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石楠花物語アフターストーリー
時を乗り越えて
柳平家
   あれから4日後。麻衣の家族全員と、千里、健司、小松清聡、珠子、小口頼子、小口忠子、小口信助が集まっている。グランドピアノの前には麻衣の入った棺。

柳平「それでは…始めよう。小口君…」
千里「はい…」

   千里、泣きそうになりながらもピアノにスタンバイ。ユカリも来ているが誰も気がついてはいない。

柳平「では、あの日に歌ったあの歌を…」

   『メサイヤより』
   千里の伴奏で全員が泣きながら歌い出す。千里も泣きそうだが涙はこらえている。

   終わる。

紡「麻衣…ふんとぉーに死んじまっただか?今回はあの日みたいに、ソプラノのパート、歌ってくれんだか?」
糸織「へー特区に歌、終わってるんだに。」
八重子「麻衣、あぁ…まだこんなに若いのに可哀想に…」
正三「姉貴…」
と子「麻衣姉のばか野郎…最後の最後まで私達に黙って1人で行っちまうだなんてさ…」
あすか「麻衣姉…もう、麻衣姉のピアノ聞けんの?歌ってくれんの?バレエ見せてくれんの?ねぇ、又僕のこんあすっ!!って抱き締めてよ…昔見たいにさぁ、ねぇってばぁ!!」
紅葉「あぁ麻衣…私達より先に逝ってしまうのね…あなたをこんなにも早く、こんなに呆気なく失ってしまうだなんて…」
柳平「この娘は…柳平家の中で一番の親不孝の馬鹿者だ!!親よりも先に死ぬだなんて全くもって怪しからん奴だ!!」
千里「麻衣ちゃん…約束したじゃん…僕もう帰ってきたんだよ…。帰国したら結婚するって…」

   泣きそう。

千里「それなのに、それなのに…こんなのってあんまりだ…酷すぎるよ…」
 
   涙を飲んで俯く。

小松「小口君…」 
健司「麻衣…何で?どいでだよ。どいで、あれだけ元気だったお前がこんな形で行っちまうんだよ…」

   全員、おいおいと泣いている。

   

   全員、寝静まる。夜中の12時。千里が1人、起きて棺の前に座り、蓋の空いた棺から麻衣の手を握っている。

千里「あれだけ温かかった君の手なのに…こんなに冷たいんだね…。でも君は、本当に死んじゃってるのかい?ごめんよ、助けてあげられなくて…これから君なしで僕はどうやって生きていけばいいの…?」
麻衣「…。」
千里「相変わらず君は…まるで生きているみたいに綺麗だね…。」

   そっとキッス。

千里「愛してるよ。これからもずっと…もう僕は君以外、誰の事も愛さない…」

   『夢見てた幸せのシルバーリング』

千里『夢見てた、未来の事、隣には君がいて、美味しいご飯を僕に作ってくれるんだ…そんな当たり前の日常が僕の夢で、こんな風に君の側にいることが自然なことだと思っていたけど…大切な人はもう何処にもいない、月明かり僕を、寂しく照らす、君の指にはめるはずだった幸せのシルバーリング、今も僕の手の中…。懐かしいあの頃か…妙に懐かしくてアルバムの中の君にそっと手を触れた…静粛だけが流れる僕の部屋で、改めて君の愛しさを感じている僕はまだ…大切な人はもう何処にもいない…月明かり僕を、寂しく照らす。この手の中に残された幸せのシルバーリング、君に渡せないまま、僕の中だけ時間が止まってしまったみたいで、どれだけ待ったって君が帰ってくる訳じゃないけど…大切な人はもう何処にもいない、月明かり僕を、寂しく照らす。この手の中に残された幸せのシルバーリング、君に渡せないまま、君に指にはめるはずだった、幸せのシルバーリング、今も僕の手の中…。』

   麻衣の指に指輪をはめる。

千里「僕、本当に信じられないの…まだ。君がこんなにも早く死んじゃうなんて…お願いだ、責めて幽霊ででもいいから、僕の側に来てよ…。僕が怖がるから遠慮しているの?僕、君だったら少しも怖くなんかないっ!!」

   麻衣の頭を撫でながら静かに泣き出す。

千里「明日で本当に…今度こそお別れなんだよね…今まで色々ありがとね…。例え体は別れたって、目には見えなくたって…僕らはいつも一緒…僕のこの愛は一生消えないよ。君の体が僕の側から消えちゃってもずっと…」

   いつしか泣き寝入りをしてしまう。


   やがて朝日が射し込む。千里、うっすらと目が覚める。

千里「あぁ、もう朝か…」

   麻衣を見る。

千里「麻衣ちゃん…もうお別れだ…早いよね、こういう時ってさ…」
 
   悲しげに微笑むと、棺の蓋を閉める。

千里「さようなら…大好きな麻衣ちゃん…君と出会えて僕はとても幸せでした…。」


黄泉の国
   麻衣が石楠花の花畑を歩いている。そこにラムぴうと白髪の栗さん

白髪の栗さん「やいやいやい、若い姉ちゃんや。ここはお前さんの来る所じゃねぇ!!一体何しに来たんでぇ?とっとと帰れや!!」
麻衣「あなた方は?何方?」
ラムぴう「私達は黄泉の国の門番ラムぴうと、白髪の栗さん。ここから先は、あなたの行く場所ではないわ…さぁ、お戻りなさい。あなたには愛する婚約者がいるのでしょう?」
麻衣「せんちゃん…?」
ラムぴう「そうよ。千里さんは今頃、あなたを按じて泣いています。彼はあなたを必要としているわ。戻ってどうか彼を安心させてあげて。」
白髪の栗さん「わしらはお前何かみたいな若い姉ちゃんに興味はねぇ。あんたには用はねぇーんだ。呼んだつもりもねぇ、だで、とっとと帰れや!!」
ラムぴう「お帰りなさい、あなたのいるべき場所、あなたのいるべき世界へ…っ、麻衣さんっ!!」

