■蒼月の夜 17 その後は、ぐるりと一周殿内を見せてもらった。 道はまだ曖昧だけど、紫雲様の部屋、紫高様の部屋と、詠様の部屋は覚えた。 凄かった!の一言に尽きるんだけど、何といっても楽しかったのは調理場だった。 見慣れない食材がズラリと並んでて、大きなアルコールランプを金属で囲ったようなガス台に、氷のいっぱい入った冷蔵庫もどき! 夕食の準備にはまだ早いらしく、誰もいなかったが、暇があればまた来て良いって! それで、何か調理しても良いって! 紫雲様が話を通しておいてくれるらしい。 あー楽しみだなぁ…。 元の世界でも、僕の特技といったら家事くらいだったから、本当に嬉しい。 「どうでした?静稀。」 「すっごい、楽しかったです!調理場に行っても良いっていってもらえたし、庭に綺麗な花が咲いてて、その花でお茶作ってるって聞いて…。それで…」 息せきって話す僕を、微笑みながら聞いてくれる理史。 先程まで紫雲様が書類と戦っていた執務室に戻ってきたのだ。 当然、理史が本を片手に書類を書いていたのだが…。 あまりに興奮気味に話しだす僕に、お茶を出してくれて、一旦休憩となった。 「あ、廊下が綺麗でした!皆土足なのになんで綺麗なんだろ…?」 「ああ。侍女の皆が毎日掃除していますからね。」 「うわ、倫、凄いなぁ…。あ、あとね…」 そこまで言って、クスクスと笑う理史に気付く。 「…ごめんなさい、僕ばっかり喋って…。」 「いや、ふふ…いいんですよ。本当に楽しかったんですね。」 「うん。」 「それだけで私も嬉しいですよ。それに、今日一日で随分と言葉が上手になりましたね。」 「え?ほんとですか?」 「ええ。もう一人でも出歩けそうなくらいですよ。」 「やった!」 「ふふふ。それで?続きはなんです?」 「あ、あとね、僕、泉の水に触れたんだけど…」 そう言って、紫雲様の方を見る。 「それは…本当ですか?」 「ああ。」 紫雲様に確認をとって、不思議そうな顔をする理史。 「どうしてなんでしょうね…。わかりました。一応、調べておきます。」 「ああ。」 先程から、紫雲様、あんまり喋らないな…。 「では、紫雲様。静稀を部屋まで送り届けてあげてください。」 「ああ。」 そればっかりだ。 疲れちゃったのかな…。 僕、あの水舐めたから、凄く元気だけど、紫雲様は仕事もしてるんだもんね…。 そう思って… 「あの、一人で帰れますよ?ここからの道は覚えたので…。」 と、告げると、複雑そうな顔をする紫雲様。 隣では理史がまたクスクス笑っている。 「そうですか。なら、また明日。朝食は一緒に摂りましょうね。」 「はい!じゃあ、また明日!」 軽い足取りで、部屋を後にし、自室へと向かった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |