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石楠花物語高校生時代
誘われて…
白樺高原・コスモス湖岸
   麻衣一人、湖岸に座ってぽわーんとしている。そこへユカリ。
   
   『愛しい人が来るとき』


ユカリ(彼女だ…)

   近づいて肩を叩く

ユカリ「や、」

   麻衣、びくりと振り向く。

麻衣「た、けし…」

   しばらく放心状態。

ユカリ「健司君って、君の彼氏?」
麻衣「え?」

   我に返る。

ユカリ「今確か、ワルシャワへ言っているんだろ?千里くんっていうもう一人の子と。」
麻衣「じゃあ、健司じゃ…」
ユカリ「ないんだ。僕はユカリ。中洲ユカリってんの。京都から来てんだ。」
麻衣「ごめんなさい…あまりにもそっくりだったもんで…でも、どいで?」

   きょとん。

麻衣「どいであんた、健司とせんちゃんのこんを?」
ユカリ「え、あぁ…」

   小粋に。

ユカリ「だってお姉さん言ってたでしょ?過去に僕と会ったとき…話してくれたじゃん。」
麻衣「え?過去に?」
ユカリ「ん、覚えてない?まぁ、いいけど…でもどうしたの?お姉さんとても悲しそうだね。」
麻衣「…。」
ユカリ「ワルシャワ大震災…」

   麻衣、ハッとしてユカリを見る。

ユカリ「大変だよね、僕もニュース見たもん。僕にも分かるよ、お姉さんの気持ち…だって僕のお姉ちゃんも今…ワルシャワにいるからさ。」
麻衣「え、」
ユカリ「いいよ、」

   微笑んで麻衣の手をとる。

ユカリ「とりあえず、僕の部屋で休んでいってよ。安心して、僕はまだ14歳だから、お姉さんを誘拐とかしないからさ。ね、ね。」

   走り出す。麻衣、クスクス。

ヒュッテ・一室
   ユカリがお茶を出す。麻衣はソファー。

ユカリ「そうだったんだ…ワルシャワの音楽院か…」
麻衣「えぇ…」
ユカリ「でも、きっと大丈夫だよ…僕は信じてる。お姉ちゃんは無事だって。だって何があったって不死身なお姉ちゃんだもん…だから、麻衣ちゃん、君も二人を信じなよ。」
麻衣「えぇ、ありがとう…」
ユカリ「でも麻衣ちゃん、昼間は物凄い吹雪だったんだよ、茅野は!!君、どうしてた?」
麻衣「昼間は学校だったから大丈夫よ。私、高校生だもんで。」
ユカリ「そうか、良かった…でももし君、僕がここへ来てなかったらどうなってた?あの寒さの中だぞ」

   微笑んで麻衣の肩を叩く。

ユカリ「無茶はするなよ。特に君は女の子なんだからさ、何かあったらどうするんだよ?君に何かあれば、今度は小口君と健司君を悲しませる事になっちゃうよ。」
麻衣「ごめん。ありがとう…」
ユカリ「いんや、」

   小粋に。

ユカリ「ところで僕、なんかお腹空いちゃったよ。そこのコンビニ言って、なんかおやつ買う?」
麻衣「ほーね。」

   二人、部屋を出る。

コンビニ
   混んでいる。女性客、ユカリと麻衣を見てヒソヒソと。ユカリ、キョロキョロとして小粋にしたを出す。

   レジ。

ユカリ「お願いします。ねぇお兄さん、ピザまん二つちょうだい。」
店員「いらっしゃいませ、畏まりま…」

   ユカリを見る。

店員「うわぁっ、」
ユカリ「ん?」
店員「ひょっ、ひょ、ひょっとして君、平城stepの中洲ユカリ君…ですか?」

   ユカリ、爽やかに微笑んでさっぱりと。

ユカリ「いいえまさか、違いますよ。でもよく言われるんですよ。」

   麻衣、先に外に出ている。

店員「で、ですよね。失礼致しました。」
ユカリ「いいえ、でも僕…ちなみに名前までそっくりだったりして…中洲ユカリっていうんだ、僕…」

   小粋に舌を出して店を出ると、急いで麻衣の手をとって走り出す。

店員「ありがとうございました。又のご来店をって…」
店員と客達全員「えぇっ?」

   逃げる麻衣とユカリの後ろからは大勢のファン達が駆けつける。

ユカリ「麻衣ちゃん、急ぐよ。」
麻衣「え、何ぃ!?」

 
ヒュッテ
   二人が息を切らして入ってくる。

ユカリ「はぁ、ビックリした。」
麻衣「ねぇユカリ君、今の何だっただ?私たちどいで追われたんよ!!」
ユカリ「へへっ、ごめんよ。脅かしちゃったね。はい、」

   中華まんを渡す。

ユカリ「これ食べてとりあえずは落ち着こ。温かい内に、ね。」
麻衣「ありがとう。」
ユカリ「ピザで大丈夫だった?」
麻衣「えぇ、大好きよ。」

   二人、微笑む。

二人「んー、おいし!!」

   18:30

麻衣「あ、もうすぐ帰らないと…」
ユカリ「待てよ、またいいじゃん。」
麻衣「でも、」
ユカリ「大丈夫…ね、一緒にいてよ。」
麻衣「でも君、お夕食は?」
ユカリ「任せて!!」

   大声。

ユカリ「蘇我さん、蘇我さん?」

   何処からともなく蘇我が出てくる。

蘇我「何だい、ユカリ君?」
麻衣「きゃっ、」

   少し引く。

蘇我「おぉ、」 

   麻衣を見て握手を求める。

蘇我「君は、あの時の!!」
麻衣「あの時の…?…まぁ!!」

   深々と

麻衣「ほの節はどうもありがとうございました…」
蘇我「いやいや、でも君が元気そうで安心した。で、ユカリ君、」
ユカリ「ごはん…」
蘇我「分かりました。では、麻衣さんにユカリ君…こちらへ…」

   蘇我、二人をつれていく。

麻衣「ねぇユカリ君、この方は?」
ユカリ「あぁ、彼は蘇我さん。僕のお着きの武官。…」
麻衣「は?」
ユカリ「いや…」

ホテル内のレストラン
   混んでいる。席につく二人。蘇我はいつの間にかいない。

ユカリ「よっしゃあー!!やっとごはんだぁ!!食べるぞお!!」
麻衣「まぁ嫌ね。さっきぴざまん食べたばかりじゃないの。」
ユカリ「いいじゃん。だってお腹すいてるんだもん。さぁーてと、何から食べっかなぁ?あ、麻衣ちゃん、君も遠慮しないでどんどん食べなよ。」

   はしゃぐユカリを見てクスクス。二人、ビュッフェを盛りに行く。

   しばらくして

麻衣「まぁユカリ君、君ったら!!ほんねに貰ってきて大丈夫?」
ユカリ「大丈夫さ!別腹、別腹!!元とらなくっちゃ。それに僕も…」
 
   お腹をさわる。

ユカリ「14歳と言えども、お腹は成人の男と一緒なんだ。」

   悪戯っぽく。

ユカリ「かにお代わり行ってきますっ!!」
麻衣「全く…言うこんまで健司そっくり…」


(回想)焼肉屋
   麻衣と健司

麻衣「なぁ健司、あんたさっきトルティージャ二つとコーラ飲んだばかりずらに!!よくほんねに入るな。まだ注文する気?」
健司「あったりまえだろ、食べ放題なんだぜ?2,500円分食わんけりゃ損だろ?17と言えど、この腹はへー、大人の男とおんなじだ。」

   小粋に笑って見せる。

健司「ウェイター、次はこの鹿肉と、マトンと、蓼科牛と、ほれからぁ…」
麻衣「これ健司っ!!やりすぎだらに!!一度にやんねくても少しずつにすりゃいいじゃあ!!」
健司「うっせぇーなぁ。大丈夫、大丈夫…んとですねぇ…」


(戻って)レストラン
   ユカリ、蟹を大量にもらって戻ってくる。

ユカリ「かにーっ!!」
麻衣「うわぁ、凄い!!ちょっと君、さっきっから蟹だのステーキだのばっかりだけど、一体蟹、これで何本目よ?」
ユカリ「えーっとねぇ?」

   指折り数える。

ユカリ「これだけっ、かな?15くらい。んでお肉がこれで7枚目だよ。」

   目を丸くする麻衣。

ユカリ「いっぱい僕、貰ってきたからさ…よかったら麻衣ちゃんも一緒にどーぞ。」
麻衣「えー、でも私、へーお腹いっぱいだわやぁ…とか言っても…やっぱり別腹ありかもぉ!!」
ユカリ「そうこなくっちゃ!!」

   二人、鵬張る。
   『カニとステーキのお肉!!』

同・廊下
   歩く二人。

ユカリ「はぁー、お腹いっぱい!!」
麻衣「私も…これじゃまたしばらく、お風呂は無理ね。」
ユカリ「うん、そうだね。ならさぁ…」

同・ゲームセンター 
   二人、卓球台の前にいる。

ユカリ「じゃあ麻衣ちゃん、早速僕からいっくよぉーっ!!ユカーリ、サーブっ!!」
麻衣「ちょっと待ってえっ!!」

   打とうとしたユカリ、拍子抜けしてがくり。

麻衣「あんま本気出さんでやね!!お手柔らかに。ね、ね。お願い。」
ユカリ「分かってる。では気を取り直してぇ…ユカリサーブっ!!」
麻衣「きゃっ!!」
ユカリ「おいおい、何でそこで避けるんだよ!!凄く弱く打ってるんだから打ち返しておくれよ!!」
麻衣「ごめんよ。」
ユカリ「頼むよぉ、なら次は麻衣ちゃんからのサーブ打ってみてよ。」
麻衣「よしっと。では、行っきまぁーす!!♪風のぉ、魔球を…受けてみやがれっ!!麻衣サーブっ…あれ?」

   空振りにユカリ、笑い出す。

麻衣「くっそぉ、もう一度…♪風のぉ、魔球を…あれ?」

   またも空振り。ユカリ、笑いながらやれやれとお手上げのポーズ。

麻衣「ちょっと、何よぉユカリ君のほのポーズはぁ!!」

   麻衣、照れたように笑い、舌を出して頭をかく。 

 同・露天風呂
   水着での混浴風呂。ユカリが入っている。そこに恥じらいながらそっと麻衣。

ユカリ「あ、麻衣ちゃん…」

   照れて笑う。

ユカリ「気持ちいいよ。早く。」
麻衣「えぇ…」

   恥じらいつつ入る。

麻衣「うわぁー…」
二人「はぁ、気持ちい!!」
麻衣「でも流石に蓼科は寒いな…また雪が降っとる。」
ユカリ「だね…」

   温度計を見る。

ユカリ「11月にして、気温は-5℃だもん。肩までしっかり浸からなくちゃね…」
麻衣「明日からへー12月だもんなぁ…って…」

   ユカリは頭まで遣っている。

麻衣「ユカリ君、ほれ肩じゃなくて頭だに。」

   ユカリ、出てくる。

ユカリ「そーでした。」

   笑う二人。

ユカリ「でも本当だよ。確りと暖まらなくっちゃ…この寒さだと風邪引いちゃうよね。」
麻衣「ほーね…でも、どーせこのあと、室内の温泉入るで」
ユカリ「いいか…」 

   二人、ぼわーっと入っている。

麻衣「でも不思議…何だか君とおると、健司やせんちゃんとおるみたいな錯覚にとらわれちゃう…特に健司に。…声も、容姿も、髪型や癖、行動までもがそっくりだだもん…体型だって…」
ユカリ「そ?」

