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プリマ☆ステラ〜P☆S.A.S〜
懐かしの場所で



「ゼェ、ゼェ……」



 つ、疲れる……何でこんなことで体力消費しなきゃいけないんだ……。


さすがに反応が子供過ぎた感がいがめないが、この疲労感はどうしようもない。











────さて、一端区切りがついたわけだし、こっちはこっちがやるべきことを終わらせようかね。



「悠輔? どこ行くの?」



「まだ晩飯まで時間かかるだろうしな、外を走ってくるよ」



 日課と呼ばれることは基本毎日やっている。



このランニングとて、オーバーワークする時以外は欠かしたことはない。



夕飯が遅れるらしいし、多少走ってくればちょうど良い時間になるだろう。


雅を一人にしていくのはちょっとあれだけど、晃輔もいることだし、きっと大丈夫なはず……うん、多分。


 多分何も起こらないだろうと、自分に勝手な言い聞かせをして、俺は家を出た。














────…

















「ハッ、ハッ、ハッ………」



 一月の中旬、寒さはより一層激しさを増し、身体を突き刺すような風が吹いてくる。


走っているせいか、その風は寒さから徐々に涼しさへと変わり、心地良いものへとなっていた。


時間的にはさほど遅い時間ではないが、季節は冬ですでに空は漆黒に包まれ、加えてこの寒さのため、外を出歩いている人は見当たらない。


出ている奴がアホとか言うけど、まさにその通りかもしれない。



────つまり、俺がアホだということ。





………まぁ、好きに呼ぶが良いさ



「……ん?」



 走っていると一つの光景が飛び込んできた。
俺はそれに吸い寄せられるように近付いていく。



「三年前まで、俺はここに通ってたんだよな……」



 俺が足を止めて見上げた先には、三年前まで通っていた陶山中学があった。

懐かしい、何一つ変わっていない。

変わってもらっちゃ困るけど、それでも何一つ変わっていなかった。



「ん? 明かり?」



 真っ暗な校舎だが、それとは逆にグラウンドには灯りがついている。

こんな遅くまで何をやっているのか、とうに下校時刻は過ぎているはずだ。



「……見過ごすわけにはいかないよな」



 悪いと思いつつも、校門を乗り越えてグラウンドへと向かう。



グラウンドにある一つの照明灯の光がついている。



その下に一人の姿が見えた。


体格的に見ても、大人には見えない。間違いなく生徒だろう。

……よく見ると女性だ。



────スタートの練習を繰り返し行っている。

納得がいかないのか、スタートした後に首を傾げ、表情を歪める。



────と



「どなたですか?」



 こちらの存在に気がついたようで、不審がるような目で見つめてくる。

確かにこんなところで走る姿を眺めていたら、怪しまれるよな……


観念するように、俺はその子の元へと姿を出す。



「ごめん。覗くつもりじゃ無かったんだ。ただこんな遅くに光がついてたから、誰か居るのかなって……」



「…………」



……まだ不審がられているようだ。
誤解を解くのはあまり得意じゃないんだよな……



「実は俺、君みたいな子が大好物なんだ」



とか言ったら、百パーセントの確率で通報されるに違いない。

念のために言うけど、まだ言ってないからな。

俺を不審者扱いするんじゃないぞ。



「実は俺、この中学の卒業生でさ、ここの陸上部に入ってたんだ」



「ここの陸上部にですか?」



どうやらちょっと興味をもってくれたらしい。



「あぁ、色々問題起こしたけど、最後の大会では全国ベスト16まで行ったよ」



「ベスト16………もしかして、榊さんですか?」



「え? 俺のこと知ってるの?」



「知ってるも何も、安藤先生がよく言ってますから。自慢の生徒だって」



「ははっ、そりゃありがたいな」



 よかった。とりあえず誤解は解けたらしい。

とはいえ、練習の邪魔になっちまったな。



「まだ練習中だったんだろ? 悪かったね、邪魔しちゃって」



「いえ、良いんです……もう上がるつもりでしたから」



 表情からまだ自分の走りに納得が行っていないのが伺える。

かく言う俺も、中学時代は色々試行錯誤しながら走り方を確立しようとしたな。

こんな感じで何度もスタート練習して。



「よかったら、一度スタートだけ見せてもらえないかな? 良いことは言えないかもしれないけど、何かアドバイス出来るかもしれないし」



「良いんですか? 何か用事とかは……」



「ないよ。安心して」



「それじゃあ、一回だけ……」



 その子は緊張しながら、スタートラインに立つ。

身を屈めてラインに手を置き、自分のタイミングでスタートを切った。



────なるほどね。



「どうでしたか?」



「フォーム自体はかなり綺麗……なんだけど、スピードを意識するあまり、体重がのり過ぎているかな」



「体重が、ですか?」



「うん。確かに前傾姿勢になった時に体重は乗せるけど、乗せすぎると今度は妨げになる。それにまだ君は成長途中だし、腕にもかなり負担がかかるだろう………今完璧を求める必要はないし、無理する必要もないよ」



「…………」



「ん……どうしたの?」



「……ぐすっ」



よく見るとその子は泣いていた。

何で泣いているのかは分からないが、とりあえず泣き止ませないことには始まらない。



「ちょっ、どうした? 俺何か嫌なこと言っちゃったかな?」



「いえ、嬉しいんです。こんな感じで指導されるの、初めてで……」



「え?」



「私今年の夏の県大会で入賞したんです。周りの期待も大きくて、それで焦ってしまって………」



 期待というのは、プラス方向に傾くこともあれば、マイナス方向に傾くこともある。

この子の場合、期待がプレッシャーになったせいで、タイムを意識するようになった。

ただ、タイムを意識しすぎて今度は体重移動がうまくいかなくなってしまった。

確かにタイムを意識するのは悪くない、だがフォームが崩れる寸前まで体重をかける必要もない。

実際にスタートする時、彼女の表情は若干ではあるが強ばっていた。

何らかの負担がかかっているという証拠だ。


遅くまで自主トレするのも悪くない。


しかし、自主トレと無茶は違う。


無茶して身体を壊したら元も子もない。それどころか選手生命を断たれてしまうかもしれない。



「自主トレは良いことだけど、無茶は駄目だ。毎日練習して、身体は疲れているだろう? 身体を動かすこともだけど、休息も大切なトレーニングだよ」



「……はい!」



先程とは、目つきが違っていた。……もう大丈夫だろう。



「いい返事だ。じゃあ俺は帰るから、君も早く帰るんだよ」



 思った以上に長居してしまったようで、時計の針は8時手前を示していた。

そろそろ晩飯の準備が終わる頃だろう。

戻らないと心配されるだろうし、雅を待たすわけにはいかない。晩飯後はホテルまで送り届けなければならないのだから。



────俺が、その場を去ろうとしたときだった。



「あ、あの!」



「ん? まだ何かあった?」



「私、小早川結花(こばやかわゆいか)って言います。あの、御教授ありがとうございました!」



「ん、気をつけて帰るんだよ」



「はい、ありがとうございます!」



 その言葉を最後に、俺はその場を後にした。












…………小早川?







…………まさか、ねぇ







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