   現世では千里、立ち上がって部屋を出ようとする。

   ラムぴう、白髪の栗さん、一気に麻衣に強い風を吹き掛ける。

麻衣「わっ、きやぁっ、何するのですっ、やめてっ!!」
白髪の栗さん「お前を落としてやるっ、」
ラムぴう「麻衣さんっ!!帰るのよ。早くっ、急いで、そうしないと間に合わないわ。本当にあなた、戻れなくなってしまうのよっ!!」

   石楠花の花畑がドーナッツ型に広がり、麻衣はそこから落とされる。

麻衣「助けてっ、せんちゃんっ、きゃぁーーーーーっ!!」

柳平家
   鈍い音。

麻衣「痛ったぁーーいっ!!」
千里「!?」

   立ち止まる。

千里「何?…今の音。」
麻衣の声「何よぉ、一体ここは何処だだえぇっ!!」
千里「麻衣ちゃんっ!??」

   千里、走り戻って急いで棺の蓋を開ける。麻衣、起き上がってキョロキョロ。千里と目が合う。

麻衣「せんちゃん…」
千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「せんちゃん、あんた戻ってきてくれたんね。嬉しい…」

   千里に軽く抱きつく。

千里「本当に、君なのか?僕の事が分かるか?生きてる…君なのか?」
麻衣「ほーよ、当たり前だらに。勿論、あんたのこんも分かるに。婚約者の顔、忘れるわけがないわ。」

   キョロキョロ。

麻衣「ところで私、どいでこんなところに寝てるだら?白い箱の中、お花がいっぱい…まるで死んじゃってるみたいね」  

   千里、泣き出す。

麻衣「ちょっとせんちゃん、どうしたの急に…泣かんでよ…」
千里「麻衣ちゃん…麻衣ちゃん、帰ってきてくれてありがとね…。僕、すごく怖かった…悲しかった…。君がいないくらいの人生なら、いっそのこと僕も死んでしまいたい程に、辛かったんだよ…。」

   麻衣をきつく抱き締める。麻衣、千里の体を優しく叩いて慰める。千里、泣きながらこれまでの事を洗いざらいに話す。

   千里、麻衣の体から離れて涙を拭うと麻衣の薬指を見せる。

千里「ほら、見てごらん。ワルシャワで買った君へのプレゼントだよ。僕は、これから一生涯、君以外の誰の事も愛さない。一生、僕が死ぬ日まで…君を…君だけを思い続ける…。だから僕は、君の死んでしまった指にこのリングをはめたんだよ。一生君を思い続け、忘れないために…。」

   麻衣も涙を拭う。

麻衣「せんちゃん…あんた、強くなったな…。私、嬉しい。あんたが帰ってきてくれて、又こうして会えたことが何よりのプレゼントよ…ありがとう。」
千里「麻衣ちゃん…」

   麻衣、リングの嵌まっている指を差し出す。 

千里「え?」
麻衣「もう一度…はめて下さい…今度は生きてる私の前で…」
千里「…分かった…」

   リングを外してもう一度嵌め直す。

麻衣「ありがとう、ふんとぉーにありがとう…改めて、宜しくお願いします、せんちゃん…」
千里「こちらこそ、ありがとう。宜しくお願いします。」

   二人、泣きながら笑って強く抱き合う。

千里「生き返ってくれてありがとね…愛しています。」

   麻衣、ポッと赤くなって下を向く。

麻衣「えぇ…」

   『初めてっ』 

   二人、くくっとわらう。

千里「僕もう決して君の側を離れたり、悲しませないから…どんなことがあっても、今度は僕が君を守るって約束するから…二人で幸せになろ。新しい家庭を二人の手で作っていこうよ…ね。」
麻衣「はい…」

   千里、そっと麻衣に口づけ。

   『もう少し抱擁の中で』

   その後、家族健司、小松もみんなで抱き合って喜んでいる。

白樺高原・コスモス湖岸
   数日後。麻衣と千里のみ。湖岸の、積雪の上へ仰向けに寝転ぶ二人。

千里「寒いだろ、ヒュッテへ帰ろうか?」
麻衣「いいえ、平気。あんたと一緒だもんでとっても暖かい。」

   千里の手を握る。

麻衣「星が綺麗ね…せんちゃん。私、今とっても幸せよ。生きてて良かった…」
千里「そうだね、僕もだよ。とっても幸せ…。」

   二人、微笑んで顔を見合わす。


マダムコレットの店
   仕事をする健司がいる。麻衣が試着室の中。千里は外で雑誌を読んでいる。

麻衣「よしっと、」

   鏡の前でポーズをとる。

麻衣「えっへん。」

   千里、顔をあげて立ち上がる。

千里(そろそろかな?)

   うろうろ。

千里「麻衣ちゃんーっ?どう、出来たぁ?」
麻衣「えぇ。はーいっ!!」

   出てくる。

麻衣「えへへっ、どーかやぁ?」
千里「うぷっ、」
麻衣「大丈夫ぅ、どーしただぁ?変?」
千里「いやっ、変ではないけどさぁ…」

   赤くなってもじもじ。健司も工房からやって来る。

健司「麻衣っ、バカかお前は!!ちょっとほれじゃあ露骨過ぎるだろうに!!どうしたってみんな…」

   胸元を見る。

健司「お前のほの、超ぼいんに目がいっちまうんじゃねぇーか?」
麻衣「ほぉ?やらしいっつーこん?…ならぁ?」

   しばらくご。別のドレス。

麻衣「これは?」
健司「だで、お前はバカかっ!!オペラの舞台じゃねぇーんだぜ?」
麻衣「うーん…」

   又別のドレス。

麻衣「今度はどーだら?」
健司「だーでー!!今度はほれじゃあバレエ衣装だろうに!!もっと真面目に考えろよ!!」
麻衣「ほーよねぇ。」

   しばらくご。

麻衣「ならぁ、これは?」
健司「ーーーーーっ、だーでー!!今度はほれじゃあキャバクラとかバーのシャンソン歌手じゃねえーか、ばか野郎っ!!」
麻衣「えぇ、ほれじゃあねぇ…」

