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石楠花物語アフターストーリー
届かなかった想い
『石楠花物語・アフターストーリー』

アパート・一室
   5年後…。柳平麻衣(24)、岩波健司(24)

健司「ごめんな麻衣、結局バタバタしちまって結婚も長引いちまったな…」
麻衣「いいえ、いいの。でも、遂に私達…」
健司「あぁ、明日日本に戻ってさ…色々と準備して、お前の引退公演と引退リサイタルが終わって落ち着いたら結婚式あげよう。」
麻衣「えぇっ!!でも、健司…あんたは?こっちで働きたいんじゃあ…」
健司「俺?俺はいいんだ…へー決めてある。」
麻衣「えー?」
健司「実はマダムコレットが援助してくれるって言ってさ、コレットも一緒に諏訪に行って、二人で工房をやることになったんだよ。麻衣、お前は?ふんとぉーに歌手、やめちまうのか?」
麻衣「えぇ、私はいいの…それより一つ問題があるのよ。」
健司「問題?」
麻衣「えぇ…適任の伴奏者が見つからないのよ…」
健司「伴奏者か…」

   ニヤリ
 
健司「いいやつがいるんじゃないの?」
麻衣「ん?」
健司「千里だよ、千里!!あいつだってへー大学出てるんだし…」

   麻衣、渋る。

健司「どーだ?」
麻衣「ダメよ、」
健司「どいで?」
麻衣「だって…」
健司「おいおい、千里だってお前だってへー子供じゃねぇーんだぜ?過去にどんな事があろうが、過去は過去、今は今。あいつだっていい思いでとして受け止めてるだろうさ。」 
麻衣「…。」
健司「な、とにかく一回千里に連絡とって会ってみようよ。俺だってあいつとは、今まで通りに仲のいい友としてこれからも付き合いたいんだ。」
麻衣「…分かったわ。」


   飛行機が旅立つ。

国際空港
   日本。麻衣と健司がゲートから出てくる。外には小口千里(24)。

千里「…麻衣ちゃん…健司くん…」

   懐かしさに涙が込み上げそうになる。

麻衣「せんちゃんっ!!」

   麻衣、千里、お互いにかけよって抱き合う。

麻衣「あんた、見ない内に又大人っぽくなったわね。」
千里「君こそ…又一段と綺麗になったね。」

  二人、泣き笑い。

健司「よ、」
千里「健司君っ。」

   笑う。

千里「君達もう、結婚したんだよね。おめでとう…」
健司「ほれがまだしてねぇーんだよ。」
千里「そうか、してないんだね…って、えぇ?」

   目を丸くする。

千里「してないって…何で?…だって君達…」
麻衣「えぇ、の訳だっただけどさ…色々あって…」
健司「でも俺達、これで原村へ戻ってさ、一年後に又、麻衣の引退リサイタルや引退公演でヨーロッパ行くんだけど、ほれが終わって落ち着いたら結婚式あげようってことんなったんだ。」
千里「そうか…」
麻衣「せんちゃん、あんたは?今どうしとるの?」
健司「オーディション受けたり?ほれともへー夢へのステージ…踏み出したか?」
千里「あ…あぁ…」

   寂しそうに俯く。

千里「いいんだよ、あんなのもう…所詮十代の頃の夢だ…」
健司「どいこんだ?」
麻衣「ほいじゃあ今あんた、何やっとるの?大学はへー卒業しただら?」
千里「うん…大学は、去年卒業したよ…。それから、叔母さんに色々とうるさく言われるわ、色々で結局今僕は、茅野の市役所で働いている。」
健司「はぁー?何だよほれ?どいで、オーディションとかでチャンス掴まねぇーんだよ?お前の腕なら確実に…」
千里「無理だよ、ステージなんて、そんなの僕に出来っこないっ!!」

   葛藤に苦しんだように泣き出す。

千里「恐いんだ…勇気無いんだよ…。高校生までのトラウマが…恐いんだよ。僕もうあんな想いはしたくない…。」
麻衣「せんちゃん…でも、ふんとぉーはあんたは今でもピアニストになりたい夢、持っているのでしょ?」
千里「それはぁ…」
麻衣「だったら…丁度いいわ。私と共にやってみない?」
千里「え?」

   話を聞く。

千里「え、そんなの…そんなの僕には無理だよっ!!出来っこない!!」
麻衣「ほんなのやってみなくちゃ分からないわ。あんたには実力があるんですもの。」
健司「ほーだよ。自信持てよ、前に進む勇気を持たなくちゃいつまで経ってもお前は弱虫のままだぜ。何も変わらないんだぜ。ほれでもいいのか?」
千里「…。」
麻衣「考えておいてね…」

   三人、空港を出る。

特急電車の中
   前景の三人。 

千里「でも僕嬉しいな…又二人に会えて。連絡ありがとね。」
麻衣「いえ、こちらこそ。あんたに会えて嬉しい…。」
千里「麻衣ちゃん、君は?引退ってことは歌手はやめちゃうの?それでいいの?」
麻衣「私はいいんよ。ほれより、私は結婚したら専業主婦になって家庭に入る…この方がずっと幸せ。私ね、岩波のお酒藏にも入ろうと思うの…」
健司「お、おい麻衣!!ほりゃ俺聞いてないぞ。どいこんだ?」
麻衣「どいこんも何も、継ぐ気がないあんたの代わりに私が女社長として継いで行くってこんよ。」
健司「お、お前は…」
千里「麻衣ちゃんが社長さんか、格好いい。君らしいや。」
麻衣「どーも。」

   健司、何とも言えぬ顔をする。

千里「でも僕、やってみようかな、」

   遠慮ぎみに健司と麻衣を見る。

千里「伴奏ピアニスト…君を見てると、僕も強く、一歩踏み出さなきゃって思うよ。」
麻衣「ふんとぉーに!!良かった、ありがとうせんちゃん!!宜しく、頑張ろうな!!」
千里「う。うん…こちらこそ。」

   健司、フッと微笑む。
茅野駅・西口
   麻衣、千里、健司。

麻衣「わぁ、懐かしい…茅野の空気、変わってないわ…」
健司「ふんとぉー…気持ちいい。」
麻衣「せんちゃん、今お住まいは?」
千里「勿論、茅野だよ。大学の時は東京で独り暮らしだったけどさ、卒業して帰ってきたんだ。今も前と同じ家にママと住んでる。」
麻衣「あんたこそへー奥様はいらっしゃるんだらに?」
千里「まさかぁ!!」

   とんでもないとばかり。

千里「結婚なんてしてるわけないだろ!!奥様どころか、君と別れて以来彼女すらいないよ。」

   溜め息。

千里「婚活でもしようかな…街コンとか…」
健司「まだまださ、千里。男はまだ今が働き盛りなんだぜ。」
千里「そうかなぁ…」

   麻衣、少し目を伏せる。千里もちらりと麻衣を見る。

千里「でも君はもう結婚すんだろ?」
健司「まぁほーだけどさ、」

   千里を励ます。

健司「ほー拗ねんなって!!絶対いい女現れるって。」

   千里、くねくねしながら。

千里「まぁいいよ。とりあえずは、二人とも疲れたろ?僕ん家来いよ。」

   車へ案内。

健司「お、これ新車か?」
麻衣「まさか、せんちゃんの車?」
千里「そ、そう。今年の春に免許取れたばっかりでさ、そん時に長年の貯金で買っちゃった。どーぞ、乗って。」
麻衣「わぁー、お邪魔しまぁーす。」
健司「お邪魔しまぁーす。」
千里「はーい。」

   三人、乗り込む。千里の運転で走り出す。麻衣、運転する千里を見つめて頬を赤くする。

健司「ん?」
麻衣「ん?」

   健司、麻衣を見る。

健司「どーした?」
麻衣「別に、何も。」

小口家
   三人、車から降りる。

千里「さぁ、着いたよ。入れよ。」
麻衣、健司「お邪魔します。」

   ドアを開ける。

千里「今は、忠子が北部中学に上がってさ、頼子は僕らと同じ茅野中央高校行ってる。千兄ちゃんと同じとこ行くぅ!!何て言ってさ。二人とも学校さ。夕子叔母さんは、もう僕んちを出て、旦那さんの寧々叔父さんと、僕の従兄弟のケイと共に、城南に住んでる。2年前に京都から移住してきた。ママは今、パートに行ってていない。でね、」

   もじもじ。

千里「実は僕んち、もう一人家族が増えたんだ。」
麻衣「まぁ、誰?」
千里「僕が大学に入った年に弟が生まれたの…小口信助ってんだけど…」

   顔が曇る。

千里「僕のパパは、10年前に死んじゃってるし…一体誰の子何だろうって…僕不安で…素直に信助と仲良くできないんだ。勿論、信助が嫌いな訳じゃないよ。とっても可愛いんだ…でも、」
健司「誰かと再婚したわけでも?」
千里「ないよ!!それにママは浮気するような人でもない。…と言うことになるとさ…考えられるのは…」

   蒼白になる。

健司「まさかお前…」

   千里、ゆっくり頷く。

健司「お前、母ちゃんとそんな…」
千里「まさかっ!!疚しいことは何もしてないさ、当たり前だろ!!でも、でも」

   震えだす。

千里「ママといつも一緒にいる男と言えば、僕だけなんだ…。ママは僕の事うんと可愛がってくれるし…僕もママは好き。でも、だからと言ってそんな感情は抱いたことはないし、何もしちゃいない!!」
健司「千里、ほりゃいくらなんでも考えすぎだろ。」
千里「顔も何処と無く僕に似てるんだ。血液型だって…ママはO型、僕はA型…信助は…A型なんだ。」

   頭を抱えてしゃがみこむ。

千里「どーしよう!!もし最悪な結果だったらどうしよう、ねぇねぇ!!」

   健司に助けを求める。

千里「信助の父親が僕なんて事になったら僕は一体どーすればいいんだぁ!!」

   麻衣、千里を立たす。

麻衣「せんちゃん、ひとまず落ち着いて!!な、な、あんたの部屋にいこう。」

   麻衣、すっかり気を滅入っている千里を部屋に連れ込む。
 
同・千里の部屋
   健司、麻衣、千里をベッドに座らす。

麻衣「ちょっと休んでて、私がお茶入れてくるわ。せんちゃん、台所借りるわよ。健司、せんちゃんをお願い。」

   麻衣、出ていく。麻衣、台所でお茶を入れている。健司、震えて泣き出す千里を慰める。


麻衣「お待たせ、せんちゃんは?」
健司「サンキュー麻衣、大分落ち着いたよ。」
千里「ありがとう…」
麻衣「兎に角せんちゃん、一旦ほの事は忘れましょう。まだ、信助ちゃんも小さいんでしょうから、今はお兄ちゃんとして仲良く、可愛がってあげて。」
千里「うん…そうだね、そうするよ。」

   お茶を啜る。

千里「久しぶりの君の味…美味しい。」

   麻衣、健司、顔を見合わせて微笑む。

千里「じゃあ、君達の話…聞かせてくれないかな?」
健司「俺達の…」
麻衣「話?」
千里「そう。ハンガリーに行ってからこれまでの事とか。」
健司「ほーだなぁ…」
 
   三人、話に花を咲かせて盛り上がっている。

酒・IWANAMI
   麻衣、研修を受けている。丸山健一(32)、小池富貴恵(61)、雨宮正(26)、櫻木朗(27)、黒田誠(41)がいる。

丸山「ほーん、君が坊っちゃんの嫁かい?」
雨宮「こんな可愛いのが、酒屋に嫁いでくるだなんてねぇ、」
櫻木「羨ましい限りだ、俺が貰いてぇくらいだよ。」
黒田「んだんだ、でも坊っちゃんもいい女見つけたなぁ…」
櫻木「何処で捕まえられたんだ?」
麻衣「捕まえられたんだ?って…私は健司とは幼稚園からの幼馴染みなんです!!」 
全員「ほー。」
黒田「そうかそうか!!でも麻衣ちゃん、君が後を継いで社長をやるって、本気かい?」
麻衣「えぇ、勿論本気ですわ。ほの為にこうして修行に入っているんです。」
櫻木「大したもんだ。この美人さと行動力が坊っちゃんを落としたのかねぇ?」

   富貴恵、つんっとして麻衣に悪態をつく。

富貴恵「ふんっ、嫁だかなんだか知らねぇーがいい気になるんじゃないよっ!!この仕事はお前が思うほど甘くはないんだ。これからはびしばししごくからね覚悟を押し。」

   麻衣も少し皮肉っぽく。

麻衣「はいっ、分かりました。盛りを過ぎたオールドマダム。」

   富貴恵、鼻を鳴らして行ってしまう。男たち、ポカーンとして麻衣を見つめる。
   『私の恋のチェスゲームは』

茅野市役所・窓口
   千里、サパサパと業務をこなしている。赤沼収蔵(56)が千里の元へやって来る。

赤沼「小口、」
千里「はいっ、何でしょう部長、」
赤沼「君は本当によく働いてくれるよ。まだ入社2年目だに感心だ。」
千里「あ、ありがとうございます!」
赤沼「君みたいなのにはやめて欲しくないものだ。出世するぞ。ハハハハハッ!!!」
千里「どうも、」  

   千里も寂しそうに笑う。

千里(やめて欲しくはない…か。)
赤沼「どうだ小口、」

   声を潜める。

赤沼「今夜、」

   ジェスチャー

赤沼「行かんかね?」
千里「へ?」

同・男便所
   赤沼、千里。

赤沼「どうだね、小口?」
千里「又、女の子のいっぱいいるエッチなお店ですか?」

   笑う。

千里「だったら私は遠慮します。」
赤沼「小口ぃ、私の顔を見るなりそりゃないだろう?私だってそんな店ばかりじゃない。まともなところだっていくさ。」
千里「例えば?」
赤沼「よーし分かった。そんなに信用できんなら、俺が今夜そこへ連れてってやる。」
千里「分かりました、お付き合いします。」

マダムコレットの店・工房
   コレット(53)と健司、お針をしている。

コレット「Takeshi, mi van ott a hang?」
健司「Igen, én is hamarosan.」
コレット「Jó volt, folytattuk ilyen hangon. Apropó ...」
健司「Mi az?」

   そこへエリゼッタ(21)、カロリーネ(25)が入ってくる。

健司(かっわいいっ!!)
エリゼッタ「Anya、」
カロリーネ「Visszamentem most。」
健司「え、え、お、お母様っ?」
コレット「Ó, az utat. Én haza.。」

   健司、動揺。

健司「Ki az? Milyen anya ... Nem úgy, Madame ...」
コレット「Ó, tudom, ha Takeshi chan volt az első alkalom? Ja igaz. Saját lánya Caroline és Elisetta ... Üdv.」

   カロリーネ、エリゼッタ、頭を下げる。

   
ハンガリー・バール“はぽねさ”
   千里、呆れてため息。赤沼、看板娘達にでれでれ。

千里「結局こういうお店ですか?」
赤沼「いいだろぉ、小口ぃ、お前も男なら…」
千里「男なら誰でも好きだなんて思わないでくださいっ、」

   チューハイを飲み干す。

千里「チューハイお代わりっ!!」

   赤沼、千里に絡む。

赤沼「こう言うところでチャンス作るのも、ありだろうよ、小口くーん、」
千里「やめてくださいよ…」
赤沼「えっちゃーん、こいつの相手してやって。」
悦声「はーい、お待ちくださーい!!」

  麗奈悦(26)がやって来る。

悦「あらっ、」

   ニヤリ。千里、びくりとなって引く。

悦「若くてハンサムで素敵ね、」

   耳元で囁く。

悦「お兄さんっ、」

   千里、悦に絡まれて今にも泣きそう。千里、チューハイを一気のみ。

悦「フーッ、お兄さん、なんていい飲みっぷり。気に入ったわ。」

   間もなく千里、酔い潰れて眠ってしまう。

悦「あら、つまんないわ。お兄さん、寝ちゃったのね。」 

   少し離れたところでは田中磨子(24)、リータ(24)が飲んでいる。そこへ麻衣と健司もやって来る。

麻衣「健司、お疲れ様。」
健司「あぁ。お前も、大変だったろ?」
麻衣「まね、嫌な婆さんいるけど。でも、ほれ以外は快適な職場よ。」
健司「ほーか。ほりゃ良かった。ま、今日は珈琲でも飲んでゆっくりしよ。でも嫌な婆さんって…ひょっとして、小池富貴惠さんのこんか」
麻衣「えぇ、ほーよ。知っとるんね。」
健司「あぁ昔俺が高2ん時、会社入った時あったろ?あん時からいてさ、俺も散々な目にあったよ。」
麻衣「ほーだだ…」
健司「だで、お前も気を付けろよ。いい年こいて独身で、しかも俺の嫁んなるお前が側にいるもんでやっかんで、目の敵にしてんだ。」
麻衣「ほーなの。分かったわ、心配してくれてありがとう。」 
   
   二人も座る。

   リータ、ぐでんぐでんになっている磨子を止める。

磨子「それでさぁ、須山くーん、私の話最後まで聞きなさいよ…で、私は死んだことんなってるって訳っ、うへへへへへっ、アハハハハハっ…」
リータ「おいっ、磨子、もういい加減にやめな。」
磨子「何をぉ?まだまだじゃい!!私はねぇ、未だ酔ってなーいんのっ、えへへへへへ…」
リータ「ダメってんだろうに!!」

