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石楠花物語アフターストーリー
結婚の歓び
   暫くして

美和子「へへんっ。あたいは作曲家モーツァルトじゃいっ!!何か麻衣の持っとった赤いコートとか組み合わせたらこうなっちまった。」
ユカリ「あちきは、柳平さんが京都に行ったっつーときに買ってきたという、舞妓の着物でありんす。」
紡「ユカリ君、ほれじゃあ舞妓じゃなくて花魁だっつーこん。てか、君…男の子だよねぇ?女装かい?」
ミズナ「てへへっ、花魁ですかい?」
千里(この会話…どっかで聞き覚えが…)
マルセラ「こいのはやっぱり若い子がやるといいわね。」
麻衣「マルセラさんもやればよかっただに。」
マルセラ「私はいいわよ。」
ミズナ「私は…見てみて、千里ちゃん、」

   千里の元へ行く。

ミズナ「どう、可愛い?柳平さんが通ってたっていう高校の制服よ。私が着ても充分似合うわ。でしょ?」
千里「そうだとしても…僕が一番いいのは妻だけだよ。」

   ミズナ、へそを曲げる。

フレデリコ「へー、みんなやるなあまりとっても可愛いよ。」
タニア「何言ってんのよ、このロリコン男がっ!!」
フレデリコ「いやいやいや、僕はロリコンじゃないってば。ただみんなを誉めてるだけだろうに。」 
マコ「私はそのまま。音楽部の時に麻衣が来てたコスチューム、そのまま借りただけ。高校歳の時から少しも変わってないだなんて。私って若いぃ、うっきゃぁーーーっれ!!」
麻衣「私はやっぱりほのまま。せんちゃんとの結婚式に着たウェディングドレス!!で、このケープ!!10年前にせんちゃんが作って私にくれたもんだに。私未だにこれ、ずっと使っとったんよ。覚えとる?」
千里、健司「…。」
麻衣「ん?」
健司「てか、どいで俺らまでこんなこんやってんだ?」
千里「しかもこれって…又もや…女装だよね?」

   千里は赤い鹿の子の白紡ぎの着物。健司は結婚式に着た十二単を着ている。

   麻衣、微笑んで二人に近づいて健司と千里の髪に小さなポニーテールを結う。

麻衣「こうしても、可愛い!!」  

   麻衣、しばらく二人を見ているがあっと何かを思ったように口を覆い、静かに微笑む。マコも麻衣と同じ様に驚いた顔をしている。

麻衣(ほーだったのね…この人達って…)
マコ(こいつらって…まさか…)

   メンバーの雑踏は少し静まる。ミズナ、満足げにしているが府とユカリを見る。

ミズナ「ユカリ、ここで何してるの?」 
ユカリ「お姉ちゃん!!」

   麻衣と千里、その他全員は驚いて一斉にユカリとミズナを見る。


全員「お姉ちゃんって…兄弟だったのぉ?…えぇーーーーーっ!?」

   ユカリとミズナ、悪戯っこく舌をペッと小粋に出して微笑む。



   しばらくご。キャンドルランプのみの中。

麻衣「へー、二人は兄弟なのね。ビックリ。」
ユカリ「うん、そうなんだ。実は僕は、このミズナさんの弟なんだ。」
千里「へぇー…」

   ミズナを見る。


千里「で、君は?美代ちゃん何だろ?」

   ミズナ、少しツンッとして目を逸らして目を伏せる。

ユカリ「とにかく良かったね、結婚おめでとう…」 

   微笑んで立ち上がる。

ユカリ「さ、僕の役目もこれでおしまい。お姉ちゃん。」
ミズナ「う…ううん、」
ユカリ「ダメだよ、僕らの掟なんだからさ…。」
ミズナ「分かったわよ。」

   ミズナも立ち上がる。

ユカリ(それじゃあね…みなさん、お幸せに…)
ミズナ「それにしてもユカリ…」
ユカリ「ん?」
ミズナ「何であんた、父さんに似ないで…」
 
   ユカリ、健司を見る。

ユカリ「あぁ、これはね?」
 
   意味深に悪戯っぽくククっと笑う。二人、徐々に消えていくが健司、直前で二人に気づく。

健司(はぁ、な、何だったんだ?あいつらは…しかも…)

   ぽかーんとしている。

   『影武者』

 
   更に暫く後。

麻衣「さ、ほれじゃあ改めまして…」

   グラスを掲げる。

麻衣「プロースト!!」
全員「プロースト!!」

   全員が当時に鍋にてをつける。

麻衣「うわぁ、美味しいっ!!私大当たり、牛タン大好き!!せんちゃんは?」
千里、健司、タニア「ぐふっ!!」
麻衣「やだ、みんなどーしただ?」
タニア「まずっ!一体こんなもん誰が入れたのよぉっ。」
健司「知らないよ俺、ぐふっ!!おえっ。何かカリカリ…ほして凄く嫌な匂い…何かかんだこんがあるような無いような…」
千里「僕もだよ…何なんだよ一体これは?」
紡「あーほれ?多分おかつの餌だに。私が入れた。ハエ粉末、ミドリムシ、微生物配合だに。」

   紡、小粋。全員、おえっとなる。

健司「おいっ、ちょっとつむっ!!ほんなもん人が食べて大丈夫なのかよ?」
紡「ま、問題ないら?猫が食えるんだでいいんじゃね?」
千里、健司「いやいやいやいや、猫と人じゃ全然違うで!!」
麻衣「ごめんなせんちゃん、健司、ほしてターニャ姉さん…。口直ししてな。ほれ、ジュース、お酒、コーヒーもあるに。」 
健司「サンキュ、ならコーヒーを。」 
麻衣「はい、」

   お湯を注ぐ。

麻衣「どーぞ。」
健司「うむっ。」
麻衣「あなたは?」
千里「ありがとう。じゃあ、僕にもコーヒーをお願い。」
麻衣「はいよ、」

   お湯を注ぐ。

麻衣「どうぞ。」
千里「ありがとね。」

   二人、啜るが顔をしかめる。

千里「ん?」
健司「…何だこりゃ?」
麻衣「え、何って…コーヒーだに?」 
健司「これの何処がコーヒーだよっ!!お前も飲んでみろよ。」 

   麻衣も自分のをすする。

健司「だろ?」
麻衣「ふんとぉーだわやぁ…何か不味いかも?」

   タニアもすするが咳き込む。

タニア「麻衣…これ…ひょっとして、あんたが?」
麻衣「はい…ちょっと間違えちゃったかやぁ?」
タニア「んがぁーっ!!何が間違えちゃったよ!!少しは成長なさいよ!!あんたそいところも10年前と、全く変わってないわね!!二度も同じことをする人もないわっ!!」
麻衣「ごめん…」

   横目で千里を見る。

麻衣「あなた…」
千里「え、君二度目って?」
麻衣「う、うん…ほーなんよ…」

   フレデリコもすする。

フレデリコ「でも何か少し、思い出すというか…味に懐かしさを覚えるというか…」
タニア「これっ、フレデリコ!!何思い出に浸ってるのよ!!懐かしがってんじゃないわよっ!!」
千里「とにかく…これぞ…噂によく聞く…闇鍋と言うやつなのですね…まさしく…おえっ。闇鍋…パーティー…か、おえっ。ぐふっ!!ぐふっ!!ぐふっ!!」

   美味しさそうに食べる人々と苦しみながら食べる三人。

三人「うぇー…まず…っ」
麻衣「うーんっ、美味しいっ!!」


ワンコバー“るり子”
   桃枝るり子、太田椿が切り盛りをしている。

るり子「いらっしゃいませ、ご注文は?」

   麻衣、るり子をまじまじ。

麻衣「あーーーーっ!!」
全員「あーーーーっ!!」
タニア「って、びっくりさせないでよね。いきなり何?」
麻衣「あなたひょっとして、性格悪の桃枝るり子さんと、舎弟の太田椿さんじゃありません?」
るり子「そうですが?…あなたは、」
 
   少し考える。

るり子「まさかあんた…あの時の、小娘?…支配人騙して、ヨーロッパに上り詰めた…」
麻衣「ほいだもんで私は小娘なんつー名前じゃありませんってば!!柳平麻衣ですよ。今はへー小口麻衣ですけどね。」

   千里照れて頭をかく。

椿「言わして貰うけどさ、あたいも舎弟なんかじゃないよ!!」
美和子「ほいやーほーだわ!!あんたら性悪女だわ。ほほぉ、さてはあんた…こんなとこで開業してるっつんこんは?」

   にやり

美和子「音楽方面じゃあ結局上手くは行かなかったっつーこんだ。」
るり子、椿「うっさい眉毛!!」
美和子「だであたいも、眉毛なんつー名前じゃないっつーこん!!因みに、あたいも麻衣も大出世よ。あたいは、国立歌劇場のソリスト。この麻衣なんて今や今や、」
るり子「分かってるわ。ヨーロッパの声楽オペラ協会騙して、ヨーロッパを代表するプリーマドンナまで上り詰めたって言いたいんでしょ?」

   ふんっと鼻を鳴らす。

椿「知らないわけないよ。しかもお前、天才ピアニストの小口千里をも騙して、ものにしたとか?」
麻衣「騙しとらんわ!!てかせんちゃんは私の幼馴染みで、学生時代から付き合っとるんですぅ!!」 

   千里、更に赤くなって笑う。マコ、千里を思いっきりこずく。

るり子「で、ご注文は?」
麻衣「ほーね。では、わんことろろを人数分と、こちらのタニアさんにはプラス天丼わんことカツ丼わんこをつけてくださいな。」
タニア「ちょっとぉ!!」
るり子「畏まりました…少々お待ちください…」

   ぶっきらぼうに去っていく。

タニア「何あんた、バカ言ってんのよ!!私はそんなに食べられないわよ!!これ以上私を太らせる気!?てか殺す気?」
紡「大丈夫よ、ターニャさん。」
麻衣「頑張って!!」
美和子「ファーイト!!」
ターニャ「マルセラ、あんたも何かこのおバカ達に言ってやって!私だってもう若くないのよ!!」
マルセラ「なら言ってあげるわ。精々あんた一人で頑張るのね。仕方ないわよ、ここ何年間もずっと世話してきた可愛い後輩の小さな失敗じゃないのよ。許してやってよね。」
タニア「くっそぉ、マルセラ…あんたまで。」

   開き直る。

タニア「分かった!分かりましたよぉ!!こうなったら意地でも元をとるまで食い尽くしてやるわ!!」
マルセラ「よ、それでこそタニア!!それでこそあんたらしいわ。その意気よ。」
タニア「よーしっ、何か燃えてきたわよぉ!!」

   フレデリコ、呆れてため息

フレデリコ「タニア…君の意気込みはいいが、その意気込みを少しは他の方へ回してくれれば有り難いのだが…。もう君がどうなったって僕はしらないからな…頼むからもう僕を巻き込まないでくれよ…」 


   暫くして食事が始まる。みんなそれぞれにお代わりをしている。

麻衣「あー、私へー苦しいーギブアップ…」
美和子「あたいも…おい、」 

   麻衣のお椀を見る。

美和子「あんたさっき、お鍋も一杯くらいしかだに…ほれもへーギブアップけ?まだ5杯しか食っとらんに麻衣。もっと食わんけりゃ。」
千里「妻は昔から少食なんです。」
美和子「へー、こんねにかぁ?」

   るり子、おかわりを入れている。

るり子「それにしてもあんた、東京で働いてる割りにはその田舎臭い口調はちっとも直ってないようね。」
美和子「うるさいわ!!ふんとぉーにあんたっつー女は昔から相も変わらず性悪女だわぁ。どいでほんなんだらね?」 
るり子「何ですって?もう一度言ってみなさい眉毛!!」
美和子「あ、何度だっていってやるわ!!性悪女の桃枝るり子さんよぉ。あたいあんたのほの顔見るだけでムカムカしてくるわ!!吐きそう…ちょっとトイレ…」

   イライラと立ち去る。るり子、ふんっと鼻を鳴らす。

タニア「私は…元を取るまで…おえっ…食べ続けるのよ…おえっ」
フレデリコ「おいタニア、大丈夫かよ?」
タニア「おえっ。」

   フレデリコ、タニアの背をさする。

フレデリコ「おいおいおい、ここで吐くなよな…トイレ行ってくれよ…ほらほら立てるか?もぉーっ。」 
タニア「うっさいなぁ…大丈夫よ…おえっ…大丈…ちょ、ちょっと私も…ト、トイレ…」

   フレデリコに支えられながらよたよたと歩いていく。

フレデリコ「全くもぉ、カツ丼205、天丼110、とろろ350も食う女が何処にいるんだよ…そんなん男だって無理だぜ?」

   メンバーを見る。

フレデリコ「ごめんよみんな、本当にごめん…」

   他メンバー、スタッフ、時間が止まったように手を止めてぽかーんと口を開けたままただただ二人が歩いていくのを見つめている。

   終わるとメンバー、カラオケボックスに入ってカラオケをやるが、最後になるとタニアがマイクを持ったきり話さなくなる。

タニア「このメゾソプラノ歌手、タニア様の華麗なる美声をお聞きなさぁーい!!」

   麻衣と千里のみ笑って聞いているが他は眠ったり携帯をいじったりして飽きている。


バール“セヴィーリャナス”
   チャオチャオベイをやるメンバー達。

全員『いちりとら、らとりとら、ほうほっけきょうのたかみくら。ちょんがらほいっ!!』

   『チャオチャオベイの歌』 

   ゲームは続く。殆んどの人がぐでんぐでん。

健司「おい姉ちゃん、ほんねに飲んでお前大丈夫かよ?てか、又来たんかいあんた…」
ユカリ「お姉ちゃん、もう!!何で又戻ってくんのさ。ちゃんと帰らなくちゃダメだろうに。又蘇我さんに怒られちゃうよぉっ!!」

