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プリマ☆ステラ〜P☆S.A.S〜
会長さんの正座




 あの天国と地獄の入りまじった抱擁で気絶していた時間は、わずかに五分しかたっていなかった。すぐに目を覚ました俺は、安堵の溜息を吐くくすねぇをその場に正座させ、事情聴取を始めていた。


「さて……俺に対してものすごーく話したいことがあるんじゃないかな?」


「あぅぅ……あるけど、こうちゃぁ〜ん……もう脚痛いよ〜崩したいぃ〜」


「自業自得だ、まぁ俺の質問に誠心誠意答えてくれたら、許さないこともない」


 誠心誠意込めて答えてくれても、理由が訳わからないようなものだったら容赦なく正座だけど。


「……ほんと? 絶対だよ?」


「……まず、何でくすねぇは俺の部屋に入ってこれた?」


「えー? だってマスターキー使ったから」


「ちょっと待て。何でくすねぇがマスターキーを持っているんだよ。あれは確か寮の管理者が──」


「──借りてきたのさ。わざわざ会長の権限を使ってね」


 くすねぇの代わりに答えたのは、横で静かに佇んでいたスラリと背の高いボーイッシュな女性だった。いくら高いといっても兄貴ほど高くはないけど……ってかそれ以前にくすねぇのやったことって職権乱用じゃないのか。

 ボーイッシュとは言いつつも、さすがはお嬢様学校である。ガサツな感じは一切無く、王侯貴族のような気品が漂っていた。まぁ美少女には変わりないんだけど、美少年ともとれなくはないと思う。

 彼女は無駄のない動きで俺に近づくと、清涼のような爽やかなほほえみを投げ返してくる。


「僕の名前は桐島悠(きりしまゆう)一応、星令会副会長をさせてもらってるよ。君のことは久住から嫌というほど聞かされている。よろしくね」


「あっ、こちらこそ。よろしく、桐島さん」


「はは、悠で構わないよ」


 俺は差し出された悠さんの手を握り握手を交わす。その手は滑らかで繊細な感じだなどと頭の片隅で思いながら、俺は脱線した話を修正していく。


「くすねぇが職権乱用して、マスターキーをパクったところまでは判ったけど……」


「むうっ! 乱用なんてしてないもん!」


「はいはい、判ったから……何でそんなことをする必要があったんだ? 普通に呼び出せばいいものを」


「いや確かに……そうなんだけどね」


 悠さんは苦笑しながら、現在進行形で正座をしているくすねぇに視線を送る。そんな彼女の視線を受けて、くすねぇは正座した状態のまま、その大きな胸を張って得意顔になった。


「そ・れ・は、こうちゃんの寝顔をじぃ〜っくり観察するためよ! で♪十分堪能したら、おねぇちゃんが優しく起こしてあげようと思ったの。てへっ、名案でしょ?」


 ……こりゃアレだな。もう完全に開き直っているな。ってな訳で──


「ひにゅあっ!?」


「何が『寝顔をじっくりと』で『てへっ』だ! 俺の顔は天然記念物か! そんなくだらん事で権力行使して管理人困らせてるんじゃねぇ!!」


「ふぇぇぇ〜んっ! こうちゃんがおねえちゃん、ぶったぁ〜!」


「当然の報いだ。そのまま登校時間まで正座して反省してなさい」


「そんなに座ってたら、立てなくなっちゃうよ!? 私会長さんなのに遅刻しちゃう!?」


「知らん」


「ふぇぇ〜……」


 昨日とある人物の名言となった三文字をここで使うと、くすねぇは急所をつかれたようにしおれていく。そして、くすねぇは早速俺の言いつけを破って、膝をカクカクさせながら立ち上がると、横に佇む悠さんに泣きついた。しかも驚くは悠さんの手つき、どうやらくすねぇをなだめるのは一度や二度ではないようだ。悠さんはくすねぇをなだめ続けながら、チラリと俺に視線を送ってきた。多分これから大変だねみたいな感じの視線なんだろう。そんな感じでどたばた劇を続けていると──。


「晃輔ー、迎えに来てやったぞ」


「あの、晃輔さん。もう、起きられてますか? そろそろ朝食の時間なので迎えにきました」


「ちょっと待っててくれ」


 昨日の約束通り、俺を迎えに来てくれた静歌。しかしこれじゃあ……ってもう泣きやんでいるし、なんちゅう変わり身の早さだ。あれだけ泣きついていたくすねぇだが、静歌と兄貴の二人が来たとたんに、いつの間にか気品に満ちたお嬢様に大変身。


「おーい、まだ寝てるのか?」


「……晃輔さん?」


「あ、ああ悪い。すぐにあけるよ」


 なかなか開かない扉に静歌と兄貴は少し不審そうな声で、俺を呼ぶ。さすがにこうなると開けないわけにはいかず、俺は扉を開けた。まぁ適当にごまかすとしよう。







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