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■蒼月の夜
20


メコの実を食べた静稀が、何かを作りたいのは、すぐに解った。

昨日料理長とは話を済ませてあるので、了承の意を唱えると

「わ、やった!ありがと!紫雲様!」

と満面の笑み。

しかし

「紫雲。」

とすかさず訂正してやる。

すると、

「…ありがと、し、……し、……紫雲……っ……」

と、真っ赤な顔で、気持ち上目づかいで、名前を呼ばれた。

予想していた以上に…グッときた。

バクバクと、心臓がうるさい。

ああ、となんとか答えたものの、上手く声は出たのだろうか…。

隣からは、ヒャーという妙な声が聞こえるが、照れた静稀が発する声なので何だか可愛いとさえ思う。

ふと理史に視線をやると、意味ありげに微笑んでいたから、少し気まずいが…。

「紫雲様。そろそろ仕事のお時間ですよ。」

「ああ、わかった。また後で顔を見せるからな?静稀。」

「あ、はい!」

パッっと花が綻ぶように笑う静稀を、思わず抱きしめてしまう。

「うわっ!な、え?」

戸惑う静稀をよそに、名残惜しいが身体を離し、最後の一撫でだというように頭を撫でる。

「…可愛いな、静稀は。」

「なっ…!…、……子供扱いだぁー……」

「ははは。じゃあな。」

これでは、いつまでたっても離れられないので、なんとか断ち切って扉を出た。

後ろを振り返ると、ムゥッと頬を膨らませた静稀。

17歳の割には、根が純粋なのか、行動仕草が子供っぽい。

これでは本当に骨抜きだ。

「しかし、どこもかしこも可愛らしい…。」

ボソリと呟けば、理史にも聞こえていた様で、

「そのようですね…。」

と、また、クスクス笑われる。

「なにがおかしい。」

「いえ。あんなに手が早い紫雲様は初めて見ましたよ。」

「…仕方なかろう。」

「ええ。咎めたりなんてしませんよ。静稀もまんざらではなさそうでしたし…。」

「なに?それは本当か?」

「……さぁ?ご自分で確認なさって下さい。ですから、とりあえずは仕事…お願いしますね?」

「…。」

何故か理史に勝てる気がしない。


今日もまた、静稀というエサに釣られ、黙々と仕事に打ち込む事になるのだが、それに気付いているのは理史のみであった。


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