   悪戯っぽく。

ユカリ「ならいいさ、今日一日僕を健司くんだと思って過ごしてくれればいいよ。」
麻衣「でもな、一つだけあいつとは、違うところがあるんよ。」
ユカリ「え、何?何処?」
麻衣「君はとっても素直で穏やか。でも健司は意地っ張りでとても生意気。小さいくせにわざと背伸びしたがってさ…。なのにほんなところがとっても可愛らしくて…憎たらしいのに憎めなくて…とっても愛しい…」

   頭まで潜ってまた出てくる。

麻衣「ごめん、しんみりさせちゃった。」

   涙をぬぐう。

麻衣「情けないよな…年下の男の子に弱音はいて慰められるだなんて…」
ユカリ「そんなことないよ!!とんでもない、こんな僕でも力になれるんならとても嬉しい。それに…当たり前だろ?年的には僕の方が子供で、君の方がお姉さんだけど…君はそれでもやっぱり女の子だし…僕は小さいけど一人の男だ。だから女の子を守る、それが男としての僕の役目だよ。」
麻衣「まぁ、君までほーゆー生意気言って!!」

   ユカリをこずく。

麻衣「でも…例え君が14歳だとしても…たぶん健司やせんちゃんだったら…やきもちやきだで、君と私が一緒のところ何て見たら嫉妬して泣いちゃうかもな。」
ユカリ「えぇ?」
麻衣「ほいだって、…ねぇ?裸と裸の付き合いなんて…」

   ユカリ、ニヤニヤ。

ユカリ(じゃあ、僕が父さんよりも母さんと先にお風呂に入ったって事になるのか…)
麻衣「ん?」
ユカリ「いや、別に。でもさ麻衣ちゃん、まさか実の息子と母の関係に嫉妬する父親もいないと思うよ。」
麻衣「え?」
ユカリ「いえ、なーにも。今日の事は後で知って君、驚くかもね。」

   意味深に笑う。

ユカリ「その内に分かるさ…その内に、その内に…」
麻衣「ま、いっか。」

ホテル・個室
   麻衣とユカリ。畳に座ってお茶やお菓子を食べている。

ユカリ「っプハーっ!!気持ちいかったぁ!!汗かいたあとのお茶とプリンは格別じゃのぉー!!ね、麻衣ちゃん!!」
麻衣「えぇ!!ほれに…ベッドのお部屋なんに、ここにはミニ和室みたいなもんもあるで嬉しいよな。日本人にはやっぱりこれがなくっちゃな。」
ユカリ「ミニ和室って…普通に畳でいい様な気もするんだけど…ま、いっか。」
麻衣「んー?今なんか言ったぁ?」
ユカリ「いや、なーにも。」


   12時。あくびをする二人。

ユカリ「あー、バカバカ言ってたらこんなに遅くなっちゃった。麻衣ちゃんももう眠いでしょ?」
麻衣「えぇ…」
ユカリ「だね、僕ももう眠いや…」
麻衣「寝まい、とっても楽しかった…ありがとうね。君も、やっぱり男なんね。おしゃまな君に元気つけられちゃった。」
ユカリ「どーいたしましてです。僕も、君が元気になって嬉しいよ。」

   手をとる。

ユカリ「大丈夫だよ、僕を信じて。きっと小口君も健司君も、元気で君の元へ戻ってくるさ。」
麻衣「えぇ、君のお姉さんもきっと…」

   二人、笑う。

麻衣「さ、ユカリ君だって学校があるだら?てか、これから京都へ帰らんといけんだらに。」
ユカリ「ゆっくりで大丈夫。明日のんびりと長野見物してから帰るよ。土日とあるからね。」
麻衣「あ、ほーか。へー土曜日が休みになったんだわな。」  

   二人、それぞれのシングルベッドに
入って眠る。

麻衣「ユカリ君、」
ユカリ「zzz …」
麻衣「かぁい、へー眠っちまっとる…」

   まじまじ。

麻衣「寝顔まであの日の健司にそっくり…全く…」

   布団を掛けなおす。

麻衣「布団のかかりかたまで同じだなんて…」

 
   翌朝6時。

麻衣「んー、おはようユカリ君…」
ユカリ「あ、麻衣ちゃんおはよう…最後にもう一回…」
二人「朝風呂行くっ?」
 
   二人笑って荷物を持つと部屋を出ていく。


   二人、昨日の露天風呂に浸かっている。

同・レストラン
   座る二人。

麻衣「はぁーっ!!さっきは気持ち良かったぁ!!シャキッとしたに!!シャキッとしたらお腹ペコペコ!!」
ユカリ「僕もだよ。さ、ごはん取りに行こうよ。飲み物は何がいい?もらってくるよ。」
麻衣「ほう?ありがとう、何でもいいに。」
ユカリ「そう?紅茶でも大丈夫?」
麻衣「大好きよ。」
ユカリ「分かった!!」
麻衣「ありがとう。」

   二人、其々に行動。


   暫く後。

二人「頂きまぁーす!!
麻衣「あらやだ、ユカリ君ったら朝からほんねに食うだけやぁ?」
ユカリ「だって全種類食べたいじゃん?僕って育ち盛りだし…」
麻衣「ほれもほーね。」

   うっとり

麻衣「でも私、今日のこのこんは一生忘れんと思う…例え誰かと結婚しても…」
ユカリ「僕もさ…」

    食べ続ける二人。

バス停
    ユカリと麻衣。

ユカリ「帰るんだね…気を付けて。」
麻衣「ユカリ君も…色々とありがとう。」
ユカリ「いや…」

   麻衣、ユカリに手提げを渡す。

ユカリ「?」
麻衣「君へのお礼。大したもんじゃないけど信州らしい手土産買ったの。京都へ戻ったら、家族で食ってみてな。つまらんもんで申し訳ないけど…あの蘇我さんにも、よろしく伝えてな。」
ユカリ「え、僕にくれるの?良かったのに、こんなこと…」

   麻衣、微笑む。

ユカリ「ありがとう、なら喜んで頂きます。」

   バスが来る。

ユカリ「あ、バスだ…」

   麻衣、乗り込む。

麻衣「えぇ、またどこかでな。ユカリ君、ありがとう。君も気を付けてな。」
ユカリ「あぁ、必ず何処かで!!バイバーイーー!!」

   出発。手を降るユカリ。

   バスの中の麻衣もいつまでもユカリの方を見て手を降っている。雪は又ちらつき始めている。


茅野中央高校・教室
   麻衣、ぼわーんとして窓辺を見つめている。

   『ソルヴィグの歌』

麻衣『♪何ヵ月もの月日が流れあなたが私のもとに帰ってきたならば私はあなたの妻となるの。そんな約束をしたあの日から、他の誰にも心移さずあなたを待つの。アー…。もしも生きていらっしゃるのなら、ご無事に私の元に帰ってきてください。お戻りください。でももしも、愛しきあなたの命ないのなら、黄泉の花園で私達は再会しましょう。アー…。』

   終わると窓を閉めて中にはいる。授業中も心ここに非ずの麻衣。

   (チャイム)
   昼食時。なかなか箸が進まぬ麻衣。

みさ「まいぴう、どうしたの?…全然食べてないじゃん」
加奈江「君らしくないよ。何かあった?」
すみれ「そうよ、何か心も体も凄く窶れてるみたいだし…話してみなさいよ。」
麻衣「一ヶ月前の…ニュース…」
キリ「ニュース?…何の?」

   震える麻衣

麻衣「ワルシャワで大震災があって壊滅したってニュースよ…」
すみれ「あぁ、大変よね…何か日本人にも犠牲者がいて」
みさ「9人から15人に増えただとか…」
麻衣「せんちゃんと健司…まさにほのワルシャワにおるら…」

   すみれ、加奈江、みさ、キリ、ハッとして顔を見合わせる。

麻衣「二人とも、あれから一ヶ月に二度もくれていたお手紙もないし、携帯も繋がらん…ほいだもんで、もしかして何か…」
みさ「まさか、よしなよまいぴう…」
キリ「そうさ、二人は元気!!きっと大丈夫だよ。」
すみれ「その通り、それにもしも仮に何かあったとしたら、育田先生や校長先生が言うはずじゃない?こんな大事な事なんだもん。」
加奈江「でも、ほんな噂や話、何にもない。」
みさ「二人のお母さんからもまいぴう、何にも聞いていないんでしよ?」
麻衣「え…えぇ…。」
みさ「だから、ね!まいぴう、大丈夫だよ。でももし、」

   立ち上がる。

みさ「あの男共め、まいぴうを残したまま逝っちゃって、泣かせるような真似したら…この副生徒会長の城ヶ崎みさちゃんが、化けてでもぼっこぼこのぎったぎたにしてやるんだからっ!!覚悟なさいってんでい!!」
麻衣「みんな…ありがとう…」


   (チャイム)
   五時間目の授業。育田が入ってくる。

すみれ「起立、礼、着席っ!!」
育田「ではこれより、五時間目の数学を始めようと思うが…その前に一つ、諸君に言わねばならぬことがある。」

   深刻そうに見渡す。

育田「一ヶ月前、ポーランドのワルシャワで大地震があり、日本人も何人もなくなったと言うニュースは諸君も存じているだろう。あの日より、我が校もそうだが、留学に行っとる小口千里の母親も何一つ連絡がとれていない。今も必死の救助活動が行われている。が、万が一の覚悟はしてほしいとの連絡を受けた…」

   話を続けている。麻衣は蒼白になって今にも泣き出しそう。

育田「以上だ…それでは授業を…」 
麻衣「ほんな…ほんなの嘘よ…ありえん…」

   麻衣、震えながら顔を覆って教室を飛び出る。

育田「柳平っ、おいっ、何処行くんだ!!おいっ!!」
すみれ「麻衣っ!!」

   後を追う。

すみれ「育田先生、ちょっと私も失礼しますっ。」
育田「お、おぉ…」

   心配そう。

育田「では諸君は授業をするぞ。教科書のぉ…」

同・女子トイレ
   小部屋に立て籠ったまま麻衣、泣いている。すみれ、ドアをノック。

すみれ「麻衣、麻衣、いるんでしょ?」
麻衣「…。」
すみれ「鍵開けてよ…出てきてよ…」

   麻衣、黙って鍵を開けると泣き晴らした瞳で出てくる。

すみれ「麻衣っ…」
麻衣「すみれ…さん、」

   麻衣、すみれに泣きつく。すみれも泣きそうになりながらも麻衣を抱き締めて慰める。麻衣、静かに泣き続けている。

ポーランド、ワルシャワ・教会の墓地
   12/9。パイプオルガンが響き渡り、多くの人々が参列。泣いている。歌う参列者。中には、幸恵と珠子もいる。
二人の携帯が同時に鳴る。
   
