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silversoul*ss
君を探して三千里/土方生誕夢
太陽が登って間もない頃。
新選組副長・土方十四郎は新緑が鮮やかに庭で萌芽しているのを見ながらぼんやりと屯所の廊下を歩いていた。
チチチ、と鳥が囀る様子にああ、そういえばもう春なんだよなと今更な事を感じる。
桜ももう散って久しいと言うのに、職務が忙しくなかなか季節を感じたり等する事が難しい。最近じゃ非番でも仕事をする事の方が多くなっている。

(まあこんなクソ忙しい中でも惰眠を貪っている奴も居るんだが)

そう脳裏に色素の薄い髪を持ち、何時も爽やかな顔をしながらも真っ黒な笑顔で己の命を奪おうとする一番隊隊長の顔を思い浮かべる。
むしろあいつのせいで俺の仕事も増えるんじゃ無ェか、等と理不尽な現状に怒りと呆れを感じつつもそのまま真っ直ぐ廊下を進んでいると、淡い桜色の着物と肩までの茶色がかった髪と女中の印である前掛けが揺れているのを見つけた。
真っ直ぐこちらに向かってくるのを確認し、そういやまだ挨拶してねェなと軽く片手を上げる。

「よぉ、名前」
「おはようございますひじかたさんさようならひじかたさんまたあとでっっ!!」
「・・・・・は?」

彼女の早口言葉の様に高速かつ大声で放たれたその言葉に思わず半眼になる。
ドダダダダダダ!!!!!!と全速力で己の横を脇目もふらず駆け抜けてゆく彼女の後ろ姿を唖然として見送り、その姿が見えなくなった頃にようやく土方は「なんだありゃ」と呟いたのであった。


君 を 探 し て 三 千 里


・・・・・・・・・・・何かが変だ。何かが、というよりも名前が変だ。
否、こういっては何だが名前はいつも可笑しい。・・・・が今日は何時もとは又違う可笑しさで。


(・・・・・・ったく、何だってんだ一体)


廊下ですれ違う度に名前は全速力で顔も合わさず逃げるかのように走りさるし、隊士共も俺と名前を見ながらにやにやと、しかし少し複雑そうな顔でみてくる。
最初は余りの態度に俺アイツに何かしたか?と心配したが、暫くこの状態が続くと段々イライラが募ってきた。もう咥えている煙草はもう何本目なのかも判らない。
何時もはへらりとお気楽そうに笑いながら「土方さんおはよーございます」等と仕事中だろうが何だろうが話しかけてくる名前にこうも見事なまでに無視(と云う訳でも無いけれど)されると腹が立つ。
訳が判らないままならば尚の事、だ。


次見たらひっ捕まえてたっぷりと訳を聞かせて貰おうじゃ無ェか、と口端をピクピクさせながら考えつつ自室に向かおうとすると、何時の間に現れたのか目の前にニヤニヤと風船ガムを噛みながら沖田が立っていた。

「こりゃあ又随分と見事に名前さんに避けられてますねィ」

「余計なお世話だ」

「アララ、そりゃ失礼しやした」

ぷくぅ、と風船ガムを膨らませながらもニヤニヤと此方を見てくる彼の様子に土方は又青筋が立ちそうになるのを必死で堪える。一々彼の言動を気にしていてはやっていけない。

「・・・・ったく、総悟、お前は名前が何企んでるのか知ってやがんのか」
「さぁ、どうでしょうねィ」
ニヤァ、とイヤに嬉しそうな表情をする沖田を見て何か知っているのだろうと当たりをつけ、土方は「そうか」と言って適当に切り上げ、名前の所在を尋ねた。

「さぁ、俺は知りませんよ」
「そうか。ありがとな」
やはり知らなかったか、と呟き立ち去ろうとする土方の背中に沖田が声を投げかけた。


「・・・・・あぁ、でも」

「何だ」

「名前さんが企んでることは、土方さんにとってそう悪い事じゃありませんぜ」

「・・・・・・・・・・・?」

よく判らないが、まあ後で判るだろう。そう思って土方は無言で今度こそ自室に向かい立ち去った。
段々と小さくなってゆく後姿を見ながら、沖田は「まぁ、俺にとっては余り良くない事なんですがねィ」と小さく呟き、己も土方とは正反対の方向に歩き出した。


                           



沖田と別れた後、又しても隊士達の視線に苛立ちながらも土方は自室の前に着いた。
先程よりも隊士からの視線がニヤニヤというよりも何処か同情を含んだ様な物に変化しているのは気のせいだろうか。

(何だってんだ全く....)

