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石楠花物語高校生時代
帰らぬ約束
ちのどんばん会場
   屋台や人で賑わっている。流し踊りも始まる。

麻衣「せんちゃん、初めてよね。分かる?」
千里「うーん、見よう見まね。」
麻衣「ゆっくらでいいに。私と踊ろっ。」
千里「うんっ、ありがとう…。でも君は元々茅野の子なんだろ?だから昔から踊り慣れているんだよね…いいなぁ…。」
麻衣「まぁな、保育園の頃からずっと踊っとるもんで…見て、」

   おんべを見せる。

麻衣「このおんべだって年少のこんからずっと使っとるやつだに。」

   千里、目を丸くする。

千里「わを、こりゃ凄いや。」

   そこへ健司。

健司「俺も、ベアトリスと同じ、年期ものさ。」
麻衣「健司っ!!」
千里「健司君!!」
健司「よっ、」
小松「僕は一回だけ宮川小にいたことがあるから…そん時に貰ったんだ。」
千里「へー、みんな凄いんだなぁ…」

   自分のおんべを見る。

千里「僕なんてまだ、一週間だよ…」

   他三人、笑う。

小松「当たり前だろ、」
麻衣「ほんなん仕方ないに、せんちゃんは今年来たばっかだだもん…」
千里「そっか…」

   うっとりとおんべを見つめる。

千里(このおんべだってきっと…僕らの子供時代には…)

麻衣「ところでそうちゃん、今あんた、宮川小におったこんあるっていっとったのっていつの話?」
小松「あぁ、小学2年かな…半年だけだったけどな。」
麻衣「やだぁ、何部?」
小松「確かぁ、4部だったけど…何で?」
麻衣「4部かぁ、実は私も健司も小3まで宮川小におったんよ。」
小松「え、本当に?君、昨年までずっと本町にいたんじゃないんだね。」
麻衣「ほいこんっ…て、あ!!」
健司「磨子っ!!」
小松「え?」
健司、麻衣「田中磨子が4部だった!!」
小松「磨子ちゃん?」

   少し考える。

小松「磨子ちゃん、磨子ちゃん…あぁ、そんな子なんかいたかなぁ…なんで?」
健司「お前、やっぱり磨子のこん知ってんのか。」
麻衣「彼女は私と健司の大親友で、」
健司「ひばりヶ丘からの幼馴染みなんだ。」
小松「へー、ところで君たちのお母さんお父さんの出身ってどこ?旧姓は?」
健司「俺は、親父は原村、おふくろは富士見。岩垂幸恵。」
千里「僕んちは、パパは茅野、ママは京都。源珠子。」
麻衣「私は、父さんは高遠、母さんは茅野。平出紅葉だに。どいで?」
千里「え、麻衣ちゃん、君のママっておいくつ?」
麻衣「昭和35年生まれ。」
千里「35年かぁ…実は僕のパパは、茅野市の人で40年なんだ。」
麻衣「あら、なら私の母の妹の楓叔母さんと一緒だに。」
千里「本当に?なら帰ったらママに聞いてみるよ。もしかしてパパは知っていたかも。君の叔母さんやママの事、」
麻衣「うん、私も母さんと叔母さんに聞いてみる。お父様のお名前は?」
千里「小口懐仁だよ。」
麻衣「懐仁さんね、分かったわ。」

   小松、不機嫌そうに鼻をならす。

西脇「あーっ、おい、みんなみんな!!」
麻衣「何よ西脇、おどかせるなやな。」
西脇「ごめんごめん、でもそらっ、みんな列を整えろっ!!LCVがいるぞっ!!」

   メンバー、一斉に整列する。

   休憩中。みんなは其々に食べたり飲んだりしている。そこへアナウンサー。

アナウンサー「こんにちはぁ、皆さんは何の連ですかぁ?」
小松「茅野中央高校音楽部の“石楠花クラブ”です。今年は僕ら、卒業生ですので記念にみんなで出場しました。」
アナウンサー「そうなんですね、では君が部長さんですか?」
小松「えぇ、小松と言います。」
アナウンサー「では皆さんに聞いてみましょう。先ずは小松君から…進路はもう決めていますか?」
小松「はいっ。音大への進学です。」
アナウンサー「凄いね!因みに担当は?」
小松「バイオリンを。」

千里「小口です。僕もピアノで音大への進学です。」
西脇「西脇です。僕も音大への進学です。僕みたいな男は当然ピアノで。」
麻衣「だで“僕みたいな男は”は、いらんっつんこん!!」

   メンバー、笑う。

健司「岩波です。俺はこの学校の生徒じゃねぇーけど、この…」

   麻衣の肩を抱く。

健司「ベアトリスの婚約者だもんで、飛び入りで…」
アナウンサー「こ、婚約者って君、」
健司「ほ。俺達高校卒業したら結婚すんだよ。」
アナウンサー「おめでとう、いやいいですねぇ!!お幸せに。」

   健司、照れる。麻衣は真っ赤になって健司をこずく。

アナウンサー「で、最後はこの、岩波君のお嫁さんになる…美人な君、」
麻衣「やめてくださいっ。柳平麻衣です。私は健司と結婚したら、こいつの会社を専業主婦として内助の功で、支えていくよき妻となりたいわ。」
全員「えーーーーっ!!」
麻衣「えーーーーっ!!って何だね、えーーーーっ!!って!!」
健司「ほいだってこいつ、何ても出来てすげえんだぜ?」
小松「ピアノにバレエにオペラにバイオリン…」
西脇「それにお茶とお花…」
麻衣「いやいや、ほれはやらんけど…」
千里「オペラではMMC 優勝、その他もみんな入賞や優勝…それだけの才能があるのに家庭に入っちゃうの?勿体無いよ、考え直せよ、な。」
麻衣「いいだ、私は愛する家族を支える専業主婦として内助の功を働く…ほれでとても幸せなんだで。後悔なんしんに。」
健司「麻衣…」
麻衣「ほれに、高校出たらへー、試験とか勉強とかはやーなんよ。大嫌いだしっ。」

   メンバー、クスクス。麻衣も照れて笑う。


   フィナーレでは大きく盛り上がる全員。

   終わる。
   帰路。麻衣、健司、千里が並んで歩いている。

麻衣「ふぁーっ、楽しかった。やっぱりちのどんばん、毎年踊っとるけど楽しいわやぁ!!」
千里「だね、昨年は?誰かと出たの?健司君?」
健司「いや、こいつは昨年は俺とは行ってねぇーよ。」

   鼻をならす。

健司「俺より別のもん取ったんだよ。」
麻衣「こまくさ夜会っつー日本史サークルのメンバーと団体を作ってな。」
千里「へぇー…でも、」

   うっとりと。

千里「君のその浴衣って、すごく可愛いね…とっても似合ってるよ。」
麻衣「ほー?ありがとう。これな、母の着とった着物を裁って、私サイズに作り直したんよ。だでちょっと古風…。私この、赤い鹿の子の白紬柄が大好きでな…」
千里「素敵だ…」
麻衣「ほーいうせんちゃん、あんたこそ素敵な浴衣ね。」
千里「ありがとう!!これ実はね、昔にある人が僕のために作ってくれたんだ。」
麻衣「ある人って…?」
千里「遠い昔の友人さ…てか、君達帰りは?」
健司「あぁ、俺はおふくろも親父も兄貴もいないでさ、」
麻衣「私も、両親おらんし…」
二人「歩いてくに!!」

   千里、固まって二人を見つめる。

千里「ふ、二人とも…それ、本気で行ってるの?」

車内
   珠子が運転をしている。

珠子「麻衣さんと、あなたが健司君ね。いつもうちのせんちゃんが…ありがとう。」
麻衣「いえいえ、私こそ。」
健司「へー、お母さんも千里にやっぱりそっくりで…美人ですね。」
珠子「んも、嫌ね健司君ったら。で、健司君は?お宅はどちら?」
健司「あ、俺はいいですよ。麻衣の家で一緒に降ります。原村ですから。」
珠子「まぁっ、原村!?いいわよ、送るわ。」

   車は走る。

   麻衣を自宅で降ろし、手を降って二人と別れる。

   健司も原村で降り、手を降って千里と別れる。

柳平家・居間
   8月の15日。三つ子が畳に大の字になっている。

糸織「何か長閑だねぇ…」
麻衣「何十年か昔の8月…終戦したんよね…この年になると思い出すわ…あの話…。」
紡「あぁ…改めて平和だなぁーって感じるよ。」
糸織「今夜は花火だよなぁ…」
三人「うんうん、」
紡「でも今、何か暇だなぁ…」
三人「うんうん、」
麻衣「何処かへ行きたいな。」
三人「うんうん、」

   三人、顔を見合わせる。
三人「何処行く?」
糸織「湖がいいな…」
三人「いいねぇ、」
麻衣「山もいいねぇ、」
三人「うんうん、」
紡「のほほーんと日中はのんびりと…」
三人「うんうん、」 
紡「ほいじゃあ、湖と山のあるところ、行く?」
糸織「何処の?」
紡「蓼科、白樺、女神…」
麻衣「いやいや、流石に女神は遠いらに…」
糸織「なら向かうのは…」
三人「♪コスモス湖岸」

   三人、準備を始める。


白樺高原・湖岸
   多くの観光客の中に三つ子もいる。

糸織「長閑だねぇ…」
紡「ですねぇ、」
麻衣「ですねぇ、…」

   三人、ぼわーっと湖を見ている。少し離れたところには健司が一人でいる。

麻衣「ん?」

   気が付く。

麻衣「健司?」
健司「麻衣に、つむに、しお…お前らも来てたんかよ…」
紡「あぁ、」
糸織「君こそ、」
麻衣「一人で来るなんて珍しいな…どーゆー?」
健司「あぁ…」

   少し寂しげに

健司「磨子に会いに来てたんだ…暫くは会えなくなっちまうからな…」
麻衣「え、会えなくって?どいこん?」
健司「麻衣、お前にも…」
麻衣「はぁ?」
健司「俺、実は休み明けから日本を離れるんだ…」
麻衣「日本を離れるって…」
健司「12月までの短期だけどな…留学に行くんだよ…」
麻衣「留学に?」
健司「あぁ、ワルシャワにな…おふくろがどうしてもって煩いんだよ…。だで、仕方ないもんで…。」
麻衣「何の?」
健司「勿論、バイオリンさ。おふくろがデザインなん行かしてくれるわけないもん…。」
麻衣「ほう…」

   大きく微笑む。

麻衣「ほーいうこんなら私、精一杯応援するに。あんただって満更嫌じゃないずらでいくだら?とてもいいこんじゃないの!!」
健司「ま、まぁな…ありがとう麻衣、お前もな。」
麻衣「えぇ。で、帰国は?」
健司「あぁ、クリスマスまでには帰国出きると思うよ。だもんでさ、今夜の花火がとりあえずのお別れんなっちまうで一緒に行かねぇか?確かお前らも、チケットとってんだろ。」
麻衣「喜んで。」

   健司、麻衣の両手をとる。

紡、糸織「おーっ、…」

   手であおぐ

紡、糸織「暑い、暑い…」

   
   時間がたつ。健司、腕時計を見る。

健司「へー夕方か…。んじゃ麻衣に、つむに、しお…ぼちぼち下へ下るとするか…。」
麻衣「えぇ、」
紡、糸織「セルリーっ!!」

   四人、バス停に向かって歩いていく。健司、麻衣の手をとって走り出す。

   バスの中は満員でぎゅーぎゅー。麻衣は途中で酔い、健司が麻衣を労る。回りはべちゃくちゃとお喋りをして騒いでおり、かなり賑やかく喧しい。

諏訪湖・湖岸
   人で沢山賑わっている。

紡「ほいじゃあ、麻衣に健司君、私達は」
糸織「屋形船行くけんど、」
紡「あんたはやーだら?舟、」
麻衣「えぇ…」
健司「んならいいよ、俺と共にここらで見よ。」
麻衣「うんっ。」

   紡、糸織、桟橋の方へ行く。麻衣、健司、ゲートを入っていく。

   花火大会が始まると、周りは大歓声。健司は何も食べずにただ、麻衣の肩を抱いてうっとりとしている。

屋形舟
   長テーブルがあり、人々が飲み食いをしている。中には紡、糸織、そして千里。

千里「あれ?おーい!!」
紡「ん?」
糸織「お。」

 
   千里、二人の元へ来る。

千里「君達も来てたんだ。」
紡「せんちゃんこそ。」
糸織「どーゆー?」
千里「あぁ、僕は…京都の旧友がチケット取ったんだけど、来れなくなっちゃったから僕にって…送ってくれたんだ。」
糸織「へぇー…」
千里「あれ?」

   キョロキョロ

千里「でも、麻衣ちゃんは?」
紡「あいつも来とるに。」
糸織「でも、船酔いだだもんで、あっちで健司君と二人で見てるよ。」
千里「そっか。」
糸織「まぁいいに、折角会っただで一緒にみるじゃあ!!」
千里「いいのぉ!!ありがとう!!」

   二人の近くに座る。レモンティーのペットボトルを一気のみ

紡「おいおい、君いいのか?ここ、トイレ無いに。」
千里「あぁ…でも、喉乾くし…。大丈夫さ、」

   小声で。

千里「僕今日は、…万が一の時のためにオムツ…してきた。」

   紡、糸織、口をポカーンとあけて固まる。 

 麻衣、健司は肩を組んだままうっとりと見入っている。隣には中洲ユカリ(14)が見ている。

茅野駅・東口
   麻衣、健司、糸織、紡、千里。

麻衣「はぁー、楽しかった。あらせんちゃん、あんたも来とったんね。」
千里「あ、あぁ…麻衣ちゃん…エヘヘ。」

   全員、微笑む。

紡「さぁ麻衣、早いとこ帰るに。」
麻衣「ダメ、私はまだ帰らん。…帰れない…。」
紡「は、はぁ?どいでぇ?」
麻衣「行かんきゃならんとこがあるんよ。…ほいだもんで、千里に健司、二人は先に帰っとって。」
紡「ふざけんなやなっ!!こんねに遅くに、只でさえ諏訪湖花火で遅れとるっつーに、何処一人でほっつき歩く人があるだけやぁ!!」
麻衣「ごめん、でもお願い…必ず私、戻るで。」
紡「しおに健司君、せんちゃんもなんとかかんとか言ってやってや、このバカに!!」
糸織「いいに、行かせてやれよ。な、みんな。」

   健司も頷く。千里は何がなんだか分からずにポカーン。

紡「おいっ、ちょっとしお!!あんた何言っとるんよ!!」

   糸織、興奮する紡を落ち着かせる。

糸織「分かれよつむ、今日が幾日か、麻衣が何処に行きたいか…察してやれよ。」

   紡、考える。

紡「ほっか…ほいこんか…」
健司「あぁ、心配するなよ。俺も一緒に行くでさ。なーに、安心しな。このバカには、絶対に歩かせねぇーで。この俺が。」
麻衣「健司…」
健司「俺だっていつも磨子んとこ行ってたんだぜ。」

   小粋に目配せ。

紡「分かった。いいに、いっといで。健司君、大切な妹なんだで、男のあんたがしっかり守ってな。宜しく。」
健司「あぁ。任せとけって!!な!」
麻衣「ま!」

   健司、麻衣の手をとって走っていく。

千里「麻衣ちゃんったら…健司君と二人で何処へ行くの?」
紡「あー、せんちゃんってちょっと妬いとるら?」
千里「そ、そんなことはないけどさぁ…」

   動揺してもじもじ。

糸織「大丈夫、安心しな。変なとこじゃないでさ。」
千里「…。」

   気になって気になって仕方がないようす。


   暫く後

千里「さぁ、とにかく僕らも帰るか。もうすぐ僕のママが迎えに来ると思うからさ、乗ってけよ。な。」
糸織、紡「ほいじゃあ、お言葉に甘えてぇ!!」
千里「どうぞどうぞ、スィニョールにスィニョリーナ。」

   従臣の様なポーズをとってお辞儀。

   軈て車が来て三人を乗せて駅を出ていく。

白樺高原・こすもす湖岸
   麻衣と健司。湖岸に腰を下ろしてポワーンとしている。
   『秋』

健司「麻衣、」
麻衣「健司…」

   健司、麻衣を抱き寄せる。

健司「寒いか?…とりあえずヒュッテへ入ろう。」
麻衣「え、えぇ…」

   麻衣の肩を抱いたまま歩いていく。健司、麻衣にショールをかける。

健司「寒いか?大丈夫?」
麻衣「えぇ、大丈夫よ。健司、ありがとう…。」

 

湖の相向かいには磨子が小粋にブイサインと投げキッス。そこへユカリが二人と行き違いのようにやって来て、岸辺に腰を下ろすが、磨子に気がついてふと目が合うと目を丸くして再び立ち上がる。磨子はしまったとばかりに小粋に去っていく。

ヒュッテ内
   小さなベッドに座って麻衣が本を読む。健司はお風呂上がり。

健司「あー、さっぱり。麻衣、上がったよ!!」
麻衣「あ、健司お帰り!!」
健司「さて、はーるかぶりにチョコレートドリンク、ベアトリスの為に愛情込め込め、作ってやるか。」
麻衣「わぁーーーっ!!えぇっ。とっても嬉しい…。」
健司「よーしっと、待ってろよぉ。」

   鼻唄混じりに作り出す。麻衣、うっとりと見つめている。

   数分後、二人、ソファーに座って飲んでいる。

麻衣「美味しっ!!」
健司「へへっ、だろ。」
麻衣「健司の味…。」
健司「もっちろん!!俺の愛情込め込めチョコレートドリンクなんだもんっ。」

   飲み干す。

健司「また近々、お前のチョコレートケーキも食べたいな。」
麻衣「えぇ、勿論よ。まいぴうの愛情込め込めチョコレートケーキもあんたのために、また焼いてやる。でも…決して食べ過ぎないでやね。」
健司「ほんなこん、分かってらぁ!!」

   麻衣、健司の髪をくしゅくしゅ。

麻衣「ほれにしても…あんたのシャンプー、とてもいい香りね。」
健司「へへっ。これ、石楠花のオイルのシャンプー。香りはジャスミン。」
麻衣「へぇ、なんか珍しいわね。何処で買っただ?」
健司「ほれは…ひ、み、つ。これ、ちょっと高かったんだ。でも俺…少し出してでも、これを買いたかった。」
麻衣「どいで?」
健司「お前と俺の、思い出の花だからさ。」
麻衣「まぁ!!」

   健司、酔っ払った様に小粋。

健司「♪思い出のぉ、幸せなぁ〜紅い花ぁ!!」

   麻衣もドリンク飲んで笑いながら手拍子をして表紙をとっている。
   『想い出の幸せな赤い花』


   2時。
   真っ暗。二人は床に引かれた毛布で手を繋いで眠っている。隣り合わせになったもう一つのヒュッテでは、ユカリが一人っきりで同じく床で眠っている。

   翌朝。
   朝食を作る麻衣、そこへ寝ぼけ眼の健司。

麻衣「あ、はよーん健司!!」
健司「はよーん麻衣、…おおっ!!」
麻衣「さ、朝食だに。食べて。」
健司「ん、いっただっきまぁーすっ!!」
麻衣「ちゃんと朝起きておしっこした?手とお顔は洗った?歯は磨いた?」

   健司、手を止めてばつが悪そう。

麻衣「ん?」
健司「おいっ。俺はお前の息子か?ちっちゃいガキじゃねぇーんだぜ?お、れ、は、お前の夫んなる彼氏の男だろ!!何かほれじゃあ随分と扱い方、違くねぇーかぁ?」
麻衣「ほれは分かっとるに。でも、ほいだって私、あんたのこんが心配なんだだもん。あんたなんて、遠慮していつでもトイレ我慢して…またあんたに病気んなってなん、私いやっ!!」
健司「へー分かったよぉ。ありがとう。でも俺はへー大丈夫だよ。俺はお前が思うほど柔じゃねぇーし、食べたきゃちゃんと食べるし、飲みたきゃ飲む。したきゃする。自分の気持ちにちゃんと正直に生きるよ。」

   笑いながら再び食べ始める。

麻衣「でも…」

   食べながら

「暫くは又、あんたともお別れになるんね…。とっても寂しくなるわ…。」
健司「大袈裟だな。永遠の別れでも死別する訳でもねぇーだろ。ちゃんと毎日寂しくないように、おれのこんを忘れんように手紙もメールも書くし、電話だってするでさ。お前が悲しくなったり泣きたくなったら又いつでも、タンブリンの花魔法…かけてあげるよ。」
麻衣「健司、ありがとう…立つのはいつ?空港まで行くわ。」
健司「明日の午後さ。ありがとな、だったら空港までは俺と一緒にいこう。」
麻衣「えぇ。」

空港
   翌日。麻衣、健司。

健司「ありがと麻衣。ほいじゃあ、放送もかかったで俺…ぼつぼつ行くよ。」
麻衣「えぇ、えぇ、元気でな。お気を付けて…。」

   泣き付く。

麻衣「健司っ!!」
健司「おいおい、何泣いてんだよ。泣き虫だなぁ…」
麻衣「体には呉々も気を付けてな。」
健司「分かってる。安心しな。」
麻衣「行きたくなったら我慢しないで御手洗い、ちゃんと行くんよ。」
健司「分かってる。」
麻衣「ほれと…」
健司「何?」
麻衣「無事に、ちゃんと私の元へ帰ってきてな。…大好き…。」
健司「あぁ、勿論さ。戻ったら一番先にお前に会いに行く…約束するよ。愛してる…。」

   バイオリンを取り出して弾き出す。

麻衣「健司…」

   麻衣も涙ながらに微笑んでバイオリンを取り出す。

健司「!?」

   二人で弾き出す。健司、少し驚きながらも微笑む。人だかりが二人の回りにどんどんと出来てくる。

   『美しき〜』

   終わる。

健司「麻衣…お前…」
麻衣「私、練習したの。あんたを心に刻み付けたかった、あんたともっと近付きたかったもんで、あんたのために、ほして私のためにも練習したの。…ほれ。へー時間なんだら?」
健司「あぁ、なるべく早く戻れれば戻るようにするからな…。」
麻衣「えぇ…。」

   二人、最後にもう一度抱擁をしあい、健司は後ろ手を降って小粋にゲートへと入っていく。麻衣も健司が見えなくなるまで、いつまでも手を振り続けている。目には涙を浮かべているが顔は笑って微笑んでいる。

茅野中央高校・教室
   三年一部、麻衣と千里。

千里「麻衣ちゃん、おはよう。」
麻衣「あ、せんちゃんおはよう。」
千里「この間の花火大会の日、君は舟には乗らなかったんだね。」
麻衣「えぇ、私は酔っちゃうと嫌だでね。」
千里「そっかそっか、ごめん。…とりあえず、音楽室行く?」
麻衣「だな。」

   二人、きょうしつをでる。

  
   暫く後の二限目休み。

麻衣「なぁ、次の三限目、古文だら?せんちゃんどう?」
千里「やぁ…」

   ばつが悪そうに頭をかく。

千里「実は僕…恥ずかしいけど、一番下まで成績落ちちゃったんだよね。…どうしよう、これじゃあ又叔母さんにこっぴどく叱られちゃうよ。」
麻衣「叔母さんに?お母様ではないだ?」
千里「ママはこれと言って最近は特に煩くはないんだ。でも叔母さんったら…」

   声色

千里「おやまぁ、千里ったら!!この子ったら本当に何度言っても分からない子だねぇ!!あれほど勉強やれって言ってるだろう!!…とかなんとか…。」

   そこへマコ。

千里「ん?」
マコ「ふーん、あんた落第点取ったんだ。あんたの叔母さんって人、なかなか怖そうね。面白いわ。」
千里「ま、マコ…」

   マコ、見下したように鼻をならす。

麻衣「あ、北山!!あんた何しにきただ?」
マコ「休み時間なんですもの、ちょっと遊びに来たのよ。何?あんたのクラス、今度古典?」
麻衣「ほーよ。」
マコ「あの鬼の白石先生か…」
麻衣「ほの通り…で?あんたは?個展の成績ってどう?」
マコ「あぁ私?勿論、合格ラインに決まっているじゃない!!麻衣は?」
麻衣「勿論、…ほーいう私も。流石は私達、」
マコ「こまくさ夜会ね。」

   千里、二人を見て肩を落とす。

  
   (チャイム)
   白石キエ子が古典の授業をしている。一同は固くなる。他の人々は書写をしているが、千里は千代紙の裏に万年筆で何かを書いている。

キエ子「小口くんっ、小口千里君っ」
千里「…。」
キエ子「小口千里君っ、あなたの事ですよ、聞こえているのですかっ!!」
千里「はいっ、…えぇっ!?…はい!?」

   キエ子、すたすたと千里の元に来て仁王立ちをして睨み付ける。

キエ子「あなたの今やっていることは何ですっ!!今はみんなで古文を書写する時間なのです!!使うのは筆と和紙、万年筆と千代紙ではありませんよねっ!!」

   クラス中がクスクス。キエ子、睨むと静かになる。

キエ子「お黙りなさいっ、宜しい…では、小口くん、今やっていた箇所は何処なのか全員の前で声を出して読んでみなさいっ、はいっ!!」
千里「えーっと…それはですねぇ…えーっと、そのぉ…。」

   困り果ててもじもじ。チラリと麻衣を見る。

白石先生「柳平さんに助けを求めても誰も助けてはくれませんよ。」

   クラス、再びクスクス。

白石先生「お黙りなさいっ!!」

   びくりとなって静まる。

千里「…。」
白石先生「いいです、時間ももうありません…今やっている箇所は124ページ〜160ページのこの箇所の意味を解読しながら写しています。さぁ、早くっ。さっさとやり始めなさい!!時間はもうありませんよっ。出来なかった分、他の人は宿題にします。でも小口くん、君は罰として居残って全てやりなさい。」

   万年筆と千代紙を取り上げる。

白石先生「これも先生が私が預かっておきます。帰るときに取りにおいでなさい。以上。」

   ツンッとして戻る。千里、しゅんっとなって書写を始める。

同・校庭
   麻衣、すみれ、みさ、千里、加奈江がお喋りをしながらランチをしている。

麻衣「うっきゃあーーーーっ!!!最高っ!!今日も私のお弁当はオードブルだにぃ!!美味しさそう!!」
全員「え、何々?」

  覗き込む。

女子達「きゃあっ、」
麻衣「♪蜂の子さんと榎は恋の味ぃ、蜂蜜さんと絡めて恋の味ぃーってな。後は、蝗さんの佃煮だら?ザザムシさんの唐揚げだら、…うーんっ!!みんなも食う?」
女子達「いや…虫さんは遠慮する…。」
千里「む、…虫なの…こ、これ…」
麻衣「ほう、虫…」
千里「君、食べれるの?」
麻衣「嫌ね、食べらるもんで持ってきただらに!!」
千里「じゃ…あ、亀虫…とかも?」
麻衣「亀虫ぃ?カメコぉ?」

   大笑いして千里をポンポンと叩く。

麻衣「いっやぁーだせんちゃんってば!!ほんなの流石に食ったこんねぇーに!想像も出来ん!!ほれとも何?あんたはあるだ?まさか、京珍味だったりして…」

   再び大笑い。

千里「い、いやまさか!!京都にもそんなもんはないよぉ!!ごめん。そうだよね…変なこと聞いてごめん。」
麻衣「いいんよ、私はモーマンタイン。せんちゃんって真面目な顔して時々突拍子もねぇーこん言うでやぁだぜやぁ、へぇ!!」
千里「えへ、えへ…アハハ…」

   千里も笑ってご飯を掻き込む。

麻衣「ほいじゃあせんちゃん、あんた食ってみる?」
千里「え、えぇ?僕が…虫…それじゃあ…おひとつ…」
麻衣「話の種に…はいっ、あーんっ!!」

   千里、赤くなってキョロキョロ

麻衣「いいで、あーん!!口開けて。」
千里「こ、ここでか?何か恥ずかしいな…」

   と、いいながらも。

麻衣「パクッ。ほれうんめー!!」
千里「う…うんっ…美味しい…。」
麻衣「まぁ…無理しないで。あまりあんたのお口には合わなそうね。でもこれが、私達、お諏訪っ子の味なんよ。私これ、大好きっ!!」
千里「へー…」
女子達「おーっ!!」

   二人を囃し立てる。

みさ「調子のいいところで、そのままお弁当チューゴーっ!!」
すみれ「そうよそうよ、行っちゃえ行っちゃえ!!」
加奈江「いつまでも騒がしいぞ!!」

   二人、照れる。

麻衣「んもぉーっ。」
千里「そうやってぇ、やめろよな。みんな…」

  ふざけあいながら食べている。

同・教室
   放課後。帰りの準備をする麻衣。もう誰もいない教室。そこへ征矢野。

征矢野「おいっ、柳平麻衣いるか?」
麻衣「誰?あぁ、征矢野か…何?」

   征矢野、千代紙で折られた小さなオルガンを麻衣の掌に乗せる。

麻衣「何よ…これ?」
征矢野「開いて読んでくれって。千里が俺に託したのさ。」
麻衣「せんちゃんが?…同じクラスなんだで、直接渡してくれりゃあいいだに…。」

   あるきだす。

麻衣「まぁいいや、ありがとう征矢野。で、せんちゃんは?」
征矢野「あぁ、あいつか?三階の会議室…。さっきの居残りさせられてるよ。」
麻衣「まぁ…」
征矢野「俺も帰るわ。ほいじゃあな。」
麻衣「えぇ、又明日。」
征矢野「お。」

   其々に手を降って帰っていく。

同・会議室
   白石先生、千里。

千里「…。」
白石先生「こらっ小口くん、ちゃんと集中なさいっ!!心が入っていないわ。」
千里「はい…」
白石先生「早く帰りたいのなら、きちんと真面目にやるっ!!出来るまで何度もやり直しをさせますよ!!」
千里「はい、でも先生…」
白石先生「でもはなしっ!!口を利く暇があるのなら、心を集中させて、手を一生懸命に動かしなさいっ!!分かりましたね。」
千里「…はい…」
白石先生「分かったのなら、さっさとやるっ!!」

   白石先生、仁王立ちをして千里を見ている。千里、堅くなって恐怖に震えながらも、そわそわとしている。

小口家

千里「ただいまぁ…」
珠子「あら、お帰り…。遅かったわね、せんちゃん」
千里「ごめんごめん、ちょっと先生にお説教喰らってさ…居残りだよ。」
珠子「まぁ、又何か悪いことをしたのね?」
千里「(小声)お、叔母さんには黙っててくれよ…あのね、あのね、」

   耳打ち。

千里「ってことなんだ…顧問の白石先生がスパルタで特に怖い先生だってことを忘れてたよ…」

   ため息混じりに部屋へ入ろうとする。

珠子「まぁ、そうだったの…それはまぁ、確かにあなたが悪いんだけど…」

   千里のズボンを見る。

珠子「あなた、今日はいつ?」


千里「白石先生の授業の時だよ…」


同・千里の部屋

珠子「でも…ところでせんちゃん、分かっているわよね。いよいよ来週、第二週目の月曜日よ。」
千里「分かっているよ。」

   後ろから千里を抱き締める。

珠子「せんちゃん、色々と思い詰めてはダメよ。頑張りなさい。」
千里「うん。ありがとう、そうだね。」
珠子「ねぇ?ママにせんちゃんの演奏聴かせて貰える?」
千里「いいよ、何がいい?」
珠子「何でも、あなたの得意な曲でいいわ。」
千里「うんっ、分かった。」

   千里、制服のままでピアノを弾き出す。珠子もうっとりと聴いている。

バスの中
   その頃。がらがらのバスの中で、麻衣が一人、パンを食べながら千里の手紙を読んでいる。

千里『(手紙文)麻衣ちゃんへ。突然の手紙、ごめんね。ちょっと照れ臭かったけど書いてみたくなって書いちゃいました。実は僕、君に話したいことがあるんだ…もし、新作花火の日、時間あれば茅野駅前、グラジオラスまで来てください。そのあと、花火に行きたいな。小口千里』

   麻衣、頬を赤らめてふふっと笑う。

麻衣「まぁ、デートのお誘いなら口で言ってくれればいいだに…せんちゃんったら。」

   
   『千代紙の文』
   口と胸を押さえる。

麻衣「ううっ、…下ばっかり向いとったら酔ったぁ…寝てこ。」

   麻衣、ごろんと横になる。


   暫く後、自宅に入っていく。

麻衣「ただいまぁ…」

野球場
   高校生野球の大会が行われている。音楽部も応援に来ている。

音楽部メンバー「いけいけ横井、いけいけ横井、かっとばせぇー、セーイ・ゴーッ!!」

   横井がホームランを打って、大歓声。横井は得意気にメンバーにブイサイン。


   休憩時間になる。

同・自販機やトイレやらがあるところ。
   千里が自動販売機で人数分のジュースを買って戻ろうとする。そこへ、柏木亮平(18)

柏木「お、お前、」

   千里、気が付かない。

柏木「おい、何で無視するん?そこのジュースごさまんと買っとる兄ちゃん、止まれ!!」
千里「兄ちゃん…」

   くるっと振り向いてうるうると感激の瞳で柏木を見つめる。

柏木「な、なんだ…」
千里「兄ちゃん兄ちゃんって、僕の事ぉ?」
柏木「そ、そうだろ?お前しかおらんら、」

   千里、黄色い叫び声をあげる。柏木、ビクリ。

千里「僕の事、男の子に見てくれたぁ!!ぅわぁーいっ!!やったやった、嬉しいよ、ありがとうっ!!本当にありがとね。」

   千里、柏木に抱き付く。

柏木「や、やめろっ。やめろって。気持ちが悪いなぁ…」
千里「あ、ごめんごめん。僕ったらつい嬉しくって…。で?」

   離れて落ち着く。

千里「何?僕に何か用?」
柏木「何か用?ってお前…小口千里だろ?」
千里「はい、僕は小口千里ですが、僕に何か…って、ん?あーーーー!!」

   柏木、耳を塞ぐ。

柏木「お前はいつでもうっさいなぁ、もう少し静かに出来んのかい?」
千里「君は、君は、ひょっとしてあの時の、柏木亮平君ではないですかい?」
柏木「おいおい、やっと分かってくれたか。そうだ、俺は柏木亮平。元気しとったか?」
千里「うん。柏木君も、元気そうだね。」
柏木「当たり前だ。んで?やなぎんとは、あれからどーなっとる?」
千里「あぁ、麻衣ちゃんの事?今彼女とは同じ学校なんだ。僕ら、実は付き合ってるの。」
柏木「付き合ってるって…ま、ま、マジか?」
千里「あぁ、マジっすよ。」

