■ロストメモリー
2
結局そのまま中山の家を飛び出して、翌日。
大学で教授に頼まれた資料の整理をしながら、悶々と考え込んでしまっている俺。
いくらなんでも、昨日の態度は無かった。
大人としてどうかと思う。
ぶっちゃけ、完全に俺の八つ当たりみたいなところがあるし、悲しいことは悲しいが、一人盛り上がってもむなしいだけだ。
事の発端は、本当に些細な違和感だった。
簡単に言うと、中山が俺に手を出してこないのだ。
一応恋人同士であるわけだし、そういう行為をしたいと思う俺。
まだまだ、健全な若者。
当然、欲も溜まる。
俺は男だし、魅力…なんてもんは端から当てにしてない。
でも、中山だって俺のこと、一応好きで居てくれる訳だし、……頑張ってみたのだ。
男相手に誘惑するなんて、初めての体験だったが。
そういうことに詳しい知り合いに、ニヤニヤされながらも教わって、むちゃくちゃ恥ずかしかったけど、俺はやった。
さりげなく触る、引っ付く、甘える…などと始まって、上半身裸は勿論、彼シャツ、……猫耳なんてのもしてみた。
流石に引くかもとも思ったのだが、中山は真っ赤になってて、それを見て、俺も無性に恥ずかしくなってしまったが…。
その他にも、業とらしく、ソファーに寝る中山をベッドに引っ張り込んでみたり(慌てふためいて断られ、逃げられたけど…。)、朝、起こされたときに寝ぼけた振りして抱きついてみたり…。
しかし、それでも手を出してこないから、…その、俺から乗っかって、結構きわどいところまで触ったと思う。
でも駄目だったのだ。
何じゃれてんですか…と笑われて、そのまま終わってしまった。それが昨日。
本当なら、まだまだ頑張るつもりだった。
しかし、俺はその時に見てしまったのだ。
何かに耐えるように、固く握りしめられた拳を。
もしかして、今まで俺がしてきたことは、中山にとって嫌だったのかもしれない…と、気付かされた。
我慢して、俺の遊びに付き合ってくれてたのかも…。
そんなだから、昨日は逃げてしまった。
そういう感情で好きなわけじゃない…なんて言われたら、本当に泣いてしまいそうだったから…。
「したいって思うのは…俺だけなのかよ……。」
はぁ…と大きな大きなため息が漏れる。
今日何回目だろう。
資料整理の手も止まり、椅子に座ったままゴツリと分厚い本に頭を乗せる形で頭を項垂れた。
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