小説 繋いだ手 でも、あたしが、ずっと、こんなところに居れるはずはない。 学校も無断欠席して、 きっとパパもママも心配しているわ。 帰らなくてはいけない、と今さら思い出した。 アキはあたしが何日も帰らないことに何も言わないのは何故? 「アキ。あたし、いったん帰らなきゃ。」 アキの顔がとたんに真っ青になった。 「そうだよな、そうだよ、リカ!みんな心配してる!オレ、誘拐犯になるかな?!」 それはないわ、と言うと少しは落ち着いたけど、 アキはとんでもない動揺をみせた。 「普通わかるわよねえ?女の子が何日も帰らないなんて、どうなっちゃうか。」 あたしは自分も思い出さなかったくせに偉そうに言った。 「オレ、家族とかそういうの、居ないんだ、だから気付かなかった。ごめんリカ、怒られるよな??」 「...居ないの?パパもママも?」 「ああ、死んだよ、もう5年も前に。」 「...」 平気なフリには見えないけど、平気なわけない。 「アキ、我慢は身体に良くないよ。」 あたしはよく意味のわからないことを言ってしまった。 アキは大笑いしながら、 「オレはそんなに弱くないよ、いや、そんなオレはもう居ない、かな。」 泣きそうなあたしに向けた笑顔が、本物でありますように。 「リカ、オレ、謝りにいくよ。リカを拐ってごめんなさい、ってしに行く。」 「どうなっても知らないわよ?」 「どうなってもいいさ。」 そのコトバがうれしくて、ニヤけてしまっていた。 ごめんなさい、ごめんなさい、とブツブツ練習するアキがかわいくて仕方がなかった。 あたしたちは手を繋いで森を出た。 一気に現実に引き戻された気がしたけど、アキの手の温度が、あたしを安心させていた。 [*前へ][次へ#] |