■ロストメモリー
4
「「かんぱーい!!」」
ゴチンとビールの入ったジョッキがぶつかり合う。
大学近くの小さな居酒屋。
安くて、旨い…という、まさに貧乏大学生のためにあるような店だ。
しかし、一つ問題なのが、とてつもなく見つけにくいという点で…。
狭い路地の奥、更に入り組んだ場所にあるこの居酒屋。
本当にたまたま発見した、俺と日吉は運がいい。
それ以来、二人で飲むときは常にここ。
パーテーションで仕切られた小さな空間は、妙に居心地が良いのだ。
「く、ぁー!!うめー……」
ゴクリとビールを喉に流し込み、堪らないといった風に目を顰める日吉。
俺も一口飲んで、プハ―ッと、オヤジくさく息を吐き出す。
「にしても、ひっさびさだなー。」
「そうだな、お互い卒論忙しかったしな。」
「そーそー…マジ、死ぬかと思った。ミネっちは余裕そうだったけど。」
「ばっか、俺も死ぬかと思った。提出間際で、大幅に変更したし…。」
「マジで?うわー、そりゃエグイわ。けどま、無事提出できてよかったな。後は教授達の口頭試問だけだぁー。」
「おー…。」
万歳、ともう一度乾杯していると、ちょうど頼んでいた料理が運ばれてくる。
日吉が枝豆をつまみながら、またビールを一口飲んだ。
「ミネっちはさ、このまま残るんだよな?」
「そ、勉強面白いし、俺、大学教授になりたいんだよな。」
「ん、そんな感じ。きっとモテモテだろうね。ミネ教授の講義受けたいですー!って女が殺到してさ。」
「はは、ハーレムだな、俺。」
「そそ、ハーレム。」
「……んで、お前は?結局どうしたんだよ。」
「ん?んー…、あー、……俺さ、やってみることにしたんだー…。」
ジョッキを手で弄りながら、そう言う日吉。
少し困ったような顔をして、こちらを窺ってくる。
そんな顔しなくても、反対なんてしねぇよ。
お前が決めた事だ。
応援するに決まってんだろ?
「そっか、うん。お前なら出来るって。」
「おー、ありがとー…。」
「それに、もし駄目だったら、俺が面倒みてやるよ。」
「はは、マジ?じゃ、そんときはよろしくー!ってか、今のうちにサイン書いといてやろうか?」
「おー、今度な。」
俺の答えに、日吉は嬉しそうに笑って、練習しとく…と答えた。
これから国民的ミュージシャンになる男のサイン。
楽しみだ。
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