■蒼月の夜 2 「…どういうこと?」 透緯が出て行って早々、佳武に尋ねる静稀。 「盗賊が、掴まっていないんです。神魔殿の最下門を通過した痕跡がないので、未だ殿内に留まっている可能性が高く…。」 「…だから、僕の護衛してくれるの?」 「接触した唯一の人物が静ですので、一番危険かと思いまして…。」 「…タケは、もっと鍛錬したいんでしょ?僕の護衛してたら、時間なくなっちゃいますよ?」 「…私は、…その、」 言葉に詰まる佳武を、静稀はジッと見る。 その視線に耐えかねたように、佳武は一度目を堅く閉じ、そして俯きがちだった顔を思い切り上げ、そして下げた。 その姿勢は腰からきっちり九十度。 「すみません。それは建前です。私が静を護りたいんです。強くなりたい…、でも、それは隊長に近づきたいからじゃなくて…いや、それもあるんですけど、その…」 「…。」 そこまで言って、グッと拳を握る。 「貴方のために、強くなりたい。」 一息で言い切って、顔を上げる。 そこには真っ赤な顔の静稀。 パチリと漆黒と視線があった途端、一層、目が見開かれ、じわじわと耳まで赤色が移っていった。 「…、…凄い、こと、サラッと、言うんだから…。」 「…すみません。」 そういう佳武の顔も赤い。 大きなことを言った自覚があり、情けないことに握った手は少し震えていた。 「…心臓、ドキドキいってる…。」 「…すみません。」 「…。」 「…。」 「…護衛、よろしくお願いします。」 ハァッと一息吐きだして、静稀は頭を下げた。 「こちらこそ。」 佳武も、頭を下げる。 そして妙な間。 その間を壊したのは、扉のノックの音だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |