■ロストメモリー
1
「……ここ、どこだ?」
どこかのベタなドラマの台詞のようだが、確実にその言葉が自分の口から滑り落ちる。
いたって本気で、いたって正気だ。
自分がどこかのベッドに寝ている事は分かる。
ベッドサイドにあるものが携帯電話とも認識できる。
この部屋にあるものが何か、どう使うか、それは分かるのに、自分という存在を確認する知識だけがスッポリと抜けていた。
「……俺は、……だれだ。」
またまたベタな台詞を言いながら、身体を起こし、手を握ったり開いたりを繰り返しながら、部屋をぐるりと見渡す。
頭が痛い。
動かしたことでズキンとした痛みが走り、思わず頭を触ると、そこには包帯が巻かれていた。
「……怪我?」
どこで怪我をしたかすら思い出せない。
自分のことなのに、そんな事も覚えていなくて、何とも言えない焦りにも似た気持ちが湧きおこってくる。
何も分からない…。
不安で不安で落ち着かない。
と、そのとき…
「あ、起きましたか?」
「っ!!」
ビクッと跳ね上がった肩。
ベッドから対角にある開かれたドアを見ると、黒髪短髪の爽やかな感じの男がこちらを見ていた。
手には湯気を立てる器とグラスが乗った盆を持って、心配そうに近づいてくる。
その様子を見る感じ、誘拐、監禁といった物騒な感じではなさそうだ。
恐る恐る俺は口を開く。
「……アンタ、誰?」
「…あ、すみません。俺、中山 祐太郎(なかやま ゆうたろう)って言います。」
「…え、と…?」
知り合いのような、そうでないような、微妙なニュアンスに俺が首を傾げると、その男、中山は慌てて口を開く。
「…あ、余り接点ないっすもんね!すみません。サークルの後輩です。E.S.の…」
「いーえす?」
何の略だろう?
よく分からないが、とりあえず、俺は多分大学生なんだろうな…ということは分かった。
そして中山は、後輩。
しかも余り接点のなかった後輩だ。
「…先輩?」
少し考え込んだ俺に、中山が不思議そうに首を傾げたので、手をヒラヒラと振って曖昧に笑っておく。
何故か顔が真っ赤になったが、風邪でも引いたのか?コイツ。
しかし、駄目だ。
…全く覚えていない。
頭の怪我と、記憶喪失、中山という後輩…、…繋がらな過ぎる。
仕方がなく、襟足を掻いて、ため息を吐いた。
「…悪い、この状況が掴めない。説明してくれないか?」
「あ、はい!」
手に持っていたお盆をサイドテーブルに置き、ベッド横の床に正座する中山。
それを自分のベッドまで引きずり上げて、座らせる。
中山がベッドの端に座り身体を捻って、お互いに向かいあう形をとる。
看病してくれていたのは一目瞭然なので、流石にカーペットを敷いているといえど床に正座させる訳にはいかないと思った結果だ。
「で?えっと…中山…だっけ?」
「は、はい!」
「何で俺はここに?」
「それが…俺も詳しくは分からないんですけど、その…道で倒れてたんです。」
「……は?」
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