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石楠花物語高校生時代
新しき春の予感
同・ステージ裏
   麻衣、余裕そのものの顔でジュースを選んで恥から少しずつ飲んでいる。そこへ小松。

小松「や、」
麻衣「そうちゃん…あれ、せんちゃん一緒じゃないだ?」
小松「あぁ、彼は…トイレ。」
麻衣「ほう…」
小松「でも君は、相変わらず余裕そのものって感じだね。やっぱり緊張とかしないんだ。」
麻衣「えぇ、変に無駄な緊張はないに。ほー言うあんたこそ、余裕そうじゃないの。」
小松「いや、僕なんて全然、全然!!これで…」

   ポケットから小箱を取り出す。

小松「騙し騙しさ…」
麻衣「まぁ、フェルマ24!!これって…」

   心配そう

麻衣「あんた、大丈夫だだ?」
小松「あぁ…僕って緊張するとムカムカしてきちゃうからさ…前回それで戻しちゃったから…。」
麻衣「まぁかわいそう…今年は、どうだだ?」
小松「お陰さまで…身体は元気だよ。」
麻衣「良かった。」

   千里、いつの間にか戻っているが、緊張に震え、ペットボトルの紅茶を何度も飲んでいる。 

小松「でもそこに…僕より重症なのが戻ってきたぞ…。」
麻衣「せんちゃん、」
千里「!?っ。」
麻衣「ほんねに驚くこんねぇーに。」
千里「ご、ごめん。」
麻衣「リラックス、リラックス…肩の力を抜いてよ…」
千里「あ、ありがとう…」

   麻衣、千里の背を優しくさする。千里の表情が徐々に柔らかくなる。

麻衣「今年は?あんた、何弾いてくれんの?」
千里「あぁ…」

   ピアノピースを見せる。

千里「これ…」
麻衣「まぁ、何これ!!とても大曲じゃないの!!すごーい、楽しみにしとる。」
千里「いや、そんな期待されちゃ困るよ。僕の演奏なんて…期待裏切ることんなるよ。」
麻衣「バカ、何いっとるんよ。ほんなこんないに。何度もあんたの演奏聴かせてくれとるくせに。私なんてほの度にいつも興奮しちゃうもの。今回も絶対に素晴らしいに決まっとるわ!!」

   麻衣、うきうきワクワク。千里、弱くてれわらい。

小松「そうだよなぁ、悔しいけど…ピアノの腕は君には負けるよ、小口くん。」
千里「嫌だな、小松君、君までそんなこと言って…」

  急に血相を変えてそわそわじたばた。

麻衣「ちょ、ちょっと急にどうしたんよせんちゃん!!」
小松「小口くん?大丈夫か、君…」
千里「やばーい、これヤバすぎるよ…緊張最高潮…マックスだぁ。どうしよう…。」

   涙目で腕時計をチラチラ。

千里「大丈夫だよな、まだ時間あるよな…」

   ピアノピースを床に投げ捨ててステージ裏をかけ出る。

千里「ご、ごめんっ!!僕、もう一回トイレっ!!」
麻衣、小松「お、おい、ちょっとぉ!!」
小松「全くもう…」

   困ったように笑う。

小松「ここまで来ると、彼も本当に気の毒だよね。」
麻衣「ほーね、あれだけの才能があるのに」
小松「こんな心配事さえなければ彼は完璧なのにね。」
麻衣「ふんとぉーに…ほーね。」


   ブザーがなる。会場には、楽譜をもってチェックする健司と小野。別所には紡、糸織も花を振ってみている。

アンニーダ「それでは、最終部に入りたいと思います。最終部は器楽の部、みなさんどうか最後までお付き合いくださいませ。審査員は、前回と同じく、ピアニストのボスワニー・ロマノフさん、バイオリニストのユリアーネ・レニャーノさん、クラリネッティストのマイネ・ザビーヤーさんです。それでは、エントリーNo.…」

   次々と演奏が始まる。審査員達、札をあげている。

小松「次、僕で、その二番後が小口くんだよね…」
麻衣「えぇ、ほーね。」
小松「おい、言っている間にもう番来ちゃうぞ!!彼は一体何やってんだよ!!」
麻衣「えぇ…」

   麻衣も心配そう。

麻衣「いいわ、私どうせ最後だし、彼の様子見てくる。」
小松「でも…」
麻衣「大丈夫、ちゃんと戻るに…」

   小粋に出ていく。

小松「んもぉ、麻衣ちゃんまで行っちゃったよ…」

アンニーダ「続きまして、松本市より、ピアノ部門。小松清聰君、17才です。」
小松「よしっ、」

   小松、緊張気味に入場する。

同・男子トイレ
   その頃。千里、個室で吐いている。そこへ恐る恐る麻衣。

麻衣「…すみませーん…失礼しまぁーす…」

   顔を真っ赤にして申し訳なさそう。トイレ内には千里のみ。

麻衣「せんちゃん?…せんちゃんっ!?」

   驚いて駆け寄る。

麻衣「せんちゃんっ、あんたどーしただ?大丈夫?」

   背を擦る。

千里「あぁ…麻衣ちゃん…」

   弱り果てながら。

千里「何か又、気持ち悪くなっちゃってさ…」
麻衣「可哀想…ピアノ、もうすぐよ、弾ける?」
千里「あぁ、大丈夫…もう僕は大丈夫だよ、ありがとう…」

   流して立ち上がる。

千里「ごめんね、心配かけたね。」
麻衣「いえ。さ、もうあんたの番だに。行きまいっ!!」
千里「あぁ、うんっ。」

   千里、手を洗い終えると、麻衣が千里の手をとる。走り出す。

千里「!!?」

   赤くなって恥ずかしそうに笑う。

同・ステージ裏
   小松が終わって戻ってくる。

小松「おぉっ、やっと戻ってきた。ギリギリセーフだよ、小口くん!」
千里「ごめん、ごめん。」
麻衣「そうちゃん、どうだった?」
小松「残念ながら…今年もダメさ。ロマノフ氏に不合格の札出されたよ。」

   不貞腐れる。

小松「あーあ、もう僕って才能ないのかな?ピアノもバレエもやめようかなぁ。」
麻衣「ちょっとぉ、あんた何言っとるんよ!!まだまだこれからだに。あんたも若いんですもの!!ほれに、コンクールが全てじゃないに。」
千里「そうだよ、だからさ、君も自信持てよ。」

   小松、笑う。二人も笑う。

   次の人も終わる。

アンニーダ「続きまして、茅野市よりピアノ部門。小口千里君、17才です。」

   千里、震え上がる。

千里「ぼ、ぼ、僕だぁ!!」
麻衣「頑張って、せんちゃん!!あんたなら出来る。」
小松「そうだよ。だから、さ。な。」
千里「う、うん…僕、頑張るよ…」

   固くなって入場する。演奏が始まると、会場から歓声が飛ぶ。

   ロマノフは微笑んで合格を出す。千里、放心状態でボサーッと戻ってくる。麻衣、千里を抱き止める。千里、我に返ってぽわーんと紅くなる。

麻衣「凄いにあんた、凄いに!!流石は音楽院生だわ!!」
千里「やめろよ…もう僕は音楽院生じゃないよ…」
麻衣「でも、専門的に学んでいたんですもの…やっぱり違うわ。しかも元々の天才なんですもの…。自信もって、あんたの腕なら必ず素晴らしいピアニストになれるわ。東京芸大だってほれなら余裕で入れちゃうわよ!!」
千里「そうかな、ありがとう…実は僕も、高校出たら東京芸大、行くのが目標なんだ…。」
麻衣「わぁーっ!!!」