   『心に主イエスを』

柳平家・居間
   麻衣、糸織、紡がお茶をしているが、麻衣、蒼白になってコップを落とす。

糸織「麻衣?」
紡「どーした?」
麻衣「私…出掛けてくる…」 

   麻衣、ぼわーっとしながら退室。二人、顔を見合わせてテレビに目を戻す。

糸織、紡「!!っ」

上諏訪・並木通り
   思い荷物をもって、ヨロヨロと気の抜けたように歩く麻衣。
   『風と話した』

麻衣『愛しいあの人の名前を、風邪にのせて紡いだ。もう戻れないあの頃を懐かしいなんて思いながら。もしももう一度あなたに会えるのならばこんな〜なんか捨てて、ず今を共に生きる大切な人として、私の本音を話したい、心のドアを開け放って…風よ私のこの声を、とどけておくれ愛しい人へ、風よ私の叫んだこの想い…届けあなたに、時を越えて…。もしももう一度あなたに、会えるのならば強がりなんて台詞なんて捨てて、ずっと側にいて欲しい、大切な人として素直な気持ち話したい心の窓を開け放って…。風よ私のこの声を届けておくれ愛しい人へ、風よ私の叫んだこの想い…届けあなたに、時を越えて…風よ…。風よ私のこの声を届けておくれ愛しい人へ、風よ私の叫んだこの想い…届けあなたに、時を越えて…時を越えて…』

   麻衣、ため息混じりに寂しげに駅舎へと入っていく。そして無言で電車に乗る。


茅野駅・東口
   広場には誰もいない。麻衣、朦朧とベンチに腰を下ろして缶ジュースを飲む。 

麻衣「あったかい…」

   虚ろな目で悲しげに自分のとなりを見る。左隣には微笑む千里の姿。右隣には健司の姿が現れては消えていく。麻衣、フフッと笑う。

   暫くして、立ち上がる。

麻衣「?」

   ヨロヨロと歩き出す。

麻衣(あれ…なんか私…)

   暫く行くが、駅の構内で雪の上にバタリと倒れる

麻衣「…。」

   大雪に埋もれる麻衣。誰も通らぬ。


   (数十分後…)
  駅の出入り口から健司が出てくる。

健司「…!!」

   急いで駆けつける。

健司「なぁっ、大丈夫ですかっ?おいっ!!」

   抱き起こす。

健司「って…お前、麻衣じゃんかっ!!」

   ぐたーっとした麻衣をおぶる。

健司「このばか野郎っ!!一体お前は何やってんだよ!!待ってろ…」

   立ち上がってキャリーカートを引きながらごさまんとある麻衣の買い物袋も持ってゆっくりと大雪の中を歩き出す。

諏訪中央病院
   麻衣をおぶった健司。受け付けにはタニア。

健司「急患ですっ!!おばさんっ、診察頼むっ!!」
タニア「…分かりました、」

   急いでストレッチャーを取りに行く。

タニア(だから誰がおばさんよっ、このくそがき…)


同・病室
   点滴をつけられた麻衣。眠っている。近くに健司、幸恵、タニア。

健司「おふくろっ、麻衣は?こいつ、冷たい雪の中に埋もれて倒れていたんだ!!」
幸恵「心配ないわ健司、安心して。」

   健司、安堵のため息。

幸恵「今は熱による脱水症状が酷いけど、明日になって、熱も下がれば目も覚ますし元気になるわ。」
健司「ほーか…」  

   麻衣は時々うなされる。

健司「ん、麻衣?麻衣?おいっ、どーしたんだよ?」
麻衣「健司…健司…」
健司「おいっ、どーしたんだよ?俺はここにいるじゃんか、ばかっ、おいっ!!」

   麻衣の手を握る。

麻衣「せんちゃん…」
健司「え?」
麻衣「健司…せんちゃん…どいで?どいで私を置いて死んじまったんよ…嫌…死な…」

   咳き込む。健司、麻衣の背をさする。

健司「麻衣…」

   髪を撫でる。

健司「心配かけてごめんな…でも安心しろよ、俺も千里も…無事だよ…」

麻衣の夢の中
   航海の浜辺。麻衣一人。

   『ある晴れた日に』

麻衣『旅立つ前に、あなたは私にこう言ったのだよ…おぉ、リネッタ…可愛い人よ、必ず僕は帰ってくるよ…こまどりがまた帰る頃に。帰る、帰ると、私にお言いに…何故にその様泣くの?疑っちゃダメよ…お聞きなさい…。ある晴れた日に、遠い海の彼方…煙が立ち、船が軈て見えるの。真っ白い船が港に入り、礼砲を打つの…ご覧、あの人よ…だけど迎えには行かないの、近くの岬に行き、そこで彼を待つのよ。いつまでも…。港の町を離れた人の姿が、丘を登ってくる…。あれは?どなた?あれはあの方よ。そして何を言うの?遠くからリネッタと呼ぶのよ…。でも私は答えずに、私は身を隠しましょう。さもないと、嬉しさに死んでしまうかもしれないから…すると彼は心配して私を呼びます。可愛い麻衣ちゃん、白ゆりの花よ…ほーよ、良く呼んでくれたように。きっといつかこうなるのよ。だから行っちゃ嫌…彼はきっと帰る…ふんとぉーだに…。』

   一筋の涙が流れる。

   (翌朝)
   健司、麻衣の隣の椅子で眠っている。毛布がかけられている。

   健司、朝陽に照らされて眩しそうに目覚める。

   麻衣の布団をかけ直して額に触れる。

健司「良かったな麻衣…落ち着いて…。後であいつも来るからな…」

   (暫く後)
   麻衣、少しずつ目を開く。ぼんわりとしている。近くには健司と千里。

麻衣(健司…、せんちゃん…?私に会いに来てくれただ?ほれとも私があんたたちの国へ来たのかしら…。でないのなら、幽霊?幻覚?…覚めたら消えてしまうのね…だったらせめてあと少し…後少しだけ…)

   再び眠りに落ちる。健司と千里、麻衣を揺すり起こして呼んでいる。


   (数時間後)
   再び目を覚ます。

麻衣「んーっ…おはよ、」
健司「麻衣っ、麻衣!!」
千里「おい、麻衣ちゃん、気がついたか?」
麻衣「ああ…健司に…せんちゃん…」

   徐々にはっきり。

麻衣「!!っ健司にっ、せんちゃんっ!!っどいでここに?てか、ここはどこ?私は?」

   飛び起きるがベッドに倒れる。

麻衣「っっ、頭痛い…どーしちまったんだら私…」

   再び起き上がろうとする麻衣を寝かせる健司と千里。

健司「ばか野郎、お前はまだ寝てろっ!!」
千里「健司くんから聞いたよ。昨日、茅野駅東口で倒れたんだって?体調悪いのに出掛けたのか?」
健司「ほーだよ、お前っつー女は、なんつー無謀でバカなんだ?ちょうど俺が通ったもんで良かったけどさ、ほいじゃなかったらお前、死んでたかもしれないんだぜ?」
麻衣「死んでた?私が?」

   辺りをキョロキョロ。

麻衣「ほいじゃあここは、黄泉の国でもないんね、あんたらはふんとぉーに、生きとるあんたらなんね?」

   健司、千里、無言で微笑みうなずく。

麻衣「良かった…」

   虚ろな目から涙がこぼれる。

麻衣「私な、ニュースでワルシャワ大震災の犠牲者追悼式のニュースをみたんよ…ほこにな…」

   淡々とゆっくりと話す。


麻衣「でも…温かい…健司とせんちゃんの手…ふんとぉーに生きとるあんたらなんね?夢じゃない?ここにおるのは…幻じゃない?」
健司「大丈夫だってんだろ。安心しろよ、」
千里「そうだよ。僕達はちゃんと君の側にいる…。ごめんね、麻衣ちゃん、心配かけて…」

   瞳を潤ませる。

千里「こんなに痩せちゃって…全く、ご飯ちゃんと食べてたか?ちゃんと眠ったか?」
麻衣「大丈夫…私は大丈夫…あんたたちこそ大変だったら、辛かったら…。ありがとう、無事に戻ってきてくれて…」

   麻衣も涙を浮かべる。

麻衣「私、てっきりあんたたちはあの大震災で亡くなってしまったと思ってた…。ほいだって、お手紙も、メールもない。電話だって繋がらんだもん。終いには育田先生から、あんたらの行方不明を聞かされる…だもんで私…」

   健司の胸に泣きつく。

麻衣「うんとうんと、心配しとったんよ!!いったい何があったんよ!!」
健司「麻衣…」

   ワルシャワ音楽院での回想色々。健司、麻衣を固く抱き締める。

健司「俺もまた戻ってこれて嬉しいよ…ありがとう。待っててくれて…愛してる。」
麻衣「私、またあんたに会えてとっても幸せ…まだ夢を見ているみたい…」

   胸を離れる。

麻衣「せんちゃん…あんたにも…あんたにも、会えてとっても嬉しい…」

   千里にも抱きつく。

千里「ほ、ほらほら、君はもうベットに寝てなくちゃいけないよ…」

   赤くおどおどしながらも麻衣を横にならせる。

(回想)柳平家・居間
   昨晩。炬燵でチェスをする糸織、紡。

糸織「遅いな、麻衣のやつ…どこほっつき歩いてんだ?」
紡「今日は私たちの誕生日だっただに、酷すぎるっ!!麻衣の料理を宛にして何にも食っとらんだに、私へーお腹ペコペコー…」
糸織「同感…僕もだよ…。」

   二人、炬燵に突っ伏せる。と子とあすかはカップ麺を食べている。

と子「おバカ…」
あすか「父さんが伊那で買ってきてくれたカップろーめんまだあるよ。すごく美味しいよ、兄さんも姉さんも食べなよ。」
と子「バカッ、やめなあす。あの二人、何勧めたって今は聞く耳持たんでさ…放っておきな。あの二人…」

   呆れたように

と子「麻衣姉が帰ってくるまでずっとあーやってるつもりだよ。せっかくの誕生日だだに、お気の毒。」
あすか「そーか…でも、今日が誕生日ってことは麻衣姉も同じでしょ?麻衣姉だってきっと、美味しいご飯作って皆と食べるの楽しみに…」
と子「チ、チ、チ、考えが甘いなあすは…」
あすか「え?」
と子「だって考えてもみな、あのモテる麻衣姉だに。どーせ、他の男に口説かれて、この際一緒に食事に行った…ま、ほんなとこずら?」
あすか「ふーん…」

