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■ロストメモリー
4

「ん。」

ウーロン茶を手渡して、自分の炭酸飲料を飲む。

プハッと息を吐き出して、やっぱりこういうことは覚えてるんだよな…とユラユラ揺れる液体の入ったペットボトルを見て、もう一口飲んだ。

「先輩、どこまで覚えてるんですか?」

中山の家に向かって歩きながら、中山が尋ねてくる。

今気付いたが、中山は俺より頭半分くらい高い。

…何か悔しい。

とはいえ、俺の身長が低い訳ではないということは、病院で会う人をみて分かったので、良しとする。


「…どこまでって言われても…どこまで覚えてないか分かんね。」

そう言うと、難しそうな顔をする中山。

「えっとな…、…こういうのは分かるし、道は曖昧だけど建物の名前見れば、大体どういう店か分かる。」

炭酸飲料を揺らしながら、そう言うと、中山は何度か頷いて、首を捻った。

「生活する分には困らないんですね。…人間関係だけ分かんないんですか?」

「んー…多分。思い出っぽいものが真っ白で、何か気持ち悪い…。」

「そうですか…。」

「お前、俺の家族構成とか知らねーの?」

「…えっと、両親は幼少期に亡くしたって聞きましたけど、その後は…。」

分かんないです、すいません、と謝る中山の肩をポンポンと叩き礼を言う。

そして、無意識にホッと安堵の息を吐いた。

「…そっか。」

それはそれで良かったかもしれない。

親を覚えてないなんて、親に対して余りに酷い惨事を招くことは絶対にないし、なにより気が楽だ。

親を無駄に、傷つける心配をしなくていい。

でも…

「……キツイなぁ…。」

記憶思いださない以上、俺は二度と両親に会えないのだから…。


「……先輩、」

「…ハハ、何でお前がそんな顔してんだよ。」

「…俺、今から大学行ってきます。先輩のこと、もっと聞いてきます!」

「え、でも、事情とか…あんま広めたくないんだけど…。」

大学に通えるか、その判断も付かぬまま、俺の事情だけが先走ることは避けたかった。

それに俺は元来、マイペースな質だが、流石に動揺している。

中山が付いていてくれることで何とかそれなりに振るまえているが、今一人になれば、いろんなものに、この良く分からない感情を当たり散らしてしまいそうだった。

「じゃ、じゃあ、…俺、……。」

「帰ったらさ、お前の知ってる俺を、話してくれよ。まずは、自分のことくらい把握してーし。」

「……はい。」

肩を落とした中山は、それでもコクリと頷いて家路を進む。

辺りはもう随分と日が傾き、温かみのある色合いを作りだしていたのだった。


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