■ロストメモリー
1
「……帰る。」
俺、一条厳政(いちじょうみねまさ)は、思わずそう呟いた。
ポカンとした顔を横目に、立ちあがって、部屋の隅に寄せていた鞄を持ち上げる。
内心は悲しさと、切なさでいっぱいだ。
何なら、泣きそうだ。
実際ちょっと潤んでるし。
それを必死に隠しながら、俺は逃げるようにジャケットを羽織り、ドアへと向かった。
「え、ちょ、ちょっと、ミネ先輩!?」
急な展開について行けず呆けていた中山裕太郎(なかやまゆうたろう)は、そこで、ようやく慌てたように立ち上がり、俺の服の裾を掴んできた。
嬉しいが、無性に悔しい。
「……離せよ。」
ああ、思わず、突き放すような言い方になってしまった。
でも、グッと唇を噛みしめて、無理矢理足を進める。
「どうしたんですか?急に…。」
本当に戸惑っているようで、どうしたらいいか分からず、困った顔をする中山。
そりゃそうだ、本当にいきなりなんだから…。
「……今日は、帰んの。」
そんなことは百も承知で、突っぱねる俺。
何せ、普通にできる自信がない。
「…俺、何かしましたか?」
おとなしく帰ろうと思っていた俺は、その言葉に頭のどこかがプチッと切れた。
悲しい……以上に、ムカつく。
「……何もしねぇから帰んだよ!!」
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