   ミズナを助け起こす。

ミズナ「うっさいわユカリっ!!離せっ!!放っておけ!!」 

   手を振り払う。

ミズナ「男共は少し黙ってらっしゃい!!さっ、みんなもっとどんどんやるわよぉ!!」
麻衣以外の女たち「おーっ!!!」

柏木「なぁ、ミズナってこんなキャラだったか?…何か大分キャラが崩れたような…」
健司「や、ただ単に酒癖が悪いだけだろ…」
ユカリ「んだんだ、全くもってその通りです。」

   呆れてやれやれと首を降る。

柏木「全く、俺も女たちにはお手上げだわ…なぁ千里って…千里?」

   千里はほぼ完全に酔いつぶれている。

柏木「はぁ…」
麻衣「せんちゃん、せんちゃん…ちょっとあなた、大丈夫?」
千里「麻衣ちゃん、…君さぁ、もう飲み過ぎだろ?もぉーさぁ、やめとけよ。」
麻衣「嫌ね、私はほんねに飲んどらんに。」
柏木「飲みすぎなのはお前だろ…」
千里「麻衣ちゃん、愛してるぅ!!」
麻衣「ちょっと、これ、あなた?大丈夫?立てる?」

   座り込む千里を介抱。

麻衣「あなたはお酒に弱いんだで、無理しちゃいけないわ。立って。」
千里「何言ってんだよ?僕はまだまだ大丈夫、酔ってなんかないもーん!!さぁ、どんどん飲んでやろうじゃないの!!かかって来いやぁってんでい!!おいおい、」
健司「千里姫…」
柏木「こりゃ…ダメだな。」

   千里、酔って麻衣にちょっかいを出し出す。

柏木「アホ…あん時の千里はここまでアホじゃなかったに…」

   フレデリコもタニアを見て呆れてものも言えぬような顔をしている。

フレデリコ「タニア…君はバカだ…」

   マルセラを見る。

フレデリコ「はぁ…君までもか。君はもう少し冷静かと思ってた…よ。」
千里「あー、流石に僕何か、少し飲みすぎちゃったかなぁ?トイレ行きたくなっちゃったよ…」
麻衣「トイレは…ほこよ…」

   指を指す。麻衣は真っ青い顔をして崩れ落ちる。

健司「麻衣っ!?おい、大丈夫かよ?」

   手に持ったグラスを見る。

健司「バカだなぁ、お前まで飲んだのかよ?お前も飲めないんだで無理すんじゃねぇーよ!!」
麻衣「ほいだって、これがチャオチャオベイのルールなんだら?私だけが飲まないだなんてほんなの反則よ。あぁーっ…ムカムカする…悪酔いしちゃったかも…私もちょっとトイレ…」
健司「俺も一緒に行くよ…歩ける?」
麻衣「えぇ、健司、ありがとな。」

   支えられながら歩く麻衣。


   千里は一人でよろよろと歩いている。千吉と春助が出てきてやれやれと首を降る。

春助「のぉ千吉や、お前確か一滴も飲めねえ筈では…」
千吉「はい…全く飲めません…」
春助「ったくよぉ、この時代のお前は一体何を考えとるんじゃ?」
千吉「全くもって同感です…」

千里「トイレトイレ…本当にちょっと…う…飲みすぎちゃったかなぁ…うっ。」

   陽気に歌いながらよたよたと胸と股下を押さえながら廊下を歩いている。

千里「全く…見てて自分に嫌気が指してきます…行く末のわしはあんな風になるんでしょうか?」
春助「現にこうしてなっている姿を見ているじゃろうに…ま、今のくそ真面目なお前からはどうしても想像がつかんがな…」
千吉「ですよね…っておやっさん。くそは余計ですって!!くそは!!真面目な千吉さんでいいんですよ。」

   キョロキョロそわそわ。

春助「どうした、千吉?」
千吉「いや…ほんねんこん言ったり見てたら何だかわしまで…」

   もじもじ。

春助「小便か?」

   千吉、恥ずかしそうに頷く。

春助「はよ、言ってこい。」
千吉「はい…やはりなんじゃかんじゃでわしらって、結局同一の人物なのですね…おやっさん、ほいじゃあちょいと言って参ります…」

   急いでかけていく。マコ、その様子をじっと見つめている。

マコ(ふーん、なるほど。やっぱりね…千里はやっぱり嘗ての千吉の末裔の姿だったんだわ。私がマコであるように…。)

   カウンター席には磨子、リータがいる。ぐでんぐでんに酔いつぶれた磨子をやれやれと労るリータ。

リータ「ちょっと飲み過ぎだよ磨子、もういい加減に…」
磨子「うっさい、黙っとれ!!」
リータ「…。」

   麻衣達に気づく。

リータ「お!!又会ったね。」
麻衣「リータに、磨子ちゃん?」 

   磨子、にこにこ。

磨子「あー、麻衣ちゃん…又会えたわね…良かった…。」

   そこへ健司。

健司「ん、ん?」

   まじまじ。

健司「磨子に、リータ!?ってこんは…あん時のこんはやっぱり夢じゃなかったんだな!!生きてる磨子なんだな?」
磨子「健司ね…」

   酔っている。

磨子「おめでとう…あんた結局麻衣ちゃんと結婚したのね…」
健司「いんや。」
磨子「え、違うの?」
健司「付き合ってたけど別れたよ…」
リータ「何でさ?」
健司「小口千里に男に負けたんだ。あいつに麻衣をとられた。んで、」
磨子「千里君って…あの千里君でしょ?じゃあ麻衣ちゃんは今、その千里君と付き合ってるってこんか?」
健司「や、ついこの間結婚したよ。で、今日は麻衣とあいつの結婚祝いパーティーさ。
磨子「おーっ!!遂にゴールインしたのか!あの二人がねぇ…ふーんっ、なるほどっ。」
健司「んで?磨子達は?どいでこんなとこにいんだよ?」
リータ「あ、私達?私達はただのバカンスだよ。な、磨子。」

   磨子、グラスを掲げる。

磨子「さぁーっ、みんなどんどん飲むぞぉーっ!!今夜は宴会じゃあ!!祝いの席じゃあ!!我が大親友麻衣ちゃんの結婚を祝して…大いに盛り上がっていこうぜ!!」
女性たち「おーーーっ!!!」

