[携帯モード] [URL送信]

石楠花物語高校生時代
悲しき文化祭
茅野中央高校
   文化祭当日。人々で校内中が賑わう。


   (3-1)
生徒たち、十二単を着てセギディーリャを踊っている。男性たちは女装。そこへ健司。
   『ジプシーの歌』

全員「いらっしゃい、」
麻衣「あ、健司!!」
健司「ここは?なんのブースだ?」
千里「リリャース・パスティージャ亭だよ。」
健司「リリャース・パスティージャ?…カルメンのか?」
千里「流石は健司君、君も知ったんだね。」
健司「当たり前さ!!」
千里「そ。だからみんなでオラっ!!って」

   少し踊る。

千里「やるんだよ。」
健司「だからって…どいでお前は女装なんだ…?」
千里「僕だってしたくてしてる訳じゃないんだ。ここは平安リリャース・パスティージャ亭なんだ。で、僕は…じゃんけんで負けて踊り子になっちゃったから、女装するって決まりなんだよ。」
健司「ふーん…で、リリャース・パスティージャなら何か食いもんもあるの?」
麻衣「勿論っ!!」
すみれの声「麻衣っ!!」
麻衣「あ、ぼちぼちだ。ごめん健司、ぼちぼち私たち音楽部の発表なんよ。あんた、どーする?」
健司「お、ほいじゃあ俺も見に行くよ。」
麻衣「ふんと、ほいじゃあせんちゃん、」
千里「うんっ。」

   麻衣、千里、十二単を脱ぐ。

麻衣「ほいじゃあなぁ、後はみんな宜しくぅ。」
全員「はーい、行ってらっしゃーい。」
麻衣「行こっ。」


   麻衣、千里、健司初め、音楽部のメンバーが教室を出ていく。


同・校庭
   音楽部の発表が行われている。客席にはタニア、マルセラ、フレデリコ・ヴァレリア(25)もいる。
   『トロリーソング』

タニア「あら?あの子…柳平麻衣さんかしら?」
マルセラ「本当だわ…とても印象的な子だったからよく覚えているわ。」
フレデリコ「あぁ、あの天才的な歌声は彼女だ。間違いないよ。」

   千里と小松を見る。

フレデリコ「そして、あのバイオリンを弾いている子がピアノ科の小松君。彼、バイオリンもやるんだね。そして、あの、ピアノの子はピアノ科の天才少年…小口君だよね。」
マルセラ「でも、あのバイオリンの天才少年は…ここにはいないのね。岩波君…。」

   三人もうっとりとして聴いている。

タニア「柳平さん、こういった歌も歌うのね…あの子は。何歌わせても感心する子だわ…。」

   終わると大拍手が起きる。

同・体育館のステージ裏
   音楽部のメンバーがいる。千里は緊張に震えながらペットボトルを飲んでいる。

麻衣「せんちゃん、大丈夫?」
千里「う、うん…ありがとう…大丈夫…じゃない。」
麻衣「リラックスして。あんたなら出きる!!ほいだってあんた、MMCのあの大舞台でやったじゃない!!それにあんた、ピアノ上手いんだもん。な、自信持って。小口千里君はやれば出来る子です。な!!」
千里「あ、あぁ…でも」

   困ったようにキョロキョロしながらもじもじ。

千里「でも僕…緊張するとすぐトイレ行きたくなっちゃうの…どうしよう…。まだ時間あるかな…もう限界に近いんだけど…」

   麻衣、時間を見る。

麻衣「ん、大丈夫だに。まだ時間あるで間に合うに。」

   小粋な振りを付けながら

麻衣「♪大丈夫、大丈夫、あんたはモーマンタイン!!…ってな、アハハ…」

ぽかーんとする。

千里「てかさぁ、それ前から気になってたんだけど…愛しのクレメンタイン?」
麻衣「ほーだに、いいら。私が困っとるときや落ち込んどるときに、健司から教わったんよ。」
千里「へぇー…健司君からか…」
麻衣「ほんなこんよりせんちゃん、はぁくトイレ行かんでいいだ?行けんくなっちゃうに。」
千里「あ、そうだ!!」

   千里、駆け足してステージ裏を出ていく。麻衣、ククッと笑う。そこへ小松。

麻衣「あ、そうちゃん!!」
小松「小口君は?又トイレ?」
麻衣「えぇ…」
小松「彼もなぁ…あんなことさえなければ完璧なのになぁ…惜しいよな。」
麻衣「ほーね。そうちゃんは?あれ以来、大丈夫だだ?」
小松「あぁ、緊張?」

