■ロストメモリー
15
「…言ったろ?お前になら、何されてもいいんだよ。」
そう言いながら、背をポンポンと撫でてやっていると、少し落ち着いたのか鼻声ではあるが
「……何で、ですか?」
と尋ねてくる。
「何でって……そりゃ、…なー……」
そう言われて、ふと考えた。
中山が泣きじゃくっていたのと、思いつめていたようだったのが気になって、そう言ったのだが、そんな軽い言葉ではないことに今さら気付く。
考え込む俺を、不安そうに見つめてくる中山。
それがとてつもなく、可愛いと思う。
…やっぱりワンコにしか見えない。
「…何でだろうな、お前が、…タロが可愛い所為じゃねーの?」
「へ、…ぇえ!?」
予想外の台詞だったのか、目を瞬かせながら驚く中山に、思わず噴き出す。
「っぶ、クク……、そうだなー…そうだ、タロが可愛いから悪い。」
何となく口をついて出た言葉だったが、言ってみるとそれがしっくりきた。
離れたくないのも、その所為だろう。
とびきり可愛いのだ、この男は。
ここ数日、自分のもやもやに蓋をするようにしながら、ズルズルと過ごしてきたが、不意にストンと胸に落ちた。
いきなり過ぎて、呆気ないくらいだ。
中山の驚いた顔を見ながら、クスリと笑う。
可愛過ぎて、可愛過ぎて、ぎゅうぎゅうに抱きしめて甘やかしてやりたい。
一般にはこれを恋だの、愛だの言うのかもしれないが、そんなもの俺にはどうでも良かった。
好きなのか、と聞かれれば、好きだと答えるくらいには、俺は中山が大事であったし、ただの後輩というだけにしてはこの独占欲は異常だ。
今思えば、とても簡単なことなのに、数日もやもや悩んでいた自分がとても間抜けに思えてくる。
そんなだから、中山に何か酷いことをされるというのは、全くこれっぽっちも思い付かなくて…。
「…たろー…」
「な、何ですか?」
「…あー…、俺、お前が好きみたいなんだけど…。」
「……へ?」
脈絡なくそう告げた俺の言葉に、一瞬ボボボッと真っ赤になった中山。
しかし、すぐに辛そうに顔を歪めて、俯いてしまう。
「……ミネ先輩、記憶戻ってないから、……戻ったら、きっと……」
記憶が戻ってないことが関係しているのだろうか。
戻って中山のことを嫌いになる要素なんてないのだが…。
そこまで考えて、先程急速に思い出したことが引っかかった。
「ああ、それであんなことしたのか?」
「……はい。…、え?記憶、戻ってるんですか!?」
「?ああ、多分。さっきだな。」
「っ!俺、ひどい、こと……」
「だから、されてねぇって。確かにあんま良い記憶じゃないけど…。ま、お前と会えた記憶だし。」
簡単に言えば、俺はあの日、例の金髪に強姦されかかっていたのだ。
しかし言っておくが、未遂だ。
俺の動きを封じるために一発バットで殴り、上着を脱がし、弄り倒して、さらに下も脱がして…というところで中山が助けに入ってくれたのだった。
その後は、すぐに気を失ってしまったから分からないが…。
俺も男だ。
身体を触られたくらいで酷いトラウマになるような神経の太さではない。
少し怖かったが、記憶が戻ってしまえば、理由も分かるし、納得も出来る。
何でもないのだ、あんな事。
しかし中山はそれを知らない。
おそらく中山は、俺にその記憶を取り戻すよう働きかけたのだ。
それが先程の行為であり、中山がひたすら謝っていた理由。
俺が金髪に触られて怖がっていたから、トラウマだと勘違いをして、でも記憶を戻すために強行しようとした。
だから当然、記憶が戻れば、そんな行為をしようとした中山に俺が好意を抱く筈がないと思ったのだろう。
むしろ、逆なのに…。
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