■ロストメモリー
7
「な、お前俺のこと、先輩って呼んでたの?つか、サークルって何のサークル?」
「え、えと…E.S.っていうのはエンジョイサークルの略で…簡単に言うとスポーツを何でもやるサークルです。」
一応季節ごとに、何をやるとか決まってて…と中山。
飲み会やイベントも多いので、それなりに大所帯で、かつ人気も高いらしい。
「…ネーミングセンスはゼロだけど、…ま、面白そうなサークルだな。」
「はい。俺、今年入ったんですけど、先輩と一回しかまだ話したことなくって…。先輩、すげー人気者だし。」
自分の人気云々はどうでも良かったが、中山と一回しか接点がないなら、先輩呼びも仕方がないことなのだろう。
少し残念な気分になりながらも、相槌を打った。
「へぇ…、ってことはお前一年?」
「あ、はい。理学部自然科学科一年、中山祐太郎です。」
「っぶ…ククッ…知ってんよ。名前は。」
「そ、そうっすよね。」
恥ずかしそうに俯く中山の頭をもう一度かき混ぜて、俺は問うた。
「…じゃあさ、俺は何学部の何年生?」
「えっと…確か、人文学部の四年生です。何学科かは、すいません…分からないです。」
「へぇ…俺四年なのか。あれ?就活どうなったんだろ?」
妙な感覚だが、卒論のテーマは覚えている。
しかも、その卒論に関する知識もちゃんと頭にあるというのに…。
就職先のことは、全く記憶にない。
情報として確立されているものは覚えているが、自分が絡んでくる過去となると、全く駄目らしい。
かなり微妙だ。
「ああ、先輩はこのまま大学行くって聞きましたよ?」
「…は?」
「ええっと、詳しいことは流石に分かんないですけど、教授の助手?やりながら大学教授になる…みたいなことを聞きました。」
「……誰にだよ。」
「その教授にです。随分気に入られてるって、サークルでももっぱらの噂でしたし。俺も教養の授業取りましたけど、面白い授業でした。」
中山のその話に、へぇ…と思いながら、ひとまずその先生には事情を説明しないとな…と考える。
もしかしたら、助手の話自体無くなってしまうかもしれないが、それは仕方がないことだ。
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