■ロストメモリー
7
「……わりぃ。ちょっと、飲みすぎた。」
「……。」
「……たろ?」
「ったく、…展開が唐突過ぎます。」
「……え?」
あーーー、と何やら叫んで、項垂れた後、チラリとこちらを窺ってくる中山。
その捨てられた犬みたいな目、やめてくれ。
……可愛いじゃねーか。
「俺、ミネ先輩に、何したんですか?ずっと避けられてるし、連絡とれないし、やっとかかってきたと思ったら、日吉先輩だし。」
「……。」
あの電話、中山にかけてたのか。
しかし、俺の相手が中山だって、よく分かったな。
違ってたらどうするつもりだったんだろう。
「泣いてるぞって言われて、焦って行ったら、酒でデロデロだし。なのに、なんかちょっと泣きそうな顔もしてるし。……何かエロいし。」
最後が、小声で聞き取れなかったが、中山がガシガシと頭を掻いて俺を抱きしめてきたので、そんなことはすぐに吹っ飛んだ。
「…無防備に、酔わないで下さい。ミネ先輩、モテるんですよ?俺心配で気が気じゃないです。」
「…そんなモテねーって。」
「そんなだから、心配なんです!もしこの前みたい、に……えと、や、…いや、なんでもないです。とにかく……」
言い淀んだ中山に、俺は、ん?と眉を寄せた。
酒で鈍い頭でも、中山の行動が繋がっていく。
そして、中山が俺に手を出そうとしない理由にも行きあたってしまった。
抱きついた中山を引き剥がし、目線を合わせる。
「待て、待て。お前、もしかしてそれ気にしてたのか?」
「……だ、だって…。」
「だってもクソもねぇ。気にしてんのか、してねぇーのか、どっちだ。」
「……し、して、ない…ことも、ないスけど…。」
どもどもしながら、そう言う中山。
くそ、馬鹿じゃないのか。
中山の思考を辿った結果、不覚にも……ときめいてしまった。
「…、……ばか。ほんと、馬鹿。」
悪態を付きつつ、俺は密かに安堵する。
ちゃんと、好きでいてくれたのだ。
しかも、俺のためを思って、耐えていたのだという。
あー…マジで、これは不意打ちだ。
「……マジ、超好き。大好き、タロー。」
「え?いきなり、何?って……ああ、酔ってんですか?」
「うっさい、ばーか!俺だって不安になんだよ。お前、全然手出してこないし。俺、あんな頑張ったのに。」
「え、あ、あー…す、すいません。」
思い出したのか、中山の頬がほんのり赤くなる。
「…何赤くなってんだよ。この前のことなんて、とっくに忘れたし。俺があんな誘ってんだから、気付けよ。」
しかし、それを全部分かっていて、それでも俺を心配するのが中山なのだ。
もしかして…と思ってしまったら、その思考から抜けられない。
まぁ、俺も似たような所はあるが…。
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