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石楠花物語アフターストーリー
訪れた幸せ
同・甲板
   多くの人々と楽士がいる。そこへ麻衣と千里。健司達もいる。

健司「お、お前らも来いよ。始まんぞ。」

   楽士達の演奏で人々は歌い出す。
   『さらばナポリ』

紡「今ごろさらばナポリとか歌ってるし…イタリア出身の楽士達なんかなぁ?」
 

   何時間も後。一斉に船から乗り出してガヤガヤとし出す。

健司「おいっ、見ろよ!!麻衣に千里、まだ遠くの方だけど港が見えてきたぞ!!」
麻衣「ふんとぉーだぁ!!」
千里「日本だ!!」

   潮風が吹く。

千里「わぁ、気持ちいいそよ風…」

   麻衣、千里に寄り添ってうっとり。

麻衣「私ちっとも後悔なんてしとらんに…来て良かったと思ってる。私、せんちゃんがいてくれたお陰でこんなに幸せで楽しむ事が出来たんよ…」
千里「僕も…君と一緒だったからこそ、とっても幸せな気持ちになれたんだ。ありがとう…今までの僕の人生でこんなに幸せな時はないよ。」
麻衣「あら、お礼を言うんは私の方だに…私こそありがとう。」
千里「うん…うん…」

   そっと優しく麻衣の方を抱く。二人は顔を見合わせて微笑む。


日本の港
   人々が降り、麻衣達も降りる。

麻衣「お疲れ様、みんなありがとな。忙しい中来てくれて…」
健司「当たり前だろ、誠の愛とは元カノの幸せを祝う…」

   紡、笑いながら健司をこずく。

紡「又、小生意気なこん言ってぇ!!」

   健司、悪戯に舌をペッと出す。

麻衣「ところで?みんなはこれからどーするだ?」
紡「私は、仕事仲間とこれから打ち上げだに。勿論、牧と塚藤、小山内も一緒にな。」
麻衣「誰?」
マリアンデル「あら、私よ。私の日本名。牧舞子ってんの。」
麻衣「ほっか。舞子ちゃん…ね。」

   舞子と麻衣、悪戯っぽく微笑み合う。

ボーイ「んで、塚藤、ってんのはこの俺。塚藤大人。」
美和子「あたいは、」
マコ「私達と」
柏木「ちょいと都内で」
美和子、マコ、柏木「遊んでから帰りまぁーす!!」
磨子「あ、いいないいな!!私も仲間に入れてちょうだいな!!ね、リータっ!!」
リータ「勝手にしろっ!!」

   やれやれと疲れたようにため息を着く。

タニア「私はフレデリコ、マルセラと一緒にすぐにでも病院に戻らなくっちゃ…仕事があるのよ。」
糸織「僕も…仕事だ。」
ミズナの声「千里ちゃん…」

   千里、キョロキョロ。

ミズナの声「私の負けよ…幸せになってね。でも私、」

   麻衣に鋭い目を向ける。麻衣、殺気を感じてゾクゾクっと震え上がってキョロキョロ

ミズナ「あなたの事は諦めたくはないし、麻衣さん、幼い頃ヒュッテであなたにお世話になった日の事は今でも忘れていないわ。でも、それとこれとは話が違うのよ。あなたの事は絶対に認めたくない!!私、千里ちゃんを私から奪ったあなたが大嫌い。今でも憎くて憎くて仕方がないわ。あなたの顔を見てると吐き気がしてくるわ。平城京からあなたの事、とことん恨んでやる!!そして生まれ変わってあなたの元へ出て来た時に…」

   つんとして健司を見る。健司もキョロキョロとする。

ミズナ「ねぇあなた、麻衣さんの元カレさんなのでしょ…あなたも彼女にふられて寂しいわね。私達、寂しいもの同士…あなた、」

   健司の後ろからエリゼッタがひょっこりと顔を出す。
健司、無意識の内に口が動く。

健司「あ、俺?全然寂しくなんてないよ。だって俺にはへー…」

   エリゼッタにイチャイチャ

健司「こんなに可愛い子がいるんだもんっ!!」

   ミズナ、悔しそうにしたうち。

健司「ごめんな。誰か知らねぇけど何?俺に惚れた?」
ミズナ「誰がっ!!」
 
   テオフィル、麻衣に近づく。

テオフィル「本当に…本当に行ってしまうのか?私の事…」
麻衣「えぇ、よく分かるわ。あなたがまさかここにこうして生きていらっしゃるなんて…夢の様です。」
テオフィル「麻衣、私は…私は…」 
麻衣「分かっています…何も言わないでください…。でも私はもうあなたのお気持ちにお応えすることは出来ません…折角こうして会えたのに又さよならは悲しいですが…私はあなたの事は一生涯忘れません…。あなたと生きたあの日々も私は、今までに一度として忘れたことはなかったわ…」
テオフィル「麻衣…お前は、大人になっても、時が経っても…始めてあったあの日と少しも変わらずに…美しい…とっても綺麗だよ。千里、」

   千里をみる。

千里「お前ならきっと、この者を幸せにしてやれるだろう…頼む。麻衣の事を全力で幸せにしてやってくれ…」
千里「テオフィル…」

   しばらく見つめているがまじまじと見つめて真顔で大きく頷く。

千里「はい、勿論。約束するよ。」


千里「では、麻衣ちゃん…」
麻衣「えぇ、ほいじゃあみなさん。私達はこれでボチボチ行きます…皆さんもお気をつけて、ありがとう。」
全員「せんちゃんも麻衣ちゃんとお幸せになぁ!!」
千里「あんっ!!」

   紡、笑って千里の肩をポンポンと叩く。

紡「もし麻衣を泣かせたら承知せんに。分かった?」
千里「うんっ。もう絶対彼女を悲しませないって僕、約束するよ。」
紡「宜しくな、私の可愛い妹なんだで。」
千里「分かってるってば。」

   二人、互いに拳をぶつけ合って微笑む。


特急電車の中
   その後、麻衣と千里が乗って帰路についている。


小口家・居間
   数日後の朝。千里が出掛ける準備をしており、麻衣が食事の支度をしているがとてもだるそう。珠子も台所に立ち、手伝う。食卓では頼子と忠子、信助もいる。

珠子「忠子、早くなさい。高校に遅れるわよ。」
忠子「はーい。」
珠子「頼子もシャキッと早くなさいっ!!あなたはもう社会人でしょう!!」
頼子「はーい、煩いなぁ…そんなに怒鳴らなくたっていいじゃないの。」
珠子「言われたくないのならちゃんとしなさいっ!!」

   麻衣、胸を擦る。
  
珠子「あら麻衣ちゃん、どうしたの?」 
麻衣「あぁ、義母さん…」

   よたよたと椅子に座る。

珠子「まぁまぁどうしたの?」
千里「麻衣ちゃん?どうした?辛そうだけど…具合悪いの?」
麻衣「えぇ…少し胃がムカムカして…でも大丈夫よ。」
千里「困ったなぁ、どうしよう…僕今日仕事なんだ…でも、」
麻衣「まさか休むとか言わないわよね…ちゃんとお行きなさい。」

   千里、すごく心配そうに顔をしかめる。

珠子「千里、心配しないで。お母さんが麻衣ちゃんの側にいます。」
千里「お母さん…」

   弱々しく微笑む。

千里「じゃあ麻衣ちゃん…行ってくる。今日は無理しないでゆっくり休めよ。な。」
麻衣「ありがとう。気を付けて…」
千里「うんっ。」

   家族、千里を見送る。

頼子「お姉さん、どうしたの?」
忠子「具合悪いのですか?」
信助「大丈夫?」 
麻衣「大丈夫よ、みんなありがとな…」

   立ち上がる。

麻衣(旅行中に何か変なものでも食べたかしら?…食あたり?…嫌だわ。) 
珠子「麻衣さん、今日はゆっくりして。家の事は私がやるから、寝ていた方がいいわよ。」
麻衣「ありがとうございます…」

同・寝室
   麻衣、ベッドに倒れ混む。そこへ珠子。

珠子「新婚旅行で疲れが出たのね?」 
麻衣「ほーかもしれません…ごめんなさい義母さん、心配かけて…」
珠子「いいのよ、気にしないで。私はあなたの親なのよ。」
麻衣「えぇ…」

   嬉しそうに。 

麻衣「とりあえず今日は、病院に行ってみます…」
珠子「病院に?…分かったわ。なら私が一緒にいくわね。」

   大声で。

珠子「これっ、頼子に忠子に信助っ!!早くなさいっ!!」

諏訪中央病院・診察室
   岩波悟、岩波幸恵がいる。そこへ麻衣。

麻衣「あ、悟ちゃんに…叔母さんっ!!」
悟「麻衣ちゃん、この度はおめでとう。」
麻衣「ありがとうございます。悟ちゃんもおばさんもお元気そうで。」
悟「あぁ。」
幸恵「今日は、どうしましたか?」
麻衣「あのぉ…」

 
   しばらく後、エコー検査をしている。

麻衣「…どうなんですか悟先生…」
悟「…」
麻衣「悟ちゃんっ!!」

   悟、微笑む。

悟「おめでとう麻衣ちゃん。君は今、妊娠六週目だよ。」
麻衣「に、妊娠…ですか?…私が!?」
幸恵「えぇ。恐らくあなたの表情は悪阻よ。3、4ヶ月もすれば治まると思うわ。」 
麻衣「うわぁ、ほんねにかぁ…長いなぁ…」
悟「」無理はしないようにね。薬、アルコール、煙草の服用はしないでね。激しい運動もしてはいけないよ。体を冷やさないで栄養のあるものを食べる…体を安静にすること。いいね。分かったかい?」
麻衣「えぇ、大丈夫。分かりました。私は元々アルコールは少しも飲みませんし、勿論タバコもすいません。あ、酔い止めは?」

   三人、話に弾んでいる。

同・外

  珠子の待つ車内に戻る。

珠子「あぁ麻衣ちゃん、心配して待っていたのよ。どうだったの?どこか悪いところがあったの?ねぇっ!!」
麻衣「お義母さん…あのね…」
珠子「言って…」
麻衣「私…妊娠してました!!」
珠子「まぁ!!」

   麻衣を抱き締める。

珠子「麻衣さんっ!!」
麻衣「六週目ですって…私とせんちゃんの子なんだわ!!嘘みたい…」
珠子「息子にも早く知らせてあげなくちゃね。どんなにあの子喜ぶかしら…おめでとう麻衣さん、体を大切にして元気な子を生むのよ。」
麻衣「はいっ!」
珠子「あぁ、どうしましょう!!今夜はお祝いをしないといけないわ!!あなたのご両親もお呼びしなくては!!」
麻衣「んもぉ、お義母さんったらやめてください。おっこー過ぎます。」
珠子「だってぇ、私にとっても始めての孫なんですもの。さ、早くお家に帰って…栄養のあるものを作ってあげるわね。何か食べられる?」
麻衣「ええ!」 
珠子「あなたは今日は、ゆっくりとしていないといけないわ。さあ帰りましょう。」

   珠子、車を出す。


小口家・居間
   椅子で繕い物をする麻衣、台所に立つ珠子。

千里の声「ただいまぁ…麻衣ちゃん?」
珠子「さ、息子のお帰りよ。」

   千里が入ってくる。

麻衣「あ、せんちゃんおかえり。お疲れ様。」
千里「ありがとう。良かった…麻衣ちゃん、元気になったんだね。」
麻衣「えぇ、お陰様で。さっきお義母さんと病院に行ってきた…」
千里「え、病院っ!????何か悪い病気…とかじゃないよね…」
麻衣「えぇ、ほれは大丈夫みたい。でもな…」
千里「でも…な、何?」

   不安げ。麻衣、恥ずかしそう。

麻衣「六週目ですって…妊娠。」
千里「に、妊娠っ?」
麻衣「ほーよ。」

   二人、しばらく無言。

千里「うわぁーっ!!!」

   麻衣に抱きつく。

千里「やったぁ、ありがとう!!何だよ、そう言うことなら携帯に電話かメールを入れてくれれば良かったのに。仲間にもうんと自慢してやるのにぃ!!」

   泣いて喜んでいる。

麻衣「嫌よ、ほんなこん恥ずかしいに…お仲間さんにはもう少し黙っとってやね!!」
千里「えー、何でぇ?おめでたいことなのに、喋ったっていいじゃない?」
麻衣「嫌よ、恥ずかしいに。皆さんが知ればきっとその内マスコミさんだって知ることになるでしょう…」
千里「いいじゃん、世界中に自慢しちゃえば。」
麻衣「ちょっとやめてに、せんちゃんのバカっ!!」

同・寝室
   千里と麻衣。

麻衣「せんちゃんお休み、私は大丈夫だに。だでへーあんたも眠って…。」
千里「いや、君が眠るまでここにいるよ。」
麻衣「ありがとう…あんたも早く休んでな…」
千里「あぁ…。疲れたろ、いい子を産んでくれな…お休み。」

   麻衣、目を閉じる。千里はベッドに腰かけて麻衣のとなりにいるがいつのまにか眠ってしまう。

   夜も更けていく。
   『夜の声』 


同・居間
   千里の休日。休む麻衣と料理をする千里。

千里「麻衣ちゃん、大丈夫?」
麻衣「あぁ、せんちゃん…あんたこそ。折角の休日、休みたいらに?」
千里「大丈夫だよ。君の為だもん。僕何だってやりたいんだ。」
麻衣「まぁ、あなたったら!」
千里「はいっ、どーぞ。作ってみたよ。食べられる?」
麻衣「え、何を?」

   千里、お膳を運ぶ。

千里「せんちゃんの愛情こめこめ雑炊だよ。」

   ばつが悪そうに頭をかく。
 
千里「ごめんよ、少し焦げちゃった…」
麻衣「いいわ、ありがとう。」

   笑って食べる。

麻衣「ふんとぉーだ!!でもとっても美味しい。」
千里「そう?えへへ、良かった。」
麻衣「あんたってふんとぉーにお料理上手なんね。」  

   食べる麻衣を微笑んで見つめる。


農協・店内
   又別の日。買い物をする麻衣と千里。

千里「今日は何を作ってくれるのかい?」 
麻衣「んーとほーねぇ、ならあんたの好きなぁ…」

   口を押さえる。

麻衣「ごめんっ、せんちゃん…カート持ってて…」

   走っていく。

千里「お、おいちょっと麻衣ちゃん?」  

   レジにカートを預けて

千里「すみません、すぐ戻りますので暫くこれをお願いします…」

   麻衣の後を追いかける。

同・トイレ
   個室で吐く麻衣。

千里の声「おいっ、麻衣ちゃん?おーい、大丈夫?小口麻衣ちゃーん!!」

麻衣「せんちゃん…」

   流して外へ出る。

同・トイレの外
   千里と麻衣。

麻衣「あ、せんちゃん来てくれただ?ん、カートは?」
千里「レジに預けてきたよ。それよりも君、大丈夫なの?」
麻衣「えぇ、大丈夫よ。ありがとう…」
千里「いいよ、残りの買い物は僕がするから先に車に戻ってろよ。何を買えばいいの?」
麻衣「ありがとう、ほいじゃあねぇ…」

   千里にメモ書きを渡す。

麻衣「これをお願い。今夜は焼きそばカレーとクムオップウンセンを作るに。」
千里「やったぁ!!楽しみにしてるっ。」

   麻衣に鍵を渡す。麻衣、受け取って店を出ていく。千里、買い物を始める。


小口家
   夕方、台所に麻衣が鼻唄を歌いながら料理をしている。千里はお風呂掃除をしている。

麻衣「ううっ、」

   麻衣、水道に駆け込んで吐く。

千里「ううっ、」

   慌てて口を押さえてお風呂からでてトイレに入って吐いてしまう。

麻衣「…?せんちゃん?」

   トイレに駆けつける。

同・トイレ
   千里が吐いている。

麻衣「嫌だ、ちょっとあんたまで大丈夫?どーゆー?」
千里「あ、麻衣ちゃんごめんよ…何か急にお風呂掃除をしていたら気持ちが悪くなっちゃってさ…。でももう治った。」
麻衣「心配するじゃないの!!いいに、あんたは休んでて。私がやるで。」
千里「それは僕の台詞だろ!!君こそ休んでなくちゃ。」
麻衣「私は大丈夫だに。ほれよりあんた、どーしただけやぁ?」

   心配そうにしているがハッと手を打つ。 

麻衣「は、もしかしてもしかしたらあんたってば…今、私達って結婚してどれくらいよ?生理来てる?おめでたとか?」

   千里、笑って麻衣をこずく。

千里「バカ言え、それは君だろ。僕は男の子だもん。」
麻衣「ほっか。」

   二人、笑って其々の仕事に戻る。

同・居間
   麻衣、千里、珠子、頼子、忠子、信助がご飯を食べている。

頼子「んー、お姉さんの作るご飯はやっぱり美味しい!!」
忠子「兄さん、いいお嫁さん貰ったわね。」
頼子「お姉さんなんて、兄さんには勿体無い!!」

   千里も照れて笑う。

珠子「そうね。麻衣ちゃんは素晴らしい方よ。千里、大切になさい。私もまさか…」

   微笑む。

珠子「この子が学生の頃はあなたみたいな子がうちのお嫁さんになって下さるなんて思ってもいなかったわ。」
麻衣「私もですわ。まさかせんちゃんと結ばれるだなんて夢にも思いませんでした。人生なんて分からないものですね…。」

   全員、食べながら微笑む。

千里「麻衣ちゃん、お代わりっ!!」
麻衣「あらせんちゃん、ほんねに早く食べるなんて…しかもおかずもこんなに沢山…大丈夫だだ?又気持ち悪くなっちゃうに。」
千里「大丈夫、大丈夫。だって僕は病気でもなんでもないんだし…それにもう元気、お腹もペコペコだもん。」

   麻衣、ご飯をもって千里に渡す。

麻衣「又具合が悪くなっても私はへーしらんに。」

   幸せそうに笑う。



   別の日の昼間。麻衣、郵便受けを見ている。

麻衣「請求書…請求書…請求書…ん?」

   家の中に戻ってソファーに座る。

麻衣「何、私と旦那宛?」

   封を切る。

同・書斎
   千里と麻衣。千里のベッドのみがある。麻衣、先程のものを千里に渡す。

千里「え、同窓会?」
麻衣「えぇ、ほーなの。はーるかぶりにみんなに会いたいなぁなんて、私思っとるだだけど、せんちゃんは?」
千里「同窓会かぁ…そうだなぁ…」

   微笑む。

千里「いいよ、僕もみんなに会いたいし。いこっ!!二人で!!」
麻衣「せんちゃんっ!!ありがとう、私、嬉しい」

   千里に抱きつく。


千里「おいおい、やめろよ。」


ホテル・グランドピアノのあるサロン
   それから数ヵ月後のクリスマス。育田クラスの生徒達が集まっている。麻衣と千里も入る。紡が麻衣に気づく。

紡「あ、お!!まーいっ!!」
麻衣「つむっ!!しおに!!みんなぁ!!」

   佐藤加奈江、向山俊也、伊藤すみれ、城ヶ崎みさ、片倉キリが集まっている。

麻衣「会いたかったぁ!!元気だったぁ?」
加奈江「勿論だよぉ、結婚したんだって?つむから聞いたわ。」
キリ「お相手は誰々?」
紡「さぁ、当ててみな。あんたらもよく知ってる人だに。」
すみれ「よく知ってる?」
みさ「まさか、まさかの?健司くんとそのままゴールインとか!?」

   向山、千里をみる。

向山「ひょっとして…」

   紡、ニヤリ。

向山「お前が…柳平の亭主か?」

   女子達、一斉に千里をみる。

千里「は…はい。」
女子たち「えーーーーっ、嘘っぉ!!信じられない!!」
向山「小口ぃ!!」

   千里を抱擁して笑いながら体をポンポンと叩く。

向山「良かったなぁお前!!あんだけ泣いてたお前もやっと幸せになれたんだなぁおいっ!!いやぁ、俺まさか、お前が結婚できるなんて思ってなかったよ。」
千里「それって、褒めてるの?」
向山「やぁ良かった良かった!!今夜はほれ」

   ワイングラスを渡す。

向山「お前もじゃんじゃん飲め。」
千里「あぁ、ありがとう。」

   全員、わいわい。そこへマコ、大寺八千代、横田知晃、松竹美輝。

八千代「まいぴうはーるかぶり!!」
知晃「話聞いたよ!!せんちゃんと結婚したんだぁ。ビックリ、おめでとう!!」
麻衣「ちきちゃんにやっちん、ありがとう!!」
知晃「ってことはそのお腹は?」
八千代「もしかして…」

   麻衣、赤くなる。

麻衣「ほーよ…彼と私の子…。今、6ヶ月になるの。」
全員「きやぁーっ!!」

   盛り上がって恥じらう麻衣と千里を冷やかす。麻衣、照れながらも美輝と目が合うと、二人、悪戯っぽい目配せをする。

   岩井木徹、西脇靖、横井哲仁、小松清聡も来る。

   宴も闌。

麻衣「ほーいやみんなは今、何やっとるの?」
すみれ「私?私は今は専業主婦よ。」
岩井木「旦那は僕。」
麻衣「え?」

   驚く。

麻衣「えぇっ、あんたらいつの間にほんな関係に?」
岩井木「偶々僕の職場にすみれが来て、再会してからかな…。数年前の話さ。因みに今僕は、原村の農業組合で働きながら彼女と一緒に原村に住んでるよ。」

   麻衣に絡む。

岩井木「それにしても、君は相変わらず綺麗だね…千里には勿体無い…」

   千里、岩井木を蹴ったくる。

キリ「私は派遣社員…派遣切りが多くて困っちゃう。独身よ。あーあ、誰かいい男いないかなぁ…」
みさ「私は、松本を離れて今は伊那で暮らしてるの。独り暮らしよ。高校卒業の時からずっと伊那の大手会社で働いてるわ。寒天製品作ってるの。」
麻衣「わぁ、知ってる知ってる!!凄ーい、ほんなところに就職しただね!!」
美輝「私は医者よ。ね、」

   横井を見る。横井、シッと美輝を黙らせる。

知晃「私は、父さんの美容室を継ぎたかったのに反対されたから、仕方なく大学卒業後、地元の生命保険に…鈴蘭生命なんだけど…入社して、すぐ結婚。今は社長婦人よ。」
全員「うぉー、凄げー!!」 
麻衣「ってこんは、ひょっとしてうちのと子を…」
知晃「あ、柳平と子ちゃん?勿論知ってるよ。彼女は優秀なキャリアウーマンになってるよ。」
八千代「私は、未婚のまま…。図書館で働いてるわ、茅野の。てかまだお相手がいたとしても結婚する気なんて更々なしだわ。独身時代をまだまだ私は楽しみたいのよぉ!!」
西脇「僕みたいな男は…」
麻衣「まだ言ってるし。だで、僕みたいな男はいらんっつーこんっ!!」
西脇「卒業後、音大へ入って…ピアノをやっていたけど、麻衣ちゃん、君の後を追いたくてね声楽に転換。今はテノール歌手やってるよ。勿論、独身さ、君だけを、思っているからね。」

   麻衣に小粋なウインク。

西脇「でもこの前、ウィーンでナンパされちゃってさ。横内かやっていう可愛い…」
麻衣「横内かや?」

   目を見開く。

麻衣「どいであの子がウィーンに?」
西脇「や、知らないけど…てか君、彼女を知ってるの?」
麻衣「知ってるも何も…私の従姉妹…」
西脇「何たるこったぁ!!」

   有頂天。

西脇「君の従姉妹だってぇ?じゃあ彼女と結婚すれば僕は君の親戚になれると言うわけか!!」

   麻衣に抱きつく。

西脇「いやぁ、リネッタ!!やっぱり僕らは何かしらの運命の赤い糸で結ばれていたんだねぇ!!」
千里「煩いっ!!」

   西脇を蹴ったくる。

西脇「うぉーーー!っ!!!」

   嬉しさあまりの大暴走をする。女子たち、笑ってやれやれ。

麻衣「相も変わらず、」
千里「昔と変わらずで」
全員「ナルシスでバカな男っ!!」


加奈江「で、私は…」

   苦笑い。

加奈江「結局、ベジタブルランドの正社員になっちゃって…しかも今は、チーフマネージャーよ。結婚も出来ずに寂しく独身生活をを送りながら平凡な日を送ってるわ。」
向山「俺は、父ちゃんと母ちゃんの農家を継いでるよ。俺だってまだ独身だぜ。」
マコ「私は、」

   つんっとする。

マコ「今もチャールダーシュの花形として現役よ。ミルテの花でお給事をしながら踊っているわ。もうすぐ、麻衣の従兄の望月君と結婚するのよ!!二人でチャールダーシュの夢を実現させて何れかはハンガリーへ移住するわ。」
麻衣「へー、北山、あんたも結婚するんね!!おめでとう!!」
マコ「ありがとう。小口夫婦は式には呼ぶわ。だって親戚だもん。そしたらもう、北山じゃないからね。」  
麻衣「分かりました、では…マコちゃん。」
マコ「ちゃん入らんっ!!」
麻衣「マコ。」
マコ「OK。そう呼んで。」
紡「ではでは、」
糸織「僕達からサプライズ!!」
紡「スペシャルゲストをご用意いたしました!!」
千里「スペシャルゲストを?」
麻衣「誰かやぁ?」
紡「先ずは?じゃじゃーんっ!!」

   白石先生と育田先生が入ってくる。

全員「白石先生にっ、育田先生!!」
育田「よぉ、諸君立派になったなぁ。元気だったか?」 

   麻衣と千里のもとへくる。 

育田「お前ら聞いたぞ、おめでとう。まさかお前たちがなぁ…結婚したとは。それに、今うちの学校でもうんと話題でな、柳平が世界のソプラノ歌手で、小口がピアニストと言うこんだ。この二人は俺の教え子だっつってうんと自慢してやってるんだ。」
麻衣「ほんな育田ぁ、やめてやね。恥ずかしいじゃあ!!」
千里「で、先生今はどちらに?」
育田「お。俺か?俺は今は富士見だ。長いぞ、お前たちが卒業してからずっとだ。富士見だ、富士見だぞ。諸君、しかと覚えておけ!!ここテストに出るぞ!!」

   懐かしそうに微笑む。

白石先生「みなさんがここまで立派になってくれて私も嬉しいわ。」
千里「白石先生…」
白石先生「小口君ね。あれから調子は?流石にもう失敗はしてないわね?」

   千里、真っ赤になる。

千里「し、し、してませんよっ!!」 
白石先生「奥様、本当かしら?」

   全員笑う。白石先生も微笑む。

紡「ほいでほいで、もう三方…」
麻衣「え、まだ誰かいるだけやぁ?」
糸織「どーぞ。」

   柏木、磨子、健司が入ってくる。

麻衣「あぁっ!!」
紡「麻衣の元婚約者、岩波健司君と親友の田中磨子ちゃん、そして千里くんの旧友、柏木亮平君です!!」

   三人、微笑んで麻衣達の元へ来る。

麻衣「みんな、この間はありがとな。」
柏木「あぁやなぎん、改めておめでとう。」
健司「良かったよ、お前が幸せそうで。」

   麻衣、健司に丈比べ。

麻衣「健司、あんた背伸びたな。」
健司「俺をバカにしてんのかよぉ!!あれからたったの5pしか大きくなってねーんだ。150しかねぇーんだぜ?つか、ついこの間会ったばかりだろうがっ!!」
麻衣「あら、バカになんかしてないわ。ほいだって昔は私よりもまだちんまかっただに、へー私と同じ…」

   健司、麻衣をこずく。

磨子「でもねぇ、麻衣ちゃん…結局健司と結婚しなかったのか。残念…。あんなに愛し合ってた二人だに…」
加奈江「どうして?」

   麻衣、涼しげ。

麻衣「どいで?私のふんとぉーの気持ちに気が付いたからよ。ただほれだけ。」
磨子「ふーん、ほっか。」

   時間が流れていく。

すみれ「ねぇ?麻衣もせんちゃんももうプロの音楽家なんでしょ?」
八千代「あそこにピアノあるよ、」
知晃「二人でなんか演奏してよ。」 
麻衣、千里「えー、…」 
麻衣「どーするせんちゃん?」
千里「分かった、いいよ。」

   二人、スタンバイ。

麻衣「で、何やるの?」 
千里「君歌えよ。伴奏聞けばすぐに分かるさ。」 

  小粋に弾き出す。
  『サーカスプリンセス』

   麻衣、驚いたようにハッと目を見開く。

千里「どうした?いいから早く歌えよ。歌えるだろ、君…この歌。」
麻衣「え、ええ…」

   麻衣、千里の伴奏で歌い出す。人々は聞き入る。

   終わると大拍手。

車内
   千里の運転。助手席の麻衣。

千里「楽しかったね、麻衣ちゃん。」
麻衣「えぇ!!」 
千里「ねぇ麻衣ちゃん?」
麻衣「ん?」
千里「君も知っていると思うけど…」
麻衣「分かってる、大晦日だら?」
千里「そう…」
麻衣「いい、私も東京に行くわ。」
千里「君はダメだ。僕のためにも、頼む…大人しく待っててくれよ。」

   麻衣、少し不貞腐れるが。

麻衣「はーい、分かったわ。大人しくしてる。」
千里「終わったらなるべくすぐに戻ってくるからね…。そしたら、一日の夜には…」
麻衣「夜には?」
千里「又、彼処に行こう…」
麻衣「せんちゃん…ええ。楽しみにしとる。」