   そこへ千里。

千里「あー、トイレ…すっきりしたぁ…すっきりしたら何だか眠たくなって来ちゃったなぁ…おやしゅみぃ…」

   テーブルに突っ伏せて眠ってしまう。

健司「この男が…麻衣の亭主さ…」
磨子「ふーん。あの頃と変わらず…本当に大人になっても女の子みたいに可愛い子ね。」
リータ「弱っちそうななよ男だなぁ…私はタイプじゃないね、こんな女みたいな男はさ…」
タニア「全く何よ、男たちは…」

   他の男たちも酔い潰れてみんな眠っている。

磨子「本当本当、情っけないわねぇ!!」
ミズナ「あーあつまんないの、千里ちゃんも眠っちゃったか…」
マコ「男の癖にみんなだらしがないやつばかりね。」
磨子「全くよ。」

   リータ、呆れている。

磨子「ね、リータ!!」
リータ「磨子…私はそういうあんたによっぽど呆れてるよ…」

   呆れたため息。

磨子「まぁいいや、とにかくどんどん…ほれ、リータも!!続きを飲むにぃ!!」
リータ「私はもういいよ、遠慮する…」
磨子「だーめーよっ。ダメに決まってんでしょ!!」
リータ「…っ。」

   呆れてやれやれ。リータ、逃げようとするが女性たち、リータを酒の輪の中に引きづりこむ。

タニア「逃げようとしたってダメよ、」
マコ「出会ったからには今夜は女同士、とことん私たちに付き合ってもらうんだからね。」
リータ「わぁっ、分かったよ。飲みゃいいんだろ!!やめっ、やめろってば!!」

   麻衣、具合悪そうながらも千里を揺する。

麻衣「せんちゃん、せんちゃん…ううっ、部屋…うぷっ、帰るに…」

   そこへ健司。

健司「どうした麻衣、未だ気持ち悪いのか?具合悪い?」
麻衣「え…えぇっ…ううっ。」
健司「バカだなぁ…吐きそう?トイレいく?」
麻衣「うん…でも…。」
健司「いいよ、心配するな。千里姫は俺が連れてくからさ…」
麻衣「相変わらずあんたは…優しいのね…ありがとう。」

   健司、紅くなるが複雑な表情。


同・客室
   翌朝、ベッドに横たわる麻衣。千里が起きている。

麻衣「うううっ…」

   薄目を開ける。

麻衣「あ、せんちゃん…おはよう。起きたのね。」
千里「あぁ…昨日はごめんね…みっともない姿曝しちゃって…」
麻衣「いえ、私こそ…」

   近くに健司もいる。

健司「ふんとぉーだよ、夫婦揃ってバカやってんじゃねえまーよ。」
麻衣、千里「健司(君)っ!!」
麻衣「ひょっとして、あんた…」
健司「一晩中、二人の側にいた。麻衣になんかあったり、千里姫に何かあってもお互いほんな状態じゃあ何も出来ないだろ?」

   二人、ばつが悪そうに顔を見合わせる。

健司「でもとにかく、二人が落ち着いて良かったよ。何か欲しい物とかってある?」
麻衣「外に出たい…」
健司「外ってお前、」
千里「僕は平気だけど…君は、大丈夫なの?」
麻衣「えぇ。ほいだってずっと室内にいるばかりじゃくる病が心配じゃない?」

   健司と千里、笑う。

千里「くる病って君…」
健司「バカ言うなよ…」


同・甲板
   マリアンデル、マコ、磨子、リータがワインを飲んでいる。そこへ健司と千里に両脇を支えられた麻衣。

麻衣「ううっ、」
健司「大丈夫か?やっぱり戻って寝てろよ。」
麻衣「平気よ、私は平気だに…あれ?」

   四人を見る。

麻衣「北山に、マリアンデル、磨子ちゃんに、リータじゃないの!!」
四人「よっ、」

   麻衣、微笑んで駆け寄る。

麻衣「嬉しい!!良かった。磨子ちゃんもリータもふんとぉーのふんとぉーに、夢ではないのね。」
リータ「当たり前だろ?」
磨子「だから昨日からそう言ってるんじゃん…でも、」

   麻衣を見る。

磨子「麻衣ちゃん…凄く具合悪そうね…大丈夫なの?」
麻衣「え、えぇ…大丈夫よ。ただちょっと二日酔いみたい。だもんで、潮風にあたりにここへ来たんよ。」
リータ「二日酔いか?そう言うときにはね、ほいっ。」

   麻衣にグラスを渡す。

リータ「飲んでみ。冷製のトマトポタージュさ。二日酔いには、こいつが一番よく効くのさ!!」
麻衣「ほぉ?ありがとう…ほいなら、いただきまあまーす!」

   グラスをのみ出す。

リータ「うんっ!!うんっ!!」

   リータ、有頂天になって唄って踊り出す。

   『トマトジュースで乾杯』

麻衣「でもマリアンデル、あなたに又会えるだなんてね。」
マリアンデル「私も、ビックリです。偶々甲板に出てきたら…。私ね、実は以前、この船で船室女中として働いていたんです。」
麻衣「へぇ、ほーだだ。」
マリアンデル「えぇ。だからここには私の顔馴染みも多いんですよ。」

   ニッコリ。

マリアンデル「この方たちはみんな麻衣さんのお友達なんですね?」
麻衣「えぇ、ほーよ。」
マリアンデル「この、磨子さんって方と健司さんも…ご夫婦とか?…ですか?とも、恋人?」

   健司、照れる。

健司「嫌だなぁ、やめろよ!!やっぱ俺らってほー見える?」

   磨子、健司の脛を蹴ったくる。

磨子「んな訳ないらに!!何処をどう見たらそんな発想になるわけよ!!相手は健司よ?くそ生意気で素直じゃない可愛いげのない健司よ?そんな人とこの田中磨子…あり得ないわっ!!」
健司「んだとぉ?ま、俺から見てもお前みたいに男勝りで女気のないやつ、あり得ないね。それに俺、磨子には悪いがお生憎様…へーいんだよ。」

   何処からともなくエリゼッタが登場。

健司「な、可愛いだろ?エリゼッタちゃん。この子が新しい俺のフィアンセちゃんさ。」

   麻衣、磨子、マコ、リータ、千里、一気に健司を平手打ち。健司、ノックアウトされて転ぶ。クスクスと笑うメンバー。マリアンデルはぽかーんとしてそれを見て驚いておどおどとしている。

   千里もワインを飲んでいる。残りを一気のみ。

千里「さぁーてと、僕もう一本飲んじゃおっかなぁ!!」
千吉「おいっ、やめろ小口千里っ!!わしゃ一滴も飲めんのじゃ!!おいっ、こらっ!!」
千里「いいのいいの、僕はもう今や千吉じゃなくて、平成の今の世を生きる千里なんだもーん!!」