   苦笑い。

小松「まぁ、大丈夫ではないけどさ。この、」

   薬の箱を見せる。

小松「マイリンフェルマーで騙し騙しやってるよ。」
麻衣「マイリンフェルマーって…ほれ、吐き気やムカつきの胃薬じゃないの!!ほんねに重症だだ?大丈夫?」
小松「ありがとう…僕は大丈夫さ。でも、小口君みたいな緊張っぷりだと、下手したら本番中におもらししちゃうかもしれないだろ?そっちの方が致命的だよ。」
麻衣「まぁね…でも、演奏中にずっと気持ちが悪いのも辛いもんだに。」
小松「君は?相変わらず涼しそうだね。」
麻衣「えぇ、涼しいに。」

   二人、笑う。そこに千里。

小松「あ、戻ってきたよ。小口君、大丈夫か?」
千里「そうちゃん…あぁ、ありがとう。でもすぐトイレ行きたくなって困るよ。」
麻衣「ドンマイ、せんちゃん。リラックス、な。」
千里「あぁ…。」


   体育館には、多くの観客が集まり出している。

アナウンス「それではお待たせいたしました。只今より、音楽部の三学年によるリサイタルを始めたいと思います。」

   大きな拍手。

アナウンス「演目は、演劇部との合同作品…ミュージカル・セントルイスで会いましょうです。ヒロインは柳平麻衣さんです。どうぞ。」

   演技が始まる。健司も会場にいる。麻衣、歌ったり踊ったり。ピアノは千里。


   カーテンコール。

麻衣「どうもありがとう、どうもありがとう、」

   麻衣、ステージから飛び降りて会場を歩き、出ていこうとする。そこへ、岩井木と西脇

岩井木「やぁリネッタ!!さすがは僕らの女だぜ!!」
西脇「改めて惚れたよリネッタ、どう?僕らんとこ来いよ?」
麻衣「誰が行きますかってんでいっ!!私は、」
健司「てっめーらなぁ、」

   健司が立ち上がる。

健司「人の女易々と誘ってんじゃねぇーよ!!」
西脇「人の女…?」
岩井木「誰だよ…お前?」
健司「俺、俺は所は原村、親父は社長。人呼んで…酒・IWANAMIの御曹司、岩波健司たぁ、」

   歌舞伎のように

健司「ほりゃこの俺のこんでぇ!!」
岩井木「酒・IWANAMIの御曹司、」
西脇「岩波健司ってまさかお前…」
健司「何お前ら?俺のこん知ってんのか?」
麻衣「いやね健司、忘れただ?ほれ、原中の岩井木と西脇だに。」
健司「原中の岩井木と西脇…って…はぁーーーーーっ!?」

   食って掛かろうとする。

健司「てめえら、まさか…あんときの?俺におしっこもらさせたお前らなのかよ!?やいっ、あんときゃあえらい世話んなったなぁおいっ。」
西脇「お前こそ、元気そうじゃねぇーか。リネッタからお前が死んだって聞かされたときは僕らも心配ってか、少し寂しかったけど?」
岩井木「心配して損したぜ。」
健司「お前ら…」
麻衣「はいはいはいはい、こんなやつら放っておこうね…」

   健司を連れて体育館ん出る。

同・体育館の外の廊下
   麻衣と健司

健司「なぁ、一体なんなのあいつら?お前、どういう関係?」
麻衣「嫌ね、何の関係もないわよ。だで安心してよ。」
健司「ならどいで…」
麻衣「あいつらが勝手にあーやってるだけ。」
健司「ふーん。ならいいけど…俺、なんか嫉妬だな。」
麻衣「え?」
健司「お前は、ライバル多くて困っちゃう…ん、」

   子供のようにそわそわ。

麻衣「どーゆー?」
健司「麻衣、トイレっ!!」
麻衣「んもぉー。ん!!」

   もよりの職員トイレを指差す。

健司「サンキューっ!!」

   入っていく。麻衣、クスクス。


同・体育館
   暫く後、舞姫が行われている。

麻衣「我、豊太郎主!!かくまでに我をば裏切り給いしか!!」
千里「ごめんなエリス…しかし、私の気持ちは本物であったことは、信じてほしい…許してくれ、お前を愛している…。」

   会場、二人の名演にすすり泣く声も聞こえる。

   終わる。

   廊下を歩く麻衣と千里。千里は涙を拭う。

千里「麻衣ちゃん、ありがとね。とってもよかったよ。ナイスな名演だ!!」
麻衣「まぁ、でもせんちゃん。あんたこそ。ナイスな名演。ほれに、あんたのアドリブ、素敵だったわ。私感動しちゃった…。」
千里「そう?」
麻衣「何?せんちゃん、あんた…泣いとるの…?」
千里「あ、あぁごめん…」

   涙を拭う。

千里「ちょっと君の演技に感動しちゃってさ…」
麻衣「まぁ、私の?」

   笑って千里をこずく。

麻衣「いやだよぉ、私なんて何も感動するような演技はしとらんに。せんちゃんって泣き虫さんなんだでぇ!!」
千里「えへっ。ごめんごめん。でも、本当だよ、君の演技にとても心打たれた…ほら、会場だって泣いてたろ?」
麻衣「えーっ、ほんなぁ…。」

   二人、笑って喋りながら歩いていく。


   次の日。

同・体育館

みさ「それでは、お待たせいたしました!!お待ちかねのミスリンドウを行いたいと思います。」

   会場、大歓声。

みさ「それではまずは…」

   女子たちの演技がどんどん行われる。

   糸織が、十二単姿で出てくる。会場、どっと笑いが起きる。糸織、小粋にウインク。

みさ「ありがとうございます、では最後の方…我が茅野中央のモナリザ、3年1部の柳平麻衣さんです。柳平さんは昨年度、若葉より転校して来ました。今年が最初で最後の石楠花祭です。それでは、どうぞ。」

   麻衣、仏頂面で出てきてあとから千里が出てくる。麻衣、千里のピアノ伴奏でバレエを踊り出す。会場にいる男性軍は麻衣に釘付け。麻衣はレオタード姿。

終わる。

麻衣「私が、ご紹介に預かりました柳平麻衣です。今の糸織とは、三つ子の兄弟…。」

   大歓声。

麻衣「私は、私自身がこのコンテストに出たくて出とる訳じゃない。無理矢理出されたもんでしょーがなく出とるだよ!!」

   笑いが起きる。

麻衣「人々は私のこん、モナリザだとか可愛いだとか言っとるみたいだけど?何処にほー思うんだか全く分からん。私はみんなが思うほど美人じゃないし、ハチャメチャで武道は心得とる。お転婆でやんちゃ、荒いしお口も悪い。ほれに私は…」

   眼鏡をかける。

麻衣「ふんとぉーは、こんなんなの。」

   何故か男性軍から盛り上がりの歓声。

麻衣「あだ名はブスベアトリス。ほれなんに、こんな私に惚れた男が二人おるんよ。岩波健司っ、」
健司「っ!?」
麻衣「ステージに上がっておいでなさい。」
健司「な、何だよぉ、」

   照れて笑いながらやって来る。男達、健司をにらむ。

麻衣「ほいでせんちゃん、私の隣へ来て。」
千里「僕も?」

   二人、麻衣の隣へ並んで立つ。

麻衣「こちらの彼はご存知、我が学校の3年1部、小口千里君。ほしてこちらは、今年の一月、LCVニュースでも話題になった“酒・IWANAMI ”の第2御曹司、岩波健司君です。」

   健司照れて紅くなる。

麻衣「私は、この健司とは婚約者同士です。」

   ブーイング。

麻衣「でも、このせんちゃん…転校してきてから今までのこの数ヵ月、辛いことばかりで…私もふんとぉーに彼が可哀想で見ているのがとても辛かった。ほんな反面、彼はとても思いやりがあって優しい…自分がどんなに辛くても、私が辛いときにはいつも支えて助けてくれる…。私はほんな彼に、健司がいない間、とても癒された。で、今年の五月、私は彼から“好きです”って告白された。少し驚いたけど…とても嬉しかった。だから私、OKしたの。」

   再びブーイング。

麻衣「でも、運命とはなんて皮肉…ほんな時に愛しい彼、健司が戻ってきた。彼はとてもやきもちやきなの。でもな、彼もせんちゃんの事を良く分かっていて、私のこんも良く分かっていて…。だで、私、高校出るまでは暫くせんちゃんとお付き合いをすることになりました。でも、私は決して、憐れみなどで彼を冷やかしているわけではありません。こころから、彼のこんも愛しています。だもんで、私はこの二人の男以外、誰とも付き合わん。レイミーテンデ?」

   笑う。健司、照れ笑い。千里、真っ赤になって泣き出しそうになりながら下を向く。

麻衣「ほら、せんちゃん…」
千里「ダメだよ、こんなの…麻衣ちゃん…」
麻衣「え?」
千里「僕はいつだって君に迷惑かけて、お荷物になってばかりだ…」
麻衣「ほんなこんないに!!」
千里「君は、健司君と一緒でなくっちゃいけないの…。僕、僕は…」

   涙をためる。

千里「君が好きだ…でも、健司君がいる以上、もう僕に勝ち目はない、だから…今日限りで、悲しいけれど、君から身を引きます…短い間でしたけどお世話になりました…健司君と幸せにやれよ…。」
健司「おい千里っ、」

   千里、悲しげに健司に目配せするとそっと頷いてピアノにスタンバイ。健司、手に提げてきていたバイオリンを構える。麻衣、少し躊躇うがスタンバイ。
   『私は恋をして幸せでした』