   車は山を登っていく。


小口家
   大晦日。家族が全員いる。千里は玄関先。

千里「じゃあ僕は行ってくる…」 
麻衣「えぇ、お気を付けて…」
千里「ありがとう。お母さん、妻を宜しく。」
珠子「えぇ、分かったわ。頑張ってね、みんなでテレビ見てるわ。」
千里「うん、ありがとう…行ってきます。」

   出ていく。家族、家で千里を見送る。

珠子「さぁ麻衣ちゃん、お鍋の準備しましょうか?」
麻衣「今年の大晦日は?何でやるのでしたっけ?」
頼子、忠子「蟹ぃ!!」
信助「蓼科牛!!」 
麻衣「お鍋?」
珠子「しゃぶしゃぶね。さぁ、みんなと手伝いなさいっ。」
声「はーいっ。」

   其々に行動。

   千里は鼻唄混じりに高速道路を運転している。

同・居間
   全員が鍋とご馳走を囲む。

麻衣「さぁ、出来たに!!」
珠子「みんな食べましょう。そろそろだわ、信ちゃん、テレビ付けて。」
信助「はいっ。」

   家族、テレビを見ながら食べ出す。テレビでは千里がコンサートホールで演奏をしている。麻衣、うっとりとして見いる。


   (午前0時)
   千里のカウントダウン演奏と共に年が明け、除夜の鐘もなる。頼子、忠子、信助はもういない。

珠子「あなたは?まだ起きているの?お腹の子にも悪いわ。」
麻衣「ありがとうございます、でも今夜だけは起きています。夫の帰りを待っていたいので…」
珠子「そう、分かったわ。でも無理だけはしないようにね…あの子も心配するわ。お休みなさい…」
麻衣「はい、お義母さん、お休みなさい…」

   珠子、寝室へと入っていく。麻衣は炬燵に入って編み物をしている。

   が、軈て寝入ってしまっている。

   徐々に明るくなる。物音。
   朝の七時。

千里の声「ただいまぁ…」

   そっと居間へ入ってくるが麻衣を見て目を丸くする。麻衣、びくりとして目を覚ます。

麻衣「あぁ、あなたお帰り…」
千里「ま、麻衣ちゃん?君まさか…」
麻衣「ごめんなさい…起きてあなたの帰りを待っていようと思ったのに、ついつい眠ってしまったわ。」
千里「バカだなぁ、君は妊婦さんだろうに!!一晩中起きているだなんて、万が一君の体に何かあったらどうするのさ!!」
麻衣「ごめんなさい…でも、あなたの帰りを待ちたかったのよ…」
千里「僕こそ…」

   申し訳なさそう。

千里「帰りが予定よりもずっと遅くなっちゃってごめんね…」
麻衣「いいの、あなたは仕方ないに。ほいだってお仕事ですもの…」
千里「いや、違うんだ…仕事が終わって高速には早く乗れたんだけどね…大渋滞さ…」
麻衣「まぁ!!」

   色々と千里の話を聞いている。 

麻衣「お疲れになったでしょう、お茶入れるわ…」
千里「いいよ、君だって疲れてるから…」
麻衣「大丈夫よ。」
千里「もし、君の体調さえ良ければ今夜予定通りに…」
麻衣「私は元気だに、あんたこそ…」
千里「僕は、君といれば元気になっちゃう!!だって、この日をずっと楽しみにしていたんだよ!!」
麻衣「分かったわ。」

   微笑む。

麻衣「じゃあ、私たちが夫婦になって初めての元旦だもの、」
千里「やったぁ!!そういえばそうだよね。」

   千里、軽く麻衣を抱き締める。

千里「ありがとう麻衣ちゃん、大好きだよ。」


ベジタブルランドHaramura・店内
   麻衣と千里、車を降りて中にはいる。加奈江が出てくる。

加奈江「いらっしゃいませ!あぁっ!!」
麻衣「おおっ、こんばんはー!!」

   加奈江、にやにや。

加奈江「分かってるよ、あの席ね。ちゃんと空いているわ、どうぞ。」

   二人を案内。

   麻衣と千里は席につく。

加奈江「ごゆっくりどーぞ。」

   そこに、バッチリと変装をした健司。

加奈江「お、MR.ぎょぴちゃん様いらっしゃいませ!」
健司「あぁ、どうも。」
加奈江「今宵は例の物が間もなく始まりますから、是非スタンバイの前に窓辺をご覧ください。」
健司「ん、ありがとう。ところで…本日店長さんと小平くんはいる?」
加奈江「えぇ、おりますけれども…」

 
   暫く後。加奈江が店長と小平海里を連れてくる。

加奈江「お待たせいたしました、」
健司「あの、店長…実は本日店長に折り入ってお話が…」
店長「いやぁ、はーるかぶりだねぇ…ニュースや雑誌見て驚いたよ。君も有名になったんだね。」 
健司「へ?」
店長「君は、学生時代にここでアルバイトをしていたMR.ぎょぴちゃんこと、岩波健司君だろ?違うかい?」
加奈江、小平「えっ!?」

   驚いて店長と健司を見る。

健司「店長…」
店長「いつも素晴らしい演奏をありがとう。まさか君、この私が気付いとらんとでも思ったかね?私も気づいて気づかぬ不利をしていたんだよ。君から正体を明かしてくれる日をずっと待ってたんだ。」

   微笑む。

店長「佐藤くんに小平君、君らはまさか、本気で彼が岩波健司君だと分からなかったのかい?」
加奈江、小平「えーーーーーーっ!!!」

   それを見て麻衣と千里はクスクス。健司はポカリ。

健司「ほんねのアリババーっ!!?」  

   小平、加奈江はポカーンとして健司を見つめる。健司、変装をとる。

健司「言う前にばれちまったからにゃあしょーがねぇーな。特別に今日もイルミネーションの点灯式が終わったら演奏会してやるよ。お代はいらねぇーよ。」

   小粋に笑う。

健司「おい、折角なんだ!!麻衣に千里、お前らも何かやれよな。ほれ、ボチボチだぜ。…ほいじゃあ、みんな、」
麻衣「えぇっ、」
千里「うんっ。」

   全員、一斉に窓の方を見る。


千里「10」
麻衣「9」
健司「8」
加奈江「7」
小平「6」
全員「5 , 4 , 3 , 2 , 1…」

   外一面にアイスキャンドルが灯る。

全員「わぁー!!」
健司「わぁー!!」
千里「これは…」
麻衣「これって…」

   外には、白鳥、雪の中をかける白馬の王子さま、エーデルワイスの絵が作られる。健司、麻衣、千里は懐かしそうに見つめている。

加奈江「ラブラブお二人さんと、元彼さん、うっとり中悪いけどご注文はいかがしますか?」

   三人、びくりとして加奈江を見る。

加奈江「驚かせちゃった?ごめん。ぎょぴちゃん、あなたは演奏を。」
健司「お。ほの前に腹拵えさせてよ。」
加奈江「はーいはいっ。じゃあ、折角だから三人にお薦め、持ってこようか?」
麻衣「お、いいねぇ。せんちゃんは?」
千里「僕も!!」
健司「なえちゃん、俺も。」 
加奈江「はーいっ!!」 

   るんるんと退場。麻衣、大声。

麻衣「ほれとなえちゃん、ハモンとチーズ、アンティパストの盛り合わせをひとつね。」

   加奈江、了解と手を出して戻っていく。

加奈江「ほいじゃあターちゃん、出来るまでは時間かかるで演奏の方宜しくね。」
健司「ほーいっ、てかターちゃんって呼び方はいい加減やめろよなっ!!俺だってへーいいおっさんなんだぜ。…んむっ、では。」

   指笛をならす。

   千里のピアノ、健司のバイオリン、麻衣の声楽で演奏会が始まる。観客たちはうっとりとして聞き入っている。


   しばらく、麻衣と千里も席につく。健司のピアノ演奏のみが行われている。

麻衣「なぁせんちゃん?」

   食べながら

麻衣「又会えたんだな…私達って…」
千里「え?」
麻衣「私な、高校三年の冬に気付いたの…でも、確信出来なかったもんで言えんかった…。ほいだけど新婚旅行で、確信できたもんで、今ここでいいたい。」
千里「何を?」
麻衣「1000年前のこん…きっとあんたはへー分からんと思うけど…私達、出会ったんよ。ほこであんたは私にこう約束した…」
千里「…生まれ変わったとて、来世で、又、あの世で一般の民として再会しよう…そして、又、私はそなたと一緒になりとう…」 
麻衣「せんちゃん…」
千里「僕も薄々は思ってた。じゃあ、やっぱり君は君なんだね…あさきぬのひめ、」
麻衣「王様…」

   二人の目が潤む。

麻衣「時を越えて…私達の夢が…願いは叶ったのね…私、嬉しい!!」
千里「僕もだよ。しかも、こんな日に…あぁ…」 

   健司、二人の元に来る。

健司「やっぱりほーか…」
麻衣、千里「え?」
健司「良かったですね、お喜び申し上げます…あの日と同じ様に、又私はそなたとは一緒になる事が出来なかったが…」
麻衣「梅安様?」

   健司、そっと頷く。

麻衣「わぁ!!」

   健司、そっと千里に

健司「では、来世こそは…麻衣のこん、俺にくれよな千里姫。」
千里「分かったわ。って、だから僕は女の子じゃなーい!!千里姫って呼ぶなぁ!!」

   パスタを見る。

千里「あーあ、スパゲッティ伸びちゃったじゃん…折角のアルデンテだったのにぃ…いいや、食べよ。」
麻衣「ふんとぉーだ、私のもだわやぁ。」
健司「俺のもだ。ちぇっ、まーいいか。」

   三人、同時にすする。

麻衣、千里、健司「うーんっ、美味しいっ!!」

   三人、クスクス。千里は麻衣の唇についたソースをとってその指を自分の口に入れる。

健司「あーーっ!!てっめぇ…ー!!」
千里「だって麻衣ちゃんはもう僕の麻衣ちゃんだもんっ!!」

   小粋な千里をこずく健司。そこへ加奈江が微笑みながらチョコレートケーキを運んでくる。

加奈江「お楽しみ中失礼。どう?美味しい?」
麻衣「えぇ、とっても!!ボンゴレビアンコなんね。私大好き!!」
加奈江「良かった。ほら、お決まりのもの持ってきたよ。食べて、カップル限定のチョコレートケーキ。ほれ、ターちゃんにも特別よ。」
麻衣「わぁ、これまだあったんね!!懐かしい…―!!」
千里「美味しさそ。」
健司「やりぃ!!俺にもだ。」
加奈江「演奏会のお礼よ。ターちゃんはこれが大好きだもんね。さ、お客様にご説明を。」
健司「はぁ?どいで俺が?」


   笑ってわいわいとしている。健司、お皿にケーキを取り分けている。

健司「はい、これがスィニョリン、」
麻衣「ありがとう、」
健司「これがご主人。」
千里「わぁ、ありがとね。」
健司「んで、これが俺。」

車内
  千里と麻衣。

麻衣「今日はふんとぉーにありがとな、せんちゃん。とっても幸せで楽しかった。」
千里「僕もだよ…今日君と二人っきりであの店で過ごすこと、半ヵ月も昔から計画して楽しみにしていたんだもん。こちらこそありがとう。改めて君と出会えて良かったって…君と一緒になれて幸せなんだって感じるの…」
麻衣「私も…同じ気持ち…」
千里「高校2年生、車山で偶然会った日の事、覚えてるか?バレンタインの日…。」
麻衣「えぇ…」
千里「あの日の願いが叶っちゃったな…」
麻衣「ん?」
千里「君と両想いになりたいって心の中で叫んだんだよ…」
麻衣「まぁ!!」

   麻衣、ぽっと赤くなる。

麻衣「実は私…幼稚園の頃のこん、ずっと後悔しとるの…あんたに向けた態度、折角差し伸べてくれた手を振り払ってしまった事…あの頃の私は、廊下ですれ違う度に私を気にするあんたが大嫌いだったの。」
千里「え?」
麻衣「ほれはあんたが私のこん、嫌いだと思ったから…。でも、あのクリスマス会の練習日に気が付いたわ。ほれは私のとんだ誤解だったって…。あんたの優しさ、温もりに初めて気が付いたの。この人はこんなに心の温かい人なんだって…。あの日のこんをずっとあなたに謝りたかった。私の幼い過ちを許して下さいね、本当にごめんなさい。」
千里「いやそんな、そんな昔の事気になんてしてないよ。謝らないで。それに、一度として君の事を嫌いだと思った事はないんだ。幼稚園の頃だって君を見つめたのは、君とお友達になりたかった…でも内気な僕は声をかける勇気もない…断られるのが恐かったから…。だから…」

   真っ赤になる。

千里「可愛い君が…幼い僕の心の中でとても気になっていたんだよね…。それでね…だからぁ、あの、その、実はぁ…」

麻衣「何よ、へー私達夫婦なんだで何も隠す必要なんてないじゃないの。何でも恥ずかしがらないで言ってみてや。な。」
千里「じゃあ…言うよ…実はね、僕にとっての君は…」

   緊張して唾を飲み込む。

千里「君は僕にとって初恋の女の子なんだ…小学四年生で、君と改めて再会したあの日から僕は君が好きだった…それでね…」

   運転をしながら淡々と語り出す。麻衣、頬を紅くして黙って聞いている。 


小口家
   数ヵ月後。麻衣、千里。

千里「んじゃ、行ってきます。」
麻衣「えぇ、気を付けて。」

    
   千里、麻衣のお腹をさわる。

千里「赤ちゃん、行って来ます。確か今日は、出掛けるって言っていたよね。」
麻衣「えぇ、」
千里「くれぐれも無理しちゃダメだぞ。」
麻衣「ありがとう、分かってるに。」
千里「何かあったらすぐにでも僕の携帯に電話しろよ」

   珠子も出てくる。

千里「あ、ママ、彼女の事を宜しくお願いね。」
珠子「はいはい。行ってらっしゃい。」
麻衣「行ってらっしゃい。あなた、」

   千里、手を降りながら笑って出ていく。

   しばらくして、

麻衣「よしっと。」
珠子「麻衣ちゃん大丈夫?本当に一人でいくの?」
麻衣「えぇ、バスに乗るので大丈夫ですわ。それにまだ8ヵ月なんですもの。」

   微笑んで家を出る。


   千里も微笑んで鼻唄混じりで高速道路を運転している。


麻衣(バスまで後、10分か。急がんくっちゃ)  


玉川運動公園
   健司、麻衣、磨子

磨子「何か懐かしい…ここはあの頃と少しも変わってないわ…」
麻衣「ほーね…で、磨子ちゃん、今どうしとるの?」
磨子「私?私は実家に帰って両親に謝ったわ。ものすごく心配してて、泣いてた。」
麻衣「え、黙って出てきた?ひょっとして。」
磨子「そうよ。だって、私が生きてるなんて事を当時、両親がすれば、私可愛い可愛いのバカ親だもん、きっと又麻衣ちゃんと健司の邪魔するに決まっているわ。あの両親ならやりかねないわ。最悪の場合、麻衣ちゃんを殺す…」
麻衣「ほんなぁばかなぁ、いくら何でもおっこーよ。ほれはぁ。」
健司「兎に角、ブラブラしようか…」
麻衣「ええっ、」
磨子「そうしましょう。」

   三人、運動公園の道を歩き出す。

麻衣「あ、見て!!」
磨子「可愛い。もう菫が咲いてるわ。」
健司「見てみろよ、こっちには四つ葉のクローバー見っーけた」
麻衣「ふんとぉーだ。」
三人「幸せが訪れますように…」

   『四つ葉のクローバー』

同・木陰のベンチ
   三人でアルバムを見ながら喋ったり笑ったりしている。

麻衣「ん…ううっ…んっ…」

   苦しみ出す。

磨子「ちょっと、麻衣ちゃんどうしたの?大丈夫?」
健司「具合悪いのかっ?」

   二人、麻衣の体を支えて労る。

磨子「どうしたの?麻衣ちゃん、しっかり!!」
麻衣「健司…磨子ちゃん…早く…救急車を…赤ちゃん…産まれそうなんよ…」
健司、磨子「ええっ!!?」

   おどおどする二人。

健司「わ、分かった…」

   携帯を駆け出す。

   しばらくして救急車が来る。麻衣は救急車に乗せられて運ばれ、磨子と健司は車で後を追いかける。


諏訪中央病院
   健司と磨子が長椅子に腰かけている。

健司「あ、ほーだ。旦那にもやっぱり知らせた方がいいよな。俺、もう一回かけてみるよ。」

   携帯を手に、席を外す。


コンサートホール
   千里が打ち合わせをしている。

千里「あ、」

   携帯がなる。

千里「ちょっと失礼します。」

   退室。

千里「はいもしもし、こちら小口千里です。」
健司「あ、千里か?」
千里「あ、なんだ健司君か!!何の用?僕今演奏会の打ち合わせをしているんだけど…」
健司「なんだはねぇだろ、千里姫!!何だはぁ!!」
千里「ごめんごめん…」

   話を聞いて固まっている。

千里「え?麻衣ちゃんが?へー!?」
健司「あぁ、だで連絡までに…」
千里「そんな、だって予定日までまだ二ヶ月も早いのに…うん、分かった。じゃあこれからすぐにでも切り上げて飛んでくよ。それまで麻衣ちゃんの事を」
健司「分かった、任せとけ。気を付けてこいよ。」

   切って戻る。

磨子「旦那なんだって?」
健司「これからすぐにでも切り上げて飛んでくるってさ。」
磨子「そう、良かったわ。」

コンサートホール
   千里が戻る。

千里「大変申し訳ございません。大切なミーティングの途中なのですが早退させてください。妻がお産なんです。」

   一礼して飛び出す。他スタッフ顔を見合わせる。

スタッフ「小口さんの奥様が?」
スタッフ「お産って…」
スタッフ「小口さんからそんな話、一度も聞いた事ありませんよねぇ?」
スタッフ「はい…」

   全員、一瞬の沈黙。

全員「えーーーーーーーーっ!!?」



車内
   千里は急いで高速を飛ばしている。

千里(麻衣ちゃん、麻衣ちゃん…今から戻るからな…無事に産んでおくれよ…)


諏訪中央病院・待合室
   うろうろと落ち着かぬ様子の健司。そこへ幸恵。

幸恵「あら、健司に磨子ちゃん、こんにちは。」
健司「ん、お袋。」
磨子「あ、おばさんはーるかぶりです。こんにちは。」
幸恵「あなたが生きてるって知ったときは驚いたけど本当に嬉しかったわ。でも何?」

   健司を見る。

幸恵「偉く落ち着かぬ様子ね。まるであなたが麻衣ちゃんの旦那様見たいね。心配なのでしょ」
健司「んんっ…」
幸恵「それとも何?又御手洗いに行きたいけど我慢してるの?ならいい大人なんですから我慢できなくなる前に早くお行きなさいっ。」

   健司、がくりとなり真っ赤になって幸恵を見る。

健司「バカ言えっ、違げーよ!!麻衣が心配なんだよぉっ!!」
幸恵「あら、そうだったの。これは余計なことをごめんなさい。」

   去っていく。磨子はクスクスと笑いを殺している。健司、ふんっと鼻を鳴らして座り直す。

健司「ったく、いつまでも俺を子供扱いしてからかいやがって…俺だってへー30にもなる男なんだぜ。へーほれくれーのこん自分でよく分かっているさ。言われなくても自分の体のこんは、自分で何とかするさ、なぁ磨子、磨子?」

