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■ロストメモリー
3

その後、中山によって病院に連れられた俺は、正式に記憶喪失の診断を受けた。

頭部外傷による記憶喪失。

そして、記憶が戻るのかどうかは分からないと言われた。

しかし外因性の記憶喪失の場合、記憶が戻ることも多く、その際は比較的早く戻るという。

暫くは様子見で、通院を余儀なくされるらしい。


そんな説明を受けた後、俺は診察室を出たのだが、中山は何故か医者に呼ばれ、俺は病院の売店で買ったスルメを齧りながら待っている。

先程トイレにいって鏡を見たのだが、俺は中々整った感じの顔をしていた。

茶色く染まった髪が邪魔にならない程度の長さに切り整えられ、あっさりとした顔。

上手く自分の顔を評価出来ないが、中山には、イケメンなんですよ先輩は…と家を出る際に言われていたので、これがイケメンの顔なのかー…とぼんやり思う。

中山の家では比較対象が中山しか居なかったのでいまいち分からなかったが、病院に来て、何となくその意味が分かった。

そういう意味では、中山も十分イケメンである。

しかし、やはり自分の顔に違和感がある感じがして、先程から何度も何度も顔を触るのをやめられない。


そんな事をしていると、廊下の奥から中山が歩いて来た。

手に何かメモのような紙を持っているが、俺に気付くとすぐに尻ポケットにしまう。

まぁ、中山のことであるし、自分には関係ないことなのかな…と、俺は手に持っていたスルメを口にくわえた。

「お待たせしました。帰りましょ。」

「…おう。」

「…何食べてるんですか?」

「スルメ。売店行ってきた。食う?」

「…いただきます。」


男二人並んで、スルメを齧りながら家へと帰る。

なんてシュールな光景だろうか。

そんなことを考えて進んでいる途中、中山の歩みが少し早くなった。

何だ?と思って、視線を横にずらすと、入り込んだ路地。

その薄暗い道を見た瞬間、無意識に身体が固まる。

「……ここ。」

「…先輩、早く、行きましょ?」

引きつった笑顔を浮かべる中山。

なんて分かりやすいのだろう、と思う一方で、中山の心遣いに少し笑える。

「なー…喉渇かね?」

だからその空気を変えるように、おそらく昨日、中山が行こうとしていたコンビニを指さし、歩き出した。

ホッとしたような顔をして付いてくる中山にまた少し笑って、振りかえって待つ振りをして、さり気無く路地を見る。

薄暗く、通りから奥に伸びているそこは、近道をするために通り抜ける人は居ても、好んで通る人はいなさそうな道。

中山とコンビニのドアをくぐりながら、俺は運が良かったな…と思う。

「…先輩?」

「何飲む?」

「え、あ、俺、ウーロン茶で。」

「ふーん…好きなの?」

「好きっす。」

「へぇ…」

中山のウーロン茶と、自分の炭酸飲料をレジへと持っていき、近くにあったガムも併せて買った。


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あきゅろす。
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