   麻衣、二人の伴奏で歌い出す。

   終わると大拍手。

同・男子トイレ
   糸織がお化粧を落としている。小野、横井、向山が用を足している。

千里「…」

   そこへ千里、健司に支えられて涙をこらえたように入ってくる。

横井「お、小口じゃねぇーか。」
向山「ヨーヨーフーッ!!この、幸せもんがぁ!!」
千里「…」

小野「どうしたんだよ?」

   千里、便器の前で壁に手をついて、静かに泣き出す。

小野「おいっ、」
健司「今はそっとしといてやれよ…」

   慰めながら

健司「お前はもっと意気地無しで何もできないかと思ってたけどよ…良く言ったな千里…格好良かったぞ…でもどいでだ?俺、病院で言ったろ?」
千里「ダメさ、僕なんて君と比べれば弱いし、何も出来ないし、臆病だし、泣き虫だし…勉強だって出来ない…。そんな僕なんかといるより彼女にとっては君といた方がずっと幸せさ。君がいるのに、僕なんかといて…僕も辛いし、彼女も辛いよ…。だから。」
健司「ほーか?」

   納得いかぬ顔。

健司「で、お前は後悔しないんだな?」
千里「…。」
健司「ほれが、お前の決断ならへー何も言わんけどさ…」

   千里、大粒の涙をこぼして泣いている。

小野「全く、お前は男の癖に泣き虫だなぁ…」
健司「泣いてる…ってこんは、あいつのこん、好きなんだな、別れたくはないんだな…」
千里「うるさいっ、放っておいてくれっ!!男の子だって、泣きたいときは泣きたいんだ。辛いんだ!!うっ、うっ、」

   健司、小野、笑いながら千里の背を擦る。

千里「健司君…僕のお願い、聞いてくれる?」
健司「何だ?」
千里「最後に…この後のフィナーレの大舞踏会で、麻衣ちゃんとラストダンスを踊らせて欲しい…。」
健司「麻衣と…?…分かった、いいよ。でも、ほんなこんいって、後悔すんなよ。」
千里「…ありがとう…健司君…。」


同・体育館
   フィナーレの大舞踏会が行われている。麻衣は複数の男子からお誘いを受けているが断っている。そこへ健司と千里。

健司「退いた、退いたぁ!!麻衣にゃあなぁ、先約がおるんじゃいっ!!」

   千里の背を押す。

健司「ほれっ、千里…」
千里「う、うん…」

   ひざまづいて手を出す。
   『ラストダンスを私と』

千里「麻衣ちゃん、…僕と、僕とどうかラストダンスを一緒に踊ってください…」
麻衣「せんちゃん…」

   切なそうに微笑む。

麻衣「ラストダンスとか言わないで…いつでもあんたと踊ってあげるわ…」

   千里の手に手を乗せる。千里、泣き腫らした目。

   ダンスが始まる。健司もサークルに加わってパートナー交代のダンスに参加している。
    『スキップトゥマイルー』

同・音楽室
   音楽部の女子のみ。

麻衣「え、研修旅行?何ほれ?」
すみれ「あら、麻衣まだ聞いてなかったかしら?」
麻衣「えぇ、聞いとらん。」
みさ「あのね、セレブの北山ちゃんがね費用を負担してくれるっていって音楽部のプチ女子会をやろうって話をしてたのよ。」
麻衣「へーっ。」
キリ「まいぴう、あなたは?」
麻衣「いつ?何処?」
八千代「夏休みが始まって第一週目の月曜日から3日間、プラハへ。」
麻衣「プ、プ、プラハへっ?」
知晃「残念っ、ダメか…」
麻衣「ほれがぁ…実は私、MMCの優勝記念で…夏休みの第一週目の月曜日から1週間…プラハへ…」
メンバー「えーっ!!!うっそぉー!!」
麻衣「えぇ、ほーなんよ。で、最終日にプラハサマーナイトフェスティバルの…」
マコ「何よほれ、ほんなの私達もあなたと共にいるに決まっているじゃないの!!」
麻衣「みんな…」
マコ「そうよ、みんなであなたの舞台、見に行くわ。」
麻衣「えぇっ!!ありがとう!!」

   全員、微笑む。

飛行機の中
   旅たちの日。音楽部の女子メンバーと健司と千里。

千里「麻衣ちゃん…」
健司「よ、」

   麻衣、びくりと二人を見る。

麻衣「せんちゃんに…健司?どいで?」

   マコ、ニヤリ。

マコ「か弱い女の子を守るガードマン、少しは必要だろ?」
すみれ「そうそう、だから二人だけは誘っておいたのよ。」
麻衣「私は大丈夫よ、」
マコ「あなたが大丈夫でも、彼氏たちはあなたが心配で心配で仕方ないのよ。」

   そこへ、小松と西脇。

小松「ついでに僕らもね。」
マコ「ゲ、何で?」
西脇「おいおい酷いなぁ、僕らもメンバーなのに置いてくなんて…」
小松「しかも小口くんだけは連れてくんだね、そこは…。」
マコ「あのねぇ、…んも、いいわよ!!」
千里「でも僕…ワクワクしちゃうな…だって外国なんて初めてなんだもん…しかも、」