   得意げ。

柏木「ほいだけどお前、一回フラれただに何?あの美女をどうやってものにした?しかもお前のようなんが…信じられん…」
千里「失礼なこと言うんだなぁ、柏木君はぁ!!兎に角、僕らは今、ラブラブ!!せんちゃんは麻衣ちゃん好き、麻衣ちゃんもせんちゃん大好き!!なんだもんっ。ね、シンジラレナーイ…だろ?」
柏木「は、はぁ…」
千里「でも多分、麻衣ちゃんは君の事もミズナの事も覚えちゃいないよ。」
柏木「ほーか…」
千里「でも君は、よく覚えているんだね。ま、そう言う僕もなんだけど…あ!!」
柏木「急に脅かすな千里、今度は何?」
千里「ならさ、ミズナはどーしてる?」
柏木「あぁ…あの子か…あの子は、奈良へ行った。」
千里「奈良へ?引っ越したってこと?」
柏木「あぁ。何か家族が見つかってな、再会して帰ったんや。三つ下にあいつ、弟もいるんだ。」
千里「へーー…」
柏木「んで、何かその弟、噂によれば人気歌手らしいぞ。」
千里「人気歌手?一家揃って音楽一家って事か…凄いや。」
柏木「お前は確か、音楽音痴なんだろ?全く出来んのか?」
千里「いや、ピアノとバレエをやってるよ。来年東京芸大のピアノ科を受験したいって思ってる。」

   そこへ麻衣、

麻衣「せんちゃんーっ、んもぉ、いたいた!!あんまり遅いもんでへー何処まで行っちまったかと思って探しに来たんだえ?てっちゃんなんつら、へージュース待ちくたびれとるだでね。」
千里「あ、ごめんごめん。」

   麻衣、キョトンとして柏木を見る。

麻衣「せんちゃんの…お知り合い…?」
千里「あぁ、紹介するよ。彼が以前に行ってた柏木亮平くんだよ。」
麻衣「柏木…?」

   少し考えて手を打つ。

麻衣「あぁ!!あのリフトの!!」
千里「そうそう、リフトの柏木君だよ!!」
柏木「リフトの…?なんじゃそりゃ?」

   そこへ横井、走ってくる。

横井「おいっ、小口!!お前、遅いじゃねぇーか!!何やってんだよ!!」
千里「あ、横井くん…ごめんごめん」
横井「ごめんごめんじゃねぇーやい、ったくよぉ!!後、数十分で試合開始なんだぜ?20分も俺を待たせるなやな!!」
千里「20分も!?え、そんなに?…ごめん!本当にごめんよぉ。」
横井「ったく…ん?」

   柏木を見る。

横井「おめぇ、」

   制服をまじまじ。

横井「まさかおめぇ、次の最終対戦校の生徒かよ?」
柏木「誰だあんた?」
横井「こいつらの同級生さ。茅野中央高校…ま、次は宜しくな。言っとくけどよぉ…優勝は、茅野がもらうぜ。」

   三人を見る。
   『燃えるぜ、三年目の夏』

横井「お前ら、何敵と親しくしてんだよ、ほいつぁー、ライバル校の生徒なんだぜ。兎に角、早くお前らも来いよ、小口、これだけ貰ってくぜ。」
千里「う、うん。」

   横井、缶の入った籠を持って戻っていく。

千里「…だって。」
麻衣「どーする?」
柏木「ふーん。っつーこんは千里、俺たちはライバル同志んなるっつんこんか。」

   千里の肩を叩く。

柏木「ほいならこの勝負、負けないぜ。優勝は、俺達が貰い…だな。ま、頑張れよ。」
麻衣、千里「は、はぁ…」

   柏木も戻る。

   麻衣、千里のみ。

千里「でもはっきり言って僕…どーでもいいかも。」
麻衣「まぁ、あんた薄情よ。」

   クスクス

麻衣「といいつつ、私も。」
千里「そろそろ僕たちも戻ろうか?」
麻衣「ほーね。」

   二人も戻る。


同・客席
   熱心に応援する音楽部を

音楽部「いけいけ横井、いけいけ横井、かっとばせぇー、セーイ・ゴーっ!!」

   ホームラン。
音楽部「きゃーっ、やったぁーーーっ!!!」

   メンバー、はいタッチ。

みさ「あとは最後、矢彦澤に懸かってるわ。あいつが一本とってくれればいいだけね。」
マコ「いけーっ、頑張れーっ!!進ファイトぉ!!」

   マコ、メガホンをポンポンと叩いて大興奮。

音楽部「いけいけ矢彦澤、いけいけ矢彦澤、かっとばせぇー、セーイ・ゴーっ!!」

   優勝。

音楽部「きゃーっ、やったぁーーーーっ!!進、ブラーヴォっ!!」

   部員達、それぞれに抱き合って喜ぶ。


   (閉会の挨拶)
茅野中央高校校歌と茅野市歌が歌われている。

柏木「くっそぉーっ…。」

   悔しそうに指をならす。



バスの中
   野球部員と音楽部員がぎゅーぎゅーに乗っている。千里は麻衣の隣に座って酔わない様に労っている。

千里「麻衣ちゃん、大丈夫?」
麻衣「うん、平気よせんちゃん、ありがとな。ちょっと冷たいお水くれる?」
千里「分かった、いいよ。ちょっと待って。」

   クーラーボックスをガチャガチャ。

千里「あったあった、はいどーぞ。」
麻衣「ありがとな。」 

麻衣、水を飲む。松竹美輝は水とタオルを配っている。

美輝「はい、頑張ったわね横井。お疲れ様。」
横井「サンキュウ」

   タオルで頭を拭き、水をごくごくと飲む。

横井「美輝も、3年間ありがとな。お疲れさん、感謝してるぜ。」

   『俺の青春ベースボール』
   矢彦澤進も笑って肩を叩く

矢彦澤「あぁ、松竹。俺達野球部の為に毎日毎日汗臭ぇ服、洗ってくれたりしたんだもんな。」
美輝「ちょっと何よぉ、やめてよ横井も矢彦澤もぉ…涙出てきちゃったじゃないのぉ。」

   泣き出す。

矢彦澤「おいおい、泣くなよ。」
横井「女ってのはすぐに泣くんだで…」

   二人、美輝を慰める。麻衣、千里、貰い涙を拭いながら微笑む。


茅野駅・東口
   雨降り。麻衣がキョロキョロ。そこへ千里。

千里「ごめーん、遅くなっちゃった。待たせたね。」
麻衣「いえ、大丈夫。私も今来たとこ。」
千里「そうか、なら良かった。」

   見上げる。

千里「うわぁー…雨だ。じゃあとりあえずは、駅前のカフェ入る?」
麻衣「えぇ。」


グラジオラス・店内
   混んでいる。

千里「うっわぁー…凄いなこりゃ…。」
麻衣「だな、流石は休日…。」
ウェイター「いらっしゃいませ、二名様ですか?」
千里「えぇ。」
店員「では、こちらにどうぞ。」

   案内する。

ウェイター「こちらのお席になります。ご注文お決まりになりましたらこちらのボタンでお呼びください。では、ごゆっくりどうぞ。」

   退場。二人は席につく。

麻衣「なぁ、あんたは何にする?」
千里「うーん…そうだなぁ…」

   二人、メニューを見ている。

千里「んなら僕、これにしよーっと。縄文パスタと、マンゴークリームソーダ。よしっと、決まり。」
麻衣「んなら私は、蓼科オムレツと…マンゴークリームソーダ。!!」

   二人、微笑み会う。


千里、麻衣「お願いしまぁーすっ!!」
ウェイター「はいっ、お伺い致します。」

   注文している。

ウェイター「畏まりました、少々お待ちくださいませ。」

   退場。


麻衣「んで、せんちゃん…何か話があるっ津っとったけど…何?」
千里「あぁ…実はね…」


 
麻衣「まぁ!!では、あの時の。」
千里「うん…だからさ、君には健司君も留学行っちゃったって聞いてたから…僕もいなくなって本当に申し訳ないけど…」
麻衣「何いっとんのよ。私は大丈夫だに。良かったわね、夢が叶って。」

   大きく微笑む。

麻衣「気を付けて…行ってきてな。」
千里「麻衣ちゃん…うんっ。手紙もメールも電話もいっぱいするからね。」
麻衣「心配症なのはあなたたちの方みたいね…健司と全く同じこん言っとる。」

   くくっとわらう。

千里「え?」
麻衣「いえ、何も。」

   料理が来る。

麻衣「さ、せんちゃん食べまい。」
千里「うんっ!!」

   同時に口に入れる。

二人「美味しいっ!!」
千里「ハッピーアイスクリーム!!」
麻衣「あーん、悔しい!!せんちゃんに先に言われちゃったぁ。」
千里「えへへっ、やった。なら君、僕が帰国したら僕に一本アイスクリーム奢れよ。忘れんなよ。」
麻衣「OK、分かった。覚えとく。せんちゃんに私がアイスクリームを奢るこん。」
千里「宜しくな。」