   大興奮をして千里に抱きついたりしている。

   麻衣の番。

アンニーダ「続きまして、茅野市よりピアノ部門。柳平麻衣さん、17才です。」
麻衣「あ、私だ…」

   麻衣、緊張したような複雑な表情で入場する。千里、小松、顔を見合わす。

小松「何か彼女…いつもと様子、違くない?」
千里「君もそう思う?実は僕も…。」

   二人、心配そうに麻衣を見つめる。

   会場。

小野「お、いよいよだな、いっちゃん。」
健司「あぁ…」

   麻衣がステージに出てくる。健司、泣きそうになる。

小野「おいおい、涙はまだ堪えろ…。」
健司「麻衣…」

   麻衣、弾き出す。健司、目を閉じて聴いている。麻衣、途中で涙が溢れながらも弾いているが、弾けなくなり、鍵盤をガーンと鳴らす。

小野「!!?」
健司「麻衣っ?」
小松・千里「麻衣ちゃんっ?」
美和子「麻衣?」
紡、糸織「麻衣?」
ロマノフ「柳平さん、どうなさいましたか?続きをお願いします…。」
麻衣「申し訳ございません…」

   弱々しいながらも再び弾き出す。

麻衣「この曲は、今年このコンクールに出るはずだったある方も弾く筈だった曲でした…。でも、ほの方は、私の大切なほの方は、二ヶ月前に亡くなりました…。なので、コンクール無視して申し訳ありません…彼への追憶の為に、ここでこの曲を弾かせてください…。」

   会場、しんみりとなる。

健司「麻衣、麻衣…ううっ、」

   楽譜を放り出して、涙を隠すように急いでホールを出ていく。

小野「おいっ、いっちゃん。いっちゃんったら、ちょっと待てよっ、おいっ!!」

   小野も追いかける。

   麻衣、演奏を終えるとそっと戻っていく。


   ステージ裏。泣きそうな顔の千里と小松。小松はヨロヨロと今にも倒れそうな麻衣を抱き止める。

小松「麻衣ちゃん…君、何であんな辛いことを…。」
千里「亡くなったって…ひょっとして…健司君の事なのか?」
小松「小口くん…そういえば君はまだ知らなかったね…。そう、実は…そうなんだ…」
千里「そんな…そんな…」

   手で顔を覆って乙女の様に泣き出す。

麻衣「嫌ねせんちゃん、どいであんたが泣くんよ…」
千里「だって、だって…」
麻衣「でもな…」

   涙を拭って微笑む。

麻衣「これでやっと吹っ切れたってか、スッキリした…。あいつもきっと喜んでくれているわ。あいつとの約束、ここで果たせて良かった…。」

   ステージ裏を出る。

麻衣「さ、ホワイエ行って休みましょう。みんな喉乾いたら。私、奢るに。」
二人「う、うん…」

   二人も出ていく。  

同・男子トイレ
   個室で健司が泣いている。そこへ小野。個室のドアを叩く。

小野「おいっ、いっちゃん。いっちゃんったら、いんだろ?出てこいよ…」
健司「俺なんて、来なきゃ良かったよ…あんなあいつの辛い姿見るくらいなら、来ないほうがずっと良かった…。」
小野「いっちゃん。」
健司「海里、お前結局、あいつの兄弟にも小松にもなにもしてねぇーんだろ。お前が、お前がもっと早くにあいつに俺のこん伝えていてくれれば、あいつはこんなんにはならなかったんだ!!可哀想に…どうしてくれんだよ!!お前ふんとぉーに、俺とあいつの味方かよ!!俺らを不幸にしたいのかよ!!お前ほれでも俺の無二の親友なんて言えるのかよっ!!最低だっ!!」

   声をあげて泣いている。

小野「いっちゃん。悪かった、本当にごめん…」
健司「謝ったってへー遅いよ。あいつがどれだけ辛い想いをしてるか、お前わかってんのかよっ!!俺には痛いほどあいつの気持ちがわかるんだ…あいつの辛い顔、あいつの涙を見ると俺も悲しく、辛くなるんだよ…。」
小野「いっちゃん…」

   静かに。

小野「もうじきお前の番だぞ、出てこいよ…。」
健司「俺、へー出ない。帰る…。」
小野「いっちゃんっ、」
健司「だでへー海里は帰れよっ!!俺にへー関わらないでくれっ!!」
小野「なあ、」

   ノック。

小野「ならさ、出場しなくてもいいで、せめてそこからは出てこいよ。冷えるぞ。お前、ずっとそこにいるつもりか?いつまでもそこにいたら、体壊して本当に死ぬぞ。又あの子に心配と不安をかけさせるのか?」
健司「お前が言うんじゃねぇーよ!!一番あいつを傷つけてんのはお前なんだぞっ!!」
小野「悪かったよ、いっちゃんごめん、ごめん。」
健司「へー知らないっ!!」

   鍵が開いて出てくる。

小野「お、いっちゃん。やっと出てきたか…。」
健司「海里…」

   わっと泣きつく。海里、健司を抱き止めながら。

海里「よしよし、さ、いっちゃんどーする?帰るか。」
健司「もう帰る…」
海里「分かった、ほいじゃあ帰ろう。俺、松本だけどさ、今のお前、一人にできねぇーもんで…茅野辺りまで一緒にいくよ。」

   海里、健司の肩を抱いてトイレを出ていく。


   一方、その頃の会場では、

アンニーダ「続いて、原村からピアノとバイオリンの併願。岩波健司くん17才です。…岩波健司くん、岩波…君?」

   何度も健司の名が呼ばれている。

アンニーダ「あれ?岩波君?」

   咳払い。

アンニーダ「大変失礼いたしました。岩波健司くんは、本日欠席のようですので…」

紡「岩波健司くんって…今年も応募しとったんね。」
糸織「てか、気の毒だけどあの子が来るわけないに…」
紡「まだ、出場の取り消ししとらんかったんね…」
糸織「麻衣どうしたら?こんなん聞いたらあいつ、又辛くなっちまうに。」
紡「確かに…んだんだ。」

   二人、心配そうに顔を見合わす。

同・会場ホール
   結果発表が行われている。ステージには合格を受けた全部門の人々。大拍手。

アンニーダ「それでは、結果発表をこれより行いたいと思います。まずは、バレエの部。アーニャ・シルヴァさん、お願い致します。」
アーニャ「はい、では今年はペアを発表したいと思いまして、ペアを選ばせて頂きました。ではまず、第三位は…」

   一同、息を飲む。

アーニャ「シルヴィラを踊られた、茅野麻衣子さんと、片平百々くんのペア。」

   小松、がくりと肩ん落とす。

アーニャ「来年、2008年春に行われるサンクトペテンブルク、短期留学が贈られます。おめでとう。」

   二人、誇らしげに頭を下げる。

アーニャ「第二位は…エスメラルダを踊られた、」

   麻衣、千里、唾を飲み込む。

アーニャ「原田愛子さんと、今井まいさんのペア。」

   二人、残念そうに顔を見合わせて微笑む。

アーニャ「来年2008年春に行われる、サンクトペテンブルク、マスタークラスが贈られます。おめでとう。」

   拍手。

アーニャ「では、第一位を発表したいと思います。第一位は…同じく、エスメラルダを踊られた、柳平麻衣さんと、小口千里君のペア。」

   二人、驚いた顔をして顔を見合わす。

アーニャ「一位のペアには、来年2008年夏に行われる、ベルリンマスタークラスと、ドイツバレエの森・バレエの祭典の出場権が贈られます。お二人には、祭典のメインプリンシパルとしての出場が認められます。おめでとう。」

   千里、手で顔を覆って乙女の様に泣き出す。麻衣、涙を浮かべつつも千里の肩を優しく抱く。

アンニーダ「ありがとうございました。続いて声楽の…」
タニア「アンネン、いいわ。」
アンニーダ「へ?」
タニア「声楽の部は、言うまでもありません。なんしろ二人しかいないのですからね。それと、今年はもう一人珍しくいたわね。三位、マリーアンネ・ストレータス。今年夏に行われる、パリ音楽院への短期留学が贈られます。二位、大和田美和子さん。今年夏に行われる、パリ、マスタークラスが贈られます。一位はお察しの通り、見事な歌唱力を披露してくれました、柳平麻衣さん。今年夏に行われる、チェコプラハ、マスタークラスと、プラハサマーナイトフェスティバルの出場権が贈られます。柳平さんには、フェスティバルのオープニングとフィナーレを飾る、カウントダウンセレモニーのプリーマドンナとして出場していただきます。以上よ。おめでとう。」
麻衣、美和子、マリーアンネ「タニアロイスっ!!」
タニア「?」
麻衣、美和子、マリーアンネ「適当でいい加減な発表過ぎて、全然感動がありませーんっ!!」
タニア「あ、あらそうかしら?これはごめんなさいっ。」

   会場、クスクス。

アンニーダ「少しへんてこりんな発表となってしまいましたが、さぁ、気を取り直して最後は、器楽部の発表です。」
ロマノフ「はい、ではまずは、ピアノの部から…。三位、岩清水基希君。おめでとう。今年春に行われる、中国音楽院への短期留学が贈られます。」
ユリアーネ「では、二位はバイオリンの部から…西山莉歩さん。おめでとう。今年秋に行われる、ポーランドワルシャワ王立歌劇場付属音楽院への短期留学が贈られます。」
ロマノフ「それでは一位は、又ピアノの部から。とても優秀で美しい演奏を聴かせてくれた…小口千里君。」

   千里、ハッとして顔をあげる。

ロマノフ「君は前回と変わらぬ腕で、素晴らしい演奏をしてくれました。おめでとう。君には、今年秋に行われる、ポーランドワルシャワ王立歌劇場付属音楽院への短期留学と、王立歌劇場で行われる、演奏会のコンチェルトソリストとしての出場権が認められます。それと…今年のベスト伴奏者賞だが…私は迷いなく…小口君を選ぼうと思う。小口君、君は優秀だよ。これからも頑張りたまえ。」

   千里、再びワッと泣き出す。

麻衣「良かったわねせんちゃん、ふんとぉーに良かった…。」
千里「ワルシャワ、ワルシャワだ…やった、僕嬉しいよ!!諦めかけてたんだ…。でも、でもワルシャワでロマノフ氏のピアノレッスンが生で受けられるなんて…夢のようだ…良かった、良かったよ!!」

  
   麻衣に泣きつく。麻衣、笑って千里を慰める。
   『まるで夢のよう…』

アンニーダ「ありがとうございます。みなさん、本当におめでとうございました。それでは改めて、優勝者のみなさんにもう一度大きな拍手を」

   拍手と花が飛ぶ。

アンニーダ「10分の休憩後、優勝者によるフィナーレのステージがあります。どうぞ最後までお楽しみください。」

   幕が閉まる。


   10分後、再び幕が開いてそれぞれの部門の優勝者によるステージが行われており、最後は、大々的なフィナーレで大拍手と共に幕が降りる。


松本駅
   麻衣、千里、マリーアンネ、美和子。

美和子「でも、麻衣…あのピアノん時の告白、ふんとぉーか?偉い辛いことがあったんだな。あたい、全然知らんかった…泣けてきたわ、あんたのスピーチ聞いて。」
麻衣「嫌ね、私のこんずらに、美和子さんが泣かんでよ。」
美和子「ほいだって、ほいだってさ、あんたが可哀想過ぎるだだもん。」
千里「本当に…僕も全然知らなかった…ごめんね、」
麻衣「いえ…へへっ、」

   涙を拭う。

麻衣「ごめんな、何か又しんみりとした空気んなっちゃった…なんか楽しいこと話そ、楽しいこと…」
千里「そうだね…なら、…早速なんだけど…」
麻衣「何?」

   千里、真っ赤になってもじもじ。

麻衣「ん?」
千里「あ、あの…その…えーとっ。」
麻衣「どうしたの?」
千里「つ、つまり、その…」

   意を決した様に。

千里「近い内に僕と二人でっ…」

   そこへ小松。千里、がくり。

小松「おーい、麻衣ちゃんにみんなぁ!!」
麻衣「あ、そうちゃん!!」
小松「てへっ、みんな揃ってたんだ。」
麻衣「うんっ。そうちゃんも?今帰り?」
小松「あぁ、」
麻衣「どう帰るだ?お家、この近く?」
小松「いや、もっと向こう。これから松本電鉄に乗って帰らなくちゃいけないの。松本は松本でも郊外だよ。渚って言うところ。」
麻衣「へぇー…」
小松「今度いつか、遊びにおいでよ。僕んちとか、近くも案内するよ。」
麻衣「ありがとうぅ!!是非っ。」
小松「小口くん、君もね。」
千里「え、僕もいいの?是非、是非いきたいよ!!」
小松「へへっ。ところでさ、さっきからずっと気になっていたことなんだけど…麻衣ちゃん、」
麻衣「何?どうぞ、言ってみて。」
小松「うん、なら言う。君、今日は何でジャージなの?」
麻衣「あぁ、これ?へ、いけん?」
小松「や、いけんくはないけどさ…」
麻衣「これ、原中ん時のでさ、健司と同じ学校だだもんであいつとの思い入れも深いんよ…私の、」

   恥じらう。

麻衣「あいつへの初恋も、この原中だったんだし…これが、私にとってもあいつにとっても初恋だったんよ…。」
小松「へぇー、君は、何着てもやっぱり似合うね。とっても可愛いよ…何か、ジャージ萌えって感じ。」

   麻衣、小松を叩く。 麻衣、ぴょんぴょん跳ねている。小松、千里、頬を染めて目を反らす。

千里「て言うか麻衣ちゃん…あまり、ぴょんぴょんしないでくれるか?」
麻衣「え、どいで?」
千里「どいで?って…ねぇ?」
小松「うん…目のやり場に困るんだ…君の…そのぉ、お胸が…」
麻衣「いやん、そうちゃんったら、やめてやね。恥ずかしいっ!!」

   メンバー、笑う。麻衣、小松をこずく。

麻衣「ところでせんちゃん、あんたさっき私になんか言いかけたわよね。何を言おうとしたの?教えて…」
千里「え、それはぁ…そのぉ…。」

   もじもじ。

小松「だらしないなぁ君はぁ!!男ならはっきりとしろよっ!!」
千里「はいっ、なら…男、小口千里17歳!!はっきりと言いますっ!!」

   真っ赤な顔で麻衣をまじまじ。

千里「ねぇ、麻衣ちゃん…」
麻衣「は、はい…」
千里「お願いしますっ、近い内にいつでもいいからっ、僕と、僕と、二人でデートをしていただけませんか?」

   小松、撃沈。

小松(マジかぁ…っ!!そういう話だったのかぁ!!)
千里「ご、ごめん。迷惑だよね…いきなりごめんね。嫌なら、いいんだ…無理にとは、言わない…」
麻衣「いいえ、嫌じゃないに。」

   満面の笑み。

麻衣「とっても嬉しい。せんちゃん、誘ってくれてどうもありがとう。ほいじゃあ又計画立てて遊びましょ。都合のいい日とか、又教えてな。」
千里「本当に!!?やったぁ、ありがとう!!僕又、君にメール、するねっ!!わーいっ、やったぁ!!嬉しいな、せんちゃん幸せだなぁ!!」

   バレエのステップで躍り舞う。美和子、ニヤニヤして麻衣に耳打ち。

美和子「麻衣、あんた千里に相当惚れられとんな。あいつ絶対あんたに気があってぞっこんだに。」
麻衣「えぇー、ほんなこんはないにぃ?」
美和子「ほいだって、なんの感情もない女に普通こんなこん言うか?まな、あんた可愛いからなぁ、良くモテんだろうなぁ。分かんな千里の気持ちも…。」
麻衣「嫌ね、やめなやね。」
美和子「満更嘘じゃないかもよ。ほれ、あんたって可愛いだけじゃなくてさ、めちゃくちゃ優しいし親切だら?もし、あたいが男だったとしたら多分、確実にあんたに一目惚れしてたに。」
小松「同感っ。」
麻衣「んもぉ、嫌ね。みんなしてやめてやね。」

   
小松「じゃ、僕もうそろそろ時間だから帰るよ…君達もゆっくり休んで。気を付けてね。じゃあね。」
麻衣「えぇ、さよなら。」
小松「うんっ。」

   小松、別ホームへと入っていく。

美和子「どら、ではあたいたちもボチボチ行くか?」
麻衣「ほーね。マリー、あなたはどこ?」
マリーアンネ「あ、私ですか?私は、諏訪です。」
美和子「お、何だ近くじゃん。びっくり。」
マリーアンネ「へぇー、みなさんは何処なんですか?」
美和子「あたい、辰野。」
麻衣「私茅野、」
千里「僕も茅野だよ。」
マリーアンネ「へぇー。近くならみなさんとも又会えますね。」
美和子「ん、ほいじゃあ麻衣、マリー、千里もみんなでメアド交換しんか?一度会えばへー友達。いつでも連絡取り合おう!!」
全員「おー、いいねぇ!!」

   交換をしている。

電車の中。
   全景の四人が四人掛けに座って乗っている。べちゃくちゃおしゃべりをしたり盛り上がっている。

美和子「ところでさ、千里って女の子みたいだだけどかなりの好青年じゃあ?麻衣、あんたはどう思ってるよ?」
麻衣「どうって?」

   千里、下を向いてどきり。

美和子「ほれ、好きとかさ、嫌いとかさ、」
麻衣「嫌ね、美和子さんったら。せんちゃんはただの友達よ。」
美和子「でもデートするんだら?」
麻衣「いやん、」

   照れて笑う。

マリアンネ「でも、私的には、さっきの小松くんの方が素敵でした…」

   マリアンネ、うっとり。

美和子「ほーっ?」

   ニヤリ。

美和子「あんた、さっきんのに惚れたね?」
マリアンネ「い、いえ…そんなつもりじゃあ…」

   麻衣、美和子、マリアンネをからかう。千里は恥ずかしそうに上目で麻衣をチラチラ見つめている。

千里(明日は…ホワイトデーだよな…。)

   岡谷駅

美和子「ほいじゃあな、あたい辰野だで、ここで降りるわ。」
マリアンネ「えぇ、」
麻衣「ほいじゃあな、美和子さん。又、遊びたいわ。」
美和子「あぁ、いつでも連絡おくれな。」

   態とらしく

美和子「千里と仲良くな。」
麻衣「嫌ね、まだ言ってる。だでほんなんじゃないっつーこん!!」

   笑っててを降る。

   上諏訪駅。

マリアンネ「では私、諏訪なのでここで。」
麻衣「ほっか。マリーは諏訪のどの辺?」
マリアンネ「私ですか?私は、清水です。では、」

   にっこり。

マリアンネ「千里君と上手くいくことを願っています。お幸せに。」
麻衣「うっもぉーっ、マリーまで私達をからかってぇ!!」


   麻衣と千里のみ。

二人「…。」
千里「ご、ごめんね…何か、嫌な気持ちにさせちゃったかな?」
麻衣「いえ、私はなんとも…。せんちゃん…あんたこそ、ごめんな。大丈夫?」
千里「あぁ…僕は大丈夫だよ。」

   二人、顔を見合わせる。

二人「…。」

   それからはずっと無言。

茅野駅・東口

千里「じゃあね、麻衣ちゃん…今日は本当にありがとう…」
麻衣「こちらこそ、お誘いありがとう。空いてる日、いつでもメールしてな。私はこの春休み中はいつでも大丈夫だで…」
千里「本当に!?わーい、やったぁありがとう!!じゃあ、なら。家帰ったら早速メールするね。」
麻衣「気が早いわよ。でも、いつでもどうぞ。」

   二人、其々に別れる。

   千里は珠子の迎えの車に乗って帰っていく。うっとりと窓の外を見つめる。

バスの中
   麻衣、窓の外を見ながら乗っているが軈て寝入ってしまう。

   数十分後。

運転手「お客さん、お客さんったら、」

   麻衣を揺すり起こす。

運転手「どちらでお降りですか?もう終点の車山高原ですよ。」
麻衣「…Zzz…。」
運転手「弱ったなぁ、どうしよう。」

   麻衣の鞄の中を見る。

運転手「ちょっと失礼致しますよ。」

   学生手帳を取り出す。

運転手「湖東花蒔か…。」

   バスを走らす。

岩波家
   健司が、手に大きな花束と紙袋を下げて帰る。

健司「…ただいま…。」
悟「おおっ、タケお帰り。どうだった…?」

   健司の顔を見る。健司、今にも泣き出しそうな顔をして悟を見上げている。

悟「ん、どうした?」
健司「兄貴…あ、にき…」

   悟の胸に泣きつく。

悟「おいおい、急にどうしたんだよ。切ないことがあったか?審査員に酷いこと言われたか?審査で落とされたか?」
健司「俺が、俺が、ほんな事でショック受けないことは、兄貴が一番良く知ってんだろうに!!」
悟「ごめんごめん、そうだよな。ならどうした?話せるか?」
健司「今日、MMCが終わったらあいつに…麻衣に会って…俺が生きてるってこんをあいつに告げて、謝るつもりでいたんだ…」
悟「え、麻衣ちゃんにか?」
健司「ほーだよ。ほれ、あいつだってMMCに出てんだろ。だで…」

   泣きながら話を始める。

健司「なのに俺…あんなあいつの可哀想な姿見たら、会えなくなっちゃって…ほのまま帰ってきちゃったんだ…」

   悟、健司の手元を見る。

悟「なら、まさかお前…」
健司「ほーだよ。これ、あいつが何よりも大好きなパリーヌのマコロンと花束。あいつに直接手渡すつもりだったんだ…なのに、なのに。渡せなかった…」

   袋を床に落として泣き出す。

健司「俺のこんはどうだっていいけど…あいつが可哀想で…あいつを見ているのが辛いんだ…。俺、あいつのためだったらなんだってするよ。あいつには幸せで、いつも笑顔でいてほしいんだ。悲しい涙は流させたくないんだ。だで俺、あいつが幸せになれるんなら、あいつを守ってあげられるんならへー何にもいらねぇーんだよ。なぁ兄貴、あいつのことを救ってやりたいんだ。おれ、どうしたらいいんだよ…。」