   料理を見る。

千里「テンションの上がるお料理っ、いただきまぁーすっ!!」
麻衣(はしゃいでる彼は可愛い…)

   フフッと寂しげに笑う。

千里「麻衣ちゃんは、外国は何回くらいあるの?」
麻衣「私?」
健司「聞いて驚くな、こいつは凄いんだぜ、」
麻衣「やめて、健司っ!!」
すみれ「私もそんなの初めてよ、大体行ったことある子の方が希よ。」
みさ「そうそう、私も。」
キリ「そんなの私もだよ!!」
八千代「私も、」
知晃「私も。」
マコ「私はあるわ、」
麻衣「ほーほー、北山は何度もハンガリー行っとるもんで、ハンガリー語もペラペラなんよね。」
マコ「そ、そいことっ。」

   つんっと付け上がる。

西脇(嫌なやつ…この女、僕はどうも苦手だ。)
小松「僕もあるよ、」
麻衣「へぇ、そうちゃん…あんたも?何処?」
小松「うん、ドイツに数ヵ月…」
すみれ「え、何々?なんかの研修とか?」
小松「いやぁ、そんな大それたもんじゃないさ。ただの交換留学だよ。」
麻衣「なら、ドイツ語とかも?」
小松「うん、少しね。日常会話くらいは…」
麻衣「まぁすごい!!日常会話ができればもう完璧よっ!!」

   健司、二人をにらむ。

健司「おいっ、ちょっとドイツ語出来るからって調子に乗ってんじゃねぇーよ!!俺なんて、イタリア語とフランス語とポルトガル語のバイリンガルなんだぜ!!」

   麻衣にウインク。

健司「どう?俺に惚れた?」

   麻衣、笑って健司をこずく。

麻衣「はいはい、ごめんなみんな…バカな男で…」
小松「いや、いいよ。君は彼にとても愛されてるみたいだね。」
麻衣「全く、嫉妬深い男でして…でも、ここがまた可愛いんよ。」
西脇「てかおいっ、岩波健司っ!!」
健司「あ?」
西脇「何で、部外者のお前までここにちゃっかり来てんだよ?」
健司「てめえ、人のこん部外者扱いしやがってぇ!!」
西脇「だってそうだろうに!!ここはなぁ、」
健司「分かってるよ、茅野中央の音楽部の集まりだって言いたいんだろ?あぁほーだ。確かに俺は音楽部でもなければ茅野中央の生徒でもねぇーよ。でもなぁ、」

   得意気に立ち上がる。

健司「俺はこの、ブスベアトリスの彼氏なの!!だで呼ばれたもんで着いてきたんだよ。ボディーガードさ。レイミーテンデ?」
西脇「お前っ、いつからそんなでかい口叩くようになったんだよ?」
健司「いつからだぁ?昔からずっとだよぉーん。」

   西脇、煙たそうに健司を見る。

西脇「あ、でも健司くん?好きな女の子の前で恥かいちゃってもいいんかな?」
健司「恥だぁ?」
西脇「外国にはなぁ、日本に比べて使えるトイレの数が少ないんだ…仮にあったとしても有料、お金がなければ入れない。おトイレ近い健司君、さぁ困りましたね。どうしましょう?」

   千里の顔から血の気が引く。

健司「いいもんっ、俺何度も外国行ったことあるし、ほいのって慣れっこなんだもんっ。てかほれに俺、今はへートイレ近くねぇーし…。」

   西脇、健司、つんっとして張り合う。女子達、呆れて二人を見る。

みさ「あーあ、こんなところまで来て始まっちゃったよ。」
すみれ「本当ね、呆れた人たち…」
マコ「又もあれね、麻衣を巡った男達の仁義なき戦い…」

   千里、そわそわもじもじ。麻衣も呆れたように食べ始める。
 
   マコ、千里に気づく。

マコ「千里?あんた、一体どうしたのよ?」
千里「あ、あぁ…」
麻衣「せんちゃん?」

   千里、泣きそうになっている。

千里「僕、僕僕僕僕、もうここから日本へ帰りたい…」
マコ「は?何いってんの?あんた…」

   千里、突然ぱっと立ち上がって出入り口に向かう。

マコ「ちょっとあんたばかっ?何やってんのよ?」
麻衣「せんちゃんやめてっ、なぁっ!!」
マコ「死ぬ気っ、やめなさいよっ。」
麻衣「急にどうしたんよ、なぁ!!」

   二人、千里を取り押さえるが麻衣、ハッと何かに気づく。

麻衣「せんちゃん、ひょっとしてあんた…」

   椅子に戻して落ち着かせる。麻衣、耳打ち。

麻衣「ひょっとしてあんた、さっきのトイレのこん気にしとる?」

   千里、躊躇うが泣きそうになって恥ずかしそうに頷く。

麻衣「何だ、ほんなこん。大丈夫よ、」

   千里を慰めながら。

麻衣「安心しな、トイレなんて行きたくなれば、喫茶店だってバール、ホテル、美術館とかだって何処も貸してくれるに。」
千里「本当に…?」
麻衣「えぇ、ふんとぉーだに。」
千里「良かった…」

