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■蒼月の夜
19


―シズキ…シズキ…

(あれ?この声…)

―シズキ…

(ここに来るときに…。)

―タ…、……、テ…

(?きこえないよ…!)

―…ス、……、…ッ

(誰なの?あなたは、だれ?)



「誰っ!」

自分の声で目が覚めて、跳ね起きる様に身体を起こすと、

「きゃっ!」

隣で悲鳴。

「り、倫!ごめん!」

起こそうとしてくれたのか、手をすこし引っ込めるような形で固まってしまっている。

「気にしないで?それより、うなされていたの?」

心配そうにしながら、枕元の水差しからグラスに水を入れて渡してくれる。

それをありがとうと受け取って、一口飲んで息を吐いた。

バクバクと脈打つ心臓。

おそらく自分の声に対してだろう…。

しかし、悪夢独特の嫌な感じはしない。

不思議と覚えのある感覚。

「うーん…悪い夢じゃ、ない…と思うんだけど…」

「そう。なにかあったら、呼んでね?」

「うん。ありがと。」

まぁいっか。

優しく微笑む倫に、朝から癒される。

「そうよ!忘れるところだったわ。静稀様、昨夜は寝てしまってお風呂に入り損なったでしょう?だから準備してあるの。」

「え?」

「ほら、はやく!美容効果のある華風呂にしてみたの!」

「だから…僕、男だって……。」

「関係ないわ!ほら、行くわよ?」

うん。

やっぱ、強いよ、倫。


その後、半強制的に花の浮かぶ湯船に入らされた僕からは、フローラルな香りが漂っている。

昨日、飲み物に使うって聞いたから、もったいないなぁ…って思ってたけど、倫に聞くと、この花は華風呂専用だって教えてくれた。

この世界では、花は沢山種類があって、食用、お茶用、華風呂用、薬用、観賞用…と様々なことに使われているらしい。

倫に、僕の国では殆ど観賞用なんだよって言うと、倫も、もったいないって顔をしてた。

そのせいかどうかは分からないけれど、今日の朝食は華料理だった。

「理史、これも花?」

「ええ。卵にベニの花を混ぜて、甘辛く焼いたものです。」

「卵?≪鶏の卵?≫」

「ニワとリ?これはウノの卵ですよ?」

「へぇぇ…」

どう食べても、いつもの卵の味しかしないから、きっとウノという鳥は鶏なのだろうと推測。

それにしても、この世界で卵焼きが食べられるとは思わなかったな…。

「静稀の世界にはニワとるィという鳥がいるのか??」

「…鶏。」

「ニワ、と、りぃ?」

「…ま、いっか。」

紫雲様、真剣な顔をして、吹き出しそうな事をいうの止めて欲しい。

発音は難しいらしいし、仕方ないんだけど、何故に巻き舌風?

…面白い。

「同じ味がするんです。この卵。懐かしくて…。」

そう言うと、クシャリと紫雲様の顔が緩んだ。

少し寂しそうな顔が見え隠れするけど、頭を撫でられ、微笑まれる。

「静稀は強いな…。」

「いえ……そんなっんぐッ…」

ひょいっと卵焼きを口に放り込まれる。

「むぐっ…ん…もー…紫雲様、なにするんです!」

「沢山食べろ。抱き上げた時にも思ったが、静稀は軽すぎる。」

「…、……気にしてるのにー…」

「そうか。それは、悪かった。だが、遠慮なんてするなよ?沢山食べないと大きくなれないからな。」

髪をかき混ぜられたかと思えば、優しく整えられる。

今日の紫雲様は、なんだか柔らかい。

あんまり壁っていうか、身分って感じのものを感じなくて、無意識に気が緩む。

「子供扱い…嫌です。」

「何を言ってるんだ。まだ子供だろう?」

「…僕これでも17歳…。」

「…。」

「…何、この沈黙。」

紫雲様だけでなく、理史、それにお茶の替えを持ってきた倫まで、驚いて固まっている。

「17歳?静稀の世界では時間の進みが速いのか?」

「1日24時間、あ、そうだここでは24刻なんですっけ?それは同じです。あと、365日で一年…」

「ああ、我々は365日で1周期と言うが…そうか、同じなのか。」

「僕、何歳くらいだと思われていたんですか?」

「…12,3歳だと…」

「!…。」

むぅっと唇を尖らせた僕に、慌てたように紫雲様が

「すまない。」

と謝ってくる。

「…ちょっとだけ成長不足だけど…12歳って…。」

「すまない。この国は、皆身体が大きいだろう?それで…」

「…いいです。しょうがないし…。」

地味に落ち込む僕に、紫雲様は困ったように言葉をかけ続けてくれる。



「静稀。そんなに落ち込むな。ほら、この花は身体にいいんだぞ?」

「…うん。食べます。」

僕がようやくそういうと、嬉しそうに笑って、口まで運んでくれた。

「ん?」

「どうした?口に合わないか?」

「これ…」

「メコの実とコウの花を煮たものなのだが…。」

「メコの実?これ、貴重なもの?」

「いや、市場に見ない日はないくらい流通している食材だが…。」

「…この実、欲しい。」

「そんなに気に入ったのか?」

「うん。」

この実、モロ小豆じゃん!って感じだった。

多分砂糖に近い調味料は聞けば分かると思うから、これであんこがつくれる!

「…そうか。何か作りたいんだな?」

「え?あ、はい。」

コクリと頭を縦に振る。

「料理長に話はつけてある。調理場に人がいるときならば、調理場の食材は自由に使って良いそうだ。」

「じゃ、メコの実、ある?」

「ああ。乾燥した実は、一度に大量に仕入れるから、おそらくあるだろう。」

「わ、やった!ありがと!紫雲様!」

「紫雲。」

「…ありがと、し、…し、紫雲……っ……」

小さく、様、と呟いたのは勘弁してほしい。

聞こえてないと、いいんだけど…。


は…、恥ずかしい…。


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