   そこへボーイ。

千里「お兄さんーっ?ワインのお代わり頂戴っ!!えへっ。」

   ボーイ、無表情でやって来る。

千里「ありがとう。」

   千里、プレートからワイングラスを一つとる。

マコ「なら私も!!」
磨子「お、私も!!」

   二人もとる。

マリアンデル「なら私も!!」

ボーイ、とろうとするマリアンデルの手をピシャリと叩く。

マリアンデル「痛っ、ちょっといきなり何すんのよぉマサァ!!酷いじゃないの!!」
ボーイ「バーカ、お前はダメだ…」 

ぶっきらぼうに去っていく。

マリアンデル「チェーッ、何よあいつ…。意地悪、けーちっ。」 

   他メンバーも笑う。

千里「てかさ、君と、君って…誰なの?」
マコ「あんたが知るわけないわよ。だって昨日、トイレから戻るなり爆睡しちまったんだからさ。彼女はねえ、麻衣の古い親友なのよ。」

   磨子、リータ、千里にお辞儀。

磨子「麻衣ちゃんの旦那様ね。大人になったわねぇ…相変わらず美男子は変わってないみたいだけど…。私は麻衣ちゃんの親友、田中磨子っていうの。覚えてるかやぁ?」
リータ「んで、私はリータ。宜しくな。千里姫っ。恐らくあんた私の事は知らないかもな。」
千里「麻衣ちゃんの夫です…小口千里…宜しくって…ええっ、嘘っ…」

   吹き出す。

千里「ちょ、ちょっと待って…ひょっとして君ら、麻衣ちゃんが話してくれた…」
麻衣「ほーだにせんちゃん、覚えとってくれたんね。」
千里「…生きてたの?」
麻衣「えぇ、私も驚いたに。でも全ての事情、二人から聞いた…う…私のせいでとんだ迷惑が…」
リータ「迷惑だなんて、やめろよ…私達そんなこと全く思ってないさ。な、磨子。」
磨子「えぇ、勿論よ。でも…千里君はもう忘れちゃってるようね。私も、昔君とは何度も会っているのよ。」
千里「えぇ、何度も?」
麻衣「えぇほーだに。」

   四人、微笑み会う。
千里、申し訳なさそうに頭をかく。


   (数時間が経つ)

麻衣「あぁ…潮風がとっても気持ちいいわ…」
千里「そうだね、良かった。君の顔色も大分よくなってきた…気分はどう?」
麻衣「お陰様で凄くいいわ…最高よ…」

   麻衣の肩を強く抱き締める千里。

   遠くに港が見えてくる。

麻衣「わぁ、ついに見えてきたわ!!ブラジルよ!!ついにブラジルに着くんだわ!!」
千里「あぁ、本当だ!!」
健司「フーッ!!」
マリアンデル「ブラジルだわ…あぁ、何て懐かしいの。」
麻衣「あぁ、ほっか。確かマリアンデルはブラジル生まれなんだっけかやぁ?」
マリアンデル「はいっ、」

   有頂天に飛び回る。

マリアンデル「私の母はブラジルの人で父が日本人なのです。」


   麻衣と千里も人々に混じっておりる。

千里「さぁ麻衣ちゃん、僕達二人っきりだね…」

   手を取る。

千里「何処行く?」
麻衣「ほーね。あんたは、何処がいい?」
千里「僕お腹空いたな…何か食べられるところがいい。」
麻衣「何よあんた!!つい3、4時間前にお昼食べたばかりずらに!」
千里「まね。」

   恥ずかしそう。

麻衣「いいに、行きまい。丁度お茶の時間よね。」

ブラジル・広場
   お茶をする麻衣と千里。

千里「はぁ、美味しかった。ありがとね…次どーする?」
麻衣「うーん、ほーね。なら次は私の我儘聞いてくれる?」
千里「何でもいいよ。何処?」


同・遊園地
   混んでいる。そこへ千里と麻衣。

千里「わぁ…結構人いるなぁ。ねぇ麻衣ちゃん、君はぁ…何乗りたい?」
麻衣「私?私はねぇ…せんちゃんは?」
千里「僕?僕は何でも君に任せるよ。」
麻衣「ほ?なら…あれ!!」

   ジェットコースターを指差す。

千里「あ…あれ?」

   顔が強張る。

麻衣「ダメ?」
千里「い、い、いやいや…いいよ。」
麻衣「OK!!」

   はしゃぐ麻衣をみて微笑む千里。

同・ジェットコースター
   長蛇の列に並ぶ二人。しばらく麻衣と千里は楽しそうにお喋りをしている。

   (数十分後)
   まだまだ長い列。

千里(どうしよう…何かトイレ行きたいかも…)  

   キョロキョロ

千里(でももうすぐだし…こんなに来て戻るのも癪だな…第一…)

   麻衣を見る。

千里(折角、笑顔の彼女をがっかりさせたくないし…困ったな…)

   振り替える。後ろにはマコ、柏木、磨子がいる。

千里「うおっ、」
マコ「何よあんた、あんたらもここ来てたんだ。」
 
   小バカに。

マコ「ふーん、大したもんだわ。見直してやる。あんたみたいな男、こんなの乗れないかと思ってたわ。」
千里「ば、ば、バカ言え!!男をバカにするな!!」
マコ「ふーん、男ね…」 

   落ち着きのない千里をみる。 

マコ「ところであんた、どうしたの?何か偉く落ち着きないわね。」
磨子「麻衣ちゃんは?一緒じゃないの?」
千里「あ、彼女?いるよ」

   麻衣、前列に並ぶ外国人に話をしている。

   千里、赤くなりながらも柏木に耳打ち。

千里「僕、トイレに行きたくなっちゃったの…どうすればいいかな?」
柏木「んじゃ、早く行って来いよ。」
千里「でも彼女が…」
マコ「どっちなの?」
千里「何が?」
マコ「トイレで出そうとしてる物よ。」

   千里、更に真っ赤になる。

千里「何でそんな事、君に言わなくちゃいけないんだ!!」
マコ「いえ、ただお腹が痛いんなら一刻を争うけど…おしっこくらいなら終わってからにしなさいよ…って話!!大人だったら我慢出来るでしょ?」

   だんだんと不安そうに青くもじもじとする千里を見る。

千里「そういう問題じゃないでしょうれ!大人だって子供だって我慢できないもんは出来ないんだし、行きたいもんは行きたいんだよっ!!」
マコ「ふーん…おしっこしたいのか。…へぇ、もう我慢出来ないんだ?」
千里「君だって一度くらいはそういう経験があんだろ?」


   マコ、千里を蹴ったくる。

マコ「煩いわっ、この変態っ!!女子にそんなこと聞くなんて最低っ!!このドスケベ男がっ!!こいのってねぇ、途中でトイレに立つと、怖さが増して乗れなくなっちゃうらしいわよ。」
千里「ええっ…そんな…困ったなぁ…」

