■耳から始まる恋もある!
12
翌日…。
ふぁ、と大きく伸びをした俺は、目が腫れぼったいことに気付いた。
目一杯開いても、瞼が重たく、何となく視野が狭い感じ。
「…、もしかして、腫れてる?」
何でだっけ、と一瞬考え、カッと顔に熱が集まった。
そうだ…昨日…。
思い出して、気分は急降下、沈みまくりだ。
とりあえず冷やさなきゃ…とベッドを降り、顔を洗って、共有スペースであるリビングへと向かった。
「おはよ、ヨイチ。」
「…おはよ、キョー。」
「…、…目、冷やした方がいいね。」
キョーはそう言うと、何故か濡れタオルを電子レンジに入れる。
きょとんとして、それを見ていると、音が鳴って、湯気の出ているタオルを渡された。
「目に乗せて?」
「う、うん。」
冷やすんじゃないんだ…と思ったが、目に乗せるとポカポカとあったかくて気持ちが良く、思わず薄く笑う。
「…熱くない?」
「んー…大丈夫。」
暫くそうしてから、次は冷たいタオルを渡された。
暖めて血流を良くしてから冷やすと、目の腫れは良く取れるそうだ。
知らなかったが…。
「…っ、気持ちぃー…」
「そう、それは良かった。」
「ありがとー、キョー。」
俺がそう言うとキョーは、いいんだよ、と俺の頭を撫でた。
その仕草が、一瞬会長に撫でられたあの感覚を呼び起こし、また泣きそうになる。
ああ、目が隠れていて良かった…。
でも、自分は相当酷い顔をしているんだろう。
そうじゃなきゃ、キョーが優し過ぎる…。
そんな若干失礼なことを考えていると、
「…ねぇ、ヨイチ。」
と声を掛けられる。
「んー?」
何でもないようなふりをするも、少し声が掠れてしまった。
「…やっぱ、その目じゃ目立つよ。今日は休んだら?」
よかった、気付いてない。
「え、そんな目立つ?」
「…、…身内に不幸ってレベルの腫れ方だね。」
「そっか、じゃ、そうする。」
久しぶりに泣いたからかなぁ…と思いながら、ホッと息を吐く俺。
正直、今一杯一杯で、いつものように笑える自信がなかったのだ。
会長の顔がちらついて仕方がないのだ。
自分で断った癖に、なんて女々しい…。
お昼は届けてあげるから、ゆっくりしなよ…というキョーの言葉に甘えて、暫くベッドに横になる。
昨日はよく寝たと思ったが、何度も夢を見た様な記憶があるから、浅い眠りを繰り返していたんだろう。
暫く…といいつつ、結構な時間、眠ってしまっていたようだ。
念のため、とセットした携帯のアラームで起こされる。
起きて顔を見ると、確かに腫れていたが、まだ見られる顔に戻っていた。
「…よかった。」
ホッと息を吐いて、お腹減ったな…と冷蔵庫をあさりにキッチンへと向かう。
「あ、ベビーチーズ。」
キャンディーのように包まれたチーズを数個取り出して、ソファーへボスンと座り込んだ。
包みを剥いで、口にほおり込む。
チーズの匂いが鼻に抜け、独特の味が口に広がった。
「…うま、」
もぐもぐと食べながら、時計を見ると、そろそろお昼。
キョーが戻ってくる時間だ。
チラリと玄関の方に視線をやると、タイミング良くピンポーンとインターフォンが鳴った。
「あれ、カードキー忘れたのかな?」
いつもはカードキーで開けて入ってくるため、首を傾げる俺。
しかし、大して考えもせず、キョーだと信じて疑わなかった俺は、確認もせずドアを開いた。
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