   泣き出しそう。

千里「僕にとって…トイレがあるかないかは致命的な大問題なんだ…」
健司「ほーか…でも千里、大丈夫だぜ。俺もはじめはほの心配あったけど、俺でさえ安心して乗りきれたわけだし…。」

   麻衣、胸を押さえる。

麻衣「うぅっ、」
健司「ん、麻衣?どうした?」
麻衣「ヤバイ、気持ち悪い…」
健司「酔った?」

   麻衣、黙って頷く。

千里「ごめんね、僕のせいだ…僕がばか騒動起こしたせいで…」
健司「お前のせいじゃないよ…」

   麻衣、立ち上がる。

健司「麻衣?」
麻衣「ごめん…私、トイレ行ってくる…。」
健司「俺も着いてくよ…歩ける?」

   麻衣の肩を支える。

健司「千里、お前も来いよ…」
千里「うん…」

   二人、麻衣の両肩を支えてトイレへ連れていく。

   二人がいなくなったあと、糸織が来る。

糸織「おりょ?…麻衣は?」

同・トイレ 
   健司と千里が麻衣を労る。麻衣、トイレで吐く。

健司「麻衣、大丈夫?辛いか?…苦しいよな…」
千里「麻衣ちゃん…毎回毎回、可哀想だよ…僕、君を見ていて辛くなっちゃう…。」

   千里、健司、涙を浮かべる。そこへ糸織。

糸織「おーいっ、やっぱりここにいたか。」
3人「しおっ!!」

   糸織、小箱を麻衣に渡す。

糸織「ほれこれ。バカだなぁ、君はこれを忘れちゃ行けないだろうに…ムカケシン。忘れてたぞ。だで、僕が持ってきた。違う席にいたから君を見つけるのに苦労したよ…やっと見つけた…」
麻衣「しお…ごめん、ありがとな。」


  糸織、微笑む。

糸織「いいってこんよ。はぁーく飲みな。すぐに楽になるに。」
麻衣「うんっ。」
健司「んなら俺、水もらってくるよ。千里、お前は麻衣を…」
千里「分かった、…歩けるか?」

   千里、麻衣を支えて歩かせる。健司、水を貰いに行く。糸織も麻衣を支える。

糸織「君は幸せもんだよ…良かったな麻衣、いい男たちに恵まれて…」
麻衣「うん…」

   弱々しげに微笑む。

プラハ・空港
   全景のメンバー、外に出る。

全員「うわーっ!!きったぁー、プラハだぁ!!」
麻衣「ううっ、」

 胸を押さえてしゃがみこむ。

千里「麻衣ちゃんっ?」
健司「大丈夫か?」
麻衣「えぇ、大丈夫…」

   よろよろと立ち上がる。

麻衣「では…まずは?何処行くだ?」
すみれ「麻衣、あなた先に休んでいなさいよ…」
みさ「そうよ、そんな体で見物なんか無理だわ…」
マコ「そうよ。まだ先は1週間もあるんですもの、今日はゆっくり休んで、またみんなで遊びに行くといいわ。」
麻衣「えぇ、ほーね…。ほーする。みんな、ありがとね。」
マコ「そこで、健司君に千里…麻衣だけじゃ可哀想でしょ?あんたら二人も、今日は先に、ホテルへ行ってなさいよ。」
千里「え…」

   千里、紅くなる。

マコ「千里、あんたなんか今、嫌らしいこと考えてないでしょうねぇ…」
千里「ば、バカ!!そんなこと考えてないよ!!」
マコ「ま、それならいいけど…」
千里「あ、当たり前だろぉ!!」
マコ「健司君、君は確りしてそうだから、二人をよろしく頼むわ。千里は頼りないし…ね。君、麻衣の彼なんでしょ。」

   健司、得意気に胸を叩く。

健司「任せとけっ、ほんなの当たり前だっ!!な、麻衣、」

   麻衣、健司を見て微笑む。

麻衣「うつっ、」

   口を押さえる。そこへ一台のタクシー。

千里「お、タクシーだ!!とりあえずあれに…」

   千里、タクシーを止める。

   二人の男子、麻衣を支えてタクシーに乗り込む。

運転手(チェコ語)「Myslíte si, jít buď?」
麻衣(チェコ語)「Chcete-li Prague Grand Hotel děkuji.」
運転手(チェコ語)「Ano, pane…」
健司、千里「おぉっ。」
千里「僕にはさっぱり分かんないや…」
健司「ほんなの俺にもだよ…」