   二人を見る。

あすか「だって。」
糸織「あーあ、ほれなら僕も今日は、ちきちゃんとデートの約束とってりゃ良かったなぁ…」

   電話がなる。

糸織「あ、」
と子「いいに、私でる。はいっ?柳平にございます…はいっ、はい、はい…え?はいっ!?…はい、分かりました、えぇ、伝えておきます。ほーい、ありがとうございました…。」

   切って戻る。

紡「ん、と子、誰から?」
と子「岩波さんって人から…」
糸織「なんだって?」
紡「麻衣にか?」
と子「ううん、しお兄とつむ姉に。」
糸織、紡「は?」

   話を聞く。

糸織、紡「はぁーーーーーーーーーいっ!!?」

  紡、怒ったように立ち上がる。

と子「でも、…来るなって。」
紡「は?」
と子「来なくていいって、岩波さん言ってたよ。」
紡「ほんなこん言ってられっかっつーの、しおっ!!」
糸織「よせよつむ、」
紡「あんたまで何よ、」
糸織「健司くんの気持ちもわかってやれよ…な。」

   紡、腑に落ちないように、むしゃくしゃと座り直す。

茅野中央高校・3年棟
   生徒が何人も廊下に戯れる。

すみれ「麻衣ったら…今日も休みなのね。可哀想…きっとせんちゃんの死がショックなのよ…」
みさ「だってまいぴう、せんちゃんの事が大好きだったんだもん。」
加奈江「しかも彼だけじゃないんだ…最愛のたー坊も…」
キリ「お見舞いに行った方がいいのかしら?」
向山「よせよ、かえって柳平を追い詰めるこんになるぞ。」

   しんみり。西脇と岩井木はハンカチを噛んで泣いている。

岩井木「くっそぉ、何たるこった!!この僕としたことが、リネッタに何もしてあげられないだなんて…」
西脇「この僕の瞳には刺激が強すぎるぜ!最近のあの子の姿なんて、痛々しくて僕には見ていられないっ!!」
女子たち「いやいや、あんたらは特になにもしなくていいから…」
岩井木・西脇「うぉーーー!!くっそぉ、悔しいぜ!!何もできぬ自分が腹立たしくてならんっ!!」
西脇「千里ぃ、お前よくも僕らのリネッタを悲しませたなぁ!!」
岩井木「勝手に死にやがってぇ、ばか野郎ぉ!!」

   二人、廊下を暴走して消えて行く。

すみれ「てかあいつら、」
加奈江「いつもの事だけど…」
みさ・キリ「全く人の話聞いてないし…」

   小松、小さなため息をついて壁の影に立ってみている。そこへ野々子、茶目子。

野々子「ふんっ、いい気味だわ。」
茶目子「本当、本当、きっとこれはあの子への罰よ。」
野々子「魔性っ面して、男を二股かけるから結局両方失ったんだわ。」
茶目子「しかも手ぇ出した相手が、あの岩波くん。せんちゃんいるくせに、あの子とまたより戻すからよ。」
タミ恵「そうかもね、」

   何処からともなくつんっとして現れる。

タミ恵「でも、今一番傷付いているのは…あの子じゃないかしら?あんたら、そんな人の痛みも分からないのね…お気の毒。」

   去る。茶目子、食って掛かろうとする。

茶目子「おいっ、タミ恵!!お前一体誰の味方なのよっ!!」
タミ恵「さぁね。」

   小松もため息をついてやれやれとその場を去る。茶目子、まだ戦闘体制。女子たち、又かと呆れたようにやれやれ。

諏訪中央病院・病室
   花札をやる麻衣、千里、健司。いつも健司が負けて悔しがっている。麻衣と千里は笑う。

   三人、裁縫をしている。

麻衣「わぁー、凄いっ!!二人ともお裁縫上手いのね。何を作っているの?」
健司「内緒、出来てからのお楽しみさ。」
麻衣「せんちゃんは?」
千里「僕のもね。」
麻衣「ちぇっ、ケーチっ!!」
健司「ほーいうお前こそ…」

   麻衣の手元を見て、目を丸くする。麻衣、布の両端から手縫いをしている。

健司・千里「え…」
麻衣「ん?」
健司「すげぇなお前…ほれ一体どうやって覚えたんだ?」
千里「てか、そんなこと自体、出来るんだね。初めてみたよ。」
麻衣「ほ?母方の祖母に教わったんよ。」
千里「へー…」
健司「うわぁ…すげぇや…お前って…」

   二人、ずっと麻衣の手元を見つめている。麻衣、照れて赤らめる。

麻衣「嫌ね、何やっとるんよ二人とも。早くほれっ、健司もせんちゃんも、自分の続けて。な。」
健司・千里「はーい…」

   三人、それからは無言でやり始める。


   (夜になる。)
   満月。三人、カーテンを開けて窓辺に立って外を見ている。

麻衣「今夜は満月なのね…綺麗…」
健司「あぁ…雪も止んだし…」
千里「そうだね。僕なんか、喉乾いたな。」 
麻衣「私も、何か飲みたいわ。」
健司「じゃ俺、何か買ってくるわ。」
麻衣「うんっ。」

   健司、退室。麻衣と千里のみ。気まずそうな二人。

麻衣(あぁ、せんちゃん…バカな人…。私、あんたに今どんどん惹かれちゃってるみたいなの…どうしましょう…。心も頬もこんなに熱い…私には健司がいるのに…なのに…)

   千里も動揺しておずおずと麻衣をちらりと見る。お互いの顔は真っ赤。

   健司が戻ってくる。

健司「はいっ、買ってきたよ。」
麻衣「ありがとう、わぁ!!パンプキンジュースだ!!」
健司「ほ。確かお前、これが好きなんだろ。千里、お前と、俺も麻衣と同じの。」
千里「ありがとう!!」
麻衣「健司、覚えとってくれたんね。嬉しいっ!!」
健司「当たり前だろ。だもんで俺も、」
健司、千里「これが好きっ!!」

   健司、千里を睨む。千里、おどおどと目をそらす。麻衣、クスクス。

   三人、ぼんわりとしている。月を見ながらジュースを飲む。

   『コメプリマ』

麻衣『♪月の光も麗しく、恋が今訪れる。心ときめくこの夜…何故かしら?私は…コメプリマ、初めて知った。あなたを愛することを、あなたは私の全てよ。心はいつもあなたに…コメプリマ初めて知った、全てをかけた恋を、私の願いはこの世に一つ、コメプリマ、変わらぬ愛…』
健司・千里『♪コメプリマ初めて知った、あなたを愛することを。あなたは私の全てよ、心はいつもあなたに…コメプリマ初めて知った、全てをかけた恋を、私の願いはこの世に一つ、コメプリマ変わらぬ愛…』
健司『♪コメプリマ…』
千里『♪変わらぬ…』
麻衣『♪愛を…』
三人『♪ah.ah.si…』

   (深夜)
   眠りに付く麻衣。健司と千里は近くの椅子に座る。

健司「今夜は俺たちもここにいる…ゆっくり眠って早く元気になれよ…。」
千里「明日はお休みだからさ、もう一日ゆっくり休めよ。な。」
麻衣「分かった、ありがとう二人とも…ほーする。」

   目を閉じる。健司と千里もあくびをして居眠りを始める。麻衣、再び目を開けて自分の着ていた羊のコートを健司に、ポンチョを千里にかける。

麻衣「お休み…今日はありがとう…二人とも、大好きよ…」

   再び眠りに落ちる。

   (翌朝)
   前景の三人と幸恵。にこやかに挨拶をして、別れる。三人は病院を出る。

玉川運動公園
   道を歩く三人。麻衣のお腹がなる。

麻衣「うっぅぅっ…」
健司「ん、麻衣どうした?」
麻衣「お腹空いたぁ…」
健司「腹へった?」
千里「そういえば僕も…」
健司「ほーだな、確かに俺も…よしっと」

   腕時計を見る。

健司「ちょうどお昼だもんな。ほいじゃあ何か、どっかで食べてく?」
麻衣「でも、あんたたちは?大丈夫?時間…」
健司「あぁ、俺は大丈夫さ。親父いないし、お袋はまだ仕事するし、勿論兄貴もいないし!俺も、会社とはへー無関係だし。」
麻衣「無関係?」
千里「どういう事?」
健司「あぁ…俺へーやめたよあんなとこ。この年で造り酒屋を任されるなんあり得ねーだろ、冷静に考えてさ。ほいだっておれ、まだ二十歳前だぜ?」
千里「確かに…」
健司「だろ?」
麻衣「健司…あんたも色々と大変なんね…」
健司「まぁな…で、千里姫、お前は?」
千里「僕も大丈夫さ。てか、その千里姫ってのやめてくれないかなぁ…」
麻衣「よしっ、決まり!どこで食うだ?」
健司「何処でもいいよ。ベアトリスの食えるもんで。」
麻衣「うーん…」

   考える

麻衣「ほいなら、この近くっつったらぁ…安くてぇ…」
千里「美味しくてぇ…」
健司「高校生にも人気のあるぅ…」
三人「グラジオラスっ!!」

   其々に

三人「ハッピーアイスクリームっ!!」
千里「決まりだね。」
麻衣「ほいじゃあレッツ…」
三人「セルリーっ!!」

グラジオラス
   座っている三人。

健司「んじゃみんな、何食う?」
麻衣「ここって、郷土料理とかB級グルメも始めたんよね?」
健司「んなら俺、山賊うどん!!と、小春丼…かな?」
麻衣「これっ、健司っ!!」
千里「なら僕は、原村コロッケパンと縄文Aランチのセット。」
麻衣「なら私は…うーんっ…」

   悩んでいる。

健司「早く決めろよ…後は麻衣、お前だけだぞ。」
麻衣「うーん…」
健司「ったく、遅せーなぁ…いい加減早く決めろよ…」
麻衣「うーん…ん!!ほいじゃあ私、バカ馬丼と、持ち帰りで蜂の子さんのビン詰めを一つ。」
健司「よしっと。お願いしまぁーすっ!!」


   (暫く後)
   食べる三人。

三人「んーっ…うっめぇー!!」
健司「いいなぁ、俺もバカ馬丼にすりゃ良かった。」
麻衣「食べたい?いいに、食べて。私こんねに食べれんでさ。ほれ、せんちゃんも!!」
健司「やりーっ!!」

