渡す。
女性は名刺と遠藤を交互に見てからドアを閉め、チェーンを外し大きくドアを開いた。

『お隣の人、なんかあったんですか?』

「どういうことですか?」

『いや、あのねぇ…さっきなんか部屋からすごい音がしてたもので』

遠藤は目しぱの部屋へと視線を移した。

『あ!でももう出掛けたのかもしれませんよ?扉閉まる音したし』

でもまだ室内にいる可能性はある。

「すみませんけど管理人さんに連絡とれますか?事情があって部屋の中に入りたいんですが」

『まぁ、それはいいですけど…』

不審そうに女性は見つめ返してくる。

「責任はこちらで取ります。警視庁のみーきゃんという名前で構いません。お願いします」

警視庁という言葉を聞いて、それなら…と女性は電話へと向かった。

中にまだ目しぱは居るのか。
みーきゃんはきっとすぐには来れないだろう。
さすがに勝手に部屋を調べるのはマズイので管理人に立ち合ってもらうのが一番だと考えた。
証人にもなってもらえる。


『管理人さん、すぐ来てくれるそうですよ?』

女性は再び顔を出しそうつげた。

『いったい何があったんですか?さっきもなんだか誰かと揉めてたみたいだし…』

「揉めてた?」

『ええ。ベランダで洗濯物干してたんですけど、大きな声で怒鳴ってるようなそんな声がして。それから少ししてから部屋の中ですごい物音がしだしたから怖くて』

「それってどんな音ですか?」

『なんていうのかしら…争うというよりも物を投げてるだけ?って感じかしら。怒鳴り声もなかったし…』

一体室内で何が起こっているのだ。
一番の可能性は、警察に見つかったことであわてて逃亡の準備したということ。
目しぱに関してはアリバイや太虎との過去の関係がほとんど分かっていない。
ここで逃げられてしまったらそれこそ事だ。

しかし【警察から逃げる必要がある】ということは確かなようだ。

「あの、誰かと揉めてたって言ってましたけどどんな話しをしてたか覚えてますか?」

『そうねぇ…あんまり人の話しを盗み聞きするのも気が引けたからよく聞いてなかったんだけど、確かこんなこと言ってたかしら…あいつら全員殺したのは自分…とか、責任取るべきとか』

「!!自分が殺したと言ってたんですか?!」

『そうなのよ〜。もうなんだか怖くて…』

女性は考える人のように頬に手をあて困っている。
そうなると部屋の中に目しぱ以外の誰かがいて揉めている可能性も捨てきれない。

『あら…管理人さん来たみたいよ』

女性が指差す先にはヨボヨボと歩く老人がいた。
本当にこの人で管理は大丈夫なのだろうか…

「あとは僕達でやりますので、危ないので部屋の中で待機していてもらえますか?まだ聞きたいこともあるので。あと施錠はしっかりとしておいてください」

遠藤らしからぬ優しさを見せ、女性には部屋に入ってもらった。

『あんたかね。わしを呼んだのは』

ヨボヨボの管理人さんが声をかけてきた。
プルプルと震えている。何回も言うようだがこの老人で管理は大丈夫なのだろうか。

「突然すみません。この部屋から争うような音が聞こえて、危険なので部屋の中を調べてほしいのですが」

あまり説明している時間もないのである程度かいつまんで説明する。

『ああ??なんだってぇ??』

耳が遠いようだ。やっかいな人が来てしまった。
遠藤は腰を屈めて老人の耳元で大きな声でもう一度言った。

「あのねー!この部屋からねー!誰か喧嘩してる声がしてねー!危ないから中を確認してほしいんだけどー!!」

『……ふむ。あいわかった』

侍かよ、とツッコミもそこそこに管理人さんは目しぱの扉に向かい鍵を差そうとしている。
しかし手が震えており手元がぶれるようで、なかなか鍵穴に刺さらずモタモタしている。

「あのー!!僕がやりましょうかー?!」

『たわけぃ!!このわしを誰だと思っとるんじゃ!!男ならドンと腰据えてしばし待たれい!!』

鬼の形相で怒鳴ってきた。
こんなことでは時間がかかって仕方ない。
遠藤はため息混じりでボソッと呟いた。

「…老人なら老人なりに若者に頼れよぉ」

『わしゃ老人と呼ばれるほど老いぼれてはおらぬわっ!!』

「聞こえとんのかいいぃ!!」

カチャリ

叫んだ勢いで鍵が刺さった。
管理人はゆっくりプルプルと鍵を回す。

『よし。開いたぞ小童』

「こわっぱて…」

じゃぁ失礼しまーす、と言いながら管理人さんに変わって遠藤が扉のドアノブに手をかける。
ガチャリと音を鳴らし扉は開いた。
管理人さんに顔を向けると小さく頷いている。入ってもいいということだろう。

『こういう時は若者が先陣をきるものじゃ』

管理人さんは遠藤の背中に隠れグイグイ押してくる。
老人とはこういうものか。

「ちょ!押さないでくださいよ!」

『何をビビっておるのじゃ!お主は一人前の男じゃろーて!年寄りとおなごをしっかりと守らんか!』

おなご??

「そーですよボス!ほらほら入って入って」

振り返ると覗きこむ砂羽が居た。

「砂羽!お前おせーよ!」

いつの間にやら管理人さんの更に後ろに砂羽がいて、早く行けよと言わんばかりに一緒に遠藤の背中を押している。

「これだから軟弱な昨今の男達はダメなのよー。ねーおじぃちゃん♪」

『ふぉっふぉっ♪そーじゃのぉ♪さすがええこと言うのぉ綺麗なおねーちゃん♪』

管理人さんは鼻の下を伸ばし砂羽を舐めるように見ていた。

「お前らもういいから外で待ってろ!」

呆れた遠藤は一人、部屋の中に入った。


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