   しばらくご。

麻衣「究極の…これはどうじゃっ!!」

   健司、呆れて声が出ない感じ。

健司「だーでー!!ベーアートーリースーッ!!ほりゃ全く違うだろうに。…ってかほれじゃあ完璧に夜の女王様かってんの!!」  
   キョロキョロ。
健司「つーか、ほんなドレス一体何処から持ってきたんだよ…このバカ丸出しベアトリスめが。」
千里「健司くん…そこまで言わなくても…」

   麻衣、キョトンと真顔。

健司「何だよ?」
麻衣「あっち。」
健司「ばか野郎っ!!あっちはへーウェディングドレスじゃねぇーってんだろうに。」
麻衣「ほんなの聞いてないわよっ!!」
健司「聞いてなくても見りゃ誰だって一目で分かるだろうにっ!!」
麻衣「私にはバカだもんで分からんだですぅっ!!」
千里「あのぉ…」

   困っておどおどと二人のやり取りを見ている。

健司「お前は黙ってろ。ここは、服飾のプロに一致ょ任せな。」

   工房から一着のドレスを持ってくる。

健司「ん、これ着てみろよ麻衣。」
麻衣「まぁ素敵っ、ええっ!!」

   試着室に入っていく。

試着室の中
   ドレスに着替えた麻衣。手には試着室の中にあった宝石箱。うっとりと鏡に写る姿を見ている。

   『宝石の歌』

千里の声「おーい、麻衣ちゃんどう?」
健司の声「おーい、麻衣ぃ?」
麻衣「はーいっ。」  

   試着室の中から出てくる。

麻衣「今度はどうかやぁ?」
健司「うわぁー…」
千里「綺麗…」

   そこへマダムコレット

コレット「とってもよくお似合いですよ。ね、旦那様。」
千里「あぁ…凄くよく似合っているよ…素敵だ。」
麻衣「ふんとぉーにぃ!!ありがとう。ほいじゃあ私、これにしたい!!せんちゃん、いい?」
千里「うんっ。僕もこれがいいと思うよ。」
麻衣「ほいじゃあこれで決まりね。」
健司「あぁ、だな。」

   麻衣と千里、店を出る。

マダムコレット、健司「毎度ありがとうございましたぁ!!」

諏訪の町
   町を歩く二人の手にはいくつもの袋。二人、顔を見合わせて微笑む。

麻衣「さぁ、お次は何処でしたっけ?」
千里「えーっと、ここっ!!」

   
美容室
   三名くらいの女性客と5名のスタッフがいる。

スタッフたち「いらっしゃいませぇ!!」

   麻衣と千里を見る。

スタッフ「ひょっとして、ピアニストの小口千里さんと、ソプラノ歌手の柳平麻衣さんですか?」
スタッフ「おめでとうございますぅ、ニュース見ましたよぉ!!」
スタッフ「今世界が注目する話題のカップルですよね!!」
客「あ、私ワルシャワまで柳平さんの引退リサイタル行きましたよ!!」
客「へぇー、いいなぁ私も行きたかったぁ!!」

   千里、ギクリとして顔を背ける。麻衣、クスッと笑う。

千里「僕の奥さんになる人ですから…うんと可愛くしてあげて下さいな…」
スタッフ「畏まりました。では当店、一番人気のスタイルで…」

   千里と麻衣にモデル写真を見せる。

スタッフ「如何でしょうか?」
千里「わぁ可愛い!!ねぇ君は?」
麻衣「えぇ、私もほう思う!!ならこれで。」
スタッフ「畏まりました。ではお客様、こちらへどうぞ。」

   スタッフ、麻衣を案内。待っている千里はソファーに座って雑誌を読み出す。

千里「っ!?」

   どきりと顔を紅くする。千里と麻衣の記事が載っている。

   一方の麻衣も同じ物を見ている。

麻衣「っ!!?」

   雑誌を元に、スタッフと話をしながら少し恥じらったように受け答えをしている。
 
   (数時間後)

スタッフ「お客様、出来ましたよ。如何でしょうか?」

   眠っていた麻衣が目を覚まして鏡を見る。

麻衣「わぁ、素敵っ!!」
スタッフ「旦那様も見てあげてくださいな。」

   千里、雑誌を置いて麻衣の元へとやって来る。

スタッフ「如何でしょうか?奥様、お綺麗でしょう!!」
千里「わぁ、凄いや!!可愛いっ。彼女にとってもよく似合っています。ありがとうございました!!」
スタッフ「いえいえ、とんでもございません。お幸せに。」 

店の外
   歩き出す二人。

麻衣「ちょっとやめてや、やぁだせんちゃんったら!!」
千里「ん、何が?」
麻衣「美容室のお代よ!!」
千里「いいの。いいんだよ。」
麻衣「うーん、でもなんか悪いわ。」
千里「ったくいやだなぁ君はぁ!!そう言うところも生粋のお諏訪っ子なんだね。」
麻衣「え?」
千里「まぁ僕、君のそういう所も大好きだけどさ。」
麻衣「ありがとう、」
千里「そんな君の優しくて気遣いのある性格、僕は大好き…そんなところにも惚れたんだよな…きっと。」
麻衣「んもぉ、嫌ね。恥ずかしいわ。」

   二人、笑って話ながら町を歩いていく。


式場・控え室
   当日。白樺高原。ドレス姿の麻衣がいる。そこに千里。

千里「おーい、麻衣ちゃんっ!!」
麻衣「あ、せんちゃん…」
千里「わぁ、可愛い!!今までで今日が一番綺麗だよ。」
麻衣「ありがとう…あんたこそ、今までで一番素敵だに。」

うっとり。

麻衣「でも私達って、ふんとぉーに今日、結婚するのね…まだ夢を見ているみたい…」
千里「本当に…僕もさ。まさか君とこんな日を迎えられるだなんて考えても見なかったよ。」
麻衣「ほれは私も同じよ…」