   微笑む。

健司「でも流石は俺の麻衣だろ…美人なだけじゃなくて、かなりのエリート女子なんだぜ。」
千里「本当に…なんかかっこいいなぁ…僕、そんなところにも更に惚れちゃいそう…」

   紅くぽわーんとなる。

健司「俺もさ。ま、あいつがかっこいいっつーのは。父ちゃんが、警察官ってこんもあるだろうけどさ…」
千里「そうか、そう言えば麻衣ちゃんのパパは警察官なんだっけ…」

   タクシーは走っている。麻衣、上体を起こして辛そうにしている。

健司「少し…寝てけよ…」
麻衣「でも…」
健司「ほれじゃあ余計に辛いだろ…ほれっ。」

   健司、麻衣を靴を脱がして自分の膝の上へ。麻衣の頭を千里の膝の上に倒させる。千里、どきりとなって、おどおどとしている。

ホテル・個室
   麻衣、千里、健司

麻衣「うゎぁっ…」

   ベッドに倒れ混む。

麻衣「ごめん、私へーだめ…」
千里「おい、大丈夫か?」
麻衣「ええ…」
健司「なぁ麻衣、なんか俺に出来ることあるか?何か欲しいもんある?」
麻衣「冷たい…う、お水と氷を…ううっ、」

千里、麻衣の背を擦る。

健司「んじゃ、俺ちょっと…ベアトリスのために…氷貰ってくるな…。全くバカ野郎…心配かけやがって…。」

   健司、退室。千里、悲しげに麻衣から目を背ける。

千里「麻衣ちゃん、大丈夫?」
麻衣「えぇ、ごめんな。酷く酔っちゃったみたい…ごめんなせんちゃんも…ほしてありがとう…。」
千里「いや、でも…」
麻衣「どいで文化祭の時、あんなこん言っただ?」
千里「だって…それは…。」

   涙を浮かべる。

千里「僕は健司くんに比べればとても弱んぼで、君を守るどころかいつでも迷惑かけてばっかりだもん…何をやつてもいつも裏目に出て空回り…やっぱり僕が女の子とお付き合いするなんて、無理なんだよ!」
麻衣「何バカなこん言っとるんよ…ほんなこんないに、私は、私が弱っているときに、あんたが私の側にいてくれてるだけで…凄く安心できるの…。良かった、あんたも来てくれて…。」
千里「麻衣ちゃん…良かった。僕、君の役に立てているならそれだけでとても嬉しい…。」

   麻衣、弱く笑う。

麻衣「だでせんちゃん…お願い…これからも今まで通り、私の側におってね…。私のこん、守ってね。」
千里「いいの?…君は、こんな僕を嫌いにならない?」
麻衣「何言っとるんよ、嫌いになんかならないに…私はあんたの側におる…。」
千里「うん、ありがとう…麻衣ちゃん…。」