   麻衣、千里に

麻衣「はいっ、せんちゃんも…お口開けて、あーん!!」
千里「え、えぇっ?」 

   動揺しながらも口を開く。

千里「ぱくっ。」
麻衣「ほれうんめぇ!!」
千里「…。」
健司「あーっっ!!てっめぇーらなぁ!!」
麻衣「妬いとる、妬いとる!!ほれ、たけちゃんも、どーぞ。あーっっ!!ぱくっ。どう?ほれうんめぇ。」
健司「お前にあーんしてもらえば何倍もうまいっ!!」
麻衣「ま!」

   麻衣もポッと照れる。

健司「ほいじゃあ麻衣、馬刺しって食えるか?」
麻衣「えぇ、大好物!!」
千里「ならなら、僕のコロッケと鹿肉は?」

   ワイワイとふざけあいながら食べている。


グラジオラス・店の外
   前景の三人。

健司「ふーっ、食った食ったーー!!うまかったぁ!!」
麻衣「んで、健司にせんちゃん、明日、学校は?」
健司「勿論、俺は行くよ。千里姫、お前は?」
千里「あぁ、僕も…って、だーかーらぁーっ!!」

   三人、歩いていく。

茅野駅・西口
   バス停にいる三人。

麻衣「あ、忘れてた!!」
千里「ん?」
健司「何だよ?」
麻衣「私な、せんちゃんの留学前、ハッピーアイスクリームで負けたもんで奢ってやる約束しとったの…アイスクリーム…」
千里「え?…あぁ、いいよ。あんなのもう…」
麻衣「ダメよ。ほいだってこれ、ハッピーアイスクリームの楽しみですもの。ね。」
健司「ふーん…だったらさ、あそこ行けば?アイスクリームって言えば、な。」

   麻衣と千里も分かった顔をする。

富士見町・駄菓子屋
   麻衣、健司、千里がアイスキャンディーを震えながら舐めている。

健司「あ、そういえば麻衣…俺お前に…」

   鞄をがさごそ。

健司「お土産物買ってきたんだ。」
麻衣「えぇっ、ほんな…いいっつったらに。」
健司「俺だけじゃねぇーんだ。千里もなんだぜ。」

   千里、照れる。

健司「これだよ。」

   麻衣に箱を渡す。

麻衣「ありがとう…まぁ、重いものなのね…開けていい?」
健司「どうぞ。気に入ってくれるといいけど…」
麻衣「何だら…まぁ!!」

   娘の形をした陶器の人形。

麻衣「まぁ、何て可愛らしいフランス人形!!」
健司「ワルシャワ王立歌劇場のショップで買ったんだ。オペラシリーズってんだ。他にも色々あったけど、これが一番可愛かったからさ。ほら、お前ってオペラやるからさ。これは、ホフマン物語っていう
オペラの…」
麻衣「オリンピアちゃん?」
健司「ほ、正解。でな、この薇を巻くと…ここに突っ込んでと…」
麻衣「わあっ!!」

   人形はかくかくと歌い出す。

   『オリンピアの歌』

   麻衣も聞いているうちに踊り出し、歌い出す。次第に人だかりも出来てくる。

麻衣『♪les oiseaux dans la charmille…』

   歌と躍りをまるで舞台のステージのように演じて続ける。

   終わる。麻衣、キョロキョロとしてポカーン。

麻衣「え?」
健司「みんなお前を見て集まったんだよ。」
千里「あぁ、最高だったよ。麻衣ちゃん…」
客たち「あぁ、いやぁ、お嬢さん最高だったよ。いい声してるねぇ!!素晴らしいものを見せてもらった。ありがとう。」
客たち「全くだ。私は妻と旅行に来たんだかねぇ、まさかこの旅行中に君みたいな子に出会えるだなんて夢にも思わなかったよ。ありがとう、いい思い出ができた。」
客たち「お若いのにとてもお美しい声をしていらっしゃるわね。ブラーブァ!!」

   客たち、手を叩きながら其々に話ながら帰っていく。

千里「だろ?」
麻衣「ほんなぁ、いやん、恥ずかしい…」
健司「全く、お前ってやつは流石…たいした女だぜ。」
千里「これが麻衣ちゃん名物、フラッシュ・モブだね。」

   千里、一人で納得をする。駄菓子屋の老婦人も微笑む。

老婦人「麻衣ちゃん、ビックリしたよ。あんた今ほんなこんをやっているんだねぇ。いや、立派になったよ。私も嬉しい。」
麻衣「嫌ね、おばちゃんまで!!」

   全員、笑い、麻衣も照れて笑う。


千里「なら次は僕からね。」
麻衣「え?」

   千里も麻衣に何かを渡す。

千里「大したもんじゃなくて申し訳ないけど、これは僕からね。ポーランド産のお茶とジャムやはちみつの詰め合わせ。それからお菓子とキャンディーだよ。食べてみてね。」
麻衣「ほんな、二人とも高いものを…こんねにたくさん悪いわやぁ…」
健司、千里「高くない、高くない、」
健司「日本のお金にすりゃ安いもんさ」
千里「多分ね。」

   健司、千里をこずく。麻衣、クスクス。

麻衣「ほいじゃあありがとう、では喜んで、遠慮なく戴きますね。今度ちゃんとお返しするでね。」
健司「ほんなんいらねぇよ。な、千里姫!!」
千里「あぁ、勿論さ。ね。」

   三人、微笑み会う。

健司「ま、麻衣もまてで律儀な信州女の血が流れとるっつんもんだわな。」
麻衣「ほいこんっ。」

   健司、麻衣をこずく。

健司「とにかく、折角ここまで来たんだ。みんなで俺んちへ来いよ。」
麻衣「ふんとぉーに?いいだぁ?」
千里「行く行くぅ!!」

   健司、グッドポーズをして、三人、バス停へと向かう。

岩波家
   麻衣、千里、健司。

健司「さ、誰もいねぇけどさ…入れよ。」
麻衣「お邪魔しまぁーす!!」
千里「お邪魔しまぁーす!!」
健司「ん。」

   部屋へ案内

同・健司の部屋

健司「ま、とりあえず楽にしてろよ。今お茶持ってくるでさ。千里、」

   ピアノを指差す。

健司「お前、あれ弾いてていいぞ。」

   出ていく。

千里「本当に?ありがとう!!」

   千里、ルンルンとピアノを曳き出す。麻衣、うっとり。健司もお茶を入れながら微笑む。


   (しばらくご)

健司「ほーいや麻衣、お前この前…誕生日だったろ?だで、送ればしまして…」

   麻衣にバラの花束とマコロンを渡す。
   『パリーヌのマコロンを』

健司「パリーヌのマコロンと、フラワーショップHARAIZAWAの真っ赤なバラだよ。どうぞ、スィニョリーナ。」
麻衣「わぁ!!ありがとう!!でも悪いわ、私さっき…」
健司「さっきのはお土産物、これは誕生日プレゼント、な、千里!!」
千里「うんっ…あ、ごめん…」

   ばつが悪そうに

千里「君の誕生日ってこと、僕忘れてた…。」
健司「てっめぇーっ!!」
麻衣「いいんよ、健司、やめて!せんちゃん、大丈夫…私、あんたの気持ちだけで充分。あんたがいてくれればほれでいいわ。」
千里「麻衣ちゃん…」

   健司、千里にがんをとばす。千里、しゅんと下を向く。

麻衣「健司、あんたの母さんのお帰りは?」
健司「多分、夜中だろうな…」
麻衣「夜中か…いいわ、私お礼と言っちゃあなんだけど、二人にお夕食ご馳走するわ。ねぇ健司、台所借りていい?」
健司「よっ、ほの言葉待っていました!!勿論、どんどん使って!!」
麻衣「ま!」
健司「千里、麻衣の誕生日なんだ。何かピアノ演奏しろよ。俺はバイオリンを弾くからさ。」
千里「いいよ、何を?」
健司「ベアトリスの一番好きな曲さ、伴奏頼むよ。」
千里「?」

   千里はピアノに、健司はバイオリンをスタンバイ。 

   『愛の喜び』

   終わると麻衣、頬を火照らせて大拍手。健司と千里、照れる。

   しばらくご。お菓子とお茶を囲む。

麻衣、千里、健司『♪ハッピーバースディ、ハッピーバースディ、ハッピーバースディ、トゥユー…』  

   手を叩く。

健司「さ、ではせーの。」
健司、千里「麻衣(ちゃん)お誕生日おめでとう!!」
麻衣「ありがとう二人とも…」

   マコロンで作ったマコロンケーキ

麻衣「まぁ、これってパリーヌで新発売のマコロンケーキ!!」
健司「ほ。人気なんだぜ。言わばビスケットケーキみたいなもんさ。」
麻衣「ん、おいし…」

   健司の頬にキッス。

麻衣「大好き。」

   千里もケーキを嬉しそうに頬張る。

麻衣「あんたも、」

   キッスをしようとするが、むっつりと健司が止める。

健司「ほいつにはだーめっ。」
千里「意地悪っ。」

   むくれる。三人、笑う。

同・キッチン
   健司は居間のソファーで小説を読んでいる。麻衣と千里が台所に立っている。


麻衣「さ、できた!!ご飯だにぃ!!」
健司「お、待っていました!!今日は、何だ?千里姫も作ったのか?」
千里「だから千里姫って呼ぶなっ!!」
麻衣「今日は、」

   炬燵に色々と並べる。

麻衣「これだに。ほれ、早く手、洗ってきな。」
健司「ほーいっ!!」

   小説を閉じて手を洗いにいく。

   (食卓。)

三人「いただきまぁーす!!」

   食べ出す。

健司「んーっ、やっぱりうめぇーや!!ありがとう麻衣、」
麻衣「何のこれしきっ!!」
千里「でもさ、いいな…僕羨ましいよ…」

   健司を見る。

千里「毎日こんなに美味しいご飯が食べれるようになるんだよなぁ…麻衣ちゃんの夫になる君は」
健司「ん、」

   照れたように顔をほころばせる。

健司「だろ?いいだろぉ、俺!!っフーッ!!」
千里「羨ましい限りだよ、いっそのこと僕が…」

   うっとり。

千里「奪っちゃいたいくらいだ…」

   健司、思いっきり千里をこずく。
   『僕のお嫁さんに』

千里「いたっ、冗談だよぉ、ほんの冗談だってばぁ!!」


   (食後)
   お茶を飲む三人。

麻衣「はい、飲んでみ。これ、せんちゃんがくれたポーランドのお菓子とジャム、お茶だに。」 
健司「やりぃ、早速出してくれたんだな!!」
麻衣「ったく、あんたって人はぁ…」
千里「でも、良かったのに…こんな一度に出してくれなんでも…また改めて君と健司くんで食べてくれれば…」
麻衣「いいの。もらっちまえば後はこっちのもん、買ってくれたあんたにだって食べる権利はあるわ。」
千里「ありがとう…」

