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■蒼月の夜
10

「あ、タケ!」

「ただいま、戻りましたっ!」

やはり緊張しているらしい。

九十度に折れ曲がった腰が、それを表している。

深くお辞儀をしたと思ったら、すぐにドアの前にへばりついた。

動きがぎこちない。

そんな佳武を横目に、静稀は薄く笑い、紫高に目を向ける。

「ね、紫高様。」

「ん?なんじゃ?」

「腰袋の結び方、教えて下さい。」

倫に聞くつもりだったが、ちょうどいい。

時間がある今のうちに、一度紫高に教えてもらおうと、静稀は腰に付いている袋を差した。

絶対に一回でなんて覚えられない…と思ったのは内緒だ。

忙しい倫の手を、煩わせる訳にはいかない。

そんな静稀に紫高は笑い、

「よいぞ。これは解くのも大変じゃからの、ほれ。」

と言いながらも、スルスルと解いた。

「ちょ、ちょっと、はやい!」

「ふはは、まぁ、まずは結び方からだの。こうして…」

「…こうして…、」

「…こう。」

「…、…こう?」

「そうじゃ、で、こうして…」


そうやって難しい手順をこなし、なんとか結び終える。

多少歪になってしまったが、それは仕方がないだろう。

初めてにしては上々の出来である。


「うむ。なかなか上手いではないか。」

「へへ、…もう一回やろっと…。」

「ほれ、解いてやろう。」

「ありがと、紫高様。」


解いてもらってもう一回。

先程の手順を思い出すように、ゆっくり結んでゆく。

時折、紫高に違うぞ、と指摘されながら、結び終えた。

一回目よりも上手く出来た。

静稀はその出来に満足し、紫高の腰袋を外すようにせがむ。

「なんじゃ、結わえてくれるのか?」

「ん、やりたい。」

といっても、人のを結ぶのは、自分のを結ぶよりも難しい。

視点が違ってしまうので、どっちに手を動かせばいいのか分からなくなってしまうのだ。

「…っ、えっと…」

「こっちじゃ、」

「あ、そっか…、それで、…」

一生懸命結ぶ静稀を、あたたかく見守る紫高。

それは本当に家族のようで…。

眺めていた佳武も、思わず顔を緩めてしまったのだった。


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あきゅろす。
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