■ロストメモリー
5
「でさー…みねっちぃ?」
「おー…なんだぁ?」
それから暫く。
二人して良い気分になってしまっています。
へらへらと笑いあいながら、それでもまだ粘ろうとジョッキに口を付ける日吉。
俺はそれを見ながら、ベタリとテーブルに頬をくっつける。
冷たい…のが気持ちいい。
「なぁー……」
「んー……?」
「おれさー……」
「…んー……」
そこまで言って、一瞬躊躊躇う。
でも、胸の奥のモゾモゾしたモノを吐き出す欲求には勝てなくて…。
ポロリと吐き出される言葉。
「…今付き合ってるやつがいるんだけどさぁ……」
「……は?え、俺、……聞いて………ないよね?」
脳内を一巡させたようだったが、記憶にないようだ。
それも、当然。
誰にも言ってない。
「だって……おとこだし。」
「……おとこ!?」
「あ、やっぱ……ひいた?」
「や、引きはしないけどさぁー…吃驚した。うん、ちょっと酔ったの冷めた。」
「おれさー…そんな駄目かなぁ……」
お酒のせいなのか、妙に感傷的になってしまい、ウルリと涙腺が緩む。
「み、ミネっち?」
「好きなの、俺だけみてー……」
潤んだ視界を服の袖で拭い、手元のビールに手を伸ばす。
そして、一気に飲んだ。
「え、ちょ、ちょ、ミネっち!」
「っ、…ぷはっ…あー……」
ぐらんと、頭が回る。
気持ちいいのと、全体的に体が重いのとで、またゴツンとテーブルに頭をうつぶせる。
「なー……、日吉、嫌んなった?距離…置きたいって…っぶ!」
俯せていた頭を、思いっきり上から押される。
「ったく、んなこと言うなってのー。てか、ミネっちはゲイなわけ?」
「……いや、俺普通に女の子好き。」
「だよな、だって彼女いたもんなぁ。何人か変わったけど…。」
「……。」
俺がジトリとした目で日吉を見ると、ケタケタと笑って続ける。
「そんで?そのお相手さんは、誰よ。社会人?てか、接点どこ?」
「……学生。」
「え?もしかして、年下?……へぇ。」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべ、トントンと俺の頭を叩く日吉。
「……んー?」
ぼんやりした頭で、日吉を見返す俺。
さっきの一気飲みが効いている。
決して酒には弱くない筈なのに、頭がふわふわぐらぐら。
気持ちいいような…そうでないような…。
「ミネっちがさぁ、そんなになんの、俺初めて見た。」
「…。」
「いつもさぁ、それなりに付き合ってる感じしてたし。俺、今のミネっち好きだよ?」
「……ん、さんきゅー。」
「ちゃんと話しあいなよ。酒に逃げたって、解決しないよー。」
ニシシッと笑って、ぐしゃぐしゃと俺の髪を掻き乱す。
「うん、そーする。」
「…駄目だったら、また飲みに連れてってあげるから。」
「うっせー…駄目じゃねーし……。」
「はいはい、じゃ、そろそろ帰るよ?立てる?」
「ん、」
そう言って立ち上がるも、ぐらりと視界が回り、また席に座り込んでしまう俺。
「あーあー…全く、そんな飲むから。」
「そんなのんでねーし……」
「はいはい。あ、……ちょっと携帯貸して?」
「ん、おー……」
ごそごそとズボンのポケットから携帯を取り出す俺。
日吉はそれを受け取って、どこかへと電話をかけ始める。
「……あ、もしもし?え、あー…こまかいことは気にすんなよ。」
相手方が妙に焦ったような声を上げているのが、電話越しでもわかる。
一体どこにかけたのだろう。
頭はそんなことを考えているようで、実際は全く回っていなかった。
もし仮に、状況をきちんと把握していたら、日吉から携帯を取り上げているところである。
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