■蒼月の夜
8
10分くらい走った所で、大きな神殿が見えてきた。
「おっきい…」
つい呟いてしまった言葉に、緩く笑み浮かべる紫雲。
門の前に着くと、門番が深くお辞儀をして、これまた大きな門を押し開けた。
(もしかして、紫雲って偉い人なのかな…。)
そんな事を考えていると、若い男の人が走り寄ってくる。
≪お帰りなさいませ!紫雲様。≫
≪ああ。悪いが、紫季殿を呼んできてもらえるか?≫
≪は、はい!≫
紫雲が、その若い男に何かを言うと、ビッと背筋を伸ばして、走っていってしまった。
不思議そうにしていたのが伝わったのだろうか、
「今、コレ…外す…呼ぶ」
と、錠を指して、静稀にも解るように訳してくれた。
そして、トンッと軽い動作で馬を降りると、手を伸ばして、また俺を抱き上げようとしてくれる。
「わっ!あ…ありがと…ございます。」
お礼を言って、大人しく腕の中でじっとしていると、先程の男の人が、綺麗な女の人を連れてきた。
真っ白な髪に、灰蒼色の目。
すごい綺麗…。
思わず見惚れていると、その人が近づいてきて、手を錠へと置く。
ポワン…と薄く光ったような気がして、目を見開くと、手と足の拘束具が消えて無くなっていた。
「え?何で…無くなっちゃった…。」
慌てて紫雲の手から、降りようとするが、それを許してくれない。
≪こちらの方は?≫
≪先程の賊討伐の際に保護した。かなり怯えていたので、これ以上怖い思いはさせたくない。周りの者には私の客ということを周知徹底してくれ。≫
≪わかりました。それにしても綺麗な漆黒の髪ですのね。≫
なにやら女の人と、紫雲が話している。
仕方がないので、フラフラと視線を彷徨わせていると、女の人を呼んできてくれた若い男の人と目が合った。
その人は、ちょっとビックリしたように静稀を見る。
(あれ…、どうしたんだろ…。)
そんなことを考えていると、上から声が降ってきた。
「静稀…冷たイ…風呂…準備。」
「え?あ、そんな!大丈夫です!助けてもらって、そのうえお風呂まで…。」
慌てて手を振るも、紫雲の微笑みで、見事に異議を抑え込まれてしまった。
(あの笑い方ズルイ…。)
そのとき、女の人が口を開く。
「古語が話セルのね。遠慮、よくない。貴方ハ紫雲様の客人デスもの。」
所々拙いが、紫雲よりもハッキリ日本語に聞こえる。
(あ、違うか。古語?っていうんだっけ?)
女の人はそう言うと、ふんわりと笑って、紫雲に頭を下げた。
黙って、静稀を連れてゆく紫雲。
(ていうか、今、紫雲様って言ってたような…。)
やっぱり偉い人なんだ…とどこかぼんやりと思う。
風呂場に着くと、ようやく降ろしてもらえた。
「ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げると、頭を撫でられる。
「温まる…教えて」
これは出たら呼んで欲しいということだろうか…。
一応コクリと頷いておく。
すると、満足そうに微笑んで、また頭を一撫でして、扉を出て行った。
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