   泣き続ける健司を黙って慰める悟。
   『伝わらなかった想い…』

柳平家
   運転手、麻衣を抱き抱えてベルをならす。

紅葉の声「はーい、はいはい、どなた様でしょうか?」

   ドアを開ける。

紅葉「んまっ、麻衣っ!!一体どうしたの?」
運転手「こちらが、柳平麻衣さんのお宅でお間違えないでしょうか?」
紅葉「は、はい…」

   話をしている。

紅葉「まぁ、これは本当に申し訳ございませんでした…。」
運転手「いえいえ、良かったです。それでは私はこれで失礼致します。御休みなさい。」
紅葉「えぇ、えぇ、こちらこそありがとうございました…」

   麻衣を抱く。

紅葉「麻衣っ、麻衣さん、起きなさい。これっ。」

   麻衣、熟睡しており起きない。

紅葉「もぉ、仕方のない子ですね…。」

   布団に寝かす。

紅葉「今日は余程疲れたのでしょう…。ゆっくり休んでね。お休み、麻衣。」

   微笑んで体質。

岩波家・健司の部屋
   健司、暫く泣きながら勉強机に突っ伏しているが、その内に眠ってしまう。花束と紙袋は、グランドピアノの上に置かれている。

柳平家・寝室
   麻衣、八重子の部屋のベッドにて一人で眠っている。

   そこへ小柄な男性のシルエットがやって来て麻衣を起こす。麻衣、夢遊病の様に眠りながらシルエットにリードされるままにバレエのステップを踊っている。

小口家・千里の部屋
   千里もベッドで眠っている。そこへ小口。

小口「千里、千里、起きなさい…千里。」
千里「んーっ…」
小口「千里っ。」
千里「誰ぇ?」

   薄目を開ける。

千里「あぁ…パパ…」

   ハッと目覚める。

千里「パパっ!?」

   小口、優しく微笑む。

千里「パパ、パパ!!会いたかったよ、パパ!!」

   泣いて抱きつく。

千里「帰ってきてくれたんだね。何処へ行っていたの?すごく心配したんだよ!!」
小口「千里、」
千里「ねぇ、僕パパに話したいこといっぱいあるんだよ!!あのね、あのね、」
小口「千里、パパはずっとお前たちのことを見ていたよ。みんな分かっている。」
千里「ママに聞いたの?ママに、もう会ったの?」
小口「千里、お前がいじめられたり、とても辛い目に合っていたこと、ピアノでコンクール優勝していること、ピアニストを目指していること、パパみんな知ってる。千里、ごめんな。一番辛いときに一緒にいてあげられなくて…」
千里「そうだよ。僕、とても辛かった…中学2年の夏からずっと辛いことばっかで…いつも一人ぼっちで…。今でもそうなの。僕は弱んぼで、一人じゃなにも出来ない…。ねぇパパ、帰ってきてよ、又一緒に暮らそうよ…ヨリとタダもとても大きくなったんだよ…」

   小口、悲しげに微笑む。

千里「パパ?」
小口「ごめんな千里…それは出来ないんだ…パパは今、ここにはいない…遠いところにいるのだよ…」
千里「何言ってるんだ、パパはここにいるじゃないか!!」

   小口、首を横に降る。

小口「でも千里、いつしか必ず会える日が来る…。それまで、お前は小口家の唯一の男の子なんだから、強くしっかり生きるんだよ…。ママと妹たちを支えて守ってあげなさい。辛くなったらママもパパもいつでもお前の味方だからね…。」
千里「パパっ!!パパっ!!」
小口「千里、お前はあれほど小さかったのにとても大きくなったね…それと、ピアノの事…頑張りなさい。応援しているよ。そして、」

   首からペンダントトップにシルバーリングのついたペンダントを外して千里の首にかける。

小口「これは、小口家に昔から代々伝わるペンダントなんだ。本当はね、お前が結婚をするときに渡そうと思っていたが、それはどうも無理かもしれない…だから今、お前に渡しておこう…大切にするんだよ。これを見るたびにパパを思い出しなさい。」

   朝の日が差し出す。小口、少しずつ消えていく。

小口「千里、お前は強く生きるんだよ…立派な大人になりなさい…」
千里「パパっ、パパ、何処行くの?行っちゃあ嫌だよ!!行かないで、僕をおいていかないで、ここに一人ぼっちにしないでよぉっ!!」

   小口、姿はなくなる。

千里「パパっ、パパーっ!!!」

   ベッドに泣き崩れるが、軈て寝入ってしまう。

柳平家・寝室
   朝の日が射すと、男性は麻衣を再びベッドに寝かせて、小さなテーブルの上に何かを置くと、消えていく。

   暫く後、麻衣が目覚めて起き、伸びをする。

麻衣「ふぇーっ、良く寝たぁ!!ん、?」

   テーブルの上を見る。

麻衣「なんだこれ?」

   手にとって開ける。

麻衣「三本のバラ…に、パリーヌのマコロンだわ…でも、」

   キョロキョロ

麻衣「一体誰が…」

   中にはカード

麻衣「まぁ、カード!!」

   読み出す。

麻衣「健司…。あいつだったんだ…ありがとう健司、あんた、覚えとってくれたんね。私の一番好きなもの…」

小口家・千里の部屋
   暫く後、千里も目覚める。

千里「はぁ、良く寝た…何か、懐かしい夢を見たな…夢の中に久しぶりにパパが出てきた。夢の中でもあえて…嬉しかったな…ん?」

   首もとを見る。

千里「パパ…ありがとう…。」

   二人、しばらくはんなりしているが、ふと我に返る。

千里「ん?」
麻衣「へ?」

   二人、其々の贈り物を見る。

二人「これって一体どういう事なんだぁ?」

   互いにしばらくポカーンとしているが、同時にふと携帯を手にとって何やらメールを打ち始める。

高島城
   千里と麻衣。

千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「せんちゃん…どうしただ?」
千里「ご、ごめんね、急に呼び出しちゃって…」
麻衣「いえ、こちらこそ…何かあっただ?」
千里「君こそ…」
麻衣「ま、ほんな話は後にしましょう。とりあえず折角会ったのよ。デート、しましょうか?」
千里「ほ、本当にっ!!いいの?」

   麻衣、大きく微笑む。

千里「はいっ!!宜しくお願いいたしますっ!!」
麻衣「何よ、畏まっちゃって。ほいじゃあ、とりあえずまずは、この高島城を…」
千里「うんっ。」

   二人、ぶらぶらと歩き出す。

 
   正午の鐘が鳴る。

千里「ふぇーっ、寒っ。流石は諏訪、風が痛いよ…もう三月なのに…。」
麻衣「ほーね、」

   二人のお腹が鳴る。二人、恥ずかしそうに笑って顔を見合わせる。

麻衣「お昼にしますか?」
千里「あ、うん。君、何食べたい?」
麻衣「私は何でもいいに、あんたは?何が好き?」
千里「僕も、何でも好きだよ。」
麻衣「なら、この直ぐ下に和食のお店があるんだけど…」
千里「和食か、いいよ!!僕、和食大好き!!」
麻衣「私も、洋風なものよりも一番好きだに。」
千里「君は…」

   少し赤くなる。

千里「本当になんか、日本の伝統的な大和撫子って感じだね。」
麻衣「いやん、ほんなこんないに、よしてやせんちゃん…」
千里「へへっ、」
麻衣「ほいじゃあ、行くか?」
千里「うんっ!!」

   二人、小走りでいく。

和食堂
   店は混んどいてスタッフも忙しそう。

千里「うわぁー、凄いなこりゃ…」
麻衣「ほーね、流石時分時…」

   そこへ咲李。

咲李「いらっしゃいませっ、あぁっ!!」
麻衣「咲李っ!!どーいう、ここでバイトしとっただ?」
咲李「まね、最近始めたのよ。麻衣こそ、まさかここへ来るだなんて…ん?」