   二人笑って食べる。

二人「美味しいっ!!」

   目配せ。

二人「ハッピーアイスクリーム!!」

   クスクス

諏訪湖ヨットハーバー
   二人、チケットを見せて中に入ると、指定された席でうっとりと肩を組んで花火を見つめている。花火の打ち上げが始まる。

柳平家
   麻衣、千里の車を降りて互いに手を降って車と別れる。


茅野市民文化会館
   マルチホールでは、諏訪6中の学校の音楽部の演奏会が行われ、麻衣たちも出場。

   (終了)
   ロビーでそれぞれに抱き合って泣き合う部員。

   麻衣、千里、紡、糸織が並んで帰る。

麻衣「ほっかぁ…せんちゃんはいよいよ明日、外国に立っちまうんね…やっぱ寂しくなるわ…。」 
千里「うん…そりゃ僕だってそうだよ。同じさ。麻衣ちゃん、お土産は何がいい?」
麻衣「お土産なん?ほんなもんいいに。気を使わないで。あんたが無事に戻ってきてくれればほれだけで充分だに。」
千里「ありがとう、君も達者でな。」
麻衣「達者でなって…あんた一体何時代の人よ!!もぉ。」
千里「えへへ。でも…」

   二人、泣き笑い。

千里「僕寂しいよ、心細いよ、麻衣ちゃん…」
麻衣「嫌ね、ほんなあんたが泣かんでや。お心を強く。男の子だらに、な。」

   麻衣、千里の体をポンポンと叩く。そこへマルセラ
マルセラ「ちょっと待って、あなた。」
麻衣「何でしょう…か?」
マルセラ「あなた、MMCの柳平麻衣さんですね。」
麻衣「え、えぇ…」

麻衣(ん?この人どっかで見たような…誰だったかやぁ?)
マルセラ「私の事、覚えていますか?」
麻衣「は…はぁ…」
マルセラ「あの時に審査員をやらせていただいていたマルセラ・チフスです。病院でもお会いしたわね。」

   麻衣、少し考えてから手を打つ。

麻衣「あぁっ!!」
マルセラ「でね、」

   麻衣、千里、紡、糸織、ポカーンとして聞いている。

麻衣「え、わ、私をですか?」
マルセラ「そうよ。考えてみてほしいの。出来れば3日以内に私の携帯に連絡くれれば助かるわ。いいお返事、お待ちしてるわね。」

   マルセラ、去っていく。四人、まだポカーンとして呆然としたままマルセラの後ろ姿を見つめている。

柳平家・食卓
   夕食時。柳平、紅葉、と子、あすか、紡、糸織、麻衣。

麻衣「ねぇ、父さんに、母さん、」
柳平・紅葉「ん、」
柳平「何だい?麻衣、」
麻衣「私、今日CACAの人に声かけられたんけど、」
紅葉「CACAって何?」
麻衣「茅野・アーティスト・キュルチュール・アカデミー。つまり茅野芸術文化協会。」

   話をする。

麻衣「って、訳なんよ。どう?私、やってみてもいいかしら?」
柳平「あぁ、折角のチャンスじゃないか。麻衣、お前には立派な才能がある。ほれは父さんも母さんもみんな認めてる。なぁ、紅葉、」
紅葉「えぇ、そうよ麻衣。」
柳平「やってみなさい。父さんは応援するよ。賛成だ…父さんと同じ警察官なっていっていたら、お前の才能じゃそれはとても勿体ないよ。生まれ持ったものを大切にしなさい。」
麻衣「父さん…」
紅葉「母さんも、応援するわ。」
と子「麻衣姉、」
あすか「頑張ってー!」
紡、糸織「このチャンスを無駄にするなよ、麻衣!!」
麻衣「母さんに、みんなまで」

   全員、頷く。

麻衣「うんっ!!みんなありがとうな。私、やってみるに。」
兄弟達「やったぁ!!」
柳平「本当に、頑張りなさい。」
紅葉「あなたの舞台がとても楽しみだわ。」
麻衣「はいっ!!柳平麻衣17歳、頑張りますっ!!」

   麻衣、敬礼のポーズ。全員、笑う。

麻衣「イェッサァーっ!!」

   『イェッサァー!!』

茅野中央高校・教室
   本を読む麻衣、そこへキリと加奈江。 

加奈江「おいおいおいおいっ、まいぴういるぅ?」
麻衣「なえちゃんに、キリ?どーゆー?何かあっただけやぁ?」

   そこへ末子。

末子「何よ、慌ただしく
なっちゃって…どうしたの?」
加奈江「そんなの知らないわ!!私が聞きたいわよぉ!!」
キリ「とにかく、着いてきて。」

   加奈江、キリ、二人の手を引いて教室を飛び出る。

同・廊下
   西脇、岩井木、野々子、茶目子、多くの野次馬達がいる。そこへ前景の四人。

麻衣「何々、一体これは何の騒ぎ?」
末子「ののにちゃめ、そしてあのおバカ二人…何やってんの?」
キリ「見ての通り、ばか騒ぎしてんのよ。」

   岩井木、麻衣に気がつく。

岩井木「おー、我愛しのリネッタよ!!随分と君は酷い目に合ったじゃないかぁ!!」
西脇「あぁ、やはりあの小便男には僕らのリネッタを守ることなんて不可能だったんだ!!」
岩井木「あいつだけじゃないさ、でかい面掲げてたあの岩波健司だってそうだろうよ!!」
二人「あぁ、僕らがもっと早くに気づき、止めるべきだったぁ!!」
西脇「何のいわれでこんなに可愛い、罪なきリネッタが、」
岩井木「こんな酷い目に合わされなくちゃいけないんだぁ!!」
麻衣「…は?…何のこん?」

   そこへみさ。

みさ「あぁ、まいぴう。さっきからこのおバカ二人組はずっとこんな感じなの…」
加奈江「諏訪実のターちゃんと女子男子のせんちゃんがまいぴうをフッたって騒いでて煩いのよ。」
キリ「そ。どする、まいぴう?」
麻衣「バカ…」
岩井木「あんな男といたってリネッタ、君は幸せになれない…辛く不幸になるだけさ。」
西脇「そうさリネッタ、だからいっそのこと、新しい恋をしようぜ。これを機に。」
岩井木「ここ僕らと共に」
二人「ね、リネッタっ!!」

   二人、麻衣にベタベタ。野々子、茶目子は仁王立ちをして麻衣を睨み付けている。
   『女も15歳になれば』

麻衣「お生憎だけど、ほの話、お断り。っつーか、私とせんちゃん、健司は私をフッてなんかいないっ!!」

   野々子、茶目子を見る。

麻衣「何?」
野々子「だったらさぁ、」
茶目子「大人しく岩波君なり、せんちゃんなりを待ってればいいでしょ。」
野々子「最近自棄に他の男にちやほやされていい気になってるみたいだけど?」
茶目子「魔性の女ね。ちょっと美人だからって…この泥棒猫っ!!浮気女!!恥知らず!!」
麻衣「人聞き悪いなぁ、私はほんなこんしとらんに。この男たちが、」

   麻衣ファンの男も集まっている。

麻衣「勝手にベタベタしてくんに。」
茶目子「じゃあ聞くけど、今後一切他の男に近付くなと言えば離れてくれるんだ?」

   麻衣、やれやれとため息。

麻衣「私も、ほー出来ればほーしてもらいたいわね。」

   男子たち、野々子、茶目子に大ブーイング

茶目子「何よあんたら?何か文句あるっ!?」

   更にブーイング。

麻衣「あーあ、ナルシスだけでもめんどいっつーに女子にまでめんどいのがいただわな。」
野々子「なんですって!?」

   麻衣、小粋に後ろ手を振って戻る。男子たち、歓声を上げて麻衣に付きまとう。野々子、茶目子、ふんっと鼻を鳴らす。

野々子「何よ、かっこつけていい気んなっちゃって。」
茶目子「いいわ、今にとっ捕まえて引っ掻いてやるんだで!!」

   そこへ小山タミ惠。

タミ惠「いいわね、それ、」
野々子「あんた、」
茶目子「小山じゃん。何の用よ…」
タミ惠「私も、昨年からあのこの事気に入らなかったの。諏訪の田舎娘のくせにいい気んなっちゃって。」

   ニヤリ。

タミ惠「私も仲間に入れてよ。」

   野々子、茶目子、顔を見合わせる。

東京のホテル・ロビー
   千里、カートを引いて腕時計を見ながらホテルを出る。

千里「…。」

   少し寂しげ。

茅野中央高校・教室
   授業中。麻衣、心ここに非ずで窓の遠くをぽわぁーっと見つめながら受けている。加奈江、麻衣をちらり。


   (チャイム)

