■耳から始まる恋もある!
10
「…だ、だって、…そりゃ、付き合えたら嬉しいけど…」
「けど、何。」
「…俺、声聞くだけで…その…た、た、「勃つんでしょ?」…うん。それ、気持ち悪いでしょ?」
そう思われることは分かってる。
好きだからっていつでも勃起、なんて…発情している犬じゃないんだから。
それを分かっていながら、カミングアウトは出来ないし、隠して付き合える筈も無い。
「…、…見てるだけで、いいんだ。」
今日改めて思った。
俺は、会長を目の前にすると、いつもの自分じゃ居られなくなる。
バカみたいに口数が減って、女々しくなって、会長が喋るたびにドキドキして、緊張で吐きそうになる。
それを、恋をしているというのかもしれないが、俺のは些か厄介だった。
勃起までしてしまう。
そう考えれば、俺は笑ってしまうくらいに、会長が好きなのだ。
だからこそ…
「…見てるだけで、…いい…」
自分に言い聞かせるようにそう呟きながらも、ギュウっと胸の奥が締め付けられる自分。
言いようもなく苦しい。
息が上手く吸えなくなる様な感覚。
痛いくらいに切なくて、思わず胸を抑えた。
しかし、ボロボロと涙がこぼれ、拭っても拭っても収まらない。
腹の中で何かが暴れてて、胸を掻きむしって叫びたくなるような衝動。
駄目だ…これは、良くない…。
慌てて感情に蓋をしようとするも、出来たのは泣きながらハッと大きく息を吐き出すことだけだった。
「…ヨイチ、」
「ご、ごめ…、だいじょうぶ、…ごめん」
溢れて溢れて止まらない。
何で、こんなに…。
そんな俺にキョーは一つため息をついて、
「…全く、ヨイチはおバカだね…。」
と、呟いた。
黙って側にあったタオルを差しだしてくる。
お風呂上がりのタオルだろう。
いい匂いがする。
「…きょ、ー…」
「…、一つだけ。」
「…?」
「…会長と、何もなかった?」
キョーは俺の身体を心配してくれてるんだろう。
何とか笑って、頭を縦に振る。
するとキョーもゆったりと笑って
「そう…、」
と、くちゃくちゃっと俺の頭をかき混ぜた。
そのままキョーと他愛も無い話をする。
気を使ってくれたのか、一切会長の話には触れなかった。
気が抜けたのか、眠くなって俺が目を擦っていると、すぐさまベッドに追いやられる。
おやすみ、というキョーの声を最後に、俺の意識はストンと落ちていったのだった…。
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