■ロストメモリー
3
それから数日。
携帯の電源を落とし、大学に泊まり込んでいる俺。
最近は中山の家に住んでいたから、自分の家に何となく帰りたくなかった。
嘘だ。
分かっている。暖かい中山の家から一転、一気に孤独を感じそうだったから…。
研究室のソファーに寝転び、毛布を被って丸まりながら、そんなことを思う。
と、そのとき…。
「ミネっちじゃん!何してんのー?」
「…泊まり込み。お前こそ、何してんの?」
「俺は、教授に資料借りて来いって言われたの。貸してね?」
それに、おお…と答えながら、毛布をもぞもぞと体に巻きつける。
それをチラリと見ながら、パラパラと本を捲り、何冊か脇に抱えた。
「何、泊まり込む程大変なんだ、ミネっち。」
「……まぁな。」
本当の理由なんて言える筈もなく、曖昧に濁して苦笑する俺。
明るい髪をぴょんぴょんと跳ねさせながら、本を抱え直し、俺の正面の席に座るその男。
名前を木本日吉(きもと ひよし)。
俺の隣の研究室生で、結構中の良い友達だ。
ちなみにサークルも同じで、よく酒を酌み交わす仲でもある。
「あー…けど、俺も最近大変なんだよねぇ…。だからさ、飲みに連れてって?」
文脈繋がってないぞ…と思いつつも、その提案には賛成だ。
「…、……割り勘な。」
そういって、ニヤリと笑う。
「もちもち!んじゃ、今日ね!?いつものトコで、んー……19時でどう?」
それに日吉はニヤリと笑い返して、少し考えたのち、またニヤリと笑った。
「おっけ。終わらせる。」
「ん!じゃーね!」
日吉は俺の答えに嬉しそうに笑って、バイバーイと手を振りながら研究室を出ていった
それを見送って、身体に巻き付けていた毛布を取り、大きく伸びをする俺。
風呂でも入るか…と、とりあえず簡易シャワールームへと、のろのろと足を向けたのだった。
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