加奈江「ねぇ、まいぴう…ちょっとこっち来て。」
麻衣「ん?」

   二人、教室を出る。

同・階段
   二人、座っている。

麻衣「何?」
加奈江「まいぴう、やっぱり気になってんでしょ?行きたいんでしょ?」
麻衣「ん?」
加奈江「せんちゃんよ。今日でしょ、ワルシャワへたつ日…」
麻衣「え、えぇ…」
加奈江「本当は、空港へお見送りに行きたいんでしょ?」
麻衣「え、ほんなこん…」
加奈江「無理してるね…後悔するよ。」
麻衣「…。」
加奈江「好きなんでしょ、」

   麻衣、ポッと紅くなる。

加奈江「そう言えばさ…覚えてる?ここ、」

   数ヵ月前の回想が甦る。

加奈江「新学期の日、せんちゃんが初めてここへ来た日、ちょうどこの廊下で…おもらししちゃったよね。」
麻衣「えぇ…」

   千里の残像が出てくる。

麻衣「せんちゃん…」

   加奈江、ニヤリ。麻衣、パッと立ち上がる。

加奈江「?」
麻衣「なえちゃんっ、後は宜しくっ!!私、行く!!」

   加奈江、グッドポーズをする。麻衣、駆け出す。

加奈江「頑張れよ…」

   フフっと笑う。

加奈江「やっと素直んなったか。」

   麻衣、教室から鞄を取ってきて急いでダッシュ。加奈江、その麻衣の姿を見届けてからフフっと笑って戻っていく。

   麻衣、外へ飛び出ていく。

空港・ターミナル
   千里がゴロゴロとやって来る。キョロキョロとしている。

千里「…。」

   時計と時刻表を見る。フフっと笑う。

千里「もうすぐ時間か…」

   お腹がなる。

千里「はぁ、お腹空いたな…」

   近くにはうどん屋。

千里「あぁ…懐かしいなここ、京都でよく見かけたっけ…食べてる時間あるかな…」

   入っていく。

千里「あるよな…少しおうどん食べよっと。こんにちはぁ!!」


   麻衣は電車に乗り継いでは降りて、走ったり車内ではそわそわして時計ばかりを気にしている。

空港・ターミナル
   千里、満腹になり満足そうに出てくる。何処と無く寂しそう。放送がかかる。

千里「あ、…もう時間か…いかなくちゃ…」

   時計を見てからゲートへと歩き出す。

千里「麻衣ちゃん…来るわけ、ないよな…。」

   寂しそうに笑う。ゲートに入っていく。そこへ麻衣。

麻衣「せんちゃん、せんちゃん?」

   焦って急いでキョロキョロ。

麻衣「??!」

   時刻表を見る。千里、ゲートに入るところ。

麻衣「せんちゃんっ!!おーいっ、せんちゃん!!」

   千里、立ち止まる。

千里(麻衣ちゃん…?)

   笑う。

千里「まさかね、」
麻衣「せんちゃんせんちゃんってば!!」
千里「いや、やっぱり…」

   振り向く。

千里「麻衣ちゃんっ!!」

   戻ってくる。麻衣、千里に駆け寄る。息を切らしている。

千里「どうして…君、学校は?」
麻衣「せんちゃん…間に合って良かった…。」
千里「麻衣ちゃん、」
麻衣「学校は…早退…てか、なえちゃんに頼んで抜け出してきた。」
千里「ええっ?」
麻衣「だって、ほいだって、これから夢に向かって旅立つあんたを最後まで見送りたかっただもん。何でもない、ただの友達なら私、こんなこんまでしんに。でもあんたは、あんたは私の大切な人だだもん。あんただもんで私ここに来たんよ。あんただで、」
千里「麻衣ちゃん…」

   泣き出しそう。

千里「ありがとう…」

   放送がかかっている。

千里「ああ…行かなくちゃ…メールするね、電話するね、手紙もきちんと書くからね。」
麻衣「えぇ、頑張って…」

   千里の涙を拭う。麻衣も泣き笑い。

麻衣「いやね、あんたったら…泣き虫さん。また泣きそうになっちゃってる。」
千里「君だって泣いてるじゃないか…」

   千里も泣き笑い。麻衣を軽くハグすると、顔を赤らめながらゲートにと消えて行く。麻衣、千里が見えなくなるまで涙笑いで手を降り続けている。

   千里も歩きながら涙ばかり拭っては泣いている。
   『僕は感じるこの足が』


   茅野中央高校では、加奈江が教室の窓辺で悪戯っぽく微笑みながら、桜の木とその空遠くを見つめている。


柳平家

麻衣「ただいまぁ!!」
紡、糸織「お帰りぃ、」
糸織「麻衣、せんちゃんから手紙だに。」
紡「それと、健司くんから。」
麻衣「え、二人同時?」

   荷物を置いて封を手に取り開ける。中にはCD二枚と手紙。麻衣はCDをセットする。

千里の声『Szanowny Mai. Jak się masz? Do mnie to jest bardzo zdrowe. Niestety dla Polski nie przyzwyczajeni. I teraz, otrzymał fortepianowej klasę mistrzowską pana Bosuwani Romanov ciężko w Konserwatorium Warszawskim. Więc szansa! ! Takeshi kun jestem przyszedł do studia w tym samym miejscu co ja. On i jestem dobrych przyjaciół, jak zawsze. Bajt cel jest również razem. Mamy kelnera w kawiarni o nazwie "Lipa". Staram się słuchać, jeśli Shikere Ro dobre, a ponieważ również grać, wstaw CD. Liźnięcie przepraszam. Tak więc, z miłością. Oguchi Senli.』

微笑んで、もう一通を開ける。

健司の声『Drogi do Mai. Jak się masz? Warszawa jest kolejnym zimno. Tak, Chino Myślę, czy bardziej znacznego zimna. Przy okazji Mai, usłyszałem od Senli-hime. I Wciąż jesteś wspaniałą kobietą. Rzeczywiście jest moja kobieta. Bo został zatrudniony od caca w Wenecji Opera Japan Turystyka solista? Gratulacje. I z pewnością również będzie zobaczyć w powrocie do domu tak daleko. Senli hime , jest się dogadać, jak do tej pory. Mimo to czasami pragnę smutek w toalecie problemu i bieli spokój, bo mam wsparcie. Ale nadal jest frustrujące. Piano jest dobrze bałagan, gry walenie Chopin i listy. Tak długo, jak On jest obecny, wiodącą rolę fotelika do mnie, i wsp., Zwycięstwo nie jest. Miłego popołudnia. Jak mam nadzieję, że w miarę możliwości powrócić wraz z Chisato I choć. Pamiątkowe Co jest dobre? Dobrze więc. Od Iwanami Takeshi, z miłości.』

麻衣、ふふっと笑う。

麻衣「まぁ、千里姫だって。でも流石は私の男の子…流暢なポーランド語…素晴らしいわ。ハンサムなだけじゃなくて、やっぱりあいつはエリートなお坊ちゃん育ちなのね。ん?」

   小さなビラが入っている。

健司のメモ『PS ... sposób mam Polski zaczął mówić. Prawdopodobnie niesamowite? I zakochał się ze mną?』

   麻衣、笑って窓辺をぼわーっと見つめる。


ワルシャワのカフェ・リンデン
   同じ頃。千里と健司、お茶をしに来ている。たくさんの人々がいて、其々に踊ったりしている。そこへ、麗奈悦、中洲ミズナ

悦「あのぉ、すみません…」

   健司の肩を叩く。

健司「?」
悦「やっぱり岩波君だ。チャオ!!」
健司「お前っ、西山じゃねぇーか。何しに来たんだよ?」
悦「あらいけない?私、普通にお茶しに来たのよ。」

   紹介

悦「こちらは、友達の中洲ミズナちゃん。」
ミズナ「中洲です。宜しく…」

   千里を見て小粋な目配せ。

ミズナ「ねぇ、」

   千里に近付く。

ミズナ「お兄さん、素敵ね。私と踊らない?」
千里「え、えぇ…でも、」
健司「バカっ、何やってんだよ!!やめろっ、千里!!やめろっ!!」
悦「あんたは黙っててよ。それより…」