   困り果ててもじもじ。 

千里(てか、スケベなのは君だろうに…)

   マコ、千里を睨む。

マコ「今何か言った?」
千里「べーつーに?」

   麻衣を気にしながらももじもじそわそわと落ち着きがない。

柏木「おい、お前本当に大丈夫か?」
千里「大丈夫…大丈夫じゃないかもしれないけど…大丈夫。」

   麻衣の元へと戻る。


   (十数分後)
   麻衣、千里、マコ、柏木、磨子がカートに乗り込む。

マコ「イェッサァー!!やっと来たゼこの時!!」
柏木「待ちに待ったこの時!!」
磨子「いきますゼーっ!!」

   テンションの高い3人と恐怖に震える千里。手はしっかりと両足に挟んでいる。

   登って行く。千里は泣きそうになったり死にそうな顔をしている。

麻衣「せんちゃん…大丈夫?」 
千里「う…うん。僕は平気…モーマンタイン…」
麻衣「落ち着いて。ゆっくり深呼吸をするの…怖くないに。ス、ス、ハー。ス、ス、ハー…」

   千里、引き吊りながらもククっと笑う。

千里「麻衣ちゃん、それじゃあお産じゃん…」

   目を見開く。

千里(笑ったら余計にトイレしたいよ…深呼吸なんて出来ないってば…)
 

柏木、マコ、磨子「来る来る来る来るっ!!」
千里「ひぃーっ!!」

   落ちる。

柏木、マコ、磨子「わぁーーーーっ!!!」
麻衣「きゃぁーーっ!!!」

   楽しむ四人と今にも死にそうな千里。

千里「チョナァーッ!!」


   (終わる)

磨子「はぁー、楽しかった…」
柏木「又後でもう一度乗ろうな。」
柏木、マコ、磨子「OK!!」

   麻衣はげっそりとした千里を支えて歩く。

麻衣「ちょ、ちょっとせんちゃん大丈夫?」
千里「大丈夫…」
麻衣「少し座って休んだ方がいいわ…私、冷たいお水を買って来るであんたは…」

   千里、立ち止まる。

麻衣「ん、せんちゃんどーした?気持ち悪い?」
柏木「千里?」
磨子「千里君?」
マコ「千里、あんたどーしたのよ?」

   千里、泣きそうな顔で唇をぎゅっと噛み締めて爪先をとんとんしている。

麻衣「せんちゃん?」
千里「麻衣ちゃんごめん…僕もうダメ…歩けないっ…」
麻衣「え?」

   周りの人達、千里を見る。千里、恥ずかしさや悔しさなどで涙を流す。立ったまま放心状態でズボンや床を濡らしておもらしをしてしまう。


同・ベンチ
   全景の人々。千里は着替えてはいるが、項垂れて無言。

麻衣「もうバカね、トイレ行きたいんならトイレ行きたいって我慢しないでほう言ってくれれば良かっただに…」
千里「ごめん…」

   泣き出す。

千里「でも…折角ここまで並んだのに、君をがっかりさせたくなかったんだ。まるで子供みたいにはしゃいでいる君を見ているのが僕、とっても嬉しかったから…君を楽しませてあげたいと思って…。なのに、本当にごめんね。」
麻衣「私の為にお手洗いまで我慢するだなんて…。あんたバカよ!!ほいじゃあ私も言うけどさ、私だってほんな辛そうにしてるあんたや泣いてるあんたは見たくはないし、私だってあんたには楽しく生き生きしてて欲しいのよ。な。」
千里「うううっ…」
麻衣「よしよしよしよし…あんたはいつまで経っても泣き虫さんね。もう少し休んだら優しいやつ乗ったりお土産やさん見に行こうな。今度はトイレ、行きたくなったら遠慮しないで行きなさいよね。へーバカはよして。」
千里「うん、ごめんね…ありがとう、麻衣ちゃん。」

   涙を拭って微笑む。

   二人、その後はメリーゴーランドやコーヒーカップ、足漕ぎボートに乗ったり、お土産やさんを見たりしている。


同・観覧車の中
   夜になっている。千里と麻衣。

麻衣「うわぁ、夜景がきれいね…」
千里「本当だね…」
麻衣「こんなところで言われても困るに。せんちゃん、お手洗いは大丈夫?」
千里「大丈夫だよ。」

   膨れる

千里「おい、小さい坊やに話しかけるみたいに言うなよな。」

麻衣「あら、ほいだって…あんたが心配なんよ。ほれ、あんたって優しいもんでさ、いつもさっきみたいに私に遠慮して自分のこんは我慢しちゃうんだだもん。」

   静かに微笑む。

麻衣「でも…今日はふんとぉーに私の我が儘に付き合ってくれてありがとな。今とっても幸せ。」
千里「いや、こちらこそ!!僕も凄く楽しかったもん。今とっても幸せ。」

   まもなく頂上。

千里「あ、見て!!もうすぐ頂上だね。」
麻衣「ふんとぉーね。」
千里「もうすぐ…もう少し…3、2、1…」

   頂上で不意打ちに麻衣に口づけをする。麻衣、頬を赤らめて目をぱちぱちさせるが、微笑んでやがてゆっくり目を閉じる。


バール
   食事をする麻衣、千里。

千里「はぁ、楽しかった。…でも僕まだまだ眠くならないや。」
麻衣「私も…」
千里「セニョール・ドメニコ!!お酒お代わりいいですかぁ?」
麻衣「ちょっとせんちゃんったら、飲み過ぎんでよね。」
千里「まだまーだ。大丈夫さ!!それよりさ、ね。」

   中央ステージを指差す。

千里「僕らも何か、見様見真似でさ、踊ってみる?」
麻衣「あんたちょっと酔ってるね。…いいに、やろっ!!」

   二人、中央ステージに行く。

   多くの人が踊る中、マリアンデルとテオフィル、エステリアが意図も軽やかに躍り舞っている。マリアンデル、二人に気がつく。

マリアンデル「あーーーっ!!」

   大声

マリアンデル「Aqui, a soprano a líder mundial, e de Mai Yanagidaira, gênio pianista de Senli Oguchi Não é o marido dela! !」 

他の客たち、一斉に注目。

麻衣、千里「マリアンデルっ!!」
テオフィル「…知り合い?」
マリアンデル「あぁ、紹介するわ。こちら、同級生のテオフィルと、エステリアよ。」

   テオフィルはぶっきらぼうに頭を下げる。エステリアは微笑む。

テオフィル「君らは?」
麻衣「私は、スイスでこのマリアンデルと会って仲良くなったの。小口麻衣。旧姓は柳平麻衣。」
千里「僕は、彼女の夫です。小口千里だよ。」  

   麻衣、千里、テオフィル、エステリア、少し腑に落ちない顔をしている。


   時間も経ってこんでくる。

麻衣「なぁ、ところで三人は?どいでここへ?」
マリアンデル「私?ここが母の職場だからよ。私も幼い頃はよくここへ連れて来て貰ったわ。そしてサンバを踊ったの。それとね…私はぁ…実は中学生の頃は長野県の茅野市のある場所で、このテオフィルとエステリアの三人で…」
麻衣「茅野市って…ひょっとしてマリアンデル、あなたは茅野市に住んでいたの?」
マリアンデル「えぇ、まぁね。何て言えばいいかは複雑だけど。で、」