   千里、後ろからそっと麻衣を抱き締める。

麻衣「あんたのこの温もり、優しい声…。初めて会ったあの日幼い日の優しさと少しも変わっとらん…」
千里「君も…昔とは少しも変わってない…優しさ、泣き虫なところ…」

   麻衣、赤くなって笑う。

麻衣「イヤね、いじわるさん。あんたの方が泣き虫な癖に…」
千里「ごめんごめん、僕は決して君をからかったわけじゃないんだよ、ね。」

   麻衣、フフフッと笑う。

千里「褒めてるんだ。君は人のために涙を流せる…人を思いやり、幸せにしてあげられる心を持っている。僕はそんな君に何度助けられて何度救われたか…。君に出会えたお陰で僕は自信も持てたし、強くなれたんだよ。感謝してる。君みたいな女性に出会えたことを…」

   手を取り合って歩き出す。

千里「さぁ、そろそろ教会に向かうか?」
麻衣「えぇ、ほーしましょう。」

   二人、そのまま走って出ていく。

   『あぁ、信じられない!!』

   教会では式が行われ、指輪の交換と愛の口づけが行われている。千里と麻衣、幸せそうに微笑んで嬉し涙を流す。


ブダペスト・国際空港
   一ヶ月後。麻衣と千里。バッグを引いて空港を出る。

麻衣「やって来ましたハンガリーっ!!」
千里「ハンガリーっ!!」
麻衣「なぁせんちゃん、まずは何処から行く?」
千里「ハングリー!!そうだなぁ、なんだか僕お腹空いたな…なんか食べたいよ。いい?」

   麻衣、笑ってこずく。
 
麻衣「んもぉ!!さっき食べたばかりずらに!!」
千里「そうだけどさ…」
麻衣「まぁいいに。どうせならなんか、ハンガリーの郷土料理のお店がいいわね。」

   地図を見る。

麻衣「ん、こことかどーずら?」
千里「食べれるものならなんでもいいや。僕、いまならなんだって食べれちゃう感じなんだもん。」 
麻衣「分かった!!ほいじゃあ、行きまいに!!」
千里「セルリーッ!!」
麻衣「セルリーッ!!」

    
ハリーヤーノシュ

麻衣「あったあった、ここだ!!ハリーヤーノシュだって。オペラと同じ名前のお店ね。」
千里「何かお洒落!!」

   二人、中にはいる。


   その後、チェコではプラハの歌劇場でフィガロの結婚を見たり、キルヒゲスナー生誕の地へ行ったりする。


バール

麻衣「なぁ、せんちゃん見て!!チャールダーシュ踊っとるに!!なぁ、私達もやろっ!!」
千里「チャールダーシュ?うーん、昔の事だからもう覚えてないなぁ…嫌だよぉ、」
麻衣「あら、大丈夫よ。ほいだってあんたバレエやるじゃない。きっと簡単だに。」

   二人も何だかんだで踊り出す。  


   夜も深まる。食事をする二人。

ホテル・バルコニー
   ジュースを飲む麻衣と千里。

麻衣「星が綺麗…これがハンガリーの空…」
千里「あぁ…」

   ジュースを置いて麻衣の手をとる。

千里「踊ろうか、麻衣ちゃん…」 
麻衣「え?」  

   小さなバルコニーで踊り出す。

麻衣「せんちゃん…」
千里「ねぇ麻衣ちゃん、今まで沢山迷惑かけてごめんね…」
麻衣「何言っとるんよ、ほんなこん思っとらんに。」
千里「これからは僕、もっと強くなるよ…君の夫して、男として、これからは君の事を僕が守っていくって約束する。君に今まで支えられて守られてきた以上に…幸せにする。愛してるよ。」

   麻衣、下を向いて何度も頷く。

麻衣「えぇ、えぇ…」
千里「でも麻衣ちゃん、色々とあったけどさ…」

   強い眼差しで微笑む。

千里「君に出会えた事、本当に良かったと心からそう思うんだ。」

   夜風に吹かれている。

麻衣「私もよ…あんたと出会えて良かった…」  

   『薔薇色の人生』

千里「さぁ、もう眠ろ。僕もう眠いや、疲れちゃった…」
麻衣「ほーね…私も。」
千里「ねぇ、折角ここまで来たんだ。君、行きたい所があるだろ?明日そこに行こ。」
麻衣「ん?」
千里「もぉっ、忘れた?スイスだよ。挨拶、したいだろ。」
麻衣「いいだぁ?」
千里「勿論だよ。だって君だけじゃなくて僕らの思い出の場所でもあるんだもん。」
麻衣「ほー、ほーよね。ありがとう。」
千里「さっ、そうと決まれば明日は早いぞ。戻ろ。戻って早く寝ましょう!!」
麻衣「はいっ!!」

   千里、麻衣の肩を抱いて部屋の中へと入っていき、出窓とガーデンズを閉める。

スイス・アルプス
   麻衣、千里。山を登っている。

   『ヴェッギスポルカ』

千里「大丈夫か?少し休む?」 
麻衣「いいえ、平気。ありがとう。あんたこそ、大丈夫?」
千里「うんっ。」

麻衣の手を握って気遣いながらゆっくりと登る。


   途中、一休みをする。

千里「アメ嘗める?」
麻衣「ありがとう、頂くわ。」 

   息を切らしている。

千里「おいおい、大丈夫かよ?ゆっくりとほれ、息を吸って…吐いて…」

   千里、麻衣の背をさすっている。

千里「収まってきた?大丈夫だよ…ゆっくり、急がないで行こ。」
麻衣「ええっ!!」

   再び歩き出す。

ヒュッテ
   フレニ、カテル、ソーニャ、ベトゥリ、ユリがお茶をしている。そこに麻衣と千里。

麻衣「グリュッサー!!」
全員「誰?」

   見る。

千里「麻衣っ!!」
麻衣「ご無沙汰しておりますっ!!」
カテル「大きくなったわね、元気してた?」
麻衣「お陰様で。姉さんたちは?」
フレニ「私達もとても元気よ、ありがとう。…あら?」