そう心中で軽くごち、土方は早く落ち着こうと目を閉じて息と紫煙を吐き出し、自室の障子をスパンと開けた。

その瞬間。



――――パンパンパンッ!!


そう軽快な音が部屋に鳴り響き、土方は閉じていた目を見開いた。
その音の正体―――クラッカーの音であった事と、其れを手に持ち笑顔で此方に向けている人物を視界に入れ更に驚く。ポトリ、と咥えていた煙草が落ちた。



「.........名前」


「へっへー、驚きました?土方さん」


そう笑顔でクラッカーを左右に振ってみせる名前に土方はゆっくりと近づき、そして――――



―――ドガッ!


殴った。グーで。



「いったぁ・・・うら若き乙女になにしてんですか土方さんっ!!」
「何してんだはこっちの台詞だ!人の部屋に勝手に入って何してやがる」
大体お前、散々今日俺のことを無視しておいて・・・と言葉を続けようとすると、丸い瞳をキョトンとさせている名前を見つけ思わず口籠もる。
名前は何って、と呟き自分の持っているクラッカーを見て、周りを見て、それから土方を見た。
濁りの無い真っ直ぐな瞳と目が合って、何故かドキンとする。らしくもない。

「見て、判りませんか?」

そう不思議そうで不安そうな名前の声に首を傾げながら自室を見渡してみる。
見えるのは何時もの風景――――否、何時もの風景の一角に花紙で綺麗に飾り付けられた場所があった。色とりどりの花が、生活感の無いシンプルな部屋を彩っていた。

「・・・・・・・何時の間に」

「ふふ、驚きました?」
此れ準備するの凄く大変だったんですよーと笑う名前に土方は思わず息を吐く。

「そういや今日は俺の誕生日だったな」

「土方さんなら有り得るかも、と思っていたんですが・・・・やっぱりご自分の誕生日忘れてたんですね」
自分の誕生日を心待ちにしてる土方副長も想像できませんけど、と呟く名前に土方はどういう意味だ、と返し、そしてフッ、とめったに見せぬ笑みを見せた。

「・・・・ありがとな、名前」

その台詞を聞いて名前は嬉しそうにいいえ、と花のような笑みを浮かべ、

「お誕生日おめでとうございます、土方さん」

と微笑んだのであった。








*多忙のためUP遅くなって申し訳ありません。
それに日にち掛かったせいで所々設定変わったりして矛盾とかしてるかもです・・・・ごめんなさい!
土方さん、お誕生日おめでとうございます!
此の下は(要らない)おまけ。


名前「ふっふっふー♪土方さんの為に、ケーキまで作ったんですよー!」
土方「・・・・名前、お前料理できるんだな」
名前「毎日私の作った料理を食べて何言ってるんですか」
土方「マヨネーズは掛かってるんだろうな?」
名前「そう言われると思ったんですけど、自分の作ったケーキの上にマヨぶっかけられるのは癪なので」
土方「?」
名前「じゃーん!生クリームの変わりにマヨネーズでデコレーションしましたーっっ!!」
土方「本当か!?よし、でかした名前」
名前「へへー、どうぞ一口ひとくちっっ!」
土方「・・・・・・・・・・美味い」
名前「本当ですか!?」
土方「あぁ。すごく美味いぞ、此れ。お前も喰うか?」
名前「ハハッ、心の底から遠慮します」


                                    THANKS YOUR  READING!



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あきゅろす。
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