   ピアノの弾き語りをしている女性を指差す。

マリアンデル「で、あれが私の母のレオーナ。で、」

   葉巻を吸いながらバイオリンを抱えてセクシーな態度で踊る一目おかれた女性を指差す。

マリアンデル「あれは、テオフィルの母のアッディラよ。」

   ニヤリ。

麻衣「へー、」

   少し考える。

麻衣(って、ちょっと待って…この人達何処かで見覚えがあるわ…何処だったかしら?マリアンデル?テオフィル?エステリア?アッディラ?レオーナ?)

   軈て手を打つ。

麻衣「ひょっとして、私達ってずっと昔に何処かで会った事とかって…ある?」

マリアンデル「えぇ、そのひょっとして…」

   テオフィル、エステリアも思い出したように微笑む。

マリアンデル「小山内琴子もいるわよ。私と一緒に船室女中の同僚だったの。」
麻衣「まぁ!!会いたいっ!!」
マリアンデル「いいよ。じゃあ船室に戻ったら、セヴィーリャナスで落ち合いましょ。まこたんも連れてくるから。」
麻衣「ありがとう!!」
テオフィル「しかしな、お前がもう結婚をしていただなんて…もっと早くに会えれば良かったよ。」
麻衣「あら、会っていても私は日本以外の男の子とは結婚しないに。」
テオフィル「僕は元々ブラジルの人じゃないっ!!元は日本人!!日系なんだよ。」
麻衣「まぁ、だもんで日本語もペラペラなのね王様。」

   少しからかう。

エステリア「麻衣さん、帰りには私達も乗りますから…又ご一緒出来ますわ。」
麻衣「やったぁ!!」
マリアンデル「でもさ、私の事マリアンデルじゃなくて、舞子って呼んでくれるかしら?日本の名前なの。」
麻衣「へー、OK!!」

   全員、笑う。


ホテル・ツインルーム
   千里と麻衣がベッドに座ってジュースん飲んでいる。深夜2時。

千里「かなり長居しちゃったね。疲れたろ、体は大丈夫?」
麻衣「ほーね…でもありがとう。私は平気だに…あんたは?」
千里「僕も大丈夫だよ、少し疲れた感じだけどね…ありがとう。」

   欠伸。

千里「なんだか眠くなってきちゃった…」
麻衣「当たり前よ、へー夜中の2時だだもん…。私もへー眠いわやぁ…。」

   飲みかけのペットボトルを棚の上に置く。

麻衣「さ、へー寝よ…せんちゃん。」
千里「あぁ。」

   二人、ベッドに勢いよく倒れ混む。

千里「でもさ麻衣ちゃん、何でここのホテル…ツインしかないのかな?僕らはもう夫婦なのに…」
麻衣「あら何か不満?別にいいじゃないの…一緒のお部屋なんだで…。」
千里「こんなに離れてちゃあ…手を繋いで眠れないじゃん…」
麻衣「いいだ、ほんなの。我慢して…ほー、消すに。」
千里「ほーいっ…」
麻衣「お休みなしてぇ…」
千里「あぁ、お休みなしてぇ…」

   明かりが消える。


客船
   5日後。其々に人々が船に乗り込む。千里はバッグをがさごそ。

麻衣「ん、何しとるの?」
千里「あ…うーん…何処にしまったかなぁ…あ!!あったあった!!これこれ!!」

   小箱を麻衣に渡す。

千里「さっき日本の薬が売ってるところがあったから買ったんだ。水無で飲める♪乗り物酔いにはムカケシンっ!!…ってね。」
麻衣「ありがとう!!せんちゃんって気が利くのね。」

   1錠飲む。

麻衣「でも、さっきっていつ?あんたずっと私と一緒にいたじゃない?」
千里「君が歯磨きをしにトイレに行ったあのときだよ。」

   汽笛がなる。

千里「あ、船が動くんだ。」
麻衣「えぇ。」
千里「ねぇ、とりあえず奥の方へ入ろうか?」
麻衣「はい。」

   二人、手を繋いで奥へと行く。


   それからの十日間…
   セヴィーリャナスで、麻衣、千里、琴子、エステリア、マリアンデル、テオフィルらが会ってどんちゃん騒ぎをしている。ボーイとテオフィルの不意打ちの演奏会なども行われる。マリアンデルとエステリアが二階の甲板で驚きと喜びの入り交じった顔をしている。 


   (何日も時が過ぎたある日)

同・客室
   麻衣と千里。麻衣はベッドにぐったりと横になっている。

千里「麻衣ちゃん、急にどうしたの?大丈夫か?」
麻衣「私はモーマンタイン…」
千里「この長旅のせいで疲れたんだろ…ごめんね、僕が少し無理させちゃったかな?」
麻衣「ほんなこんないに。大丈夫…。私こそごめんな。最後の最後で又もや世話かけちゃった…」
千里「いや…」

   切なそうな顔をする。

千里「何か食べられるか?」
麻衣「えぇ、少しなら…」
千里「何がいい?何かあっさりしたものがいいよね。何なら食べられそう?」
麻衣「んー、ほーね…何だら…」
千里「いいよ、僕売店行って何か見てくるね…」
麻衣「ありがと。」

同・廊下
   財布をもって歩く千里。前方からは紡がワゴンを押してくる。

千里「あ、つむ!!」
紡「お、せんちゃん。どーゆー?」
千里「麻衣ちゃんが熱だしちゃって…」
紡「えぇっ、麻衣が?いつから?またどいで…」
千里「ついさっきから…きっと疲れたんだよ…で、」
紡「いいに、あんたのいいたいこんはよく分かっとる。ちょっと待ってな。」 

   小粋に去っていく。 

千里(流石はつむ…よく分かってるな…)
 
同・客室
   千里が戻ってくる。

千里「麻衣ちゃん戻ったよ。お待たせ。」
麻衣「あ、せんちゃんお帰り。何を買ってきてくれただ?」
千里「へへっ、もうすぐ来るよ。」
麻衣「ん?」


   数分後。ワゴンを押した紡が入ってくる。

麻衣「つむっ!!どいで?」
紡「お待たせいたしました。大丈夫?熱出しただっつーじゃあ!!」

   紡、机の上に鍋をおいて微笑んで退室。

紡「しっかり食べろよ。」

   麻衣、キョトンとして千里を見る。千里、小粋に微笑んでいる。

麻衣「せんちゃん、なぁ…これって一体どいこん?何だだこれ?」
千里「卵雑炊だよ。」
麻衣「卵雑炊?ほんなもんここにあったっけかやぁ?」
千里「僕がつむに頼んだんだよ、てか、事情を話したらつむが察してくれて…」
麻衣「ええっ?」