   磨子の持っていたグラスを取り上げる。

リータ「これはもう飲むんじゃないよっ!!あんた一体何本目だと思ってんだい!!」
磨子「何するんだよぉ、やめろってば!!」

   磨子、リータを睨んでボトルを取り上げるとらっぱ飲みをする。リータ、呆れてやれやれ。

リータ「んも、磨子…私ゃもうあんたの事は手に終えないよ…勝手にやって来れ…もう私、どうなったって知らないからね…」
磨子「お、」

   ニヤニヤして麻衣と健司のもとに行く。

磨子「おーっ、カップルですかぁ?うへへへへ、」
麻衣「お、お姉さん…大丈夫?」
健司「ぐでんぐでんじゃないですか。」
磨子「あ、大丈夫、大丈夫!!」

   近くに座る。

磨子「ね、聞いてよ。私今ね、須山君に昔話してたのよぉ、ね?聞く?」
麻衣「は、」
健司「はぁ…」
磨子「ね、あんたらも聞きたいでしょ?ね、聞きなさいよっ、ね。ね!!」
麻衣「はい…」

   リータ、呆れてものも言えぬ顔。

磨子「あんね、私ってさぁ…高校生の頃幼稚園から付き合ってる親友がいたの。んでもさ、」

   話す。

麻衣「へー。実は私にも同じようなこんがあるわ。」
磨子「あら奇遇…こんな出会いもあるのね。ならあんたの話も聞かせなさいよ。」
麻衣「私もやっぱり高校時代に、親友を一人亡くしたの…」

   話す。

麻衣「彼女な、でも実は絶対自殺じゃないのよ。自殺何てする子じゃないもの。きっと…」

   磨子、黙って聞いている。

麻衣「きっと…」
磨子「ペンダントを探していたのね…」
麻衣「ほうよ、ほれは…」

   磨子を見る。

麻衣「お姉さん、どいでほれを?」
磨子「そのペンダントは…すみれのバレッタと一緒に…」
麻衣、磨子「永遠の友情の証…」

   健司も二人を見つめる。

磨子「ねぇ、ひょっとしてその親友の名前って…田中磨子って、言うのかしら…?」
麻衣「え、お姉さんはひょっとして…磨子ちゃんのこん知っとるの?」 
磨子「やっぱり…と言うことはもしかしてあなたは…」

   サングラスをとる。

磨子「柳平麻衣ちゃん?」

   磨子、酔いながら。

麻衣「え?」
磨子「あぁ…私、何か夢を見ているみたい…私よ、分かるでしょ?私は田中磨子…よくコスモス湖岸で健司と三人で遊んだ田中磨子…」
麻衣「磨子…ちゃん…?…嘘っ、」 

   磨子、バレッタを外して見せる。

麻衣「あっ!!」
磨子「私これ、ずっと付けてたのよ。あの日から…麻衣ちゃんも今でもつけててくれてる?」
麻衣「勿論よ、」

   磨子を抱き締めて泣きつく。

  『青春のバレッタ』

麻衣、磨子『いつまでも変わらずに抱き締めていた…初めての一途な友情は大人になっても忘れないわ。お互いに友情の契りを交わしあったあの日の想い、証のバレッタ…いつまでも変わらないでいておくれ、初めての一途な気持ち…。野に咲く花のようにキラキラとしたあなたの汗と涙、無邪気な笑顔、若かったあの日と少しも変わらない…透き通った湖のように穏やかな日々、忘れてないわ…ずっと。すみれの花は友情の印、あなたの心の囁き、幼かった私の心にはまだ分からなかった大切なこと…いつかわかる時が来るわ、きっと…。』

麻衣「私もいつも形見話さずにつけてたわ。毎回コスモス湖岸にも出掛けとった。…でもどいで?…ほいだって磨子ちゃんあの日…」
磨子「…。」

   磨子、寝入る。

麻衣「磨子ちゃん?磨子ちゃん?」

   健司も恐る恐る近寄って信じられないと言う顔をしている。

健司「嘘だろ…信じられない…」

   健司も涙を流す。リータ、磨子を揺する。

リータ「おいっ、これっ!!ほれだから言わんこっちゃない…結局後始末はいつも私なんだ…おいっ、磨子起きろっ!!ここで寝るなっ、帰るぞ!!」
磨子「んー…」
リータ「全くもぉ、」

   健司と麻衣を見る。

リータ「久しぶりだな。」
健司「久しぶり?」
麻衣「あんた、誰?」
リータ「誰って…忘れてんのかいっ!!私は、」

   気取る。

リータ「イタリアはミラノから遙々、15歳の時にやって来て、18歳の時に、磨子と共にイタリアへ帰ったリータでぃっ!!一緒によく遊んだ事もあったろ?」

   小粋にウインク。麻衣と健司、考える。

麻衣「ほー言われてみればぁ、」
健司「ほんな様なぁ、」
リータ「まぁいいや、」

   磨子の肩にてをかけて支える。

リータ「私今はこのおバカをどうにかしないといけないからね…思出話は何処かで会った時に又ゆっくりと。ま、同じ諏訪にいりゃ又会えるだろうさ。この店又来る?ここなら時々会えるかも。じゃな。ほれっ、磨子っ!!…チッ。」

   磨子を担いで店を出ていく。

リータ「須山君、お代は明日払いに来るよ。」

   オーナーの須山隆彦(33)、心配そうに見つめている。

須山「はーいっ…よろしくね。お大事にぃ…」

   麻衣と健司もしばらくポカーンとしている。ミズナも千里の側で酔い潰れて眠ってしまう。


小口家・千里の部屋
   翌朝。目覚まし時計がなる。

千里「ううっ…飲み過ぎたぁ…頭痛いよぉ…」

   起きて着替えをし、部屋を出ていく。

同・台所
   小口頼子(16)、小口忠子(13)、小口信助(5)が食事をし、小口珠子(44)が食事の支度をしている。

珠子「あら、せんちゃんおはよう。遅刻するわよ。」
頼子「せんちゃんは、いくつになってもダメね。」
忠子「唯一治ったのは、おもらしだけ、」
千里「うるさいっ。君達、何か随分と生意気になってないかぁ?なぁ、ノブ」

   信助、笑って千里を見る。

千里「何だよぉ、その顔は?」
珠子「せんちゃんっ、」

   千里、時計を見る。

千里「わっ、やばっ!!」

   食パンを口に加えてスーツを羽織、バッグを持つと家を飛び出ていく。

千里「行ってきまぁーす!!」
家族全員「行ってらっしゃーいっ!!」
珠子「あらっ、嫌だ…」
 
   千里の頬とスーツに口紅と香水の香りがついている。

酒・IWANAMI
   麻衣、事務室の椅子に座りながら考え事。そこに雨宮。

雨宮「何だ、麻衣ちゃんどうしたんだい?悩み事?坊っちゃんと喧嘩でもしたかい?」
麻衣「あ、雨宮さん…ほんなんじゃないんです…昨日不思議なことがあって…ほれが夢なのか現実なのか…」

マダムコレットの店
   健司も繕い物をしながら心ここにあらず。

健司「分からないんです。夢だとしたらリアルすぎる…でも、」

   コレットに顔を近づけて興奮。

健司「現実である筈がないんですっ!!ほいだってほーでしょう?」

麻衣、健司「ほー思いませんか!?」
 
茅野市役所
   千里、パソコンを打ちながら怠そうに頭を押さえる。
そこに中洲ミズナ

ミズナ「小口さんどうしたんですか?具合悪そうですね…」
千里「あぁ、中洲さん…実は昨日部長に誘われたんですけどね…飲みすぎちゃって…」
ミズナ「そうですか、確か小口さんってお酒そんなに強くないですよね…」
千里「まぁね…」
ミズナ「部長も強引ですからねぇ…ま、誘いには断れないですし…それにしても…」

   千里に猫パンチ。

ミズナ「これは一体何ですかっ?」
千里「え、これって?」
ミズナ「お手洗いの鏡でも見てきてくださいっ!!」
千里「?」

   席を立つ。

同・男便所
   千里、鏡の前に立って青ざめる。

千里「うわぁーーーーーーーーっ、これはなんじゃぁーっ、僕こんなの知らないよぉ!!」

   嘆きながら頭を抱えて崩れ去る。

   千里、それから毎日のくらい赤沼に誘われる。心もボロボロ。

   (数日後)
   中洲ミズナ、千里。

同・社員食堂
   千里、ランチをしている。そこに牧子。

ミズナ「小口さん、」
千里「あ、林さん。お疲れ様。」
ミズナ「ねぇ、最近ごしたそうね。大丈夫?」
千里「あ、あぁ…まぁね。」
ミズナ「何か悩み事?聞くわよ。」
千里「うん…」
ミズナ「分かった。なら今日、終わったらグラジオラスでね。」
千里「…。」
ミズナ「相変わらず返事がないのね。」

