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■蒼月の夜
12

「ああ、カカだの。ほれ、そこに…。」

紫高が指さしたのは、比較的小さな入れ物。

蓋を開けると確かに精米した米っぽいものが入っている。

炊飯器なんてものはないし、鍋で炊けるものかも微妙だ。

実際、米っぽいものなので、そこはこちらの手順に従った方が賢明だろう。

そう思ったのだが…。

「…これ、炊くのって…。」

「…どうやるのかの。」

紫高と静稀、首を傾げる二人。

それに、ハァッとため息を吐いて、典が説明した。

「それは、外の大釜で毎日一度に炊かれています。そこの櫃(ひつ)に入れられていますよ。」

典が差す方向には、大きなお櫃。

蓋を開けると、こんもりと入っている米もどき。

見かけは米だが、以前食べた時、米より弾力がありもち米に近い気がしたのだ。

「…それは使ってもいいんでしょうか?」

「ええ。多めに炊かれていますし、余ったものは飼料として使われていますので大丈夫だと思いますよ。」

「あ、ありがとうございます!」

それを聞いて静稀は、櫃の中のものを一口食べた。

お米…に似ているが、やはりどこか違う。

まぁいいか…と、静稀はソレを近くにあった木のボウルに移した。

「カカをどうするのじゃ?」

すりこぎのような手頃な棒を手に持った静稀に、紫高が不思議そうに首を傾げる。

「半殺しにします!」

この国の言葉、この使い方で合ってるのかな…と思いつつも、答える静稀に、何とも言えない顔をする紫高。


「……物騒じゃの…。」

聞いていた典と佳武も、ギョッとした顔をして静稀をみた。

半殺し、とは焚いた餅米を半分くらい形を残してつぶすことなのだが、そう言われてみれば確かに物騒。

静稀も苦笑いしながら、手に持ったすりこぎでカカを叩く。

「……こうやって、ちょっと潰すんですよ。」

「…ふむ、」

興味深そうにそれを眺める紫高を見ながら、静稀は大分形の崩れたカカを手に取った。

「紫高様も取って下さい。」

「お、おお…こうか?」

「…もう少し減らして…そう、そのくらい。」

「…丸めるのじゃの?」

「はい。」

大きな手が、戸惑いながらも小さめな楕円を形作る。

それを幾度か繰り返していると、あんこも程良い固さで冷め、触れる温度になってきた。

大きなお皿の上には大きさが揃っていないものの、形自体は綺麗なカカ。


「静稀、終わったぞ?」

「じゃあ、このあんこを周りに付けていきます。見てて。」

あんこを手のひらで丸く平らに伸ばし、その上にお餅をのせて丸めるように形を整える。

「おお…凄いの…。」

何個かやって見せると、紫高は恐る恐る手にあんことカカを乗せた。

手にあんこがくっついて、上手く丸められないらしく、白い部分が残るおはぎ。

困ったような顔をするものだから、そのおはぎをとって、ちょいちょいとあんこをくっつけて隠した。

「…これは、私には無理だのー…。」

「…大丈夫ですよ、ほら、こうやって…こう。ね?」

「……こう、して…こう、…あ、……頼む、……静稀。」

「アハハッ…直しますね。」

そんなことをやりながら、何とか全てあんこに包み終える。

あんこが残ってしまったが、それは小さな器に移して、使ったものを片づけた。


「国王様、静稀様、よい時間帯ですから華茶の時間にしましょうか。」

作っている最中、姿が見えなくなっていた典だったがタイミング良く戻ってきてそう言うので、調理場から近い外のテーブルで今作ったおはぎの試食をすることになった。

行ってみると、すでに茶の準備が整っている。

「…流石、典じゃの。」

「…恐れ入ります。」

紫高も嬉しそうに笑い、典に席を勧めた。

それに礼を返しながら座る典。

静稀も佳武を呼んで、席に座らせる。

丸い席で紫高の隣に静稀と典が座ったため、必然的に紫高の目の前の席になる佳武。

今まで以上にガッチガチに固まってしまった佳武に苦笑して、大きなお皿から一つおはぎを取り分けた。

皆の皿にも、取り分けてゆく。

「つ、…つ、注が、せて、頂きます!」

その傍らで、紫高が自ら茶を急須からカップに移そうとするのを、佳武が制止。

緊張のあまり震える手で、茶を注ごうと必死になっている。

もともと料理が得意でないのに大丈夫か?と、静稀が代ろうとするも、典に手で制されて、その急須は典の手に収まった。

フワリとかおる香ばしい匂い。

今までに飲んだ華茶とタイプと違う匂いに、静稀は自分に注がれたカップの中身を覗きこんだ。

「これは今の時期に咲く華を用いた華茶です。この菓子は甘いと思いましたので、何種類か華を混ぜさせて頂きました。」

その言葉に、佳武が驚いたような顔をする。

それを不思議に思いながらも、その華茶に口を付けた。

実際、典のその言葉の意味は始め分からなかったのだが、飲んで分かった。

今までのものはどちらかというと紅茶に近く、香りが強かったのだが、この茶は違う。

華の匂いが割と抑えられ、少し苦味と渋みが加えられている感じだ。

抹茶のほうじ茶みたいな…いや逆に意味が分からないな…と静稀は思いながら、手を合わせ、作ったおはぎを一口食べた。

「ん、…おいしい。」

全体的にちょっと違うが、これはこれで美味しい。

紫高を見ると、何故か微笑まれ、頭を撫でられた。

「これは静稀の国では、何というのだ?」

「≪おはぎ≫です。」

「おはぎ、だの。では、頂くとしよう。」

「頂きます。」

「…頂き、ます。」

紫高が食べたのに続いて、典、佳武もおはぎを齧る。

そして、言葉が無くなった。

皆無言で黙々と咀嚼する。

やはり、口に合わなかっただろうか…と考えた時、あっという間に一つ平らげた紫高の手が二つ目に伸びた。

もぐもぐと、一心に食べる紫高。

そんな紫高を見て、典が苦笑いした。

「国王様は、どうやらお気に召したようです。このように、一心不乱ですしね。」

甘い物はお好きなんですよ…と典は紫高に視線をやり、この通り…とまた苦笑する。

そして、

「私も、とても美味しいと思いますよ。」

と、にっこり微笑まれた。

…撃沈です、はい。

静稀は真っ赤になってしまった顔を隠すように頭を下げた。

詠様もだが、ギャップが凄過ぎるのだ。

「あ、ありがとうございます!」

思わず、どもってしまった静稀に、クスクスと笑い声が届き、また顔を熱くする。

どうやら、典に笑われているようだった。

そんな典にまた驚いた様な顔をしながらに、褒めてくれる佳武。

「静、美味しいです。」

…うん、これは素直に嬉しい。


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あきゅろす。
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