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silversoul*ss
少しのびた麺と少し縮んだ距離に乾杯を!/桂生誕夢


「ヅラ、あんたいい加減にしな」

「ヅラじゃない、蕎麦だ。あっ間違った、桂だ」

「もう良い、帰れおまえ!」


ふぅ、とこれ見よがしに自分の身体の中の空気という空気を、溜息に乗せて最大限に放出してやる。
目の前で食堂の硬い椅子に鎮座するのは、自分の彼氏であるヅラ・・・基い桂小太郎。両手を腰に当てて彼を見下ろし説法をしようとするはいいものの、当の本人は何処吹く風の体でもぐもぐ、と見事な擬音語を付けて蕎麦を咀嚼していて。

「・・・・・・小太郎君?君、彼女の話を聞こうとする気あるの?」

「だから先程から用件は何だと言っているだろう。・・・・もぐ」


ぴく。自分でも己の神経がピクリとしたのが判る。


「そのもぐ、ってのをやめろって言ってるの、判らない?
何、そんなに美味しいんですか?学食の天麩羅蕎麦は」

「うむ、天麩羅油の使用回数加減と麺の伸び具合が何とも言えんな。
少し柔らか過ぎるがまあ美味しい部類に入るだろう」

「ふうん、そっかぁ〜?」


にこぉ、と機械的な微笑みを貼り付ける。小太郎とは小学校からの付き合いだけど、本当に昔から人の話を聞かない奴だ。
いや、聞いてはいる。聞いてはいるのだけれど何かがずれている、というか。しかし本人は至って大真面目だから余計にタチが悪い。
ふぅ、と今度は本当に自然に出た私の溜息を聞きつけたのか、小太郎は「ひょうひた」と声を投げかけてくる。どうした、といいたかったのだろうか。
こういう時に改めて、こんな調子でも見るべき所はキチンとみている辺りが凄いといつも思う。ていうか物食べながら喋るんじゃない。


「あのね、こたろ・・・・」

喋りだそうとした私の話を溜息で遮って、私の前にずいっと何かを突き出した。溜息をつきたいのはこっちだっての、と言いたかったが其れより先に眼前に差し出された物体に驚いてしまい、思わずぎゃ、と叫んでしまったが致し方ない。
何をするんだ、と抗議の声をあげようとする、が。


「腹が減っては戦はできぬと云うだろう、」


ほら、と小太郎は天麩羅と麺を挟み込んだ箸を軽く揺らした。


「そんなに食べたかったのなら言えば良い物を」


「な・・・・・!!」


「言っておくが俺はお前になら幾らでも蕎麦を分けてやるぞ。仮にも恋仲ではないか、遠慮せずにいつでも言うが良い」


そう軽く微笑してみせる幼馴染であり腐れ縁であり彼氏、でもある奴の言葉に私は思わず言葉を失った。そして数秒遅れて徐々に顔が熱を持っていくのがわかった。




(・・・・・・・・・・だから、そういうのを素でやるなと言っているだろうに!!)



少しのびた麺と少し縮んだ距離に乾杯を!

                      





(でも悔しいから真っ赤になった頬を背けて態と音を立てて蕎麦を啜ってやったのは別の話)






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桂さん好きな友人Sに捧ぎます。(要らない)
桂さん、お誕生日おめでとう!    

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