   照れ目に笑う。

健司「ったく、お前ってやつはいつでも何か控えめだな…男っぽくないの…」
麻衣「あんたが図々しい過ぎるのよ。」


   ワイワイと夜は更けていく。

同・玄関先
   三人。

麻衣「ほいじゃあな健司、夜遅くまでありがとう。」
健司「や、こちらこそ。また二人とも来いよ。」
千里「うん、是非。僕んちにも来てね。」
健司「あぁ。ほれに麻衣、俺こそ…夕食御馳走さん。すっげー上手かったよ。」
麻衣「ほれは、お粗末様。んじゃ、せんちゃん…」
千里「あぁ。」

   二人、健司と玄関先で別れて歩いていく。

払沢の道。
   麻衣と千里があるく。

千里「ねぇ麻衣ちゃん…」
麻衣「大丈夫、私の母さんが農協まで迎えに来てくれるの。乗ってって。」
千里「ありがとう…」
麻衣「せんちゃん、明日登校するんだら?行きなりスケートだに?大丈夫?」
千里「え、スケート…?」

   千里、放心状態になる。

茅野中央高校・教室
   麻衣が入ってくる。

西脇「あ、リネッタおはよう!」
麻衣「あ、西脇おはよう!!」
西脇「みんなぁ、リネッタが来たぞぉ!!リネッタが戻ってきたぞぉ!!」
女子たち「わぁーーーーーっ、麻衣…っ!!」

全員、麻衣の回りによりたかる。

すみれ「あぁ麻衣!!」
麻衣「あぁ、すみれさんはよーん!!」
加奈江「辛かったね…私達君の事、ずっと心配してたんだよ?」
麻衣「へ、何のこん?」
みさ「頑張らなくてもいいの、せんちゃん…」
麻衣「せんちゃんが?どうした?」
キリ「可愛そうな麻衣…余程ショックが大きいのね…いいわ、いつでもいってね。私達があなたを守る。あなたの支えになるわ。」
麻衣「は?」
向山「だで、小口がし…」

   千里が入ってくる。

千里「はよーん。僕が?どうしたって?」
すみれ「あぁ、せんちゃんおはよう。ねぇ聞いてよ、麻衣の気がおかしくなっちゃったのよ。最愛のせんちゃんが亡くなっちゃって…?」
みさ「亡くなっちゃって…?」
加奈江「君…」
キリ「せんちゃん?」
千里「そうだよ?…ぼ、僕は、小口千里ですけど…」

   暫くシーン。

全員「きゃぁーーーーーーーーーーーーっ!!!出たぁーーーーー!!」

   千里、耳を塞ぎながら自分の席につく。

千里「だから僕は、死んでいませーーーーーーんっ!!」

   息を切らす。


みさ「え、じゃあ何?」
すみれ「せんちゃんと健司くんは、」
加奈江「まいぴうの誕生日の日に帰ってきて、」
キリ「既に会ってたって訳か。」
千里「そう言うこと。で、ずっと僕のママも健司くんのママも僕らが死んじゃったと思っていたみたいでさ、追悼式にまで出たんだ。でも、電話かけたときは驚いてたよ。」
麻衣「へぇ。」
すみれ「でもせんちゃん、三時間目はスケートよ。出来る?」
千里「う、うん…」

   渋る。

向山「へへん、」

   ニヤリ。

向山「ひょっとしてお前、滑れねぇーな?」
千里「そ、そ、そ、そんなことないよ!!僕だって…」
麻衣「ほーよ。ほいだって彼、バレエやっとるくらいだだもん。」
千里「う、ーむぅ、」  


白樺高原・こすもす湖岸。
   三年、全員が滑っている。

西脇「ねぇリネッタ、ちょっとスキー行ってみない?」
麻衣「えー、行ってみんに。一人でどーぞ。」
西脇「滑れる?」
麻衣「スキーは全く。あんたは?」
西脇「僕みたいな男は勿論滑れるさ。粋でかっこいい男はこれくらい出来て当然だろ。」
麻衣「ふんとぉーにあんたは、いつでも懲りずに、ナル男ね。いい加減呆れちゃう…」
西脇「てへへ、君に言われると照れちゃうな。」 
麻衣「いや、褒めてね、褒めてね、」

   そこへ岩井木

麻衣「お、相方が来た。」
岩井木「よ、リネッタよ!!」

   おっこーに身ぶり手振り

岩井木「見てごらんよこの壮大なスケール!!白銀のこの雪の広場は…」
麻衣「まるで輝く麻の衣の様さ、ほれはまるで君のように…って、ほー言いたいだら?」
岩井木「うーん、流石は僕達のリネッタ!!僕らは何も言わなくとも以心伝心しているのさぁ!!」
麻衣「いや…ほれ、去年も聞いたし、原小、原中ん頃からずっと聞かされてるもんで…覚えちまっただけ…。」
西脇「んじゃ僕らもスキー行こうよ。」
麻衣「いや、折角だけど遠慮しとく」
岩井木「どうしてさ?」


   氷の上へたつ。

麻衣「私、スキーはやっぱりいいや。この氷の上で充分さ。」
西脇「ちぇっ、つれないな…リネッタ、君って女は…」
岩井木「今度は僕たちと一緒にフィーバーしようぜ。」
麻衣「ほりゃどーも。行ってらっしゃーい。」
岩井木「靖、行こうぜ。」
西脇「おっ。」

   二人、スキーの方にいく。

麻衣「さてっ、私も…」

   滑ろうとするが、前方から凄い勢いで千里。

麻衣「…っっ!!」
千里「どいてぇ、どいてどいてぇ、止まらないよぉーーっ!!」
横井「わぁっ、おいおい、やめろって!!」
小松「え?うおっ、」

   全員、避けていく。千里、麻衣を見てギクリ。

千里「何やってんだ麻衣ちゃん、君も危ないから早く退いてくれっ!!早くどけよっ!!」

   麻衣、助けようと右往左往。

麻衣「せんちゃん、ゆっくりと片足つけてそして足を揃えてって!!だんだんに止まるわ!!」
千里「こうっ?」

   段々と麻衣に接近。

横井「おいっ、危ねぇぞ!!麻衣っ!!」
小松「麻衣ちゃんっ!!」
千里「あーーーーっ!!!」

   千里、バランスを壊して今にも最悪的な転び方になりそう。麻衣、蒼白になる。

千里「麻衣ちゃんっ、危ないよ、お願いだからそこを退いてぇーーッ!!」
麻衣「大丈夫っ、」

   覚悟を決めたような顔で目の前に立ちはだかる。

千里「おいっ!!」
麻衣「いつでもかかってこいっ!!」
千里「やめろっ、君まで大怪我だぞっ!!」
 
   (まもなく)
 ガチャーンっ!!二人が激突。千里は麻衣に馬乗り状態になり、麻衣は下敷きになりながりも千里を抱き止めている。二人は口付けをしている。


   全員、二人に注目 

全員「おー…」
紡「麻衣と…」
糸織「せんちゃんが…」
二人「ファーストキッス…」

   マコ、鋤かさずにカメラを構える。

マコ「撮っちゃった…ナイスショットね…」

   ニヤリ

マコ「学生新聞に乗せてやろーっと。」

   そこに矢彦澤

矢彦澤「だな、」
マコ「進さぁーん!!」

   有頂天になってもう一枚。


   千里と麻衣 

千里「…」
麻衣「…」

   千里、慌てて麻衣から離れる。

千里「ご、ごめん…」
麻衣「いえ…」
千里「大丈夫か?怪我とかない?」
麻衣「え、えぇ…私は平気…あんたこそ、大丈夫?」
千里「良かった、ありがとう…僕も全く。平気だよ。」

   立ち上がる。

千里「あいったたたたた…」
麻衣「大丈夫だだ?」
千里「いや、大丈夫、大丈夫!!ちょっとお尻打っただけさ。」

   千里、麻衣のてを引いて起こす。

千里「本当にごめんよ、」 
麻衣「いえ、いいの。あんたに怪我がなくて良かった。」

   赤くなる二人。野次馬生徒たち、二人を冷やかす。矢彦澤はマコの肩を抱く。

マコ(ふーん、あの男、なかなか格好いいところあるじゃないの。)

   岩井木、西脇、ハンカチを噛みながら歯軋りをして千里を見つめている。
   『スケートのワルツ』


茅野中央高校・教室
   ランチタイム。

麻衣「あーーーーっ!!!」

   千里のお弁当を覗き込む。

麻衣「せんちゃん、食べれるようになったんかぁ?ほれ、蜂の子さんずらにぃ!!」

   麻衣のご飯と同様、蜂の子の佃煮のふりかけがかかっている。

千里「あ、うん…そう。」

   照れる。

千里「実は僕、外国に立つ前に“蜂の子さん”と、“稲子さん”の缶詰め買って食べてたの。初めの内は…?だったけど、段々と食べている内に君の笑顔が見えてくるような気がして、食べる度に君が微笑んでくれる…そうしたら、やめられなくなってきて、だんだん好きになって…今では…」

   ご飯を書き込む。

千里「僕の大好物さ。」
加奈江「ほー、愛の力だねぇ…」
キリ「愛の力が、好き嫌いをも克服させた!!」
麻衣「私も嬉しい!!」

   微笑む。

麻衣「これであんたも正真正銘のお諏訪っ子ね。」

   千里も微笑む。

麻衣「なら今度、蜂の子さんと蝗さんの佃煮、私が作ってやるな。」
千里「ありがとう!!君のなら何倍も美味しいに決まっているよ!!」

   麻衣、有頂天気味に蝗をカリカリしゃりしゃり。他の女子は何とも言えない顔をして二人を見つめている。

   『蜂の子さん榎の歌』

麻衣『♪榎、榎、榎、蜂の子さん榎!!ある日お庭に生えてた茸をよく見たら榎茸、ユサユサユラユラ首降りながら私の様子を眺めてるの。何処からか現れた蜂の子と榎は大親友。仲良く手を取りダンスしていつも私を楽しませてくれるの。蜂の子さん榎、美味しさ120%ベストフレンド、愉快な笑顔で、蜂の子さん榎、蜂の子さん榎、これからも仲良くいてね。ある日町で見かけた友達、勿論それはあなたよ、人人並々ながら私の元へとかけてくるの、突然渡されたあなたからのプレゼント、リボンほどいて箱を開けたら素敵なギフト蜂の子さん榎!!あなたの笑顔、愛情120%ベストフレンド。素敵な笑顔でいつも私を和ませてくれるの。蜂の子さん榎、蜂の子さん榎、これからも側にいてね。榎、榎、榎、榎、蜂の子さん榎!榎、榎、榎、しめじ?いえ…蜂の子さん榎、蜂の子さん榎!!』

麻衣「ん、どーゆー?みんな食べんだけやぁ」

   不思議そうにキョトンとする。

小松家・清聡の部屋
   清聡、バイオリンを弾きながら心はここにあらず。小松茜(16)がピアノ伴奏をしている。清聡、間違えてばかり。

茜「ちょっと兄さん、真面目にやってるの?」
清聡「ごめんごめん、茜、もう一回お願い!!」
茜「んもぉ、今度こそちゃんとやってよね。私だって暇じゃないのよ。もし次間違えたら私、やめるから。」
清聡「分かったよぉ…」
茜「しっかりしてよね!!」

   ツンッとして弾き出す。

清聡(くそっ、小口くんのやつ…いい気になって、どんどん麻衣ちゃんと仲良くなってる…健司くんから認められたからって…よーしっ、と見てろよぉ!!)

