遠藤探偵事務所の事件譚
Day2-5
【ネバーワールド】
多人数参加型MMO…うんたらかんたら(略)RPG
日本中のプレーヤーと会話を楽しみながら世界救うというよくあるゲームだ。
ゲーム内では好きな顔、好きな装備と、自分好みのプレイヤーキャラへと着せ替えることができる。
ただ、かなり古いタイプのゲームのようで会話はチャットのみ。
ボイスチャットなどは出来ないようだ。
だからこそ顔も声も知らない相手と警戒心無く付き合える、逆手にとれば危険なゲームだ。
「ちょっと遼さんのキャラの通信履歴覗いてみましょうか?」
砂羽はキーボードに手をかけ言うが早いか操作を始めた。
「え、なに砂羽こんなの出来んの?現代っ子だなぁ〜」
「何言ってるんですか。オンラインゲームなんて今時あたり前田のクラッカーですよ」
「お前の時空軸がよくわかんないんだけど俺…」
「私は今は【ムーンアイランドストリート】っていうオンラインゲームやってますよ。時代は中世ヨーロッパ。世界中の騎士達と敵対する国を攻め落として行くんです。途中で可愛いブタ仲間にしたり、お腹すいたら肉焼いたり、素材剥ぎ取ったりして、最終的にはその素材で月島に一流もんじゃ焼き店開ければゴールです」
「おい!なんでヨーロッパなのにゴール東京なんだよ!しかも途中で仲間にしたプーギーらしきブタ完全にもんじゃにされてるよね?!大変上手に焼けちゃってるよね?!」
「まぁ細かいことは気にしない♪…あ!!なんか怪しい人いますよボス!」
モニターには何人もの人との会話がズラリと並んでいる。
その中でもかなりの回数会話を交わしている人物がいた。
「だじゃれん坊…?なんか変わったハンドルネームですね」
「それが変わってるのかどうか俺にはわからんが」
会話履歴を順に見ていく。
ゲームの内容らしき会話ばかりで気になる物が見つからない。
「…やっぱりヤバイのは残してなさそうですねぇ」
「そりゃそうだろ。遼は用心深い性格っぽいし、そんな簡単には見つからないだろ。しかもこれが取引手段と決まったわけじゃないしな」
う〜んと顔をしかめながら砂羽は作業を続ける。
すると手紙マークが突然点滅した。
「あ!ボス!誰かから通信来ました!」
開いてみると…だじゃれん坊からだった。
→【こんばんワインはボルドーに限るよね】
「なにこの人。名前通りだじゃれ好きな人なんですかね。どうしましょう?返事したほうがいいですかね?」
「そうだな。なんか情報手に入るかもしんねぇし」
「わかりました。出来るだけ怪しまれないように返してみます」
そう言うと砂羽はキーボードを叩いた。
←『こんばんは。久しぶりだな』
そう返信するとすぐに返事が来た。
→【お前誰だ?】
「ヤバイですよボス!速攻バレてますよぉ!」
「何がいけなかったんだよ?!普通に挨拶しただけだよね僕達?!」
するとまた通信が来た。
→【なんつってwビックリした?一回やってみたかったんだよねぇ〜スパイっぽいの!】
なんなんだこの人は。
掴みどころが無いにも程がある。
「どうしましょう?本人に化けるなんて多分すぐにバレてしまいます。友人って設定で話し進めてみましょう」
砂羽はまたキーボードに手をかける。
←『こちらこそ驚かせてすまない。俺は遼の友人のフィンセントファンゴッホという。以後、三朗と呼んでくれ』
「…送信っと♪」
「おい。フィンセントファンゴッホにとりあえず謝っとけ。三朗だけでいいじゃん」
すぐに返事は来た。
→【遼が人に取引任せるなんて珍しいな。よろしくな!たけし!】
「おぃぃぃぃ!三朗どこいったんだよっ!てか たけし って誰だよ!剛田か?!リサイタル開くアイツかぁ?!」
「まぁまぁ…名前なんてどうでもいいんですよ!それよりボス。どうやら当たりみたいですよ?取引って書いてます」
「ほんとだ。なんてうかつな…よくこんなで裏取引なんてやってんなぁ…」
「こっちにとっては好都合です!どうにかしてこの人に会わないと。遼さんのことも何か知ってるかもしれませんしね」
砂羽はさらに返事を打つ。
←『例のモノは用意できた。渡したい。』
「お前…いきなりすぎるだろ?!大丈夫か?!」
返事は意外にすぐに来た。
→【おいおい…いくらなんでも仕事早すぎんだろ?流石だな!昼の仕事も夜の仕事も早打ちですってかぁ?やっぱり最高だぜ!ひろし!】
「今度はひろし出て来ちゃったよ?!お尻ブリブリ星人の幼稚園児なんてウチにはいないよ?!なんなのこの人!誰と喋ってるのかちゃんとわかってんの?!」
砂羽は遠藤のツッコミなど気にせず黙々と通信を続ける。
←『で、受け渡しはいつも何処でしてる?』
→【お前そんなことも知らないのか?…本当に友人なのか?怪しいすぎるぞ?本当のこと言えよ!なぁ!さとし!】
「今度はポケモンマスターかよ?!モンスターボールとか持ってないよ?!ちっちゃいボールは確かに2つ持ってるけどモンスターなんて入ってないよ?!入ってるの俺のちっちゃいモンスターだけだよ?!」
砂羽は考えながら更にキーボードを打ち続ける。
←『すまない。最近知り合ったばかりなんだ。疑いたくなるのはわかる。でも俺はお前にモノを運ぶだけだ。現金は受け取らない。それは遼に直接渡してくれ。これで信じてもらえるか?』
少し間があり、ダメか…と思った矢先に返信は来た。
→【……わかった。場所は遼のバイト先の クラブ怒無 だ。2時間後に落ち合おう。俺はカウンター席一番奥の席で待つ。それと……疑ってすまなかったな…二郎】
「おしいーーー!次男じゃないよ?!俺達は三男坊の三朗!!」
←『いや。こちらこそすまなかったな。君と会えるのを楽しみしているよ。じゃ後で』
→【俺も楽しみにしてるぜ!じゃまた後でな…フィンセントファンゴッホ】
「結局そこに落ち着くんかいー!」
砂羽は通信削除してからログアウトさせた。
「ボス!上手くいきましたね!遼さんのバイト先もわかったし一石二鳥ですよぉ♪」
「いや…俺なんか疲れた」
「どうしたんですかボス?…あああ?もしかして遼さんを偽造と殺人で一気に逮捕できちゃうかもぉってはしゃいじゃったりしたんですかぁ?気が早いですよっ♪」
「そぉじゃねぇわ!」
「まぁまぁ♪よし!待ち合わせまで時間ないですよっ!さっさと片付けてグラブ怒無に向かいますよ!」
なにはともあれ重要な参考人に会えるようだ。
このまま遼の居場所がわかれば話しも聞ける。
しかし…
遼というのは一体どういう人物なんだ?
裏稼業するにしては雑すぎる。
太虎の殺人に関しても今のところ一番動機があるのは遼だ。
蒼との関係も気になる。
蒼と遼が共犯だとしたら…早く話しを聞かなければ。
「ボス〜行きますよぉ」
「へいへい…」
やる気マンマンの砂羽と疲れきった遠藤はクラブ怒無へと向かう。
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