   千里を見る。 

フレニ「彼ってひょっとして…噂の新人天才ピアニストの小口千里さんじゃない?」
千里「天才だなんて、やめてください。でも、はい。僕は小口千里です。」
ソーニャ「お二人さん、今凄く話題よね。おめでとう。」
べトゥり「式とかは?もうすんだの?」
麻衣「えぇ、地元で簡素に行いました。」
ベトゥリ「そう!でもお二人は?どこで知り合ったの?だって、二人とも凄く有名な音楽家でしょう?」
フレニ「舞台かどこか?」
麻衣、千里「いえ、違います。私達は中学時代からの顔馴染みなんです。」
千里「色々とありましたが、晴れて彼女を妻に貰うことが出来ました。」
麻衣「今回はこの、愛する主人と共に新婚旅行は来たんです。」
ベトゥリ「まぁ、そうだったの!?ならゆっくり楽しんでいってね。こんなところまで来たと言うことは、キルビ祭で躍りに来たのね。」

   麻衣、千里、顔を見合わせて微笑む。全員、二人を冷やかす。ユリは何気なく麻衣に近づこうとするが直ぐ様ベトゥリに睨まれてこずかれる。

ユリ「ごめんなさいベトゥリさん、可愛い妻、ベトゥリさん。」
千里「ちょっと、彼女は僕の大切な奥さんなんだから、易々とそう手を出さないでよ。」

   麻衣、おどけて目を見開く。

ベトゥリ「だって…全くこの男と来たら…分かったかい、ユリさんよぉ…人様の女房にまで手を出しちゃあいけないよ。」
ユリ「はーい。」

   反省したように頭をかきながら下を向く。全員、笑う。

祭り会場
   演奏の中、人々が思い思いに踊っている。麻衣と千里もいる。 

千里「ねぇ麻衣ちゃん、楽しいね。」
麻衣「えぇっ!!」
千里「何かいい時に僕たち来たよね」
麻衣「来て良かった…」

   幸せそうに踊る二人。踊ったり、飲んだり、食べたりしている。

ヒュッテの中
   休憩をする麻衣と千里。チーズやハモンを食べている。そこへ牧舞子。

舞子「あっ、ごめんなさい。」 
麻衣「何方?どうぞ。」

   舞子、入って来て疲れたようにしているが府と麻衣と千里を見て黄色い声をあげる。

舞子「きゃっ!!え、もしかして…お二人は…今話題の小口千里さんと柳平麻衣さんですか?」
麻衣「え、えぇ…」
千里「そうだよ。君は?地元の子?」
舞子「きゃーっ!!私お二人の大ファンなんですぅ!!凄い、まさかこんな所で会えるだなんて夢みたいです!!」
 
   握手を求める。麻衣と千里、握手をする。

舞子「後でサインもお願いしますね!!私は、今はここで居候としてお世話になっているんです。本職は船室女中なのですが、仲間とはぐれてそのまま置いてきぼりです。名前はマリアンデル・マルキ…29歳。日本とブラジルのハーフです。」

   丁寧に挨拶をする。


   (その夜)
カテル、ソーニャ、ベトゥリ、フレニ、ユリ、麻衣と千里、マリアンデルがいる。

全員「プローストっ!!」
カテル「本日はみんなお疲れ様、麻衣と千里も来てくれてありがとう。ご苦労会よ、さぁ!!二人の結婚祝いも兼ねて、沢山食べてね。」
麻衣「えぇ、ありがとうございます。」
千里「いただきます。」
フレニ「で?二人はいつ帰るの?」
千里「僕らは明日…ね、麻衣ちゃん。」
麻衣「えぇ。」
ベトゥリ「そう?もっとゆっくりしていけばいいのに…」
麻衣「ありがとうございます、でも必ずまた来ます。」
千里「子供が生まれてからかな?」
麻衣「いゃんっ!!ほんなのまだ先のこんずらに。ゴブリンさんが笑っちゃうに。」

   笑って千里をこずく。

マリアンデル「私も、一度国に帰ります。」
カテル「そう?また帰ってきなさいよ。」
マリアンデル「えぇ、必ず。だって私はアルプの歌姫ですもの。私がいなくちゃアルプは成り立たない、おしまい。ね、そうでしょ?」
 
   得意気なマリアンデル。


   (深夜)
   ヒュッテのそれぞれの部屋で眠る人々。麻衣と千里は同じ部屋。


アルプス
   麻衣と千里、マリアンデル。カテル、ソーニャ、ベトゥリ、フレニ、ユリに見送られながら山を下っていく。三人はハモンやチーズをつまみながら歩いている。

   『山を登るには』


船の中・甲板
   麻衣と千里がいる。

千里「麻衣ちゃん、大丈夫?」
麻衣「ううっ、大丈夫じゃないかも…酔ったみたい…」
千里「少し戻って休んだ方がいいよ…」
 
   麻衣を支えて屋内へと入っていく。

同・客室の中
   麻衣、ベッドにぐたーっと横たわっている。傍らに千里。

千里「どう?」
麻衣「えぇ、少し落ち着いたかも…ありがとうな。ごめん、新婚早々振り回して…」
千里「何いってるんだよ、大丈夫だよ。」
麻衣「ねぇ、お水を貰える?」
千里「いいよ、待ってて…」


   しばらくして千里が廊下から戻ってくる。

千里「お待たせ、はいどーぞ。」
麻衣「ありがとう。」

   麻衣、受け取ってみずをのみ、微笑む。


   更にしばらくして…。
   紡が入ってくる。

麻衣「つむっ!!」

   紡は船室女中の衣装に身を包んでいる。

紡「麻衣、具合悪い?大丈夫か?また酔っちまった?」
麻衣「うん、みたい。でも大分落ち着いたで大丈夫だに。態々心配して来てくれたんか?」
紡「うん、私こそごめんな…この船なら揺れんであんたも大丈夫かと思ったんよ…」


(回想)結婚式場
   食事をする麻衣と千里。そこへ紡。

麻衣「あ、つむ。どーゆー?」
紡「なぁ、麻衣にせんちゃん、」
 
   チケットを二枚見せる。

紡「じゃじゃーん!!あんたら二人のためにサプライズ。フランスからのブラジル経由のクルーズ。日本行き。確かあんたら、新婚旅行は、チェコ、ハンガリー、ポーランドを回るって言ってたよなぁ?だもんで…」