   間違える。茜、怒ってピアノの鍵盤を叩くと部屋を出ていく。

茜「もう知らないっ、勝手にすれば!?」 

   清聡、バイオリンを放り出して葛藤。
   
   『ライバル』

清聡『♪僕の邪魔をする、油断大敵透きもなし、犬猿の仲ってわけじゃないけど、なんだかんだでライバルなんだ。そんなに近づくなよ、馴れ馴れしくしないでくれよ。お前が彼女といると僕の心は張り裂けそうなんだ。見ない降りなんて出来るか?見過ごすことなんて出来ない!今宵決闘でもしないか?早くけりをつけようじゃないか、早くぐっすり眠りたい…負ける気なんて、しないさ僕は、本気で行くお前はどうだい?僕の先を行く、彼女を独り占め…遠くで見つめる僕はまるで叶わぬ恋をしてるピエロ。誰よりも僕は、彼女を守りたいんだ。君のような男に渡すなんて出来やしない。知らない降りなんて出来るか、無視することなんて出来ない。今宵勝負をしないか?彼女にふさわしい男、それを証明するために。逃げたりはしないさ、真正面から、立ち向かう本気のバトル。火花を散らす僕らはライバル…いつでもどこでも、僕らはライバル…。見ない降りなんて出来るか?見過ごすことなんて出来ない、今宵決闘でもしないか?早くけりをつけようじゃないか、早くぐっすり眠りたい…負ける気なんて、しないさ僕は、本気で行くお前はどうだい?本気で行くお前はどうだい?』


   そこへ、小松孝士(18)

孝士「おい、キヨ!」
清聡「あ、孝士…いつもいってんだろ?ノックくらいしろ!!」
孝士「何度もしたさ。自分が気がつかなかったくせに。」
清聡「悪い悪い、で?何の用?」
孝士「煩いっ。お前さっきから何自棄になってるんだよ?」
清聡「…」
孝士「女に降られたか?」
清聡「そんなんじゃないっ!!」

   決心したように、 

清聡「よし決めたっ!!」
孝士「何を?」
清聡「お前には関係ないの、いいから早く出ていってくれ!!」

   孝士を追い出す。


   清聡、一人。

清聡(よしっと…)

   携帯を持つ。電話。

柳平家・和室
   三つ子の部屋。炬燵で編み物をする麻衣と紡。ペンピルルと遊ぶ糸織。

麻衣「雪ですねぇ…」
糸織「なんかだんだん強くなりつつある…」
紡「道理で寒いわけさね…」
インコ「ほりゃほーだらに、冬だだもん当たり前ぇ、ケケケケケ、クククククっ!!」

   紡、キッとインコを睨み付ける。 

紡「黙れカナルル、お前は誰に似ただか知らんが、少しお口が生意気なんだよっ!!」
インコ「ケッ!!」

   電話。

紡「あ、電話だ。」
インコ「早く出ろっつんだわいっ!!」

   麻衣と糸織、同時に紡を見る。 

紡「うぇーっ?私ぃ?しょーがねぇーなぇ。わかった。どっこらせっと。」

   だるそう。

紡「はい、こちら柳平にございますが…あ、うん、うん、おるに。ちょっと待っとってやね。」

   大声。

紡「麻衣ー?そうちゃんから電話だにぃ。」
麻衣「そうちゃんから?珍しいじゃあ…はーい。」

   麻衣もごしたそう。  

紡「あれあれ?」

   ニヤリ

紡「どーいうんかなぁ、せんちゃんならあんた、もっとシャキッとしとるだになぁ…」
麻衣「煩いっ!!」

   電話を代わる。

麻衣「はい、只今変わりました。麻衣でーす。」
清聡「あ、麻衣ちゃん?僕、小松です。」
麻衣「そうちゃん?珍しいじゃあ、どーゆーだ?」
清聡「あ、あのさぁ…突然で悪いんだけどさぁ…」
麻衣「何?」

同・台所
   12月24日。麻衣が夜に料理をしている。そこへ紡。

紡「ん、麻衣―?こんね夜に何作っとるだけやぁ?」
麻衣「あぁ、明日のお弁当だに。」
紡「明日の?…んーんー、ほーかほーか!!そうちゃんとの不倫デートだ!!」
麻衣「ほいだでほーゆーんじゃないっつんこん!!」

   紡、麻衣の握る謙信飯をみる。

紡「お、ほれ謙信飯じゃー!!一個貰いっ!!」
麻衣「あー、これっ!!食べるなやなぁ!!ちょっとしか作っとらんだでねぇ!!」
紡「ちょっとしかっつったって、私達のお昼分が少なくなるくれーずらに?」
麻衣「ほんなのありませんっ。」
紡「ほいじゃあ二人だけであんたら食うつもりかよぉ!!ありえんんー」
麻衣「文句いわんだ。又作ってやるに。」
紡「ちぇーっ、ケーチ。ほいじゃあもう一個貰いーーーっ。」
麻衣「あーっ、これつむー!!全くへー」

   紡、いたずらっぽく笑って逃げながら謙信飯を食べている。


   (翌朝)

麻衣「よしっとら荷物は全てOK!!」

   紡、糸織、と子、あすかが朝食をしている。

麻衣「ほいじゃあ、行ってくるわね。」
紡「ほーい、楽しんで来いよぉ。」
糸織「そうちゃんとの不倫デート!!」
麻衣「だで違うだっつーこんっ!!とにかくっ、いいや。もうじき花蒔にバス来ちまうで、行くわね。」

   麻衣、走って出ていく。机の上には風呂敷包み。他四人は風呂敷を見つめて顔を見合わせる。


   しばらくご、麻衣は一人でバスと電車を乗り継いでいる。
 
 
   






 

   




白樺高原・コスモス湖岸
   麻衣一人、湖岸に座ってぽわーんとしている。そこへユカリ。
   
   『愛しい人が来るとき』


ユカリ(彼女だ…)

   近づいて肩を叩く

ユカリ「や、」

   麻衣、びくりと振り向く。

麻衣「た、けし…」

   しばらく放心状態。

ユカリ「健司君って、君の彼氏?」
麻衣「え?」

   我に返る。

ユカリ「今確か、ワルシャワへ言っているんだろ?千里くんっていうもう一人の子と。」
麻衣「じゃあ、健司じゃ…」
ユカリ「ないんだ。僕はユカリ。中洲ユカリってんの。京都から来てんだ。」
麻衣「ごめんなさい…あまりにもそっくりだったもんで…でも、どいで?」

   きょとん。

麻衣「どいであんた、健司とせんちゃんのこんを?」
ユカリ「え、あぁ…」

   小粋に。

ユカリ「だってお姉さん言ってたでしょ?過去に僕と会ったとき…話してくれたじゃん。」
麻衣「え?過去に?」
ユカリ「ん、覚えてない?まぁ、いいけど…でもどうしたの?お姉さんとても悲しそうだね。」
麻衣「…。」
ユカリ「ワルシャワ大震災…」

   麻衣、ハッとしてユカリを見る。

ユカリ「大変だよね、僕もニュース見たもん。僕にも分かるよ、お姉さんの気持ち…だって僕のお姉ちゃんも今…ワルシャワにいるからさ。」
麻衣「え、」
ユカリ「いいよ、」

   微笑んで麻衣の手をとる。

ユカリ「とりあえず、僕の部屋で休んでいってよ。安心して、僕はまだ14歳だから、お姉さんを誘拐とかしないからさ。ね、ね。」

   走り出す。麻衣、クスクス。

ヒュッテ・一室
   ユカリがお茶を出す。麻衣はソファー。

ユカリ「そうだったんだ…ワルシャワの音楽院か…」
麻衣「えぇ…」
ユカリ「でも、きっと大丈夫だよ…僕は信じてる。お姉ちゃんは無事だって。だって何があったって不死身なお姉ちゃんだもん…だから、麻衣ちゃん、君も二人を信じなよ。」
麻衣「えぇ、ありがとう…」
ユカリ「でも麻衣ちゃん、昼間は物凄い吹雪だったんだよ、茅野は!!君、どうしてた?」
麻衣「昼間は学校だったから大丈夫よ。私、高校生だもんで。」
ユカリ「そうか、良かった…でももし君、僕がここへ来てなかったらどうなってた?あの寒さの中だぞ」

   微笑んで麻衣の肩を叩く。

ユカリ「無茶はするなよ。特に君は女の子なんだからさ、何かあったらどうするんだよ?君に何かあれば、今度は小口君と健司君を悲しませる事になっちゃうよ。」
麻衣「ごめん。ありがとう…」
ユカリ「いんや、」

   小粋に。

ユカリ「ところで僕、なんかお腹空いちゃったよ。そこのコンビニ言って、なんかおやつ買う?」
麻衣「ほーね。」

   二人、部屋を出る。

コンビニ
   混んでいる。女性客、ユカリと麻衣を見てヒソヒソと。ユカリ、キョロキョロとして小粋にしたを出す。

   レジ。

ユカリ「お願いします。ねぇお兄さん、ピザまん二つちょうだい。」
店員「いらっしゃいませ、畏まりま…」

   ユカリを見る。

店員「うわぁっ、」
ユカリ「ん?」
店員「ひょっ、ひょ、ひょっとして君、平城stepの中洲ユカリ君…ですか?」

   ユカリ、爽やかに微笑んでさっぱりと。

ユカリ「いいえまさか、違いますよ。でもよく言われるんですよ。」

   麻衣、先に外に出ている。

店員「で、ですよね。失礼致しました。」
ユカリ「いいえ、でも僕…ちなみに名前までそっくりだったりして…中洲ユカリっていうんだ、僕…」

   小粋に舌を出して店を出ると、急いで麻衣の手をとって走り出す。

店員「ありがとうございました。又のご来店をって…」
店員と客達全員「えぇっ?」

   逃げる麻衣とユカリの後ろからは大勢のファン達が駆けつける。

ユカリ「麻衣ちゃん、急ぐよ。」
麻衣「え、何ぃ!?」

 
ヒュッテ
   二人が息を切らして入ってくる。

ユカリ「はぁ、ビックリした。」
麻衣「ねぇユカリ君、今の何だっただ?私たちどいで追われたんよ!!」
ユカリ「へへっ、ごめんよ。脅かしちゃったね。はい、」

   中華まんを渡す。

ユカリ「これ食べてとりあえずは落ち着こ。温かい内に、ね。」
麻衣「ありがとう。」
ユカリ「ピザで大丈夫だった?」
麻衣「えぇ、大好きよ。」

   二人、微笑む。

二人「んー、おいし!!」

   18:30

麻衣「あ、もうすぐ帰らないと…」
ユカリ「待てよ、またいいじゃん。」
麻衣「でも、」
ユカリ「大丈夫…ね、一緒にいてよ。」
麻衣「でも君、お夕食は?」
ユカリ「任せて!!」