   磨子、笑いをこらえている。

磨子「あー、ごめんごめん、何?」

   健司、磨子を恥じらいと不機嫌そうに睨み付ける。

健司「てっめぇー、さっきから何笑ってんだよ?んー?」
磨子「ごめんごめんって。でも、ほいだってぇ。」

   健司、拗ねてふて腐れてしまう。

磨子「ほーやってへー、子供みたいにすぐに拗ねない!怒らない!!不貞腐れない!!」

   宥めながら

磨子「ほいだもんでいつまで経っても子供扱いされんのよ。」
健司「うるさいっ!!」
 

   そこへ千里が駆けつける。

千里「健司君っ、磨子ちゃんに、健司君のお母さんっ!!」
健司、磨子「千里っ!!」
幸恵「あぁ、小口君!!」
千里「麻衣ちゃんは?あのっ、妻はどうなんですか!?予定日より二ヶ月も早いんですっ!!」
幸恵「小口君、」

   千里を落ち着かせて話をする。千里、愕然と聞いている。健司、磨子も表情が凝る。


千里「そ…そんな…それってまさか…」
健司「お袋、…つまり…子供の命か…麻衣の命か…ってこんか?」
磨子「嘘っ…」

  幸恵も悲しげに目を閉じる。

幸恵「先程、麻衣ちゃん意識を失ってね…急遽帝王切開に運ばれたの…出産難産で手術もかなり難航していてね、」
千里「そんなことってあるかっ!!麻衣ちゃんはまだ若いんだよ!!せっかく彼女元気にもなったんだよ!!」

   涙を堪える。

千里「麻衣ちゃんさえ生きてれば僕は、喩え子供を失ったってそれでもいい…彼女が元気なら又子供だって出来るだろ…でも、麻衣ちゃんは母親になるんだ…そんなこと絶対に望んでないっ!!」

   泣き出す。

千里「麻衣ちゃん、前に言ってたんだ…彼女は自分が死んででも赤ちゃんを守りたいって!!…でも、どちらかを一つ選ぶなんて僕には…僕に出来るわけないよ…どうすればいいんだ…」

   泣いているが暫くして。

千里「…分かりました…もし、万が一の時は…妻の意志の尊重をお願い致します…」

   泣きながら。

千里「もし、その時は妻の意志を尊重して…」

   言葉がつまる。

幸恵「分かったわ、小口君…辛い決断だったわね、ありがとう…」

   千里を抱き締める。

幸恵「では、先生にその様にお伝えします…」

   戻っていく。


   千里、健司、磨子のみ。

健司「千里…」

   泣きながら千里の方を抱く。

千里「…。麻衣ちゃん…」

   他二人は千里を慰める。


   その後、三人は立ったり座ったり落ち着かない様子。


   何時間も経過する。軈て産声。

健司、磨子「!?っ」
千里「麻衣ちゃんっ…」

   暫くしてそこへ幸恵。

千里「おばさんっ!!」
幸恵「おめでとう小口君、産まれたわよ。麻衣ちゃん、なんとか一命を取り止めました。」
千里「あぁ…」

   気が抜けて放心状態になる。健司、磨子、その体を支える。

千里「良かった…麻衣ちゃん…」

   一筋の涙を流す。そのままその場に崩れ去る。

千里「ぼ…僕の赤ちゃんが…無事に…生まれた…。麻衣ちゃんも…生きてる…良かった…」

   健司に抱きついてワッと泣き出す。

千里「アーンッ!!本当に良かったよぉ!!ふぇ、ふぇ、…ふぇ…」

   健司も泣きながら黙って千里を抱いて慰めている。磨子もそっと涙を拭って微笑む。

幸恵「こらこら、」

   微笑む。

幸恵「いい大人の男が何いつまでも泣いているの。小口君、君はもうお父様でしょ。しっかりなさい。」

   三人、まだ泣き続けている。


同・病室
   健司と磨子は廊下で千里に先に入るように合図。千里、恐る恐る幸恵と共に中に入る。ベッドに横たわる麻衣、近くに美輝と横井。

千里「麻衣ちゃん…」
美輝「旦那様ですね…」

   千里の方は見ていない。

美輝「今はまだ奥様は眠っておられますがその内に目を覚ますでしょう…奥様、とても頑張りましたよ。一時は母子ともに危険な状態に陥りましたが、今はもう安定しています。健康ですよ。」
千里「そうですか。良かった…」

   近くの椅子に座って麻衣の体を撫でる。

美輝「では私達はとりあえずこれで…先生、」
横井「又何かありましたらお呼びください。」

   二人は退場。千里、軽くお辞儀をする。

   暫くして、麻衣が徐々に目を覚ます。

千里「麻衣ちゃんっ、麻衣ちゃん、麻衣ちゃんっ!!!」 
麻衣「ん…んーっ?」

   薄っすら。

麻衣「あぁ、せんちゃんが…おはよ。」
千里「麻衣ちゃんっ!!!」

   麻衣を抱き締める。

千里「良かったっ!!本当に良かったよぉ!!無事に生きててくれて本当にありがとう。僕の子を産んでくれて本当にありがとう!!」
麻衣「ほーか…私子供を産んだんね…赤ちゃん、無事に生まれてくれたんね…良かった…」

   そこへ美輝、横井、健司、磨子。

麻衣「あ!」
美輝「おめでとう、まいぴう母さん。頑張りましたね、一時は大変でしたけど、無事にご出産致しましたよ。」
麻衣「みっちゃん…」

   微笑む。

麻衣「私の赤ちゃんは?何処?」
横井「大丈夫、心配しなくても無事だよ。」
美輝「えぇ、今はまだ保育器の中にいますけど、元気ですよ。今はいい子で眠っています。」
千里「そっか…」

   微笑む。

健司「千里っ、」
磨子「ほれ、」
千里「う、うん…」

   麻衣の手を握る

千里「麻衣ちゃん、おめでとう。よく一人で頑張ったね。ごめんよ、側にいてあげられなくて…一人で辛かったろ?」
麻衣「いいんよ、謝らんでね。あんたこそ忙しかったんでしょうに態々来てくれたの?ありがとう…」
千里「当たり前だろ…だって、僕がこの子達の父さんになるんだから。」

   泣き笑い。

千里「これから二人で、あの子達を育てていこうね…いい父さんと母さんになろう…」
麻衣「えぇ…」

   千里、巨大な花束と小さな手提げ袋を麻衣に渡す。

麻衣「え?」
千里「君に、プレゼント…。君の好きなもの、健司君から聞いて買ってきたんだ。パリーヌのマコロン。」
麻衣「せんちゃん、…」  

   箱を開けて一つ食べる。

麻衣「ありがとう…とっても美味しい…」
千里「そうか、」
麻衣「殿下、あなたもお一つ…」 
千里「あぁ、では…」

   二人、食べながらどことなく懐かしさに浸っている。

千里「でもさ、」

   我に返って美輝を見る。

千里「看護婦やってるって君、ここの病院に勤めていたんだね。しかも、お産婆さんだったんだね。て、事は…まさかこの横井先生が君の旦那さ…」

   横井をまじまじ。

千里「あーーーーーーっ!!!」
横井「何だよ小口、うっせぇーなぁ。ここは病院だぜ?静かにしろっ!!」 
千里「ごめん…でも、ビックリしたんだもん…だって横井くんが…てことは?もしかして?まさか君が?」
横井「お前っ、今ごろ気がついたのかよ…ほ。俺が麻衣の出頭医師、横井哲仁。即ち、この横井美輝の夫だ。てか小口、産婆とか言い方古ぃよ。」
千里「そうかなぁ?」
 
   麻衣、クスクス。

麻衣「かもな。でもやーだせんちゃん。知らんかっただけやぁ?ま、ほーゆー私も一番初めは驚いたけど…」
 

(回想)同・診察室

横井の声「次の方ぁ、小口麻衣さーん、どーぞ。」
麻衣「はーいっ。」

   麻衣、診察室へと入っていく。


   麻衣、美輝、横井。

麻衣「お願いしま…」

   二人をまじまじ。

麻衣「ひょっとして…てっちゃんと…みっちゃん?」

   美輝、横井もお互いに顔を見合わす。

美輝「もしかして?…まいぴう?」
横井「ほーなのかよ…お前…」
麻衣「ほーだに、まいぴうだに。ってこんはやっぱり二人なんね。」
美輝「わぁ、久しぶり!!こんな形で会えるなんて、嬉しいよ!!今あなたすごく話題よね。オペラ界もバレエ界も引退して結婚したって。しかも、世界的な有名天才ピアニストと。」

   麻衣、照れる。

(戻って)同・病室

麻衣「ってこん。」
千里「へー、そうだったんだね。」
横井「へー、そうだったんだね。じゃねぇーやい小口!!お前、こいつの旦那ならそれくらい知っとけやい!!つーかよぉ、」

   千里を細目勝ちに見つめる。 

横井「世界的な有名天才ピアニストって、お前のこんだったのかよ…結局、お前が麻衣をものにしたって訳か。」

   健司と磨子を見る。

横井「麻衣の友達?」

   まじまじ。

健司「な、な、何なんですか先生っ…」
横井「や、あんたとあんた…どっかで見たこんがあるんだが…」
磨子「人違いじゃないですか?」
健司「は?」
横井「…」

   少し考える。

横井「うわぁーーーーーっ!!!」
健司、磨子「うわぁーーーーーっ!!!って、」
健司「驚かさないで下さいよ先生、」
磨子「一体何なんですか…」
横井「お前はひょっとして、あの、両久保ひばりヶ丘の岩波健司と…新井の田中磨子じゃねぇーか?」
健司「ほ、ほーですけど?誰?どいで俺のこんを?」
磨子「私の事を?」
横井「フィッハハハハっ!!やっぱりほーか!!お前らか!!小2までぎょぴちゃんのパンツ履いてて魔法少女ごっこをやってた、岩波健司と、幼稚園から女番長やってた田中磨子だ!!」
健司「だーでー!!っ」
麻衣「ん、二人とも未だ分からんだけやぁ?ほれ、長峰の横井哲仁だに?覚えとらんだ?」
健司「横井哲仁…?横井…横井、横井…」

