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プリマ☆ステラ〜P☆S.A.S〜
いざ聖エトワール女学院へ



──あれから数日後。俺たち榊兄弟が、聖エトワール女学院へ交換学生として赴くことが正式に決まると、身辺は急激に慌ただしくなった。本当はじっくり語りたいのだが、今はそんな時間はない、だから理由は追々話すことにしよう。

 身辺が驚くのも無理はない。何しろ過去何回も行われたはずの交換学生制度において、初の男子学生の選出なのだから無理もない。……というか普通に考えてあり得ない。

 学校のタヌキ校長から全校にそのことが発表されるやいなや、俺は一躍時の人となってしまい、事故にあったときよりも注目されるようになってしまった。ちなみに俺たちが両親にエトワール行きを相談すると、わずか一秒もたたずに了承してくれたのだ。まぁこれくらいはわかるだろ。とにかく小早川先生の口添えも必要ないほどの見事な送り出し方だった。

 そして時はどんどん過ぎ、緊張したり物思いにふけるヒマもないままに、いよいよ初登校の日を迎える。



――…



「……まさか、この駅に降りるなんてな。人生、何があるか分からん……」



「全くもってほんとだな……」


 指定された時間に、余裕を持って待ち合わせ場所へ着いた俺たちは何ともいえない不思議な気持ちで駅舎に立っていた。ここは、聖エトワール女学院の敷地内に乗り入れられた私鉄の駅。全寮制であるエトワールに、通学生は存在しない。従ってここは、この敷地内で働く人や、エトワールの教職員など、ほとんど関係者専用の駅である。

 まさか学校の中に単線とはいえ、私鉄路線を一つ引き入れてしまうとは、いきなりの話の規模が桁違いだ。



「あらためて物凄いトコに来ちまったんだよな」



「お前何回言うんだよ」



 微笑いを浮かべる兄貴を相手にしながら、再び駅舎を見る。駅舎そのものは、割とこぢんまりしていて控えめな印象を受ける。けど、これが特定の人たちが利用するためだけに作られたんだと思うと、贅沢な作りに見えてくるから俺の印象なんてあてになるわけがない。



「え……と、小早川先生の手紙は……あったあった」



 今日の段取りについて書かれた、小早川先生直筆の手紙と、同封されていた一般入学者向けの入学案内パンフレット。引っ越しの作業の合間、これを読んで聖エトワール女学院の凄さを、改めて知った。

 ちなみにここに書こうとすると軽く原稿用紙十枚は越えるから止めておく。別に面倒だとかそういう訳じゃないよ、うん。



「まぁ来ちまったんだから、楽しんだ方が勝ちだよな、うんうん」



「何独り言を呟いてるんだ? しかも声でかいから丸聞こえだぜ晃輔」



「うわぁ、何で俺のプライバシー満天の独り言を聞いてるんだよ兄貴!!」



「いや、何でって言われてもな。それに聞こえたらプライバシーも独り言も関係ねぇ!!」



 ぐぅ、やるな兄貴。確かにその通りだ……ってこんなバカなことをやっている場合じゃない。

 手紙を元通りにカバンにしまい、時間まで待つ。今日は初登校といっても授業を受ける訳じゃない。寮へはいる手続きや案内と、学生代表者何人かに会うだけだ、と小早川先生の手紙にはあった。その寮へ案内してくれる人が、ここに迎えにくる手筈らしいのだが……



「………」



「……女性しかいないな」



 先ほどから、通りすがる人の視線がいと痛し。意識しすぎかもしれないが、本来は男の俺たちには縁のない場所に立っているため、やけに人の目が気になる。しかも……兄貴の言うとおり女性ばかり見かける。確認しただけでも九割が女性だ。やはり場所が場所だけに、基本的に女性の方が多いのだろう。



 その中に陶山学園指定のジャージ上下に、ドラムバックを担いだ男が二人、どうにも絵にならない。およそ、今からお嬢様の園、聖エトワール女学院に向かうような服装には見えない。でも下手に着飾って恥をかくのもイヤだからな……しょうがない。

 向こうが男子生徒を受け入れるのが初めてなら、こっちだって女子校に通うのなんて初めてだ。まぁ気にすることもなかろう。



「ふぅ……」



「く……」



 兄貴、何でアンタはそんなに冷静なんだ。



「──ね、見て見てあれ」



「──うわっ、すごぉい……っ」



 気にすることはないとはいえ……ひそひそと静かに騒がれるのも、胃に悪いっつーかな……。
俺と同じ年ぐらいの女の子が、なにやら言い合いながら前を通り過ぎていく。さっきからいよいよ、どこからともなくどよめいた声まで聞こえてきた。もしかして……本当につまみ出されたり?

 早いとこ誰か迎えに来てくれないかなと、女子たちが歩いていった方へ、何となく視線を向ける。



「……っ」



 思わず見ほれてしまうような子だった。たぶん、俺とそんなに年の変わらないくらいの女の子が、こちらへ真っ直ぐ歩いてくるのが見えた。



 ただ歩いているだけなのに、なぜか目が離せない。とても美しいと自然に思えてそれしか浮かばなかった。周囲のどよめきや、さっきの女の子二人組の視線は、俺と同じくこの女の子に向けられているようだった。……さすがエトワール、その辺歩いてる子のレベルからして違うな……。



「………」



 俺は、自分が注目の的になっているのも忘れて、その女の子に見入ってしまう。心なしか、向こうもこっちを見ながら歩いてくるような気が……?



「………?」



「聖エトワール女学院へようこそ。榊晃輔様と悠輔様、ですね?」

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