   千里を見る。

咲李「誰この子?麻衣の新しいお友達?それとも、お姉さんとか?つむちゃん?」

   まい、クスクス。

麻衣「嫌ね、違うに。」
千里「僕は女じゃないっ!!」
咲李「あら、ごめんなさい。なら何?」

   ニヤリ。

咲李「ボーイフレンドね…早いのね、健司くんからもう乗り換えですか?」
麻衣「違うって、彼はただのお友達よ。」

   千里を見る。

麻衣「ごめんな、せんちゃん…」
千里「いや、僕は別に…君こそ…」
麻衣「わ、私も別に…」

   咲李、笑う。

咲李「兎に角、どうぞ。ちょうど二人分なら空いてるわ。窓際でもいい?」
麻衣「良かったぁ、せんちゃんは?いい?」
千里「勿論、座れれば何処でもいいや。」
咲李「分かった。でしたらこちらへどうぞ…二名様入りまーすっ!!」

   二人、席につく。咲李、水を持ってくる。

咲李「注文決まったら呼んでね。では、ごゆっくり。」

   咲李、退場。二人、メニューを見出す。

麻衣「うーん、何にしようかしら、何がいいかなぁ…せんちゃんは?決まった?」

   千里、大きく震えている。

麻衣「どうしただ?せんちゃん、大丈夫?寒い?」
千里「う、うん。寒いは寒いけど…」

   恥ずかしそう。

千里「ごめん…何か僕、高島城で冷えちゃった見たい…。トイレに行きたいよ…。ずっとさっきから我慢してるの。」
麻衣「トイレ、トイレはね…えーと、」

   説明をする。

麻衣「分かる?」
千里「うんっ、ありがとう…助かった…」
麻衣「お城寒かったものね…。」

   千里、小走りにいく。

   暫く後、千里が戻ってくる。

千里「ヨシッと、決まったぞ。麻衣ちゃん、君は?」
麻衣「うーん…」
千里「ゆっくりでいいよ。」
麻衣「ありがとう…うーん、分かった!!ヨシッと、これにしましょう。決まりっ!!」
千里「OK!!なら、お願いしまーすっ!!」
麻衣「咲李ーっ!!」
咲李の声「はいはーいっ、お決まりですかーい?」

   二人、咲李に注文をしている。

咲李「以上で宜しいでしょうか?」
千里「うん、」
麻衣「えぇ、いいわ。」
咲李「では、少々お待ちくださいませ…。」

   咲李、厨房へと入っていく。

千里「何?あの子、君の知り合い?」
麻衣「えぇ、私のクラスメート。」
千里「へぇー。君の廻りにはいい子がいっぱいいるんだね。いいな。」
麻衣「何いってんのよ。せんちゃん、あんただってほーずらに。」
千里「まぁねぇ…そーなのかなぁ?」

千里「ところでさ、君、何か話があって僕にメールくれたんだろ?何?」
麻衣「あぁ、…私は後でいいの。せんちゃんこそ、何か話したいことがあったんずらに。先に話してよ。」
千里「う、うん…じゃあ…」

   躊躇うが、口を開く。

千里「実は昨日の夢に、パパが出てきたんだ。」
麻衣「まぁ、せんちゃんの父さんが?良かったじゃないの。」
千里「でも、嫌にリアルで本当に夢じゃなくて現実のようだった、本当にパパがそこに、本当に僕の近くにいるように…。だって、パパ、温かかったし、僕、体にも触れられたんだ。パパ、僕を抱き締めてくれたんだ!」

   淡々と話す内に、涙が溢れてくる。
   『小さな木の実』

千里「ごめん…」

   麻衣、千里の手を握って慰める。

千里「でね、」

   涙を拭う。

千里「パパ、夢の中で…僕にペンダントをくれたんだ。それは、ずっと昔から小口家に昔から代々伝わるペンダントなんだ。夢の中でくれたんだよ…なのに。」

   首にかけたペンダントを見せる。

千里「信じてもらえないかもしれないけど…それが、これなんだ…。」
麻衣「え?」
千里「そう、夢の中で、パパは僕の首にかけてくれたんだよ。そして朝起きてみたら、僕の首にこれが…」

 
千里「さ、次は君の番だよ…。」
麻衣「私も実は…実は…」

   話し出す。麻衣も話している内に目が涙で曇る。千里ももらい泣き。

麻衣「嫌ね、どいであんたまで泣いとるんよ…」
千里「ごめん…でも、だって、だって、…」
麻衣「へー、泣き虫さんね。ほれじゃあ彼女さんの事守ってやれんに。」
千里「ごめん…」

   涙を拭う。

千里「でも、健司くんから?夜中に?」
麻衣「えぇ、ほーなんよ。夜中にな、誰か男の人が私の部屋へ入ってきて、私と踊ったの、一晩。勿論、こんなの夢の話だに。ほしてな、私に花束を渡して、プレゼントはここに置いてくねって、テーブルの上において行ったわ。ほれが、これだだよ…。プレゼントの送り主が健司って証拠も…」

   千里にカードを渡す。

千里「見てもいい?」
麻衣「どうぞ、」

   千里、カードを見出す。

千里「本当だ…これって一体…」
二人「どういう事なんだぁ?」

   食事が運ばれてきている。

千里「まぁいいや、とりあえず食べよう。」
麻衣「えぇ、」
二人「いただきまぁーす!!」

   食べ出す。

二人「んー、美味しい!!」
麻衣「あ、せんちゃんのはとろろ山菜うどんなんね。」
千里「うん、僕、麺類ってそば以外は大好きだけどさ、特にこの、おうどんは大好物なんだよね。」
麻衣「へぇー、やっぱり何かせんちゃんも何処と無く関西っ子って感じね。」
千里「てへっ、だって僕は関西っ子。生まれは京都やもん。」
麻衣「ほーでした。」
千里「ちょっと食べてみる?」
麻衣「いいだぁ!!ありがとう!!」

   食べる。

麻衣「ほいじゃあ、私の鯉こく汁と謙信めしも。」
千里「うわぁーい、ありがとうぅ!!」
麻衣「お魚やお肉って、せんちゃん大丈夫?食べられる?」
千里「うんっ、勿論!!大好きさ。」

   二人、分け合いつつ仲良く食べている。

麻衣「うぅっ、へー無理。入らん。」
千里「あれ、君って少食なんだね。まだこんなに残ってんじゃん。」
麻衣「うん…勿体無いけど仕方ないに。」
千里「なら、僕が食べても…いいかな?」
麻衣「え、いいに。私箸、付けちゃったに…」
千里「大丈夫、君さえ気持ち悪くなければ僕が食べちゃうよ。」
麻衣「気持ち悪いだなんてとんでもない!!では、宜しくお願いします…。あまり無理はしないでな。」
千里「ありがとう、でも僕のお腹はまだまだ平気だよ。あとカツカレー二杯は食べられそうさ。」
麻衣「ま!!せんちゃんは、逞しい食べ盛りの男の子だだもんね。沢山食べてな。」
千里「君は、可愛い大和撫子の女の子だもんね。」

   二人、照れて笑う。千里、麻衣の残りを少しずつ食べ始める。

和食堂の外
 
千里「ふぁー、もう僕お腹いっぱい!!大満足だよ!!」
麻衣「私も、とっても美味しかった。」
千里「ねぇ、麻衣ちゃん…あのさ、」

   もじもじ。

千里「実はね、君を今日呼び出したのにはもう一つ理由があるんだ…。」
麻衣「理由?…まぁ、何かしら…」
千里「あ、あの、今日はホワイトデーだろ。だからさ、この日に男からってのも変だけど…」