   去る。

岩波家・健司の部屋
   麻衣と健司。

健司「今日は休み?」
麻衣「えぇ。」
健司「ほーか。ならゆっくりしてろよ。俺が帰ったら式場とか、ドレスとか、見に行くか?」
麻衣「え、えぇ…」

   そこへ岩波悟(26) 

麻衣「あ、悟ちゃん!!」
悟「お、麻衣ちゃんにタケ。」

   微笑む。

悟「いよいよだな。着々と進んでるじゃないか。」
健司「うんっ。」
悟「このタケも、結婚か…早いもんだ。」
健司「兄貴は?」
悟「お前に先越されちゃったな。僕には未だ予定ないよ…」
健司「ならお相手は?」
悟「しつこいぞ、タケ。ほれ、お前は仕事があるんだろ、早く行け。」
健司「ほーいっ、んじゃな麻衣。」

   健司、出ていく。

悟「もう一晩いればいいのに、」
麻衣「ありがとうございます。でもいいですわ、私は未だ正式な岩波の嫁ではありませんので…」
悟「だったらせめて夕食までいなよ。」
麻衣「ありがとうございます、では…」

   悟を見る。

麻衣「でも悟ちゃんは?昨日の席にいなかったけど…」
悟「ごめんごめん、仕事でね…」
麻衣「ほーか。」

   二人、微笑む。


   健司、千里、それぞれの場所で仕事をしている。酒・IWANAMIでは、富貴惠が鼻も高々に従業員たちを指揮している。

富貴惠(あんな小娘にこの会社をとられてたまるものですか!!この会社は私のものよ。次期社長は私なの!!坊っちゃんの事もあんな小娘には決して渡さないわ。)


   (夕方になる)

健司の車
   麻衣と健司。

健司「んじゃ麻衣、行くか?」
麻衣「えぇ。」 

   車を走らす健司。麻衣、少し俯き加減な表情。

   (茅野駅前の道)
   千里とミズナが並んで歩いている。牧子は千里の手をとっている。

麻衣(あ、せんちゃん…)

   お互い、気付かずに通りすぎる。

麻衣(ほーよね、忘れよう。これでいいのよ…私には健司がいるんだもの。)

   寂しそうに俯いて微笑む。

健司「ん、麻衣どーした?」
麻衣「え、あぁ…いいえ。何でもないわ。」
健司「ほう?」

   車は走る。

グラジオラス
   千里とミズナ。二人、席に着く。

牧子「で、どうしたの?」
千里「最近さ、部長にしょっちゅうはぽねさやエッチな店に誘われて…飲めないお酒飲まされて…毎日憂鬱さ…。会社やめちゃいたいけど未だ入社して一年半だし、部長には期待されちゃってるし…」

   泣きながら話している。ミズナ、千里を慰める。

牧子「小口さん…大丈夫ですよ、どんどん吐き出しちゃってください…私がいます。」
千里「中洲さん…」

   牧子、泣く千里を抱き締める。

千里(麻衣ちゃん…麻衣ちゃん…)


衣装屋さん
   麻衣、色々と試着はしているが心ここにあらず。健司、麻衣の様子に気がつき、少し心配そう。

岩波家・居間
   麻衣と悟と健司。アルバムを見ている。三人、思い出話に火をつけて笑っている。 

健司「あ、二人でちょっとやってて。俺トイレ、」
麻衣「はーい、」 
悟「はいよ。」

   アルバムを捲っている。 

悟「あ、懐かしいなぁこの頃!!麻衣ちゃん君、覚えてる?」
麻衣「小学校の一年生ね。」
悟「大きくなったら何になる?何て話しした事あったろ?」
麻衣「えぇ、学校の授業だったわよね。確か健司は、お父さんの会社を継ぐー!!何て言ってたわよね。」
悟「結局、実際は嫌がって継がなかったけどな。」
麻衣「で、磨子ちゃんは看護婦さんとか言ったのかしら?」
悟「で、君は?」

   ニヤリ。

悟「何て言ったか覚えてるか?」
麻衣「あら嫌だ、」 

   頬を赤らめて困る。

麻衣「悟ちゃんったら意地悪ね。こんなところで言わすの?」 
悟「ってことは?何て言ったか覚えてるんだね。」
麻衣「え、えぇ…」

   ちょうど健司が入って来ようとする。

麻衣「私は、悟ちゃんの事が大好きなの。悟ちゃんのお嫁さんになるっ!!」
健司「っ!?」

   唇を噛んで自分の部屋へと戻る。

麻衣「…みたいな感じだったかしら?」
悟「そうそう。でも君も、結局は弟の健司をとった。あの頃は、まさか君とタケが一緒になるなんて考えもしなかったよ。」
麻衣「私もよ。」

   二人、笑う。

麻衣「あら、ほれにしても健司のやつ遅いわね。」
悟「そう言えばそうだなぁ…何やってんだ?あいつ…」
麻衣「さぁ…」

同・健司の部屋
   健司、泣きながら大きなぬいぐるみに顔を埋める。今日の麻衣の様々な表情がフラッシュバック。

健司(ほーか…あいつ、ほういうこんだったんだ。だで、今日ずっと浮かない顔をしてたんだ。俺より兄貴を…どいででも、よりにもよって兄貴なんだよ…くそっ、バカ野郎っ…)

   暫く。

悟の声「おーいっ、タケ。麻衣ちゃん帰るってよ。」
健司「…。」
麻衣の声「健司ぃ?」
健司「勝手に帰れよっ、兄貴に送ってもらえばいいだろぉっ!!」 

同・玄関
   麻衣と悟、幸恵と岩波。

幸恵「これっ、健司!!麻衣ちゃんに向かって何ですかっ!!」
岩波「降りてこいっ!!」 
健司「…。」
悟「全く…ごめんよ麻衣ちゃん…じゃあ僕が、」
麻衣「いいですよ、悟ちゃん。私一人で帰ります。」
悟「バカいえ。いいよ、じゃあ親父にお袋、ちょっと麻衣ちゃん送ってくるね。」
幸恵「えぇ、頼んだわよ。」
岩波「では麻衣ちゃん、又来ておくれ。」
麻衣「えぇ、ありがとうございます。是非!!」
悟「行こっ、」
麻衣「えぇ。」
 
   二人、家を出ていく。

岩波「全くあのバカ息子と来たら困ったものだ。きつく言ってやらなきゃいかん。」
幸恵「えぇ、全くですわ。」
 
   夫婦、怒りながら二階へと上っていく。

アパート
   深夜。千里、ミズナを担いで階段を上る。

千里「ほらほら、中洲さん。もうすぐつきますよ。いい加減に起きてくださいよ。」
ミズナ「…。」
千里「んもぉ、鍵は?ありますか?」  

同・ミズナの部屋
   千里、ミズナを布団に寝かす。

千里「全く…あんなに飲むからですよ。世話のやけるお嬢さんだなぁ…では、…私はこれで…」
 
   帰ろうとするがミズナが千里の手をつかむ。 

千里「ひっ、」
ミズナ「小口さん…もう少しここに…いてください…私はあなたの事が…好きなのよ」
 
   千里を引きずって自分に近づけるが、千里、手を振りほどく。

千里「やめてくれっ!!」
ミズナ「小口さん…?」
千里「私はもう帰ります。」

   千里、出ていく。牧子、目を開いて悔しそうな顔。

ミズナ「あの時の約束、もう忘れちゃったの?小学生低学年の時に約束したじゃない!!大きくなったら小口さんのお嫁さんになるって!そしたらあなたも言ったわよね、私の旦那さん、お婿さんになってくれるって、ねぇ、千里ちゃんっ!!」
千里「!!?」

   びくりとして一瞬凍り付いた様に立ち止まるが、又早足で歩き出し、ドアを閉める。



   千里、無言で物思い深げに夜道を運転している。


茅野芸術文化会館
   麻衣、あとから千里。別所には牧子と悦

悦「ねぇねぇミズナ、よくとれたわねぇこのチケット!!私一度は見に来たかったのよ!!」
ミズナ「でしょでしょ、」
悦「でもどうして?」
ミズナ「あぁ、本当は別の人と来る訳だったんだけどね…都合が悪いんだって。」
悦「ふふーん、彼氏?」
ミズナ「違うわ。同僚よ…でも少し私、彼の事…」

 
   麻衣と千里。

千里「麻衣ちゃんっ!!」
麻衣「あ、せんちゃん!!今日はありがとう。」
千里「いよいよ明日だね。頑張ろうね。」
麻衣「えぇ、今日のリハーサルは宜しく。」
千里「こちらこそ…あれ、でも」

   キョロキョロ。

千里「健司君は?」
麻衣「来てないわ。」
千里「どうして?仕事?」
麻衣「いいえ、今日は休み…何だか怒ってるみたいなのよ…」
千里「何、喧嘩でもしたの?」
麻衣「知らないわ、原因不明。突然なんですもん…」
千里「ふーん…。でもまぁ、すぐに仲直り出来ると思うよ。だって君達は高校生の頃からあれだけ愛し合ってた仲じゃないか。」
麻衣「へーこれで一年近くよ…」
千里「えぇ?」