   赤くなる。

麻衣「ありがと、でもここまでしてくれんでも良かっただに…私何だって食べらるのよ?」

   照れて千里をこずく。

麻衣「何もなけりゃパンでも良かったのよ?オートミールとか。」
千里「嘘こけ!!君の口がそう言ったって君を見れば分かるよ。顔が食べたくないって言ってる。こんな時は一番あっさりとした和食が食べたいよね。今僕は…」

   大きく微笑む。

千里「もう君の旦那様。愛する妻のためなら何だってやってあげるよ。」

   麻衣も無言で微笑む。

千里「さ、冷めない内に召し上がれ。」
麻衣「ん、頂きます!!フーフー…」

   はふはふと食べ出す。

千里「どう?食べられそう?」
麻衣「とっても美味しいに…ありがとう。」
千里「良かった…食べられるだけ食べてね。無理するなよ。」
麻衣「ええっ!!」

   美味しそうに食べる麻衣を微笑んで見つめる千里。


   (しばらく)
   花合わせをする。

麻衣「せんちゃんっ、」
千里「よっしゃあこれで貰ったァ!!猪、鹿、鳫で、嵐が出来ちゃったぞぉ!!」
麻衣「やられたぁ、ふんとぉーだぁ、うっそぉ…がーん。又もやごろ負け…80の負けです。」
千里「僕に惚れた?」
麻衣「健司の様なこん言わんでよ!」

   千里をまじまじ。

麻衣「はーいはい、あなた。あなたに惚れたに、首ったけよ。」
千里「ヨシッと。もう一回やる?」
麻衣「望むところじゃい、受けて立つに!!」
千里「ふーん。」

   にやり。

千里「いいんだね?手加減はしないよ。頑張れよ。」
麻衣「言われんでもほのつもりじゃい!!手加減無用!!いつも頑張ってんじゃい!!」

   二人、笑いながら始める。

千里「後で泣くんじゃないわよ。」
麻衣「まぁ、意地悪さんね、泣かんに。」
千里「ゲームとはいえ、これも本気の勝負だ。僕が勝ったら君、罰ゲームやるんだぞ。OK?」
麻衣「えー?…はい、分かりました。ほいじゃあ今度こそ絶対に負けんに!!」

   ゲーム終了。

麻衣「んがーっ、又負けたぁ…80負けで全敗じゃあーっ!!」
千里「やったぁ!!なら君は、約束通りの罰ゲームね。」
麻衣「えー、何をやらせるつもりぃ?」
千里「んでは発表致します!!何かと言いますとぉ…?」

   悪戯っぽくまじまじと。

千里「罰として君には…」
麻衣「何々何?怖い、怖いに。早く言ってやね…」
千里「罰としまして…」
 
   思いっきり麻衣に飛び付く。

千里「今夜は君のベッドで僕も寝かせてくれる事さ!!」
麻衣「えーーー!っ?」

   甘える千里を撫でながらフフっと笑う。

麻衣「全く…仕方のない子ね、甘えん坊さん…いいに。ただし今夜だけだに。風邪移ったって知らん。私は面倒へー見てやらんでな。」


   (その夜)
   1つの小さなベッドに麻衣と千里が入って眠っている。

麻衣「せんちゃん、ちょっとやっぱりこれじゃあ窮屈よ…どちらかがあらけおっちまうに!!」
千里「大丈夫、大丈夫!!君と手を繋いで眠れるなんて僕、何だか嬉しいな…」

   笑う。

千里「じゃあ、お休みね、麻衣ちゃん…早く元気になれよ。」
麻衣「あなたこそ、お休みね。風邪移らんようにしてな…」
千里「はーい…」

   二人、目を閉じて明かりを消す。眠りに落ちるが寝返りを打った瞬間に頭と頭がぶつかる。二人、目を開けて照れた様に悪戯っぽくクスクスと笑う。

   ユカリとミズナ、微笑んで二人を見つめているが、軈て朝日と共に消えていく。


   (三日後)
   朝。麻衣が目覚める。千里が椅子に座ってリンゴを剥いている。

麻衣「んー…せんちゃん、おはよう…」
千里「あ、麻衣ちゃん起きた?おはよう。」

   リンゴを麻衣に渡す。

千里「はいっ、リンゴ。」
麻衣「わぁ、美味しさそう!!ありがとう、頂きまぁーす!!」

   食べる。

麻衣「美味し!!」

   ノック

麻衣「?」
千里「いいよ、僕でる。」
   
扉を開けると紡が入ってくる。

千里「つむ!!」
紡「よっす、せんちゃんおはよ。麻衣は?どうなんか?」
麻衣「つむ!!」
紡「麻衣!!具合は?どーだだね?」
麻衣「へー最高!!凄くいい、元気だに。今な、せんちゃんが私のためにリンゴを剥いてくれたんよ。」
紡「ほー、あんたらやっぱり新婚なんだな。」

   にっこり。

紡「良かったな、いい旦那さんもらって」
麻衣「ええっ!!」
 
   千里をみる。

麻衣「なぁせんちゃん?私甲板に出て風に当たりたいわ。」
千里「え…ダメだよ!!君まだ治り立てじゃん!!」
麻衣「大丈夫、大丈夫!!ほいだっつらで…」
紡「いけんっ!もう一日大人しくしてなやれ!」

   麻衣、紡ぎを睨み付ける。
 
麻衣「つむぅ、私はへー子供じゃないんだに?自分の体のこんくれえ一番自分でよく分かってるわね!!ほれよりもいけんのは、ずっとこんなとこばかりに何日もいりゃあ…」
千里「くる病が心配…だろ?

   小粋に微笑んで目配せ。

千里「いいよ、いこっ。」

   麻衣、とても嬉しそうにはしゃぐ。

麻衣「えぇっ、ありがとうせんちゃん!!はーくほらっ、いきまいっ!!」

   紡、やれやれと笑う。

麻衣「ほらっ、つむもはぁく行くじゃあ!!今日は確か仕事休みなんだら?」

   麻衣と千里、手をとる。

麻衣「後から来なやな。私達先に甲板に行っとるに。」

   二人、ルンルンと手を取り合って出ていく。紡、笑いながらやれやれとため息。

紡「全く…いい年だっつーに、いい年こいてまだまだお熱いお二人さんだこと…」

   紡も部屋の鍵をかったり後始末を色々としてから部屋を出ていく。









   







 



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