   乙女みたいに恥じらう。

千里「これ…どうか受け取ってください。僕は、僕は…僕は、実は前から君の事が、君の事がえーと、その…」
麻衣「?」
千里「君が大好きですっ!!」
麻衣「せんちゃん。」

   涼しげににっこり。

麻衣「私も、あんたのこん好きだに。」
千里「え、」
麻衣「これ、何かしら?開けてもいい?」
千里「あ、あぁ…うん。」
麻衣「なんにかなぁ、なーにかなぁ、わぁ!!」

   シフォンケーキとシュークリームが入っている。

麻衣「まぁ、美味しさそう!!まさかこれ、あんたの手作り?」
千里「う、うん…まぁね。不出来でごめんね。」
麻衣「ほんなこんないに。楽しみにいただく。でも、態々こんなこん、良かっただに。ほいだって私、バレンタインにあんたにお返しされるようなもんなんもあげれてないだもん。」
千里(もしかして…彼女に、告白…伝わってないのか?)

   愕然。

麻衣「せんちゃん?どーした?おーい…」

   目を前に手をかざす。千里、ハッと我に返る。

千里「え、い、いや。ごめん、何でもないよ…」

   フット笑う。

千里(でも彼女が僕からの贈り物をこうして喜んでくれている…それだけでも僕はいいや…。今は彼女と過ごしていれるだけで幸せだ。)
麻衣「なぁ、せんちゃん…次は何処いく?」
千里「そうだなぁ…あ!!」
麻衣「ん?」

城南団地
   焼け跡には新しいマンションが建たっている。

麻衣「城南団地…あの頃の面影は、殆どないわね。」
千里「…そうだね。嘗て、何年か前…僕らはここで恐ろしい事故にあったんだ…。今はもう、何処に何があったか何て覚えちゃいないけど…。」

   泣きそう。

千里「パパの事を思い出すのが辛くて、怖くてあれから長年ここへはこれなんでいたけれど…昨日の夢でパパに会えたお陰で、又再び、ここへ来ることが出来た…。やっぱり、懐かしく、ここを見る度に、パパの面影を思い出しちゃうよ…。」
麻衣「せんちゃん…」

   千里、涙をこらえている。

麻衣「あら?…何かしら?」

   砂利の上に何やらキラキラとしたもの。麻衣、それを拾いに行く。千里も行き、千里が手に取るが目を見開く。

千里「これって…」
麻衣「何、せんちゃんどーゆー?」
千里「ここはもうあれから、何度も掘り返されたりして、今の状態になっているはずだろ…」
麻衣「えぇ…ほーよね。」
千里「それなのに、どうして今ごろになって…」

   千里、麻衣に手のひらの上に乗ったバッチを見せる。小口懐仁とかかれている。

千里「これ、パパの名前だよ。パパの消防のバッチだ…。どうして…」
麻衣「きっと…」

   穏やかにそっと目を閉じる。

麻衣「お父様が、せんちゃんにここにいたってことを伝えたかったのよ。ほして今でも、せんちゃんのそばに変わらずいるって…」
千里「パパ、…パパ…」

   麻衣、千里の肩を抱く。
 『ホワイトホワイトデーの奇跡の夢』

麻衣「せんちゃん、無理しないで。泣きたいときは思いっきり泣いちゃっていいんよ。我慢しちゃダメ…」
千里「ごめん麻衣ちゃん…泣いていいか?」

   麻衣、優しく頷く。

千里「では、泣かせてください…」

   静かに泣き始める。麻衣、そっと千里を抱き寄せて背を優しく叩いて慰める。 

     千里、泣いている。そこへ眞澄。

眞澄「おや、千里じゃないか。」

   近付く。

眞澄「麻衣たんまで…。」
麻衣「あら、眞澄ちゃん!!」
眞澄「この泣き虫、又泣いてる…今度はどうしたの?」
麻衣「あぁ…せんちゃん、ここへ来てお父様の事を思い出して悲しくなっちゃったのよ…。」
眞澄「ふーん、そっか。そう言えば千里の父ちゃん、ここの大火事に巻き込まれて亡くなっちゃったんだっけ…。」

   千里、顔をあげる。

千里「眞澄…」
眞澄「ところで…二人して一緒なんて、何々?」

   ニヤリ。

眞澄「デートね。」
麻衣「いやん、眞澄ちゃん。デートっていってもほんな深い意味は何もないんよ。」

   千里も泣き止んで、乙女のようにもじもじ。

眞澄「良かったわね千里、」

   小声で耳打ち。

眞澄「あんた実は、麻衣の事、気になってんでしょ。」
千里「え、えぇ。眞澄、何で…」
眞澄「やっぱり…そうなんだ。いや、ただ言ってみただけなんだけど…驚いたわ、本当なのね。」
千里「こいつぅっ!!」

   食って掛かろうとする。

眞澄「まぁ、何でもいいわ。とにかく、麻衣も千里も…私んちすぐ近くだからおいでよ。」
麻衣「わぁ、いいだあ?」
眞澄「勿論っ、友達なら大歓迎よ。直ぐね、城南団地の裏なのよ。」
千里「お前、引っ越したんだっけ?」
眞澄「そ、私んちも焼けちゃったからね。どうぞ、私について来て。」

   三人、歩いていく。

永田家

眞澄「ここが私んちよ。どうぞ、適当に上がって。」

麻衣、千里「お邪魔しまぁーす。」

同・眞澄の部屋
   眞澄がお茶とお茶菓子を持ってくる。

麻衣「ありがとう、」
眞澄「どーぞ。…でさ、」

   乗り出す。

眞澄「私あれから色々と調べてみたんだよ。」
麻衣「調べたって?」
千里「何を?」
眞澄「これよ、」

   厚い一冊の本を取り出す。

眞澄「あのホテルの日の事がさ、どうしても引っ掛かってね、私なりに色々調べたんだ。そしたら大分分かってきたんだよ。」

   本を開く。

眞澄「あの屋敷が建てられたのは、1277年前の730年4月。当時あの屋敷は武家屋敷で、お役人様が住んでいたんですって。でも、近代文化が入り出した1870年頃、当時の武家屋敷は政府によって倒され、当時、日本に来日したミレッカー伯爵夫妻が新しく屋敷を建て、住まわったんだとか。でも、不幸な出来事が色々と起きた。人々は武家の呪いだと噂をした。そしてその…」

   ズバリというように。

眞澄「ミレッカー伯爵夫妻には、若い侍女が一人いたの。それがオフェリー、そして従僕のフランツ。」

   麻衣、千里、顔を見合わせる。

眞澄「二人が亡くなった後、夫妻の後を継いでそのオフェリーとフランツが屋敷に住むようになり、舞踏会がとても好きだったオフェリーは、毎日のくらい舞踏会を開いていたんだって。」
麻衣「ほいで…ミレッカー伯爵夫妻は、何故お亡くなりに?」
眞澄「麻衣、そこよ。」