   二人、歩いていく。ミズナ、千里に気付く。

ミズナ「あ、」

   そっと追いかける。

ミズナ(彼だわ…どうして…)

   麻衣が目に入る。

ミズナ(ふーん…そう言うことだったの…あの女のせいなのね…)
莉歩「ミズナ?」

   ミズナ、悔しそうにしてつけようとするがそこから先はスタッフルーム。警備の人に止められる。ミズナ、激しく抵抗。

同・スタッフルーム
   麻衣と千里。

麻衣「でもあんたこそ…良かったわね。」
千里「え、何が?」
麻衣「おめでとう、隠さなくたっていいだに。彼女さん、いるだら?」
千里「え、僕に?」
麻衣「ほら、この間、茅野駅前で手を繋いで歩いていた方よ。」
千里「あ、中洲さんの事?てか何で君、それを知ってるの?」
麻衣「丁度車で健司と通ったときに見つけたのよ。とてもきれいで優しそうな方ね。彼女とならば…」
千里「おいおい、冗談はよせよ。林さんは、ただの同僚。そんな関係じゃないよ。」
麻衣「え、ほーなの?」
千里「そうだよ。こんな事で僕も嘘は付かないよ。さ、マルチホールに行こ。」
麻衣「えぇ、」
 
   二人、部屋を出る。

同・マルチホール
   麻衣と千里、伴奏あわせをしている。

   別のコンサートホールではミズナと悦がお芝居を見ているが、牧子は期限が悪そうにしている。

岩波家・健司の部屋
   健司も機嫌が悪そうにピアノを弾いているが、鍵盤をガーンと鳴らし、突っ伏せる。


茅野芸術文化会館
   ミズナと悦が出てくる。

悦「はぁ、素敵だった。ミズナ、ありがとね。又誘って…」
ミズナ「え、えぇ…」

   二人、手を降って別れる。

   ミズナ一人。

牧子(絶対あの女から、千里ちゃんを奪ってやるんだから。見てなさい!!そう言えば…)

   少し考える。

牧子(千里ちゃん、明日から一週間も休みをとるって言ってたわ。一体何処に行くのかしら?まさか、あの女と一緒に何処かに行くの?何処かしら、何処かしら…そこまで聞いておくべきだった、気になるわ。)


はぽねさ
   赤沼と悦。

赤沼「そうなんだよ、あ、ちょっと待ってねぇ。」

   切る。

悦「なぁ旦那?今日あの殿方は?」
赤沼「小口かい?彼は今、ウィーンへ行ってるんだよ。」
悦「ウィーンへ?」

   悦、少し寂しそう。

飛行機の中
   麻衣、千里、健司が並んでいる。

千里「何か、久しぶりだね…三人で飛行機乗るの…」
健司「ほうだな、」
千里「でも、あの時と違うのは…」

   寂しそうに笑う。

千里「この公演が終わったら、君達はいよいよ結婚するんだね…何だか僕、寂しいな…おめでとう。」
麻衣「ありがとう、あんたは?」
千里「え?」
健司「ほーだよ。お前も、いい女見つけて結婚して、早く幸せになれよ。」
麻衣「この間の中洲さん、」
千里「冗談はよせって!!僕は彼女の事は何とも思ってないよ。」
麻衣「ほ?」
千里「そ。」

   麻衣と千里、目を会わすが、寂しそうに目を伏せる。健司、二人を見る。

   離陸。

千里「ねぇ、僕たちの行くのって…ワルシャワで会ってるんだよね。」
麻衣「えぇ、ほーよ。」
千里「良かった…。それならいいんだ。僕さ、会社に休みを申請するとき、会社には嘘言ってウィーンって言っといた。」
健司「どいで?」
千里「だって…先の先を読んでさ…」
健司「先の先?」

国際空港
   ミズナ、カウンターにいる。

ミズナ「ウィーンへいく便、明日に予約を!!急ぎなのよ!!」

飛行機の中
   千里、微笑む。

千里「まぁ、僕の考えすぎだとは思うけどさ…今時は怖いからね。年には年を入れて…さ。」
健司、麻衣「ふーん?」


ワルシャワ・国際空港
   三人が降り立つ。

千里「わぁ、懐かしいなぁ…久しぶり…」
健司「あぁ。麻衣、お前は初めてだっけ?」
麻衣「えぇ、ポーランドは初めて。何か新鮮…。」

   三人、空港を出る。

千里「じゃあ今夜は、」
健司「8時半までに王立歌劇場に…」
麻衣「えぇ…」 

王立歌劇場・ホール
   多くの人々が晩餐舞踏会に集まって厳かにわいわいとしている。

健司「入るか?」
麻衣「えぇ…」

   千里が先頭に、後から健司と麻衣が腕を組んで入場。人々、二人に注目。ステージの上に麻衣と健司は登り、千里は人の中に混じる。

   『ジプシーヴァイオリンの響き聞けば』

   二人、ステージから挨拶をしている。そして麻衣、健司から指輪を受ける。千里、笑いながらそっと涙を拭う。

千里(これでいいんだ、これで…おめでとう麻衣ちゃん…健司くん…幸せになれよ…)

   ワインを一気のみ。

   舞踏会が始まり、其其交流をしている。そこへタニア・ロイス、マルセラ・チフス、フレデリコ・ヴァレリア、フロレスタン・セサトールもやって来る。

麻衣「あ、」
タニア「柳平さん、お久しぶりね。おめでとう。」
麻衣「ありがとうございます。」
マルセラ「遂にあなたも結婚か…お相手は?」
タニア「あら、マルセラ知らないの?あの、有名デザイナーの岩波さんよ。」
マルセラ「まぁ!!」
フレデリコ「そうか、君は彼と結婚する事にしたんだね、おめでとう。」
タニア「何よフレデリコ、何かあなた不服そうね。」
マルセラ「実は、柳平さんの事、好きだったとか?」

   フレデリコ、赤くなる。

フレデリコ「そ、そんなまさか!!違うよ!」
フロレスタン「違うよな、第一17歳も歳が離れているんだ。」
麻衣「フロレスタン先生っ!!」
フロレスタン「柳平さん、君も立派な女性になったね。おめでとう、元気そうで私も嬉しい。」

   全員、微笑む。

麻衣「ありがとうございます、皆さん。でも、私の事はもう柳平さんなんて呼ばないで下さい。何か堅苦しいです…結婚して、岩波になりますが、岩波さんとも呼ばれたくないですし、麻衣って呼び捨てにして下さいな。」
タニア「そう、いいの?なら、麻衣。」
マルセラ「麻衣、」

   麻衣、満面の笑み。

麻衣「はいっ!!」

   健司と千里も微笑む。

麻衣「で、あちらが私のフィアンセ!で、あちらが、伴奏ピアニスト!!」

   健司と千里を連れて来て紹介をする。メンバー、再会を懐かしみ、思い出話に花が咲く。
千里、かなり朦朧としている。


   麻衣、健司と踊ったりしている。千里は二人を見て涙ながらに微笑むが、何杯もワインをお代わりしては一気飲みしている。


   (3時)
   夜中。お開きになる。

ホテル・個室
   千里、酔って苦しそうに横になっている。麻衣と健司もいる。

麻衣「バカね、飲めないくせに無理して飲んだんだら…」

   千里、起きて何度も吐く。麻衣、千里の背を擦る。

健司「麻衣、お前は出てろ…」
麻衣「でも…」
健司「早くっ、」
麻衣「分かったわよ…」

   麻衣、心配しながらも部屋を出ていく。

   健司と千里のみ。暫くして千里、やっと落ち着いて眠りに落ちる。

健司「バカだなお前…飲めないくせにやけ酒かよ…。つーこんは何?今でもあいつのこん好きなんだな…だで、あいつと一緒にいると、あいつに優しくされたり、あいつの顔を見ると辛いんだよな、な…ほーだろ?だで、あいつをまだ忘れられねぇもんで恋が出来ないんだな。違うか?」
千里「…。」

   千里、熟睡をしている。目からは一筋の涙が溢れる。

千里「(寝言)健司くん…」
健司「ん、何だ?千里…」
千里「(寝言)健司くん、僕は…僕は…伴奏が終わったら…麻衣ちゃんとは別に日本に…戻ります…そしてもう、…一生…彼女の前には、現れません…。ごめんね健司君…こんな…まだ彼女に未練がある…府設楽な僕を…許して…」
健司「千里…」

   そっと千里の体を叩く。一晩中千里の側にいる。

ホテル・別の個室
   ツインルーム。麻衣一人。ベッドに横になっているが、眠れずに考え事をしている。

麻衣(せんちゃん…健司…私、ふんとぉーにこれでいいんかしら…)

   首を横に降る。

麻衣(ほーよ、これでいいのよ麻衣!!だって、やっと夢が叶うのよ。高校2年の時からの夢がやっと叶うの。嬉しいことじゃない。お前がずっと心待にしていたときが今やっと訪れたの。なのに…)

   寂しそうになる。

麻衣(どいでこの私の心は幸せに踊らんのかしら…とっても嬉しいこんだだに…これからはいつでも、ずっと愛する彼が側にいるだに、心はこんねに切なく虚しく、満たされんのかしら…ほれが、結婚式が近付くにつれて更に強さと激しさを増すのは何故…?)