   色々と説明をする。麻衣と千里は顔を見合わす。

紡「心配?大丈夫、大丈夫。大型船だだもん、きっと麻衣も酔わんと思うに。」
麻衣「えぇ、ありがとうつむ。ありがたく、使わせていただきます。」
千里「あぁ、凄いよつむ!!僕らのためにこんなことしてくれるだなんて最高だ。ありがとう!!」
 
   三人とも照れて笑う。

(戻って)船室

紡「せんちゃん、あんたもごめんな。大事な嫁をこんな目に会わせちまって…許してな。」
千里「いや、いいよ。大丈夫…ありがとね。」

   紡、まだぐったりしている麻衣を見る。

紡「(小声で)なら別の日がいいな…」 
麻衣「は?何か今言った?」
紡「いやっ、別になーにも。」

   小粋にくくっと笑う。

紡(こいつふんとぉーに耳がいいんだで…)


   出入り口へと向かう。

紡「ほいじゃあな、私仕事戻る。また来るな、」
麻衣「うんっ、頑張ってな。」
紡「あいよっ、サンキュ。」

   悪戯っぽく手を降って出ていく。

   麻衣と千里のみ。  

千里「ねぇ麻衣ちゃん、今の、別の日がいいなって…何の事だろうね?」
麻衣「さぁ…あんたにも聞こえとったんね。」

   二人、お手上げのポーズをして首を横に降る。

麻衣「ううっ、」
千里「どうした?大丈夫か?」
麻衣「またちょっと目眩が…気持ち悪くなって来ちゃった…」

   よろよろと立ち上がる。

麻衣「ちょっとトイレっ…」

   千里も麻衣を支えてゆっくりと歩いてトイレへと入る。

   

   (数日経ったある日)
   暗い部屋。麻衣が廊下から戻ってくる。

麻衣(んむっ、鍵が空いてるっ?私開けたまま行っちまっただけやぁ?せんちゃんがほれともへー戻っとるの?…ま、いっか?)

   中へと入る。物音。ガタンっ!!麻衣、ビクリ。

   部屋の奥にはフレデリコ、美和子、タニア、マルセラ、ミズナ、牧子、赤沼、健司、糸織、紡、柏木。
   フレデリコが皿を一枚割る。

タニア「バカっ、静かになさいっ!!」
麻衣(誰かいる…彼じゃない?やだ…ヤバい…ひょっとして、ど、泥棒の野郎か?)

   出入り口にある消火器とトイレの中のデッキブラシ、トイレのシュポシュポを構える。  

麻衣(よーしっと、覚悟は出来た…何処からでも掛かってこいっ!!)

   抜き足差し足忍び足で進んでいく。


   奥まで入ると明かりがついてクラッカーが飛ぶ。

全員「ご結婚おめでと…」

   麻衣、慌てて消火器を引き負ける。

麻衣「だぁーーーーーーーっ、これでも食らいやがれ悪党共めが!!何を許可なく人様の部屋へのこのこと入って来ただぁ!!目的はなんだ!!相手が女だからって嘗めんじゃないに。私の父は警察官で、娘の私だってなぁ、幼いこんから護身くらい心得とるわぁ!!」
糸織、紡「分かっとるわほんなこんっ!!」

   全員、机の下や物陰に避難するが健司とタニアが逃げ遅れ、運悪くそこへ千里が入ってきて巻き込まれる。

千里「麻衣ちゃんっ?きゃあんっ!!」
麻衣「喰らえっ、火災スプラーッシュ!!」

   消火器を勢いよく吹く。タニア、健司、千里、ぐしょくじょのアワアワになる。

千里「麻衣ちゃん…僕だよぉ、千里だよぉ…君の夫だよぉ!!」
タニア「おやめなさいっ、ちょっと麻衣ったら、落ち着きなさいってば!!」
健司「おいバカっ、やめろっ!!やめろって、いい加減に気付けよ!!」

   麻衣には聞こえていない。

麻衣「留目じゃーぁ、喰らえっーっ、えーいっ!!」

   デッキブラシとラバーカップで三人をノックアウト。

麻衣「わぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
三人「うわぁーーーーーーっわわわっ、」
タニア「きゃぁーーっ、ちょっとバカっ、やめなさいって!!麻衣っ!!きゃぁーーっ。」
健司「おい麻衣っ、お前いい加減にしろよってへー!!」

   麻衣、三人をデッキブラシでごしごしと擦ったり叩きのめしたりラバーカップで吸いとったりしている。

タニア「麻衣っ!!痛いっ!!痛いっ!!痛いったらもうっ!!」
麻衣「?」

   手を止めてキョロキョロ。

麻衣「今誰か私の名を呼んだ?星の王子さま?アムレット様?ロメオ様?ほれともひょっとして愛しい私の旦那様…千里さんかしら?」

  『女?それとも天使の声かしら?』

   麻衣、うっとり。タニア、イライラとしている。

タニア「んな訳ないでしょっ…麻衣っ!!!」
麻衣「ひぃっ、このヒステリーガミガミ声…何処かで聞き覚えがあるような…ないような…」

   バケツに水を汲んできて三人に一気にかける。

タニア「ちょっとぉ、いきなり何するのよぉ!!冷たいじゃないのよ!!」
麻衣「ターニャ姉さんに…」

   ポカーンとしてキョロキョロ。

麻衣「健司にっ…あなたっ?ほれに…」

   奥の方にいた人たち、顔を出す。

麻衣「フレデリコさんに、美和子さん、マルセラさんに…みんなどいで?」
タニア「どいでじゃないわよっ!!あんたこそ何て事してくれんのよ、びしょびしょになっちゃったじゃないの!!」
麻衣「ごめんなさい…でも、泥棒かと…」
タニア「泥棒ですってっ!?あんたって人は全くもぉ…――――――っ!!何で私たちだって気がつかないのよ、このバカぁーーーっ!!あーーーっんもうっ!!」
マルセラ「タニアあんた、少し声が大きすぎよ。もう少し静かになさいっ!!」
タニア「うるさい、お黙りっ。私は今この子に言っているのよ。邪魔しないでちょうだい。」

