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■ロストメモリー
6


「そそ、じゃ、置いてくから、ちゃんと回収しろよー?」


日吉はそう言って電話を切った。

そしてその足でどこかへと向かう。

トイレかな…と思っていると、すぐに手におしぼりと水を持って帰ってきた。

「ミネっちー、ほら、しっかりしろって。」

そう言いながら水を手渡され、何口か飲む。

冷たい水が、酒でほてった体を冷やし、身体の中を涼しい風が抜けた。

少し、頭の曇りが取れる。

「わりーな、ひよ。」

「いいって、いいって。じゃ、俺帰んね?」

「……え?」

てっきり連れて帰ってくれるものだと思っていたから、少し不満そうな声が漏れてしまう。

そんな俺に、日吉は悪戯っぽく笑った。

「ミネっちには迎えを呼んどいたからさ。じゃね?」

誰が来るのか…とか、いつ来るのか…とか、そもそもこの場所がわかるのか…とかいろいろ聞きたいことはあったのに、あっさりと日吉は帰ってしまう。

引きとめる暇さえなく。


「だれが来んだよ……まじで。」

心当たりがまるでない。

兄貴?いや、タメ口で話していたから、それはないか……。

浅く広くな俺の交友関係の中で、誰を呼んだのだろう…。



と、そのとき


「ほんっとに、…っ、……いたっ…!」

ぜぇはぁと息を切らし、掛け込んできたのは中山。

汗だくだ。

「……え、なんで?」

「っ、あー……もう!」

「…え、え?」

ガシガシと頭を掻きながら大きくため息を吐かれた。

そのまま、俺の目の前に腰を下ろし、日吉が俺に持って来てくれた水をゴクゴクと一気に飲む。

そしてプハっと一息ついたかと思うと、項垂れた。

「た、タロ?」

ちなみに、中山裕太郎、ゆうたろう、ユウタロ…ときての、タロ…だ。

何か、妙に怒られているような気分になって、俺は恐る恐るその名を呼んだ。


「……ほんっと、あー……、…目が離せない。」

「……へ?」

ボソリと呟いたかと思うと、俺と目を合わせる中山。

怒っているような、呆れているような、心配しているような、そんな目。

その目はすぐに、苦笑に変わり、もう一度頭を掻くと無言で立ち上がった。

「……た、たろ、」

「……ほら、帰りますよ。」

腕を取られ、中山の首に回すようにふらつく身体を支えられる。

それでも、よたよたしていたら、またため息を吐かれて、肩に担ぎあげられた。

…痛い。

「近いんで、我慢して下さい。」

「……はい。」

俺の内心を読んだかのような台詞に、思わず畏まってしまう俺。


そういえば、中山の家はここから随分近かった。

路地裏を通れば…の話だが…。

中山は、いつもその路地裏を避けるように、遠回りをして大学へと向かう。

あまり治安の良い場所ではないし、過去にちょっと色々あった場所だからだ。

しかし、今日は急いでいるのか、その路地裏を走って掛け抜け、あっという間に中山の家へと到着する。

流石に重かったのか、部屋に入り、ベッドに降ろされて、中山は大きく息を吐き出した。

首筋を汗が伝い、息を整えようと大きな呼吸を繰り返す。



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