   目を閉じる。

   健司も千里の体に突っ伏せていつの間にか眠りに落ちている。千里はもう落ち着いて眠っているが、目には涙の跡。顔は何処と無く切なそうで寂しそう。しんみりとした不穏な夜が更けて行く。

王立歌劇場・控え室
    翌日。麻衣と千里がいる。千里は緊張の裏に悲しさがある。麻衣にも少し躊躇いがある雰囲気。

麻衣「ほれではせんちゃん、ボチボチ…」
千里「はい…」

   二人、俯き気味に無言で控え室を出る。

 
同・大ホール
   千里の伴奏で公演が始まる。健司、ボックス席で座りながら聞いている。

   麻衣の全リサイタルが終わる。

麻衣「皆様、本日はお忙しいなか、私のためにこの様な場を設けてくださり、又、お集まりいただきまして誠にありがとうございました。それでは最後になりますが、私の伴奏をしてくださった、ピアニストの小口千里さんの演奏をお送りしたいと思います。」

   千里、驚いておどおどと麻衣を見る。

麻衣「それでは、五分休憩の後、始めたいと思います。」

   大拍手

同・ステージ裏
   麻衣と千里。

千里「ちょっと、ちょっと!!何だよそれ、冗談だろ?僕聞いてないよ?」
麻衣「あんたへのサプライズ…だであんたの十八番、得意な曲を三十分くらいに纏めて演奏するの、ん。」

   千里に紙を渡す。

麻衣「これがプログラムよ。私が今までに聴かせて貰ったあんたのレパートリー。これが、私があんたを呼んだ、最大の理由。夢、諦めちゃダメだに。」

   千里、紙を受け取って目を通す。 

千里(…麻衣ちゃん…)

   麻衣、微笑みながらペットボトルのお茶を飲んでいる。 

同・大ホール
   大拍手と共に千里が入場して演奏が始まる。千里、緊張しながらも幸せそうに弾いている。麻衣と健司も微笑んで聞いている。

   一曲目が終わって会場に挨拶をして、会場を見回す。大拍手とぎっしりの人。

千里「っ?」

   青ざめて強張る。

千里(え…どうしよう…急に緊張、何だかしてきちゃった…)

   二度ピアノについて演奏を始める。が、手足は震えている。

千里(指が思うように動かない…ペダルを踏む足の感覚もない…)

   それでもノンミスで引き続けているが

千里(ヤバい…これはヤバい…何か、一気にトイレ行きたくなってきたよ…)

   麻衣と健司も不安げにステージ裏から見つめている。

健司「おい、千里のやつどうしたんだ?何か様子がおかしいぞ。」
麻衣「ふんとぉーだ…大丈夫かやぁ…」

   心配そう。
   千里は汗と涙で顔がびしょびしょ。

千里(せっかくの麻衣ちゃんのリサイタル…ここで、トイレになんか立ったら台無しだよな…でも、凄くトイレ行きたいし…後まだ8曲か…我慢できるかなぁ…)

健司(あいつまさか…)
麻衣(お手洗いに行きたい?)

   会場はうっとりとして聞き入る。

   次の曲に入る。千里、弾き出す。

千里(あぁ、どうする千里?…もうダメ…もうダメだよぉ…)

   手足が大きく震えている。タキシードから椅子、床が濡れていく。会場は驚いてざわざわ。健司はあちゃーっ、と額を叩き、麻衣は心配そうにそわそわ。

   千里、鍵盤をダーンと鳴らし、顔を真っ赤にして無言で俯き加減でステージから離れていく。

麻衣「せんちゃんっ!!」

   麻衣、会場に軽く頭を下げてから千里の後を追っていく。健司も追う。

   健司、控え室に入ろうとする麻衣を止める。

健司「麻衣、ちょっと…」

   手を引いて別の場所へ連れていく。

控え室
   千里の持ってきたインコがいる。千里、泣き崩れる。

別の控え室
   健司と麻衣。

麻衣「何よ、」
健司「麻衣、お前…ふんとぉーに俺と結婚したいか?」
麻衣「行きなり…何よ?」
健司「答えてくれっ。」

   麻衣、躊躇いながら

麻衣「勿論よ、勿論に決まっているら?ほいだって私は…」
健司「あぁ、分かってる。俺だってお前のこん愛してる。世界一大好きだよ。でも…ふんとぉーのところ今のお前は、俺より千里の事を愛してる。違うか?」
麻衣「ほんなこん…」
健司「俺には分かるんだ…ほして、あいつも未だにお前のこんが忘れられない…お前を愛してる。」
麻衣「ほんなっ、」

   麻衣の言葉を遮る。

健司「聞けっ、麻衣…」

   まっすぐに麻衣を見つめる。

健司「だもんであいつは、お前とはふんとぉーは一緒にはいたくはない…お前のこんを避けたかった…」
麻衣「何故?」
健司「分からないか?お前は俺の嫁になる…だで、へーお前との夢は一生叶わない。今でもお前を愛しているから…ほんなお前といるのが、あいつにとってとても辛かったんだよ。ほいだもんで、昨日の夜も…」

   (フラッシュ)
   昨日の舞踏会。千里、自棄のみをしている。

健司「お前への辛さと思い出を忘れたくて…無理に飲めない酒を自棄のみしてあんなになっちまったんだよ…。ほれに今日だって…」

   (フラッシュ)
   控え室で泣き崩れたままの千里。衣装は濡れたまま。

健司「あんなこんになっちまったのも…きっと、あいつの緊張もあったんだろうけど…お前への最後のプレゼント…っていうプレッシャーと切なさがあったからじゃないかな…」

   麻衣、健司を見つめて目を潤ませて聞いている。

麻衣「あんたは?…だであんたは、私にどうしろと?」
健司「千里の元へ行け…」
麻衣「へ?」
健司「お前は俺といるべきじゃない、あいつの側に行けっ!!」
麻衣「ダメよほんなの!!いいの、私、せんちゃんのこんはへー忘れたわ。彼とは過去の…」
健司「ふんとぉーに、ほーか?ほれじゃあお前も後悔するんじゃないのか?」
麻衣「ほんなこん…」
健司「自分の胸に手を当ててよく聞いてみろよ。お前の気持ち、ほしてあいつの気持ち…お前がへーあいつへの思いを忘れててもあいつは違うんだよ!!今のあいつの心には高校時代と変わらずお前しかいないんだ!!」

   健司、麻衣の胸に手を当てる。

健司「お前は…学生の頃に比べて凄く強い女になったよ。あれだけ泣き虫で寂しがりやだっただに…俺がいなくちゃダメだった。でも、今はへー…お前は、俺がいなくても生きてかれるだろ、」

   泣き出す麻衣の涙を拭う。

健司「でも、あいつには今、お前が何より必要なんだよ!!今のあいつを救えるのはお前しかいないんだ麻衣…。お前も千里のこんを今でも愛しているんだろ?あいつだって同じ気持ちなんだ。だで、今度は、お前があいつの側に行って、あいつのこんを支えてやれよ。」
麻衣「健司…」
健司「行ったろ?お前の幸せが、俺の幸せなんだ。お前が笑顔なら俺はほれでいい。お前にはいつも、心から幸せに笑っていて欲しいんだ。な。」
 
   寂しげに微笑む。

健司「これが…俺からの最後の我儘だよ…ほれっ、行けっ!!麻衣…」
麻衣「健司…」

   立ち上がる。

麻衣「うんっ、」

   健司、そっと麻衣の指から指輪を抜き取る。 

健司「あいつと幸せになれよ…さよなら、麻衣…」

   走っていく麻衣の後ろ姿を見ながら指輪をそっとポケットに入れて、然り気無く涙を拭う。

   『サントワマミー』

 

控え室
   未だ泣いている千里。そこへ麻衣が飛び込んでくる。

麻衣「せんちゃんっ!!」 
千里「麻衣ちゃん…」

   項垂れて顔を背ける。

千里「ごめんね…本当に。君の引退リサイタル…台無しにしちゃった…」
麻衣「ほんなのいいの…ほれより、私こそごめんな…あんたの気持ちも考えずに、」
千里「ありがとう…君は僕の為にやってくれたんでしょ…凄く嬉しかった…」