   健司を誘惑。

悦「私は、こちらのお兄さんと遊んじゃおっかなぁ…」

   千里、ミズナにぐいぐいと手を引かれて困っている。ポケットからパスポートが落ちる。

ミズナ「ん?」
千里「あぁっ!!」

   ミズナ、拾い上げてみる。

千里「返せっ、返してくれよ!!」
ミズナ「ふーん、パスポートか…」

   目を丸くする。

ミズナ「長野県茅野市…豊平…小口千里?」

   千里をまじまじ

ミズナ「ひょっとして君、小口千里君なの?」
千里「そ、そうだけど…?」
ミズナ「お久しぶり、私よ私…中洲ミズナ…」

    小粋な目配せ。

千里「中洲ミズナ…中洲…中洲…ミズナぁ!?」

   ミズナ、しーっと指をたてる。

千里「と、とりあえず君、パスポート…」
ミズナ「パスポート…大切なものよね…これ、」
千里「あぁ、だから…」
ミズナ「これがなくっちゃ千里くん、帰国できないよね。」
千里「そうだよ!!大いに困るよ!!だから返せって!!」

   千里、ミズナを追いかけ回す。やがて千里が先にバテて座り込む。

千里「お願いだからそれ、僕に返してくれよぉ…頼むよミズナぁ…」
ミズナ「嫌よっ!!」

   止まって悪戯っぽく千里を見つめる。

ミズナ「どうしても返してほしいってんなら返してあげるけど…その代わり…」
千里「何だよ、交換条件か?」
ミズナ「当然っ!!」
千里「何だよ、だったら早く言ってくれ…僕が出来ることだったら何だってやるからさぁ…」
ミズナ「本当ね…なら、」

   じっと見つめる。

ミズナ「隣の子と君、二人で私達に一日付き合いなさいよ。」
千里「はぁーっ?」
健司「てか、どいで俺まで…」
ミズナ「そうよ、それが条件。どうなの?飲むの?飲まないの?」
千里「分かった…」
健司「千里っ、正気かっ!?」
千里「仕方ないだろ?僕だってしたかないや…」

   ミズナを見る。

千里「なら一日だけ、君に付き合ってやるよ。その代わり、一日だけだぞ。」
ミズナ「分かってるよ。」
悦「なら決まりね。」

   莉歩は健司、ミズナは千里の手を引く。

ミズナ「W, brata. Hej ja pożyczyć ten młody człowiek dwie osoby. Ciągle sobie rachunek kawy i dlatego, również wrócić.」
千里「Ktoś chce pomóc ...」
マスター「Hej, chcesz iść do miejsca, gdzie? I nie dostał jeszcze kawy rachunek.」
千里「Gdzie idziesz Nie wiem nawet dla mnie. Proszę słuchać tej kobiety, dwie osoby to! ! Kawa ustawy, będziemy odpowiednio później płatność! !」
マスター「I będziemy odejmowana od opłaty bajtów.」

   ミズナと莉歩、千里、健司を引っ張ってごいごいと歩いていく。


   四人、町の広場や店先で踊っている。二人の男子も満更でもない表情。

白樺湖岸
   麻衣一人、ぽわーんと湖を眺めて虚ろに微笑んでいる。


アパルトマン・千里と健司の部屋
   莉歩、ミズナ、千里、健司。二つのダブルベッドに仰向けになっている。

千里「なぁミズナ…一日って約束だろ…そろそろ僕に、パスポート返せよ。」
ミズナ「まだよ、ね、莉歩!!」
千里「はぁ?」
悦「あら、だってまだ24時間経ってないわ。一日って言うのは、24時間の事を言うのよ。だから、」
ミズナ「約束は、明日の14:30までよ。」
健司「ちゃっかりした女どもだぜ…」
千里「分かった、分かったよ。もう分かったから…。とりあえず今夜はもう帰れよ。僕たちだってもう眠いんだ…明日また、昨日の“リンデン”で会おう。」
悦「嫌よ!!」
健司「は、いい加減にしろよな!!お前ら、麻衣とは比べ物にならねぇほど性格悪いな。」
ミズナ「誰よ、それ?」
悦「あの、プリクラの女?」
ミズナ「パスポートの…」
健司「あぁ勿論さ。俺も千里も麻衣の彼氏。」
千里「そ、それに健司くんは何てったって婚約者だ。」
健司「ほ。だで、もし俺たちに気があるってんならほりゃ無理っつーもんさ。諦めな。」
ミズナ「ふーん…。だったら尚更…今宵はここにいさせていただくわ。」
悦「お願い、いさせて。」
千里「え…えぇ、?」
健司「駄目に決まってんだろ!!こんなの、俺達の道理にゃ…」

   ミズナは千里、莉歩は健司に口づけをする。

健司、千里「!??????っ!」

 二人、顔を離す。

健司「行きなり何しやがるんだ!!」
悦「お兄さん、気を付けな。」
健司「はいっ?」

    莉歩、ミズナ、ニヤリ。

莉歩「あんたら、ワルシャワから帰ろうなんて思ったら…」
ミズナ「不幸になるよ。」

   『私は知っている』

柳平家・居間の卓袱台
   数週間後の朝。朝食の支度をする麻衣、せかせかと動き回る他の兄弟たち。

糸織「本来なら今日は、健司くんとせんちゃん連れて行くつもりだっただら?残念だったな。」
麻衣「うん、まぁーな。来年よ、来年。」
糸織「ゴブリンさんが笑うに。」
麻衣「いいだ、ほれでも。」
紡「でもふんとぉーに残念だったな。せんちゃんの家からなん、うんと近いだに。」
麻衣「うん…痛いっ!!」
紡、糸織「どーゆー、麻衣?」
と子「大丈夫か?」
麻衣「あぁ…大丈夫、大丈夫…ちょいと包丁で指切っただけだでね。」

   料理を続けているが、少し何かを心に感じている。

ワルシャワ音楽院
   千里はボスワニー・ロマノフにピアノの手解きを受けている。健司はまた別の部屋でユリアーネ・レニャーノにバイオリンの手解きを受けている。

   大きな地震が来る。

千里、健司「うわぁーーつ!!!」
ロマノフ「Oguchi-kun, jesteś również ewakuacja wkrótce! !」
ユリアーネ「Iwanami-kun, szybko! ! Pospiesz się! !」

   全員の生徒たちは右往左往している。健司は千里を探して歩き回っている。

健司「千里っ、おーいっ、千里姫ーっ!!」
声「To jest bardzo, jest to ogień jest pełne ognia! !」
声「Słuchaj, całe miasto z morza warszawskiej ognia! !」
健司「くそっ、千里姫っ!!千里姫っ!!」

   千里と行き合う。

千里「健司くん…」
健司「千里、良かった…やっといた。おい、火事だ!!地震の次は火事だ!!早く逃げねぇーと…」
千里「火事…!?パパっ!!」
健司「千里っ!!」

   健司、強引に千里の手を引っ張って出口へと走っていく。

柳平家・居間
   テレビを見ながらお菓子を食べる麻衣と兄弟5人。

アナウンサー「只今入りましたニュースをお伝えします。現在、ポーランド・ワルシャワ市内で震度7の大きな地震がありました。破壊した建物も多く、怪我人も出ているとの情報です。又、重症が105人、死亡確認が15人現在に上るとのことです。中には日本人が七名ほど含まれており、何れも意識不明の重体、また死亡が確認されている方もいるとの事です。ワルシャワは、地震の影響で火が溢れて、火事になり、市内は火の海と化しています…」

   麻衣、蒼白になって持っていたさらを落とす。

紡「麻衣?」
糸織「どーった?」
麻衣「た、た、た、…せ、せん…」
紡「ん?」
麻衣「健司…健司…健司と、せ、せんちゃんが…し、し、し、…死んじゃう…」

ワルシャワの音楽院
   健司と千里。

千里「うわぁっ、」

   脆くなった木の床に胸まですっぽりと填まってしまう。

健司「千里っ!!!」

   引き上げようとするが出てこれない。千里、苦しそうに顔を歪める。

健司「千里、待ってろよ!今助けるからな。」

   千里、段々に朦朧として咳き込む。

千里「もういいよ…」
健司「ばか野郎っ!!いいわけねぇだろう!!」
千里「そんな…僕になんか構ってたら…君まで…危ない…よ…」

   朦朧としながらも涙が滴る。

千里「せめて…君だけでも…無事に麻衣ちゃんの元へ帰ってあげて…そして、僕の代わりに…彼女に僕の事…謝ってね…君…なら、…」
健司「千里っ!!」

   千里、微笑んで目を閉じる。 

千里「ありがとう…健司くんに…麻衣ちゃん…さようなら…」

   健司、泣きそうになりながら立ち上がる。

健司「ばか野郎、千里…待ってろよ…死ぬんじゃねぇぞ。俺が今、助けを呼んできてやるからな。一緒に帰国するんだろっ、あいつに会いたいんだろっ!!」

   涙を隠すように階段を降りる。火はどんどんと迫り、軈てぐったりとした千里を包み込む。健司も階段を降りているが、火に包まれ、途中で力尽きて動けなくなる。

健司「麻衣…に、…せ、…んり…」

   がくりと崩れ去る。
   『私が土に横たわるとき』









   



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あきゅろす。
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