   一瞬固まる。

健司「うわぁーーーーーっ!!!」

   少し睨み付ける。

健司「てっめぇ、あの横井かよ?…ふーん、宮川んときゃーえれー世話んなったなぁ横井。よくも俺のこん苛めて泣かせてくれたな。俺はあん時のこん未だに忘れてねぇーんだぜ。」
横井「健司…お前って野郎は…執念深いやつ…」
磨子「ふーん、ほーだったのね。横井哲仁、そう言えばほんなのもいたわ。いいわ、覚えといてあげる。感謝しな。」
横井「てっめぇ、磨子…お前って女は相も変わらずだな…」
磨子「あらほー?ほりゃどーも。」
 
   得意気で小粋にツンッとする。麻衣、美輝はクスクス。健司、横井はお手上げ状態でやれやれとしたポーズをとる。

同・廊下
   暫く後、横井、美輝に案内されるように歩く麻衣、千里、健司、磨子。

健司「あーあ。俺がもし約束通りに麻衣と結婚してりゃあなぁ…子供は俺との子になってたのになぁ。」
千里「もうやめろよ。今の父親は僕なんだ…過ぎたことは仕方ないだろ…」
健司「てっめぇ、」

   千里の股を思いっきり蹴りあげる。

健司「調子に乗りやがってぇ!!」

   麻衣、磨子クスクス。

横井「ハハーン、お前後悔してるな。小口に今さら妬いてんだろ?」
健司「ほ、ほんなんじゃねぇーやい!!ほいだって俺にはへー」

   健司の後ろ、何処からともなくエリゼッタが現れる。

健司「こんなに可愛いエリゼッタちゃんがいるんだもんっ!!」

美輝「この子達よ。」

   千里、健司、磨子、赤ちゃんを見て目を丸くして麻衣を見る。

美輝「可愛い女の子と男の子ですよ。」

   麻衣、悪戯っぽく微笑む。

千里「麻衣ちゃん…君って…」
健司「知ってたのかよ…これ、」
磨子「双子ってこと…」
麻衣「いいえ、」

   おどけて

麻衣「私も生まれてからみっちゃんとてっちゃんからほーきかされたんよ。初めて知ったときは勿論驚いたけどとっても嬉しかったに」
千里「みんな…小さくて可愛い…」
横井「小さいのは当たり前だろ、変に当たり前すぎるこん言うのはよせ、小口!!」
千里「うぇーっ…」

   不貞腐れる。

麻衣「ほれにしても…せんちゃん、この子達はあんたに似てとっても器量よしね…瞳の大きさとこの通ったツンッとしたお鼻はあんたにそっくり。」
千里「器量よしは麻衣ちゃん、君似だろ。ほっぺの笑窪と、おちょぼ口は君そっくりだもん。」
健司「チェッ。バカップルやってらぁ…」
  
   磨子、横井、美輝も二人を見て微笑む。健司はそっぽを向いて拗ねながら不貞腐れる。


茅野市役所
   数日後。麻衣と千里。

千里「さて、もう決まっているよな。」
麻衣「えぇ…」
千里「それじゃあ…出すぞ。」
麻衣「えぇ…」

   二人、出生届を書いて窓口へ出す。

千里「よーし、出来たっと。麻衣ちゃん、帰るか?」
麻衣「はいっ。」

   二人、役所を出る。


小口家・庭先
   数ヵ月後。千里はカメラスタンドを構えている。麻衣、赤ちゃんを抱いて縁側に座っている。

千里「ほーい、行っきますよぉ!!」
麻衣「いいに、あなたも早く早く!!」
千里「よしっ。」

   セットする。

千里「3 , 2 , 1 ,」
麻衣、千里「セルリーっ!!」

   カシャッ。千里、急いで麻衣のとなりに座り、麻衣の肩を抱くとシャッターと共に不意打ちのキッス。

麻衣「!??っ」

   驚いて千里を見る。千里は照れ笑い。


白樺高原・コスモス湖岸
   赤ちゃんを抱いた麻衣、千里と健司、磨子、リータ。

リータ「へー、おめでとう二人共。もう二人は親か…いいな、羨ましい。」
麻衣「リータは?」
リータ「あぁ、私しゃ結婚どころか相手も未だいないよ。」
健司「じゃ、女二人は独身って訳か。」
磨子「あら失礼ね!!私はもうお相手くらいいますよ。」
健司「え、マジで?」
磨子「マジっすよ。」

   得意気

磨子「あんたも知ってるやつよ。当ててみ。」
健司「俺も知ってるぅ?ほりゃ何処の誰だよ…」

   思い当たったように

健司「まさかと思うがお前…」
磨子「そうよ、そのまさか。私もうすぐ彼と結婚するから…小野磨子になるのよ。」
麻衣「まさか、海里くん?」

   磨子、幸せそうに満面の笑みで微笑む。

麻衣「で、健司、あんたは?エリゼッタちゃんといつ?」
健司「未だ先かな…色々が少し落ち着いてきてからさ。」

   お腹がなる。

健司「ほれより俺、腹減ったなぁ…」
千里「そうだね。」
磨子「なんか食べに行くか?」
麻衣「お、いいねぇ!!」 
千里「何食べる?」
健司「ん、俺、山賊うどんとカツカレーとステーキ!!」
磨子、麻衣「これっ、健司っ!!」

   一気に健司をこずく。

健司「いってーなぁ、いいだろぉ!!俺は腹減ってんだよっ!!」
磨子「そんなに食べて又お腹壊したって知らないんだから!!」
麻衣「言うこん聞かん子は早死にするんよ。」
健司「ふーんだ。俺はほんねに柔じゃねぇーよーだっ!!」
麻衣「この言葉に私へー何度も騙されてんのよ。」

   全員、歩きながら。

リータ「んなら私も、山賊うどんとカツカレーと冷製パスタでっ!!」
麻衣、磨子「リータっ!!あんたまで健司の真似せんでいいのっ!!」
リータ「いいだろ別に。私も今はとっても腹減ってんだよっ!!」

   麻衣、磨子、リータをこずく。全員、ふざけながら歩いていく。千里は笑っている。

茅野中央高校前
   一年後の春。二人の子供を抱いた麻衣と千里。千里、懐かしそうに伸びをする。

千里「んーっ!!何か懐かしいね。ここはあの頃と少しも変わっていないや…」
麻衣「ほーね。ただ変わったのは、私とあんたが夫婦になったっつんこん。あの頃はこんなこん少しも予想しなかった。」
千里「僕もだよ。ちょっと中入ってみる?」
麻衣「えぇ、ほーね。」

   二人、校舎に入る。

同・教室
   麻衣と千里のみ。

麻衣「あぁ…私はっきり今でも覚えとるに。三年の一番はじめの日…私はこの席だった。ほんでここにすみれさんだら?みさだら?なえちゃんだら?向山だら?キリちゃんだら?んで、」

   うっとりと

麻衣「ある日突然、私の隣に素敵な転校生の男の子がやって来た…名前はあなた。小口千里くん…」
千里「そして僕の隣に座っていたまるでヨーロッパの人形かモナリザの様に優しく微笑んでくれた女の子は…君、我妻…僕の麻衣ちゃん。あぁ、あの頃がまるで昨日の事のように思い出せるよ…僕らがここにいたあの日の事…」
麻衣「私もだに。…ほして一番初めの数学の日…」
千里「君は育田先生を子典範にやって授業崩壊させちゃったよね。」
麻衣「うんうん。今思い出すと全てが懐かしいに…でも、同窓会であった育田は、何か白髪も増えて皴も出来てたよな…」
千里「あぁ、そうだね。…でも、当たり前だよな。もうあれから10年以上にもなるんだもん。だってもう僕らだって三十路だもんね。」
麻衣「ほーいや今は富士見におるとか言っとったよな。あの様子じゃあ、未だに未だあのような調子でやっとるずらね。」
千里「かもね…」

   二人、笑いながらしばらく室内をぶらぶら。 
 
麻衣「なぁせんちゃん?」
千里「ん、何?」
麻衣「折角だだもん、音楽室行きまいにっ!!私、あんたの演奏何か聴きたいっ!!」
千里「そう?いいけど…君だってプロの歌手なんだから、何か歌えよ。」
麻衣「えぇ、嫌よ。ほいだって私はへー現役じゃないに。引退をしたご隠居歌手でありんす。」

   千里、麻衣をこずいて二人はふざけて笑い合いながら音楽室へと向かって廊下を歩いていく。

同・音楽室
   千里がピアノを弾いている。麻衣はうっとりと聞き入る。

   その後は千里の伴奏で麻衣が歌う。


玉川運動公園・木陰
   ベンチに座る麻衣と千里。千里は麻衣の肩を抱いている。

千里「気持ちがいいね…」
麻衣「えぇ…」
千里「今はまだ、春休みなんだよね…」
麻衣「ほーね。」
千里「ここには今はどんな子達がいるのかな…僕らみたいな恋をする子…僕のような子…君のような子…いるのかな?」
麻衣「きっとおるかもな…。私の妹も弟もここの卒業生…二人とも生徒会長をやったわ。」
千里「へー…そういえば、僕の下の妹もここの卒業生だ…。僕と同じこの高校へ入るって入学して…今年の春、卒業したんだ。」
麻衣「みんな大きくなったのね…」

   二人、暫くほんわかとしている。

千里「あぁ、寒いよね…ごめんよ。こんな春先に僕ったらこんなところに連れ出しちゃって…」
麻衣「いいんよ、大丈夫。私もこうして外にいる方がいいもの…この子達だってきっとお外の方が嬉しいに決まっているに。寒いけどなんだか気持ちがいいもの…ほれに。太陽さんの日差しを沢山浴びなくちゃ、」
麻衣、千里「くる病が心配っ!!」
千里「だろ?」
麻衣「正解っ!!」