   者繰り上げる。

千里「君は?何でここに来たの?健司君と一緒にいなくていいの?」
麻衣「いいの、私はあんたの側にいたいの…。辛かったら、切なかったら…」
千里「演奏中に…トイレになんて立てないだろ…君の折角の演奏会が…」
麻衣「ほんな、ほんなのいいんに…良かったんに。」

   千里を抱き締める。

麻衣「ごめんなせんちゃん…」
千里「やめて…」

   麻衣を振りほどく。

千里「僕の出る幕はもうこれでおしまい。今夜の便で、一人で僕は日本へ帰る…君達二人の幸せを…心から願っています…。」

インコ、二人を見ているが、軈て。

インコ「千里の嘘つきっ!嘘ばっかり!!」

   麻衣と千里、びくりと驚いてインコの方を見る。

インコ「僕は寂しいよ…麻衣ちゃん、行かないで…。結婚なんてしないでくれ。君と一緒にいたいよ…君が大好きなんだ、世界一愛しているの…君無しで僕はどうやって生きていけばいいの?」

   千里、真っ赤になる。

麻衣「せんちゃん…これ…」
千里「…。」
インコ「僕の気持ち、僕の気持ち、これが僕の本当の気持ち…」
麻衣「せんちゃん…あんた、ふんとぉーに…私のこん」

千里「こんなの嘘だよ、冗談…だから気にしないで…気にしないで君は健司君と…」
   
   涙を拭う。

麻衣「いいえせんちゃん、聞いて…。私も実は、この七年間、一度としてあんたのこん忘れたことなかったの…ずっとあんたのこんが忘れられなかった…。健司と一緒にいてもいつしか私、あんたの事しか考えられなくなって…あんたが林さんと一緒にいたときも…」
千里「麻衣ちゃん…本当に?」  

   麻衣、大きく頷いて千里をまじまじと見る。

千里「僕も、君と健司くんの結婚が決まってからずっと…切なくて仕方なかったの。健司と一緒に楽しそうにしているのを見ると、いつも心がとても辛かった…。だから、君の事を忘れようって…君といると余計に辛くなるから…もう君とは会わないようにって…」
麻衣「何だ、ここずっと…私を避けてるような感じだったもんで…私のこんを嫌っとるかと…」
千里「そんなまさかっ!!そんなこと、今までに一度としてないよ。君の事を嫌うどころか、ずっと忘れることが出来なかったよ…」
麻衣「せんちゃん…」

   泣き笑い。

麻衣「なぁ、せんちゃん…真面目に、聞いてくれる?」
千里「…何?」
麻衣「私と…結婚してくれませんか?」

   千里、驚いてしばらく目をぱちぱち。

千里「いけないよっ!!ダメだよそんなの!!だって君は、健司君と…」
麻衣「婚約してた…。でも、あいつとはへー、別れたわ。」
千里「へ、どうして?僕のせい?僕のせいで?だったら、」

   泣いて立ち上がる。麻衣、千里を取り押さえる。

麻衣「違うわ!!違うの!!私があんたを愛しているからよ…。ほいだって、…健司が言ってくれたの…。絶対後悔するって。ほれじゃあ私と健司も幸せになれない…。健司にも悪いし可哀想…。」

   千里を再び抱き締める。

麻衣「私は、愛する方と一緒にいたいの、ほれがあんたよ!!あんたじゃなくちゃダメなのよ!!あんたない人生なんて私、生きていかれない…」
千里「麻衣ちゃんっ、」

   声を出して泣き出す。

千里「僕も、僕も君と一緒にいたいよ…もうずっと、離れるなんて嫌だよ…。」


   暫くして涙を拭う。

千里「麻衣ちゃん…でもいいの?僕は、自分の夢も叶えられなかった…ただの公務員…。そんな僕でも本当に、一緒になってくれるの?」
麻衣「勿論よ、どんなあんたでも…あんたはあんた…昔と変わらない、思いやりと優しさのあるあんたですもの…ほんなあんたといれれば私は十分。ほれにあんたは私の夢を叶えてくれたじゃない!!私のピアノ伴奏をして、あの舞台でピアノ弾いてくれたじゃないの!!」
千里「ありがとう、本当にありがとう…。宜しくお願いします、僕と結婚して下さい…」
麻衣「はい…喜んで…」

   健司、廊下で聞きながら微笑んで涙を拭うとその場をそっと去っていく。千里、麻衣を強く抱き締めて口付けをする。


   麻衣、ふふっと微笑む。

麻衣「でもあんた…ずっとほのままでおったの?はぁくズボン替えなくちゃ…又風邪引いちまうに…。」
千里「うん…」
麻衣「帰ろ、一緒に。」
千里「はい、」  

   二人、涙を拭って手を取り、立ち上がる。


ホテル・一室
   麻衣と千里。
 
麻衣「健司ぃ、先帰っとるだらぁ?」

   入る。

麻衣「あれ?健司?」 
千里「何か、置き手紙があるよ。」

   手に取る。

健司『(文面)俺は先に日本に帰る。千里と幸せにな…おめでとう…』
千里「健司くん…」 
麻衣「健司…」

   二人、肩を寄せあって空遠くを見る。

千里(ありがとう…健司君…) 
麻衣(私、せんちゃんと幸せになるな…彼を一生支えて守っていくわ。これからは強い柳平麻衣として…。)

飛行機の中
   健司一人。窓の外を見つめながら、どことなく寂しそうに微笑む。

健司(さようなら麻衣に千里…これからは二人で幸せになれよ。麻衣、弱虫で泣き虫な千里姫を頼む…。)

   『嘆きのセレナータ』

小口家
   麻衣、千里、珠子

珠子「まぁ、せんちゃんと…麻衣さんと?」
千里「はい、ママ。先日麻衣ちゃんと婚約を致しました…夢を叶えることは出来なかったけど、彼女はそんな僕でも…」

   携帯がなる。

千里「あ、僕だ。ごめん、ちょっと待っててね…誰だろ?はい、こちら小口…」

   話しているが、段々驚きに目を見開いて涙が溢れるも、相槌を打つ。

   二人のもとへ戻ってくる。

麻衣「せんちゃん?」 

   心配そう。

麻衣「どーゆーだ?あんた泣いとるのね…大丈夫?」
珠子「せんちゃん?」
千里「ワルシャワのロマノフ氏からでした…」

   涙を堪えながら

千里「僕をプロのピアニストとして…サポートして下さると…」

   麻衣、珠子も喜びの顔。わっと泣き出す千里を麻衣が抱き止める。


   (しばらく後)

麻衣「ではせんちゃん…行くのね、ワルシャワ…」
千里「あぁ、いいの?」
麻衣「勿論よ。行ってらっしゃい…私はここであんたの帰りを待ってます。」
千里「そうか、分かった。じゃあ式は、帰国してからでもいい?」
麻衣「えぇ、ほれまでずっと私は…」

   千里、麻衣を抱き締める。

麻衣「私も嬉しいに…良かったな、ふんとぉーに良かったな、せんちゃん。おめでとう…」
千里「ありがとう、ありがとう。全ては君のお陰だよ…ありがとう。本当にありがとう。」

   珠子も微笑む。


港町
   麻衣と千里。

麻衣「船で行くのね…飛行機で行けばいいのに…」
千里「いいんだ、何となく船に乗りたい気分。メールも電話も、手紙もするね。」
麻衣「私もよ…気をつけて、必ず戻ってきてね。」
千里「あぁ…勿論さ、約束する。」

   汽笛がなる。

千里「あぁ、もう行かなくっちゃ…じゃあね、愛してるよ。」

   軽く麻衣を抱き締めて船に乗り込む。麻衣、船が見えなくなるまでいつまでも手を振っている。


茅野市役所
   赤沼とミズナ。

ミズナ「あの、部長…」
赤沼「ん、何だ中洲くん…」
ミズナ「小口さんが最近来ていないようなのですが、何かあったのですか?」
赤沼「おや、君は聞いてないのかね?小口は、今度結婚するって言ってね…別の職種へ転職もするんだ。だから、」
ミズナ「け、結婚ですって?」
赤沼「あぁ…しかもお相手は、あのヨーロッパの劇場を湧かせたソプラノ歌手、柳平麻衣なんだ。幼馴染みらしいよ…いやぁ、何か名誉だねぇ…」

   牧子、悔しそうに去る。

赤沼「おい、中洲くんっ、ちょっと…」
牧子(千里ちゃんが結婚ですって?この間のあの女ね…許せないわ。この私との昔からの約束を破るだなんて…いいわ、今に見てなさいっ。)

白樺高原・コスモス湖岸
   麻衣、一人。
   『結婚の歓び』

麻衣「ふっーーーっ、」

   伸びをして立ち上がる。後ろからは中州ユカリ(23)