   フレデリコ、美和子、いい加減に呆れている。

フレデリコ「タニア…」
美和子「やれやれ、また始まっちまったわな…」
マルセラ「例によって…あのガミガミヒステリーね…」
三人「はぁ…」
麻衣「でも、どいで?」
糸織「あぁ麻衣、実はな?」
紡「私が結婚式の参列者の友達みんなに声かけたんよ。あんたを驚かせようと思ってな。ほしたら逆に、こっちがあんたに一本やられちまったな。」

   麻衣、まだポカーンとしている。紡達、事を詳しく説明。

麻衣「何だ、ほいこんだっただか。やっと分かった。じゃあこれは、私達への」
千里「僕達への…」
麻衣、千里「結婚祝いのサプライズってことか?」
麻衣「ありがとつむ、」

   そこへ美和子。

美和子「はーるかぶりだな麻衣、あたい又あんたに再会できて嬉しい…けど。」

   苦笑い。

美和子「これじゃあ折角の感動の再会も…台無しだな。」
麻衣「ごめん。…なら、これから感動の再会する?」

   麻衣と美和子、抱き合う。

麻衣「美和子さぁーん、元気だったかぁ?会いたかったぁ!!」
美和子「あたいもだに麻衣ぃ!!あんたの方こそ元気しとったかぁ?」
タニア「二人ともお止めなさいっ!!うっさいわっ!!」

   イライラ。

タニア「ったくこのドレス、とっても高かったのよぉ。こんな格好じゃあ着替えとりに部屋にも戻れないじゃないのぉ…全くもうあんたって人は、一体どうしてくれるのよっ!!」
麻衣「な、ならこんなんはどうでしょう?」
タニア「何よ…」
麻衣「私のお部屋にもバスルームが付いていますから、ほいだもんでとりあえずはまず体を温めて…」

   麻衣をきっと睨み付ける。 

麻衣「はい?」
タニア「分からない子ね、だから私がさっきから着替えがないっていっているじゃないの!何でそこでお風呂の話が出てくるのよ?」
麻衣「ほいだって、体冷たいままだと風邪引いてしまいますもの…いいですよ。」

   にっこり。

麻衣「とりあえずは、暫くは私の着てて下さい。」
タニア「あ、あんたのを?

   ポッと紅くなる。

タニア(20代の服っ?わ、悪くないわね…)

   技とつんっと。

タニア「いいわよ、別にそんなもの…」
麻衣「でも、ほのままいたら風邪引いちゃいますよ。私の服、殆どSですけど時々八重姉さんのお下がりで少し大きいのもありますから、きっとターニャ姉さんも着れるかと思いますけど…」
美和子「おいおいターニャ姉さん、変な意地張ってんなって。」
フレデリコ「そうだよ、折角柳平さんがタニアの為を思っていっているのに…」
麻衣(へー小口なんですけどね。)
全員「ほれほれっ、」

   タニア、赤くなって咳払い。

タニア「仕方ないわね、そこまでみんなが言うんだったら言うこと聞いてやったっていいんだけど?」
美和子「全く素直じゃないんだから、」
フレデリコ「もっと可愛くなれよ、お嫁に行けんぞ。」 
タニア「うっさいわっ、私は私なの、これが私なのよっ!!」

『ツンッをとったら私じゃないっ!!』

   タニア、ツンッと赤面してそっぽを向く。麻衣、嬉しそうに手を打つ。

麻衣「合点じゃいっ!!決まりですね、ほいじゃあ私、早速お湯炊いて来ますね。」

   るんるんとバスルームへと入っていく。


同・脱衣場
   しばらくご。麻衣が着替えを持ってくる。

麻衣「ターニャ姉さん、お湯加減は如何ですかぁ?」

   浴室から

タニアの声「とても気持ちがいいわ。ありがとう。」
麻衣「良かった、着替え、ここにおいておきますね。」
タニアの声「えぇ、ありがとう。」
麻衣「はいっ!!」

   有頂天で微笑んで戻っていく。
 
タニア(一体あの子、どんなのを貸してくれたのかしら?少し楽しみだわ。)

同・居間
   他メンバーが床などを片付けている。

美和子「あ麻衣、ターニャ姉さんどーだった?」
麻衣「えぇ、大人しく入ってました。」
マルセラ「良かったわ。本当はあの人だって、こうして貰いたかったのよ。あのツンデレ女…」
麻衣「でもみなさん、ごめんな。私のせいでこんなんなっちまって…」
美和子「いいってこんよ、あんたは何も気にせんでいいに。」
紡「元はと言えば、何もあんたに知らせずにこそこそしてた私達にも責任があるんだでさ。」

   麻衣と紡、美和子、微笑み会う。

マルセラ「でも麻衣さん、あなたはそう言うところは18歳のあの日と少しも変わってないわね。」
麻衣「え?」
マルセラ「そのおっちょこちょいなところ。だってほら、以前コーヒーを…」
紡「コーヒー?何の話?」 
麻衣「あぁ、」

   恥ずかしそうに

麻衣「あのな…」
フレデリコ「彼女ったら、スティックコーヒーと間違えてスティック味噌汁の素とクリープを入れたんだよ、」

   詳しく話し出す。紡は大笑い。

麻衣「ほんねに笑うなやなつむ、」
紡「ほいだって、アーッハハハハハッ!!!ほりゃ確かにあんたらしいわね。」

   フレデリコも思い出し笑い。

フレデリコ「まぁ、今考えりゃいい思いでとなったんだけどね…でも当時はあんときゃ本当に参ったなぁ…別の意味、君は当時から凄い子だったよ。」

   千里と健司、部屋の隅で小さくなって震えている。ミズナはツンッとしている。

麻衣「あぁっ、」

   二人に駆け寄る。

麻衣「ごめんな二人とも…大丈夫?」
千里「だ、大…」
健司「ばか野郎っ、これが大丈夫に見えるかってんだ!!」

   美和子、ニヤリ。

美和子「ほんなとこに服着て縮こまっとるもんで寒いだわ!!ターニャ姉さんが上がったらあんたら二人でお湯入っといで。だでほー、へー準備しなっ!!」
千里「準備?」
健司「何の?どーやって?」
美和子「分からん?つまりはこいこんさやぁ。あんたらもほのまんまじゃ風邪引いちまうらに?ん?」