   大声。

ユカリ「蘇我さん、蘇我さん?」

   何処からともなく蘇我が出てくる。

蘇我「何だい、ユカリ君?」
麻衣「きゃっ、」

   少し引く。

蘇我「おぉ、」 

   麻衣を見て握手を求める。

蘇我「君は、あの時の!!」
麻衣「あの時の…?…まぁ!!」

   深々と

麻衣「ほの節はどうもありがとうございました…」
蘇我「いやいや、でも君が元気そうで安心した。で、ユカリ君、」
ユカリ「ごはん…」
蘇我「分かりました。では、麻衣さんにユカリ君…こちらへ…」

   蘇我、二人をつれていく。

麻衣「ねぇユカリ君、この方は?」
ユカリ「あぁ、彼は蘇我さん。僕のお着きの武官。…」
麻衣「は?」
ユカリ「いや…」

ホテル内のレストラン
   混んでいる。席につく二人。蘇我はいつの間にかいない。

ユカリ「よっしゃあー!!やっとごはんだぁ!!食べるぞお!!」
麻衣「まぁ嫌ね。さっきぴざまん食べたばかりじゃないの。」
ユカリ「いいじゃん。だってお腹すいてるんだもん。さぁーてと、何から食べっかなぁ?あ、麻衣ちゃん、君も遠慮しないでどんどん食べなよ。」

   はしゃぐユカリを見てクスクス。二人、ビュッフェを盛りに行く。

   しばらくして

麻衣「まぁユカリ君、君ったら!!ほんねに貰ってきて大丈夫?」
ユカリ「大丈夫さ!別腹、別腹!!元とらなくっちゃ。それに僕も…」
 
   お腹をさわる。

ユカリ「14歳と言えども、お腹は成人の男と一緒なんだ。」

   悪戯っぽく。

ユカリ「かにお代わり行ってきますっ!!」
麻衣「全く…言うこんまで健司そっくり…」


(回想)焼肉屋
   麻衣と健司

麻衣「なぁ健司、あんたさっきトルティージャ二つとコーラ飲んだばかりずらに!!よくほんねに入るな。まだ注文する気?」
健司「あったりまえだろ、食べ放題なんだぜ?2,500円分食わんけりゃ損だろ?17と言えど、この腹はへー、大人の男とおんなじだ。」

   小粋に笑って見せる。

健司「ウェイター、次はこの鹿肉と、マトンと、蓼科牛と、ほれからぁ…」
麻衣「これ健司っ!!やりすぎだらに!!一度にやんねくても少しずつにすりゃいいじゃあ!!」
健司「うっせぇーなぁ。大丈夫、大丈夫…んとですねぇ…」


(戻って)レストラン
   ユカリ、蟹を大量にもらって戻ってくる。

ユカリ「かにーっ!!」
麻衣「うわぁ、凄い!!ちょっと君、さっきっから蟹だのステーキだのばっかりだけど、一体蟹、これで何本目よ?」
ユカリ「えーっとねぇ?」

   指折り数える。

ユカリ「これだけっ、かな?15くらい。んでお肉がこれで7枚目だよ。」

   目を丸くする麻衣。

ユカリ「いっぱい僕、貰ってきたからさ…よかったら麻衣ちゃんも一緒にどーぞ。」
麻衣「えー、でも私、へーお腹いっぱいだわやぁ…とか言っても…やっぱり別腹ありかもぉ!!」
ユカリ「そうこなくっちゃ!!」

   二人、鵬張る。
   『カニとステーキのお肉!!』

同・廊下
   歩く二人。

ユカリ「はぁー、お腹いっぱい!!」
麻衣「私も…これじゃまたしばらく、お風呂は無理ね。」
ユカリ「うん、そうだね。ならさぁ…」

同・ゲームセンター 
   二人、卓球台の前にいる。

ユカリ「じゃあ麻衣ちゃん、早速僕からいっくよぉーっ!!ユカーリ、サーブっ!!」
麻衣「ちょっと待ってえっ!!」

   打とうとしたユカリ、拍子抜けしてがくり。

麻衣「あんま本気出さんでやね!!お手柔らかに。ね、ね。お願い。」
ユカリ「分かってる。では気を取り直してぇ…ユカリサーブっ!!」
麻衣「きゃっ!!」
ユカリ「おいおい、何でそこで避けるんだよ!!凄く弱く打ってるんだから打ち返しておくれよ!!」
麻衣「ごめんよ。」
ユカリ「頼むよぉ、なら次は麻衣ちゃんからのサーブ打ってみてよ。」
麻衣「よしっと。では、行っきまぁーす!!♪風のぉ、魔球を…受けてみやがれっ!!麻衣サーブっ…あれ?」

   空振りにユカリ、笑い出す。

麻衣「くっそぉ、もう一度…♪風のぉ、魔球を…あれ?」

   またも空振り。ユカリ、笑いながらやれやれとお手上げのポーズ。

麻衣「ちょっと、何よぉユカリ君のほのポーズはぁ!!」

   麻衣、照れたように笑い、舌を出して頭をかく。 

 同・露天風呂
   水着での混浴風呂。ユカリが入っている。そこに恥じらいながらそっと麻衣。

ユカリ「あ、麻衣ちゃん…」

   照れて笑う。

ユカリ「気持ちいいよ。早く。」
麻衣「えぇ…」

   恥じらいつつ入る。

麻衣「うわぁー…」
二人「はぁ、気持ちい!!」
麻衣「でも流石に蓼科は寒いな…また雪が降っとる。」
ユカリ「だね…」

   温度計を見る。

ユカリ「11月にして、気温は-5℃だもん。肩までしっかり浸からなくちゃね…」
麻衣「明日からへー12月だもんなぁ…って…」

   ユカリは頭まで遣っている。

麻衣「ユカリ君、ほれ肩じゃなくて頭だに。」

   ユカリ、出てくる。

ユカリ「そーでした。」

   笑う二人。

ユカリ「でも本当だよ。確りと暖まらなくっちゃ…この寒さだと風邪引いちゃうよね。」
麻衣「ほーね…でも、どーせこのあと、室内の温泉入るで」
ユカリ「いいか…」 

   二人、ぼわーっと入っている。

麻衣「でも不思議…何だか君とおると、健司やせんちゃんとおるみたいな錯覚にとらわれちゃう…特に健司に。…声も、容姿も、髪型や癖、行動までもがそっくりだだもん…体型だって…」
ユカリ「そ?」

   悪戯っぽく。

ユカリ「ならいいさ、今日一日僕を健司くんだと思って過ごしてくれればいいよ。」
麻衣「でもな、一つだけあいつとは、違うところがあるんよ。」
ユカリ「え、何?何処?」
麻衣「君はとっても素直で穏やか。でも健司は意地っ張りでとても生意気。小さいくせにわざと背伸びしたがってさ…。なのにほんなところがとっても可愛らしくて…憎たらしいのに憎めなくて…とっても愛しい…」

   頭まで潜ってまた出てくる。

麻衣「ごめん、しんみりさせちゃった。」

   涙をぬぐう。

麻衣「情けないよな…年下の男の子に弱音はいて慰められるだなんて…」
ユカリ「そんなことないよ!!とんでもない、こんな僕でも力になれるんならとても嬉しい。それに…当たり前だろ?年的には僕の方が子供で、君の方がお姉さんだけど…君はそれでもやっぱり女の子だし…僕は小さいけど一人の男だ。だから女の子を守る、それが男としての僕の役目だよ。」
麻衣「まぁ、君までほーゆー生意気言って!!」

   ユカリをこずく。

麻衣「でも…例え君が14歳だとしても…たぶん健司やせんちゃんだったら…やきもちやきだで、君と私が一緒のところ何て見たら嫉妬して泣いちゃうかもな。」
ユカリ「えぇ?」
麻衣「ほいだって、…ねぇ?裸と裸の付き合いなんて…」

   ユカリ、ニヤニヤ。

ユカリ(じゃあ、僕が父さんよりも母さんと先にお風呂に入ったって事になるのか…)
麻衣「ん?」
ユカリ「いや、別に。でもさ麻衣ちゃん、まさか実の息子と母の関係に嫉妬する父親もいないと思うよ。」
麻衣「え?」
ユカリ「いえ、なーにも。今日の事は後で知って君、驚くかもね。」

   意味深に笑う。

ユカリ「その内に分かるさ…その内に、その内に…」
麻衣「ま、いっか。」

ホテル・個室
   麻衣とユカリ。畳に座ってお茶やお菓子を食べている。

ユカリ「っプハーっ!!気持ちいかったぁ!!汗かいたあとのお茶とプリンは格別じゃのぉー!!ね、麻衣ちゃん!!」
麻衣「えぇ!!ほれに…ベッドのお部屋なんに、ここにはミニ和室みたいなもんもあるで嬉しいよな。日本人にはやっぱりこれがなくっちゃな。」
ユカリ「ミニ和室って…普通に畳でいい様な気もするんだけど…ま、いっか。」
麻衣「んー?今なんか言ったぁ?」
ユカリ「いや、なーにも。」


   12時。あくびをする二人。

ユカリ「あー、バカバカ言ってたらこんなに遅くなっちゃった。麻衣ちゃんももう眠いでしょ?」
麻衣「えぇ…」
ユカリ「だね、僕ももう眠いや…」
麻衣「寝まい、とっても楽しかった…ありがとうね。君も、やっぱり男なんね。おしゃまな君に元気つけられちゃった。」
ユカリ「どーいたしましてです。僕も、君が元気になって嬉しいよ。」

   手をとる。

ユカリ「大丈夫だよ、僕を信じて。きっと小口君も健司君も、元気で君の元へ戻ってくるさ。」
麻衣「えぇ、君のお姉さんもきっと…」

   二人、笑う。

麻衣「さ、ユカリ君だって学校があるだら?てか、これから京都へ帰らんといけんだらに。」
ユカリ「ゆっくりで大丈夫。明日のんびりと長野見物してから帰るよ。土日とあるからね。」
麻衣「あ、ほーか。へー土曜日が休みになったんだわな。」  

   二人、それぞれのシングルベッドに
入って眠る。

麻衣「ユカリ君、」
ユカリ「zzz …」
麻衣「かぁい、へー眠っちまっとる…」

   まじまじ。

麻衣「寝顔まであの日の健司にそっくり…全く…」

   布団を掛けなおす。

麻衣「布団のかかりかたまで同じだなんて…」



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