麻衣「ん?」
ユカリ「麻衣ちゃんだね、おめでとう。」
麻衣「誰?」
ユカリ「やだなぁ、忘れちゃった?僕だよ。中州ユカリ。久しぶりだね。」
麻衣「え、ユカリ君っ!?」

   体を触る。

麻衣「まぁ、びっくり!!大きくなったわね。」

   ユカリ、照れる。

麻衣「でも奇遇、又ここで会えるだなんて!!何、君もここへ遊びに?」
ユカリ「うん、まぁね。」
麻衣「一人で?」
ユカリ「そうだよ。」

   微笑む。

ユカリ「小口君と結婚することになったの?」
麻衣「え、どいでほれを?」
ユカリ「分かるさ、君の顔がそう言ってるもん。」
麻衣「顔がぁ?何か君って変な子。」
 
   二人、笑う。

ユカリ「で、今小口君は?」
麻衣「えぇ、2年帰ってこないわ…ワルシャワにいるの。ピアニストになるための留学よ。それまで少し寂しいけど…彼が戻ったら私達、式を挙げるのよ。」
ユカリ「そうか。とりあえず、折角会ったんだし…一緒に遊ぼうよ。」
麻衣「え、ダメよぉ」

   笑う。

麻衣「私はもうすぐ人妻よ。別の男の子と遊んだなんて知ったら彼、嫉妬しちゃわ。」

   ユカリ、意味深に小粋な顔をする。

ユカリ「自分の息子に嫉妬するかな?」
麻衣「え?」
ユカリ「彼は今、ワルシャワなんだろ?知らなくちゃ大丈夫だって。それに僕、そんなつもりじゃないもん。」
麻衣「ほ?」

   と、いいながらも二人、ヒュッテの方へ歩いていく。


   (一年以上が経って)
   麻衣とユカリ、遊んでいて夕方になると手を降って別れる。

茅野駅・ホーム内
   雪が降っている。ユカリ一人。ぼわーっとしている。

ユカリ(はぁ…何なのかなぁ、この気持ち…。心がモゾモゾする…何だろう、寂しいような、きゅんとするような…)

   ユカリの膝の上にケセランパサラン。その羽の中に麻衣の面影を重ねる。

ユカリ(君も…妖精なのかな…まるであの子は雪の妖精のように可愛い…こんな気持ちは初めてだ…)

   『妖精のすむ町』

ユカリ『ケセランパサラン舞い上がる、ある冬のあの日。雪景色と笑顔の君。どんな顔にしよって笑いながら、雪玉を転がす、惚けた顔の雪だるま見つめて、二人声、挙げて笑った…シャラララ一面の雪景色、まるで妖精の町みたい、冷たく凍えた指先をそっと暖めてあげるよ。シャラララ小さな結晶が舞い落ちるこのままずっといたいな君のいる…この町に…。二人きりの駅のホーム、まだ降り続く雪、楽しそうに笑う君、白い息が消えて行く。寒いでしょうって君は僕の手をぎゅっと握った、温もりを感じたんだ、僕は君をグッと胸に抱き締めた…。シャラララ一面の銀世界、まるで僕らだけの町みたい…冷たく凍えた体をそっと抱き締めて暖めてあげるよ。二人見つめ会った小さなプラットホーム、遠くで聞こえる踏み切りの音が僕らの邪魔をした。』 

   電車が来る。

ユカリ(又来るよ…さようなら…) 

   微笑んで電車に乗り込む。


ワルシャワ・アパート
   ピアノを弾いていた千里、ふと窓の外に目をやる。雪が降っている。

千里(麻衣ちゃん…今頃君は、どうしてるかな…早く帰って会いたいな…君に…)

   微笑んで再び弾き出す。


柳平家・和室
   麻衣1人、繕い物をしている。

麻衣(せんちゃん…早くあんたに会いたいわ。)

   フフっと微笑む。

武家屋敷の前
   役人姿のユカリと女官姿のミズナ、役人姿の蘇我さん

蘇我「ユカリ君、ミズナさん、君達は今…姫君に、そして殿下に特別な感情を抱いてはいないか?」
ユカリ「それはぁ…」
蘇我「言った筈だ。君の役目は何だ?姫君と若殿を幸せにすることだろう。もし、役人妖精の掟に逆らえばどうなるか…以前のあの日のようになるのだぞ。」
ユカリ「分かっています…」
ミズナ「しかし、殿下とは幼き頃からの約束が…」
蘇我「君は、私達の任務よりも人の契りを優先するのか?掟に背くのか?」
ミズナ「そんなんでは…」
蘇我「道はただ二つしかないのだ。君達が消え、姫君と殿下の幸せを優先にするか…とも、以前のように、君達の幸せを優先にした結果、姫君と若殿を不幸にし、姫君の命を犠牲にするか…」
ユカリ「…。」


白樺高原・コスモス湖岸
   あれから2年後の12月9日。麻衣1人、あとからユカリ。

ユカリ「明日なんだよね、小口君が帰ってくるの…」
麻衣「えぇ、ほーなの。やっと彼、帰ってきてくれるのよ。」
ユカリ「良かったね。幸せになれよ。」
麻衣「えぇ、ありがとう。」
ユカリ「僕はもう少しだけ、ここにいる予定なんだ…」 
麻衣「いつまで?」
ユカリ「分からないけど、あと数ヵ月。でもいついなくなるか分からないからその前に君に一つ、言っておきたいことがあるんだ。」
麻衣「何?」
ユカリ「僕、初めてでさ、自分でも驚いたんだけど…」 

   『僕が一番驚いたのは?』  

ユカリ『この気持ちをあとどれくらい?どれくらい隠してればいい?好きだよっていってしまえば心は晴れるのだろうか?隣にいつも君はいるのにこんなに近くにいるのにどうしても紡ぎ出せないたった二文字の想い…LaLaLaLaすれ違うときのなか、僕は君と出会った』

   麻衣、赤くなって動揺。

麻衣「でもユカリ君、ほんな、ほれは困るわ…。」
ユカリ「分かってる、いいんだ…ただ僕はこの気持ちだけを君に…」

   麻衣、心ここに非ずでぽわーんとしている。

ユカリ「ん、麻衣ちゃん?麻衣ちゃん?」
麻衣「ユカリ君…わ、私…」

   そのまま倒れて湖に足を踏み外して落ちてしまう。

ユカリ「麻衣ちゃんっ!!」

   飛び込もうとする。

蘇我の声「彼女が死ねば、君はこの世にいることはできないが、もう一度君のいたあの世界で生きることが出来る…。」
ユカリ「嫌だ、嫌だ、そんなの絶対に嫌だ。今のこの体が消えちゃっても、彼女が、今のこの中州ユカリを忘れちゃっても、それでもいい!!どうか彼女を助けて!!」

   ユカリ、飛び込む。


   麻衣を抱いて水面に出てくる。麻衣はぐったりと意識を失っている。

ユカリ「待っててね…今すぐに病院に連れていってあげるからね…死ぬなよ…小口君と結婚するんだろっ!!」

   麻衣を岸に寝かせて応急処置をしている。

ワルシャワ・国際空港
   その頃。千里がプレゼントを抱えてルンルンとゲートへと向かっていく。

千里(早く帰りたいな…彼女の反応が楽しみだ!!どんな顔するかなぁ…これ、彼女屁のサプライズプレゼントさ…僕からの。) 

   フフっと笑う。スキップ気味。

   『君へのサプライズ』

   電話。

千里「おっと、電話だ。誰からだ?もしもし、」

   出るが、一気に表情は曇り、青ざめる。

千里「…え、」


諏訪中央病院・病室
   千里が駆け込んでくる。麻衣がベッドに横たわり、人工呼吸器と点滴をつけられていたが取り外される。ピクリとも動かない。側には健司。フロレスタン・セサトールも側にいる。

千里「麻衣ちゃんっ!!」
健司「お…千里…」
千里「健司くん、麻衣ちゃんは?」
フロレスタン「君が…旦那様かね?」
千里「は、…はい。」
フロレスタン「残念ながら…奥さまは…御臨終です。」
千里「御臨終って…そ、そんな…」

   震えて泣き出し、後退り。

千里「嘘ですよね…先生…」

   健司とフロレスタン、とても悲しい顔をして麻衣を見ている。そこへ、タニア、マルセラ、フレデリコも来る。

タニア「彼女はとても優秀でいい子だったわ…。声楽も1000年に一度、出るかでないかの天才だった…器量がよくてなにやらしても完璧で、これからの将来もっと輝ける筈だったのに…」
マルセラ「そんな子をこんなに若くして失ってしまうだなんて、とても残念だわ。」
フレデリコ「いや、残念の前にとても悲しいよ。」

   千里、泣きながらメンバーを見る。

フレデリコ「でも小口君、一番君が悲しいと思う…」

   千里、泣き崩れる。手に持った花束とプレゼントの包みは床に投げ出される。









 










  







   





 






   






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