■耳から始まる恋もある!
9
「キョーッ!!」
「…何かの奇声みたいで嫌なんだけど。」
自室に駆け込む那須に、冷ややかな視線を向けるキョー。
それでも、その姿を確認した途端に、ギョッと目を見開いた。
それもそうだ。
ネクタイで手首を縛られて、シャツのボタンが上から三つ開いてる。
髪もグチャグチャだろうし、まだ目元がピリピリと痛い。
まさに逃げてきたという感じ。
「それどころじゃないっ…これ、解いて!お願いー…」
とりあえず落ち着きなよ、と言われ、共用スペースのソファに一緒に座った。
「…何があったの?」
手のネクタイをほどきながら、聞いてくる。
強く巻かれていた訳ではないので、痕にはならなそうだが、結び目が固いのかキョーも苦戦している。
「…バレちゃった…。」
両腕を差しだした状態で、俺はポツリと呟いた。
「え?好きなのが?」
「…それもだけど、その、た、勃っ「あー…わかったからいいよ。」…ありがと。」
「それでこんなことになったの?」
「…逃げたんだ。」
思いだしてまた目に涙が浮かぶ。
「あー…どうしよ…、もう、凄い恥ずかしい…。顔見れないっていうか、もう会えないよ…。…はぁ。…、あーーー…」
「…ヨイチ。」
「何でこんなに自制が聞かないんだろ…。俺、めっちゃ、情けないじゃん…。」
「…それだけ好きってことでしょ。声フェチだし。」
言いながら、キョーは何かを考えているようだった。
難しい顔をして、視線を左右に動かし、思案中。
「…キョー?」
俺が、ソッと尋ねると、すぐに元の顔に戻ったけれど。
まぁ、いいか。
「…ん?ああ、取れたよ。」
「あ、ありがとー。」
手に巻かれたモノをグルグルと外し、手渡してくれる。
「…それで?勃ってるのがバレたくらいで、こんな状態にならないでしょ?」
キョーが顎をしゃくったのは俺の格好。
確かに…、まさに襲われましたといった格好だ。
「…、…多分、からかわれたんだと思う。」
暫く考えたが、そうとしか考えられなかった。
きっと始めは冗談だったはずだ。
俺が変に反応したから…。
と、そこまで考えて、気付く。
「あ、…でも付き合ってもいいって言われた。」
「…、は?」
「…、…断っちゃったけど…。」
「はぁ!?」
キョーに凄い剣幕で詰め寄られた。
そんな顔しても、可愛いんだから、ズルイよな。
少し怒ったような、吃驚したような、そんな複雑な顔。
気持ちは分かる。
俺だって、散々好きだと言っていて、告白を断ったと聞けば多分そうなる。
けど…。
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