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■蒼月の夜
8

「理史です。」

「…開いてる。」

ゆったりとした声が聞こえてくる。

ノブを捻り開けた先には本、本、本。

山積みになっているかと思えば、崩れていたり、本棚に整理されているかと思えば、一段下はグチャグチャだったり…。

そんな本の城のような場所の中心に一人の男がいた。

「…。」

無言で固まってしまう僕に理史も苦笑しながら、

「詠様。お連れしました。」

と頭を下げる。

「…お前が、異邦人?」

「…あ、はい。静稀です。えっと…」

詠様だということは解っているが、僕もそう呼んで良いのかどうか判断が付かず、口ごもると…

「詠。」

と、短く名を告げられる。

「詠様。」

僕が慌ててこう言うと、無表情に立ち上がり、近寄ってきた。

「…な、なん、でしょう。」

「…。」

無言で顔を近づけられる。

「あの…詠様?」

何をするでもなく、ジイィー…と音がしそうなほど見つめてくる詠様。

うわぁ…綺麗な目の色…。

薄い蒼色に、甘い蜂蜜を混ぜた様な色。

光の当たる角度によって、キラキラと虹彩を変える。

そうか…神族の人なんだ…。


かといって、ずっとこの状態でいる訳にはいかない。

身動きも取れないし…。

「…。」

どうしようもなくて、理史に助けを求める様に視線を動かすが、困ったように微笑まれ、僕自身も酷く困惑してしまう。

「あ、あの…」

「……。」

「っ…ひゃ!」

暫く見られていたかと思えば、目を舐められる。

いや、目を舐めようとしたらしいが、僕が目を閉じたために、瞼の上を舐められた。

「っ!…な、な、な、…」

何?とかなんで?とか言いたいのに、言葉は紡げず、壊れたラジオのように、な、を繰り返してしまった。

「詠様!」

理史が声を荒げるが何のその。

「…甘くないのか。」

と、一人納得している。

とりあえず舐められた所、つまり片目を隠しながら、距離をとった。

当の本人は、その様子をボヤンと見つめるだけだが…。


(な、なんか…よく解んない人だ…。)



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