   恥ずかしそうに笑う麻衣と、微笑む千里。

千里「ボチボチ帰ろうか?」
麻衣「ほーね。」

   二人、笑いながら運動公園の道を上へと歩いて上っていく。


小口家・居間
   2019年8月10日。千里の誕生日。麻衣、珠子、千里が誕生会を開く食卓の準備をしている。

珠子「ねぇ千里?」
千里「お母さん、何?」
珠子「今日はね、いつものプレゼントよりあなたが何倍も喜ぶ嬉しいプレゼントがあるのよ。」
千里「え、何だろ?僕、いつだってすごく嬉しいよ。」
珠子「それは…後でのお楽しみよ。」
麻衣「実は私からも…」

   恥じらう。いつもよりもずっと素敵な贈り物があるのよ。

千里「え、君からも?嬉しいな。何だろ?」
麻衣「なら…私は先に言うわ…」 

   恥ずかしそうに赤くなる。

麻衣「実はね…三人目が…出来たようなんよ…」
千里「え、本当に!!わーっ!!やったぁ!!」

   麻衣に飛び付いて抱き締める。

千里「すごく嬉しいよ!ありがとう!!これは君からの最高のプレゼントだ!!そして?お母さんからは何だろうなぁ?」

   呼び鈴がなる。珠子、微笑む。

珠子「ほら、来たみたいよ。」
千里「え?」

   玄関に行く。

千里「はい、どーぞ。」

   出入り口のドアを開ける。小口懐仁と小口千草が入ってくる。

小口「千里、」
千里「へ?」
小口「久しぶりだな、分かるか?元気だったか?」
千草「千里、大きくなったなぁ!僕の事分かるかい?」
千里「あなたは…」
小口「こんなに大きく…立派になったなぁ…すっかりいい男になってぇ…」
千里「もしかして…パパ?」

   小口、笑って頷く。千里、震える。

千里「そして…千草オッパ?」

   千草も優しく微笑んで頷く。

千里「でも…でも、何で?嘘だ…パパは…」
珠子「せんちゃん、実はね、パパ生きて要らしたのよ。」
千里「えぇ?」
珠子「あなたが丁度17歳のあの年に、パパが生きてることを知ったの。でも、当時のあなたはあんな状態だったから余計に混乱させて傷つけてしまっては困ると思って言えないでいたの…あなたがすっかり落ち着いて、その時が来たら…あなたに紹介するつもりでいたのよ。せんちゃん、今まで黙っていてごめんなさいね。ママを許してね…」
千里「ママ…じゃあ、夢じゃないの?本当?本当の本当にこの人は…僕のパパなの?」

   小口、珠子、静かに頷く。

千里「でも、千草オッパは?」

千草「千里、久しぶり。僕ね、本当はこの家の実子だって証明されて、戻って来れたんだ。これからはもうずっと一緒だよ。家を出て来た。やっぱり、この家で、小口千草として育ったんだもん…僕の弟は千里、お前しかいないんだ!!」
千里「千草オッパぁっ!!僕も僕のオッパは千草オッパしかいないんだ!!今まで一度として忘れた事なんてなかったんだ。とっても会いたかった。あの日の約束、いつでも又会える日を信じて生きてきたんだ。本当に又会えた!とっても嬉しいよ、帰って来てくれてありがとう!僕とっても嬉しいんだよ!!」
千草「千里っ!!」
千里「うわぁーっん、パパーっ!!千草オッパぁっ!!」

   小口と千草に思いっきり抱きつく。

千里「今までパパは何処に行ってたの?僕凄くパパに会いたかったんだよ!!凄く寂しかったんだよ。辛かったんだよ!!一番辛い時に何れだけパパにいて欲しかった事か…」
小口「悪かった千里、ごめんな。でももうパパは何処にもいかないよ…安心しなさい。ママからきいたよ。お前、結婚してパパになったんだな…。おめでとう。ほれ、」

   千里を慰めて千里の涙を拭う。

小口「もうパパだろ。だったら確りなさいっ!!これからはお前も一人前の男として妻を支えていくんだよ。」

   麻衣を見る。

小口「君が麻衣さんだね。」
麻衣「は、はい…」
小口「こんな息子のお嫁に来てくれて本当にありがとう。これからも、頼りない息子ではあるが宜しく。私は、この千里の…」
麻衣「お父様、事情は常々千里さんから伺っておりました。お帰りなさいませ…私もとても嬉しいです。あの、エレベーターの事故の折はふんとぉーにありがとうございました。お父様なければ今の私はなかったでしょう…きっとあの時に死んでいましたわ…」
小口「おおっ、君はあの時の娘さんかい!!いや、よく覚えているよ。私もとても心配していた。君がこうして生きていてくれて本当に良かった。嬉しいよ…そして、千里。パパ、雑誌やテレビも見たよ。夢を叶えたんだね。大活躍しているじゃないか!お前はピアニストになりたいと言う大きな夢も遂に叶えたんだね、しかも名門大学まで行ったそうじゃないか。偉いぞ。成長したな、千里。おめでとう。」

   千里を離して笑う。

小口「さぁ、私の久しぶりの我が家だ。我妻と、息子の嫁、そして我が息子三人と共に家族水入らず、楽しくパーティーをやろう。な、千里。改めて…誕生日おめでとう。」
麻衣「おめでとう、」
珠子「おめでとう、ほら、信ちゃんも呼んで来なさい。」
千里「はい、」

   ハッとする。

千里「じゃあ…もしかして…あの子は…」
珠子「そうよ、正真正銘、小口家の息子よ。千里、あなた…何か疑っていたでしょう?」
千里「そ、それはぁ…」
珠子「あの子は、ママとパパの子よ、せんちゃん…」
千里「ママ…パパ…」
千草「僕の知らない内に弟も妹もこんなにいっぱい出来ていたんだね。賑やかな家族…何だかやっぱり、本当に嬉しいな。戻ってこれて。千里、お前もお兄ちゃんになったんだね。」

   千里、ワッと泣いて思いっきり小口に抱きつく。

小口「これこれ、千里…」

   微笑みながら千里を抱いて慰める。珠子は優しく笑う。麻衣は、驚きつつも微笑むながらそっと涙を拭う。そこへ信助が入っては来るが、キョトンとして状況を見つめたまま立ち尽くしている。

麻衣(語り)「ほれから時が過ぎ、半年後の2020年2月に磨子ちゃんが結婚式を挙げた…お相手は、なんとあの小野海里くん…。」

教会・出入口
   人々を前にブーケトス。

磨子「んじゃあ、行くわよぉ!!えいっ、独身の奴等取りやがれーっ!!」

   トスをする。独身の女子たち、一斉に磨子を睨む。

磨子「ほ…これが真のブーケトスというやつですな…」

   一人で納得ぎみに頷く。健司は呆れてやれやれと首を降る。

健司「磨子…」

   麻衣はクスクス。

麻衣「えいっ、」
糸織「あたーっ!!」
紡「ほれっ!!」
リータ「ほっ!!ん、」

   受けとる。

リータ「やった、やったぁ!!私だ、見てよみんな私がとったよ!!わーい、嬉しいなぁ。次の嫁は私だよ!!…お相手は?相手は誰かなぁ…?」

   ルンルンと有頂天のリータと白けてバラバラする女子たち。麻衣と千里、健司はそれを見て微笑む。

健司「ブーケトスなんて…へーお前らには関係ないよな。」
麻衣「えぇ…」
千里「じゃあ、もし仮に受け取っちゃったら…今の妻とは離婚して再婚ってこと?」

   健司、千里を思いっきりこずく。

健司「バカ野郎っ!!お前、縁起の悪いこと言うんじゃねぇーよ!!」
千里「あ、違うの?…」

   胸を撫で下ろす。

千里「良かった…」


麻衣(語り)「ほんなこんなで、リータにはほのあとすぐに恋人が出来て、三ヶ月の交際を得てスピード結婚。お相手はフランス人でして…彼女はフランスへと旅立っていきました。ほして、ほの年の4月、私は男の子を出産しました。更に更にほの年の7月…」


   健司とエリゼッタの結婚式が行われる。健司はエリゼッタにベタベタでいちゃいちゃ。

麻衣(語り)「健司がエリゼッタちゃんと結婚式を挙げた。エリゼッタちゃんは、健司の勤めるマダムコレットの店のお針子さん。でも、結婚後はどうも彼女が、岩波の酒に入って社長になるレッスンを受けるらしい…」

   二人が照れる中、祝福の鐘が鳴っている教会。

麻衣(語り)「ほんなこんなで時は矢のように過ぎ去り…」


小口家・庭先
   13年後、4月。麻衣、千里、男の子が二人と女の子が一人。千里はカメラスタンドを構えている。

麻衣【あれから13年後、上の二人の息子と娘は15歳、一番下の息子は13歳になりました。私達も二人とも43歳の叔父さんと叔母さんです。子供たちの名前は其々こう…。ユカリ、ミズナ、千草…。】

千里「はーい、撮りますよぉ?いいですかぁ、いい顔してくださぁーい。」

   麻衣たち、微笑む。

千里「では行きますっ、3,2,1…」
麻衣「あなた、早くっ!!」
ユカリ「父さんっ!!」
ミズナ、千草「父さん、早くっ!!」
千里「はいはーいっ、うわあっ!!」

   千里、派手に転んでしまう。

麻衣「うもぉーっ!!」

   麻衣、額をピシャリと叩く。三人の子供たち、ゲラゲラとわらいだす。

ミズナ「何やってるの、父さんっ!!」
千草「転んじゃってる。」
ユカリ「いやだぁ!!」

   麻衣もクスクスとわらいだす。

麻衣「嫌ね、あなたったら…子供たちの前で…」
千里「いやぁ、ごめんごめん…えへへっ、アハハハハッ…」

   千里も照れてわらいだす。

麻衣【こんな幸せで穏やかな毎日…幸せって、こんなことを言うんだろうな…誰が予想できただろう…。このあと、あんな悲劇に又も見舞われるなんて。このときは未だほんな事は誰にも分からなかった…。】


   





   


 
  



   



 

 






   


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