   二人を捕まえて二人の服を脱がし出す美和子。じたばたと暴れる二人。

健司「お、おいっ、何するんだ!!やめろって!!」
千里「いやいやいやいや、流石に下はダメだって!!ズボンとパンツだけはやめてくれぇ!!僕にはもう嫁もいるんだからぁ、独身じゃないんだからさぁ!!」
美和子「大丈夫だで、二人とも大人しくしてなっ。」

   しばらくして。

麻衣「きゃあーーーーっ!!!せんちゃんと健司のエッチぃ!!」

   真っ赤になって顔を覆い、そっぽを向く。健司と千里は股下を手で隠しながら真っ赤になって隅っこの物陰に隠れる。

   出入り口からジュースをごさまんと抱えたマコとユカリが入ってくる。

ユカリ「な…にやってるの?」
マコ「チャオっ!!」

   麻衣にウィンク。

マコ「麻衣ぃ!!おめでとう。美人のあんたがまさか、このダメ男を貰うとはね。」
麻衣「北山ぁ、ありがとう!!来てくれたんね。でも…」

   マコをこずく。

麻衣「私の主人にほんなこん言わんで。」
紡「ほーだに、一言多いに北山。ま、ざらに間違ってないんだけどさ。」
千里「おいっ!!」
マコ「てか、千里と健司君、あんたらはなんで…ほんなすっぽんぽんなの?これも何かの余興?それともあんたらは、ただの変態?」

   浴室から

タニアの声「きゃあーーーーっ!!!何よこれぇーーっ!!!」

   メンバー、ビクッとしてお互いに顔を見合わせる。

麻衣「何事っ?」
美和子「今のって…」
二人「ターニャ姉さんの…声っ?」
フレデリコ「だよな?」
麻衣「どいだら?」
マルセラ「さぁ…」

   脱衣場の扉が少し開いてタニアが顔を覗かせる。

麻衣「あ、ターニャ姉さん。どーです?着てみましたか?」
タニア「着てみましたか?ですって?どーです?…じゃないわよっ!!どーしてくれんの、一体これっ!!」
麻衣「これ…?」
タニア「ちょっとこちらへおいでなさいっ!!」

同・脱衣場
   麻衣とタニア。

麻衣「何です?」

   タニアはピチピチのピンク色の短いキュロットワンピースを着て、頭にはピンクの水玉の頭巾。麻衣を睨み付けている。

タニア「何です?じゃないわよ!!何よこのへんちくりんな着替えは?若すぎるにも程があるわよ、てか一体これは誰の服?」 
麻衣「誰って…もちろん私ですよ。八重姉さんのお下がりでMなんですけどね。着れてますよね、OK。大丈夫、グッドです。」 
タニア「全然大丈夫、OK、グッドじゃないわ!!ま、」

   ツンッと鼻を鳴らす。

タニア「これしかないのなら仕方がないでしょうけど…それに何よ、この下着だって…。あんたいつもこんなの付けてんの?」
麻衣「えぇ、ほーですよ。」

   服のボタンを外して下着を見せる。

麻衣「ほれ。」
タニア「なるほど…あんた、出るとこはちゃんと出てるのね。…私のよりも大きいわ…」
麻衣「へへへ、ほれ程でも…。てかターニャ姉さん、」

   ニヤリ。

麻衣「何だかんだいちゃもん付けてましたけど?ちゃっかり頭巾まで被っちゃってるんじゃないですか!!」

   タニア、ギクリとなって赤くなる。

タニア「あ、あったから付けたのよ…」
麻衣「ふーん。」

   扉をバッと開ける。

麻衣「皆様ぁ、ご覧ください!!ターニャ姉さんのご登場にごさいまぁーすぅっ。」
タニア「ちょっ、ちょっと麻衣っ」

   麻衣、タニアを外に押し出して扉を閉める。

タニア「っーーーっ。」
女性たち「おー…」

   フレデリコ、少々引き気味。

フレデリコ「…何だ、タニア…君は、気が変になったのか?もう少し自分の年考えた服を選んで着ろよな。」
タニア「うっさいわねぇ、仕方ないでしょうに。麻衣が勝手に選んだのよ。こんなんしか用意できないっていうんですから!!しょーがないわよっ。」
美和子「でもいいに、ターニャ姉さん。凄く似合っとるに。」
女性たち「うんっ、うんっ。」 
 
   美和子、うっとり

美和子「でもいいなぁ、あたいもなんかほんなん着てみたくなったわやぁ…。」
麻衣「ほいじゃあ…折角だでみんなで何か着てみます?私のお洋服だけど…」 
女性たち「ええっ、いいのぉ!?」

   千里と健司、恥ずかしそうに。

千里「あのぉ、その前にぃ…」
健司「俺達のパンツは?」
美和子「あぁ、びしょびしょだだもんであんなの洗いに出したに?」
千里と健司「えーーーーーーっ!?そんなぁ、」
麻衣「ほいじゃあ暫くは二人共、私のパンツ履いてるか?」

   二人の目の前に女性物の下着を差し出す。

麻衣「もし、お望みとあれば下着にはブラもあるに?どう?着る?付ける?はくっぅ?」
千里と健司「うぷっ、」

   二人、一気に紅潮して吹き出す。麻衣、美和子、紡、そんな二人を見て小粋に笑って顔を見合わせる。二人、恥ずかしそうに震えている。

健司、千里「くしゅんっ!!うーっ…寒っ。」
健司「いくら夏とは言えど…寒いっ、」
千里「風邪引いちゃいそうだよぉ…」


   

 



 






   




  








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