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silversoul*ss
あんころ餅/銀時夢ほのぼの
はら。はら。

「あ」

目の前を淡い桃色の花弁が、風に揺られて優雅に、でも何処か切なく舞い落ちてゆく。

「もう春だねぇ」
「そーだな」

いつの間にか万事屋の行き着けとなっていた馴染みの茶屋の座卓の上で、注文したさくら餅をもっさもっさと口に運びながらただ舞い降りてくる桜の花びらを見つめる。
何処までも広がる青い空、その空にかかる白くたなびく白い雲、そして時たま思い出したかの様に吹く穏やかな風が雄大に広がる枝を揺らし桃色の花弁を撒き散らす。あぁ素晴らしきかな大自然!

「オーイオイオイ名前ちゃーん?大丈夫?マイワールド入ってない?」
「るっさいな銀時!あたしが大自然の優美さについて深い感銘を受けてる時に・・・・・ってあああ!あたしのさくら餅がァァァ!!!」
「あ、つい」
「ついじゃ無ェよどうしてくれんだ最後のいっこ!後で食べようと折角取っといたのにー!」
「え、何ナニ?名前チャン取っといてたんだアレ?銀さんの為に?
やっだどうしよう銀さん超嬉しい」
「畜生あたしの高級みたらし団子(税込み368円)返しやがれこのダメパー」

ダメパーって何だダメパーって、と不満げに口を尖らせる銀時。でもこっちだって大事に取っといた最後の一個取られたんだかんな、もともと最初食べようとした期間限定味桜あんころ餅・漉し餡だって高過ぎて買えなかったって言うのに!・・・・ともうすっかり空になってしまった皿を見つめて一人ごちる。
イヤ別に元から一個くらいあげたって良いかなとか思ってたけどさ!でも何か其れを告げる前に取られてしまっては元も子もないと言うか何と言うか。うーむ、上手く言語化できないこのもどかしさを何と表現すればよいのかね?


・・・・・とまぁそのまま暫くギャアギャアと他の御客さんに迷惑であろう音量で騒ぎ続けていたのだけど、其れもまた一段楽して。
あたしと銀時はいつもこうだ。騒いで喧嘩して又騒ぐ。
親友以上恋人未満、とはよく言うけれど、あたしは別にこれ以上銀時とそういう仲になりたい訳ではない。と思う。
今のままで。今のままが。いちばん、しっくりくる。
銀時は勿論好きだし、大切だけど・・・・何と言うか、そういう仲ではなく、銀時とは綺麗なままで居たいのだ。(別に付き合うのが綺麗じゃあないと思うわけではないけれど)

そんなことをぼんやりと考えつつ、乾いた喉を潤すべくもう大分冷めてしまったであろう湯のみを手に取る。うむ、やはりぬるい。

「・・・・・ったく、しゃーねぇなァ」
そう小さく呟いたかと思うと、銀時はおもむろに財布を取り出し中を改めた。
あたし銀時の分は払わないからね、と言うと奴は眉間に皺を寄せ「馬鹿」と軽くこっちを睨んだ。
何だ違うのか、と茶を啜りながらその行動をそのまま見ていると、店の奥に向かって軽く手をあげて受付のお姉さんを呼んだ。
む、お姉さん狙いか。確かにあのお姉さん美人さんだもんね。
でも何故かそう思えば思う程何か面白くなくて、ずず、ともう一度茶を啜る。
もうこの際行儀悪いとか気にしない。

「おーいねぇちゃん、桜あんころ餅一皿」
「畏まりました」


「・・・・・・え、銀時、あんたお金あるの?珍しい」
「うるさいんだよお前は。お前の分まで食っちまうぞコノヤロー」
「え」

此れこそ「え」だ。思わず大きな口を開けてぽかんとしてしまう。
 おまえの、ぶんまで?
 しかも、それって。
 さくら、あんころもちを?
 まさか、そんな、あの法外なまでの値段のアレを?
 




「・・・・・・・・ぎんときっあいしてるっ!!」
「おまっ、公衆の面前で何言ってんのォォォ!?」




「半分こだかんな半分こ!」と我先に、と団子に手を伸ばしたあたしの手を器用に避けながらも、そう仕方なさそうな顔をして、でも何処か楽しそうな表情の銀時と半分こした桜あんころ餅・漉し餡は、すごくすごく、今まで食べた中で一番美味しかった。



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