   まじまじ。

眞澄「ミレッカー夫妻が亡くなった理由…大地震なのよ。」
麻衣「大地震?」

   ハッとする。

眞澄「そう、まさに麻衣が見たあの大地震なのよ。当時、伯爵夫人は妊娠をしていたんですって…でも、お腹の子も、夫も即死。残ったのはオフェリーとフランツのみ…。」

   千里、目を見開いて恐怖の顔をする。

眞澄「しかし、間もなく二人も亡くなってしまうの…愛し合っていた二人は結ばれることなく引き裂かれ、フランツは戦争に駆り出され、オフェリーは病気に…。」
麻衣「あぁ…」
千里「そんな…」
眞澄「それ以来、二人の魂はあの世に行くことが出来ず、小さな人形となってこの世に残っているという噂なのね…。これ、軽井沢の伝説って本に書かれているわ。」
麻衣「人形…」
千里「人形…」
眞澄「ま、そんなの迷信だと思うけどね。その二つの人形が再び巡り会って口付けたときに、やっと二人の魂はこの世から消え、呪いも溶けるだとか。」

   麻衣、千里の鞄には其々に男の子と女の子の人形が住んでいる。

麻衣、千里「人形っ!?」

   二人、鞄を慌ててみる。二人、人形を外してまじまじ。そして、人形の口と口をくっ付ける。

三人「!?っ。」

    人形、ぱちーんと弾けて消える。三人、口をポカーンと開けて呆然。


上諏訪駅
   呆然と歩く二人。

麻衣「ねぇ、せんちゃん…ほいじゃああれがまさか…」
千里「何も聞かないでくれよ…」
麻衣「ごめん…。でも、これで全てが良かったってことよね…。」
千里「あぁ、多分。でも、僕らの見てたことは…やっぱり」
二人「本当の事だったんだね…」

   千里、身震い。

千里「さぁ、もう言ってる間に夕方だよ。そろそろ帰ろうか?」
麻衣「ほーね。あんたのお陰で今日は楽しかった、ありがとな。辛い思いも忘れちゃう…。」
千里「いやぁ…てへへっ。僕もだよ。君のお陰で今日は楽しかった。思いがけずパパにも会えたしね。」
麻衣「ほーね。きっと、あんたみたいな男の子なら…今日一緒に過ごして分かったの。」

   にっこり。

麻衣「すぐに素敵な女の子が出来るに。へーあんた、誰かほーいう女の子いるだ?私になんてあんなプレゼントくれちゃって。」
千里「え、えぇ、それはぁ…」

   紅くなりながら

千里(だからさっきいったじゃんかぁ…)

   少し拗ねて剥れる。

麻衣「あれ、おーい…せんちゃん?どーった?」
千里「別ーに、何ーにもっ?」
麻衣「何すねてんのよ?あんたって、へんなの。」

   二人、改札を入っていく。

   電車の中、お互いに口も聞かず、黙って乗っている。

茅野駅・西口
   麻衣と千里。

千里「それじゃあね、麻衣ちゃん。今日は本当にありがとう…又ね。」
麻衣「えぇ、私も…又遊ぼうな。ほーいやせんちゃん、あんた学校はどうするだ?長野にも少なからず音楽専門はあるで、せんちゃんだったらほいとこいけばいいに。」
千里「あぁ…うん。」

   口ごもる。

千里「ところで?君はどうやって帰るの?バス?」
麻衣「いえ、とりあえず私まずいかなくちゃならないところがあるもんで…」
千里「そっか…ならここでとりあえずはお別れだ。」
麻衣「そうね。でも又メールとかするな。」
千里「僕も。」

   麻衣、千里に小粋に手を降って小走りに西口広場を出る。

   
ビーナスライン
   麻衣がせっせせっせと歩いて上っている。千里の乗ったバスが走る。千里、何気なく携帯を弄っているが府と窓の外を見て目を丸くして窓に顔をくっ付ける。

千里「あ?」

   麻衣を見る。

千里(う、嘘だろ、あれってまさか…麻衣ちゃんか?何処行くんだろう…。)

白樺高原・湖岸
   麻衣、まだかなり雪の残る湖岸の雪の上に腰を下ろす。

麻衣「なぁ、健司に磨子ちゃん…私、麻衣だに。早いな、へー今年ももうすぐ新学期だに。MMC、行ってきたに…。私、ピアノの部では泣いちゃっていけんかったけど…でも、ほれで充分。ほいだって私、あんたとの約束果たせた…。きっとあんた、喜んでくれたわね。何かな、弾いててもずっと、あんたが見に来てくれてるような気がしてならんかったの。今日はせんちゃんと会ったんだに。彼な、気は弱いけどとても素敵で優しい子なの…私は大丈夫よ。だで安心してな…。私、頑張る。」

   涙を脱ぐって笑って立ち上がる。

麻衣「ほいじゃあ…健司に磨子ちゃん、私へーぼちぼち行くな…。でも必ずよ、又必ずここに来る。」

   麻衣、踵を返してかけていく。
   『春に寄す』

茅野中央高校・校門
   麻衣が生き生きと目を輝かせて歩いている。

麻衣【私の名前は柳平麻衣。ここ、茅野中央高校の3年生…。今年は一体どんな一年になるのかしら、ワクワクドキドキで一杯です。私、今年も一年、頑張ります。みんな、応援してなぁ…】

   ルンルンと校舎へと入っていく。

   数分後、千里がスキップしながらかけていく。

千里【僕の名前は小口千里。今年からここ、茅野中央高校に転入することになった3年生…。今年は新しい土地、新しい学校で、一体どんな一年になるのかな、ワクワクドキドキで一杯です。】

   前方には女子学生。女子学生は、ビデオカメラを構えながら後退りし、千里はルンルンと歩いており、お互いに気が付いていない。

千里「うわっあっ!!」

   北山マコにぶつかって尻餅をつく。

千里「いったたたたた…」

   お尻を擦る。

マコ「ちょっとあんた、何やってんのよ、大丈夫?」
千里「大丈夫じゃないよぉ、ちゃんと周り見て歩けよな。」
マコ「なんですって?」

   千里をにらむ。

マコ「てかあんた、見ない顔ね。何年生?」
千里「僕は、今年からここに転入することになった…3年生の小口千里です。」
マコ「ふーん、転校生か…。転校してきたからって浮かれて歩いてんじゃないわよっ!!ま、今日のところは許してやるけど…?」
千里「先にぶつかってきたのは君の方だろうに…」
「何ですって?何か今言った?」
千里「い、いえ別に…」
マコ「でも、今度この私を怒らしたら、ただじゃおかないんだから。覚悟なさい。じゃ、」

   悪戯っぽく。

マコ「同じ学校なら又会うかもな。その時は又、宜しく頼むわ。」

   校舎へと入っていく。千里、お尻を擦りながら立ち上がって女子学生の後ろ姿を見つめる。

千里「ふーっ、怖っ。あんな女の子もいるんだな…嫌だ、絶対会いたかないや。出来ればもう、卒業まであんな子と二度と関わりたくないや…。」

   千里も校舎へと入っていく。

諏訪実業高校・校門
   健司が清々しい表情で歩いている。

健司【俺の名前は岩波健司。ここ、諏訪実業高校の3年生…。今年は一体どんな一年になるのかな。ワクワクドキドキで一杯です。俺も、今年も一年、うんと頑張ります。みんな、だで応援してなぁ。】

   後ろから海里がかけてくる。

海里「おーいっ、いっちゃんはよーん!!」

   健司、立ち止まって振り向く。

健司「お、海里はよーんっ!!」
海里「お前今日も早いな。」
健司「まな、」
海里「んなら早いとこ、教室入ろうぜ。」
健司「うんっ!!」

   二人、走って校舎へと入っていく。

   其々に、教室の窓の外を見つめ、それぞれの新学期の春が始まろうとしている。

   窓からは、未だ蕾もついていない桜の木が雪を被り、寒そうに風で揺れているが、どことなく少しずつ春の訪れを感じさせている。

ED『お前のチョコレートケーキ(ポルトガル語バージョン)』



















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