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小説
この手にキスを
簡単なことだと思っていたの。

真剣に生きようなんてしていなかった証拠だわ。



あたしは毎日流されるように過ごした。


傷付きたくない一心で、行動や気持ちに制御をしていたことに、やっと気がついた。

戦うことが怖くて、必死で守り続けたあたしは、
何かを傷つけもしないけど掴むこともできない。


あたしは失う怖さを避けるため、棄ててばかりいた。

もう、これ以上、傷つかないためにー。





深夜の2時過ぎだった、

あたしはなにかを壊したくて、此処には居られないと思った。

パパとママが眠っているのは定かじゃなかったけど、確かめたらいけない気がした。



あたしは家のドアを勢いよく開け、

飛び出した。

派手な音と一緒に。






あのときみたいな寒さはない。


駆け出したあたしの息は無駄に荒く音を立て、

苦しむような声になった。





生きている、と思った。







あのときと同じような景色が甦る。

記憶から視界へ。




今まで避けてきた恐怖を感じ、

殴ったような感触に触れ、

唾を飲み込む音が自分のブレを消した。






ただの光が交差して宝石みたいにみえた。

それはまだ弱い自分を現していた。




そんなものにアイツが紛れていた。

間違いなかった。



確信はあるのに、頭がついていかない。



「リカ!」


呆然と立ち尽くすあたしに、当たり前のように笑いかけた。


「リカ。久しぶり。待ってたよ。」

「...。」





「どうした?そんな顔して。」

「...によ。なによ、それ!!」



キョトンとするアキの胸をちからいっぱい殴った、つもりだった。



そんなあたしの腕を無理矢理掴むと、
一度自分の胸に手を押し当ててから膝間付き、
指先に軽くキスをして、こう言った。




「姫。今夜はわたくしが素敵な旅にご招待致します。姫だけのためにー。」

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あきゅろす。
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