   そこへ健司が入ってくる。

健司「あぁ、俺たちは三人…千里、」

   千里を見る。

健司「お前と俺はライバルだけどさ、俺たち三人はいつでも一緒、ずっと友達さ…。」

   麻衣もゆっくりうなずく。  

千里「みんな…」
健司「何か、麻衣よりお前が慰められててどうすんだよ。」

   麻衣、微笑むが突然口を押さえてトイレに駆け込む。

千里「麻衣ちゃんっ!!?」
健司「麻衣っ!!?」

   二人も麻衣の背を擦る。

健司「お前ふんとぉーに乗り物酔いかよ…」
麻衣「えぇ…いつものこんよ…。二人とも優しいんね…」

   暫くして、二人は麻衣をベッドに寝かす。


   更にしばらくご。麻衣、大分穏やかな表情。

健司「顔色も落ち着いてきたな…良かった…。」

   千里、涙をぬぐう。健司、氷で麻衣の体を冷やす。

健司「冷水もらってきたけど…どうだ?飲むか?」
麻衣「えぇ。ありがとう…お願い…」
健司「OK…分かった。」

   麻衣にグラスを渡す。麻衣、少しずつのんで微笑む。

麻衣「美味しい…」

   健司、千里も顔を見合わせて微笑む。

   
   夕食時間、レストランにすっかり元気になった麻衣とふざけ合いながら食べるメンバーがいる。


同・個室
   健司、麻衣、千里。

千里「んじゃ僕は、向こういくよ。だから健司くんが麻衣ちゃんといてあげて。久しぶりに二人で過ごしたいだろ…。」
健司「千里…」

   照れ臭そうに笑う。

健司「サンキュウ…。」


   しばらくご。健司はベッドに諏訪って本を読んでいる。麻衣は湯上がり。

麻衣「健司ぃ、おまたせー!!出たにぃ!!」
健司「お、お帰り麻衣、サンキュウ…」

   顔をあげる。

健司「って…」

   紅くなる。麻衣はシミーズ一枚。

健司「お前っ、バカか!!何て格好してんだよ!!とりあえずは早く着替えろよな!」
麻衣「んー?あー、ごめんごめん、忘れとった。ちょっと待っとりよぉ!ー」

   るんるんと再び浴室に入っていく。

健司「ったく…」

   フット笑って再び読み出す。


   数十分後。麻衣は熟睡。健司がお風呂から出てくる。

健司「おーい、麻衣…って、」

   髪を拭きながら微笑む。 
  
健司「ちえっ、へー寝ちまったのかよ…」

   近づいて髪を撫でる。

健司「こうして、お前の寝顔が見られるなんて、オレ、幸せもんだよな…ふんとぉーに、お前っつー女はどいでこんねに可愛いんだよ…。」

   口づけ。

健司「もしこうして、お前と共にここへ来るこんが出来なんだとしたら…このお前の寝顔は全てあいつのもんになってたっつーこんだよな。良かった…。」

   欠伸。

健司「ハァーッ、眠いなぁ…俺もへー寝るよ。おやすみなして、俺の可愛いベアトリス…。」
   
   自分のベッドに入って明かりを消すと眠る。

   千里も別の部屋で一人眠る。

   『君の口づけを』

同・ロビー
   翌日。メンバーが全員。

マコ「あっらぁー、健司くんに麻衣、おっはよぉー!!」
知晃「昨晩二人で寝たんだって?」
八千代「いやん、まだ高校生でしょあんたら!!」
すみれ「以外に大胆ね…」
小松「ね、寝たって…」
千里「大胆ねって…」
マコ「当たり前でしょ!!若い男女が相部屋した後はどうなるか…分からない?」
千里、小松「そ、そんなぁ…」

   健司、照れて得意気に笑う。

糸織「ま、マジで…?」
麻衣「いやいやいやいやいや、みんなどいでほーゆー話んなっちまうだけやぁ!!私と健司は、恋人同士ではありますが、ふんとぉーに何も…」
西脇「なんたるこったぁー!!僕の清純なリネッタの肌を汚すとはぁ…健司ぃ、」
麻衣「っつーか西脇も人の話を聞けぇーっ!!!」
小松「でもさ、この…」

   健司をこずく。

小松「モデルのようにハンサムな君が…なかなか大胆な事やるねぇ!!」
健司「へへんっ、いいだろぉ!!羨ましいだろぉてめぇーら!!俺は昨晩、このベアトリスと手ぇ繋いで眠ったんだぜ!!し、か、も、俺、こいつの寝顔にチューしたり。」
麻衣「っつておいっ!!つーか健司も何誤解招くようなこん、あるこんないこんペラペラ喋ってんよ!!」
健司「っせーなぁ、別に俺が何喋ったっていいだろうに…ほいだって俺達…」

   麻衣を抱き寄せる。

健司「婚約者同士だろ。色々と自慢したいんだよ。」
千里「…。」
マコ「うっきゃあーーっ、いいねぇ!ー君達お若いねぇ!!でももし仮にそうだったとしても、そんなの健司くんだから絵になんのよ。でももし昨晩、一緒に寝たのが千里だったとしたら…」
千里「はぁ?な、な、何が言いたいんだよぉマコ、」
マコ「めっちゃ似合わないっ!!てか、想像しただけで吐き気がする!!」
千里「おいっ!!」

麻衣「へーほんな話、どーでもいいらに!!ほれよりも?これこらどーするだ?」
すみれ「麻衣は?何処か行きたいとこ、ある?」
麻衣「うーんと、ほーねぇ…」

   考えて手を打つ。

麻衣「あ、ほーだ!!私、プラハのコジファントゥッテの家にいきたいっ!!」
西脇「プラハのコジファントゥッテの家って…何、リネッタ…」
糸織「ドゥーシェク邸か?」
麻衣「あーっ、ほこも行きたいけどぉ。ほれ、ナポリ風ヴィラカンポリエートのこんよ。」
千里「あぁ、それなら僕も知ってるよ。君が確か前に行きたいって言ってたことあるよな。」
健司「いいよ、みんなでほこ行こっ!!」
全員「おーっ!!!」
千里「ちょっと待った!!」
健司「?」
千里「トイレぇ、」
健司「早くしろよ。」

   全員、笑う。

同・男子トイレ
   千里、辺りを確認してから個室に入る。そっと紙おむつを取り出す。


ヴィラカンポリエート
   全景の人々。

全員「おーっ…」
糸織「ここがあの、かの有名な…」
健司「コジファントゥッテの家…」
すみれ「何か如何にもって感じ…」
マコ「本当にナポリ風ってか、中世の異国情緒溢れているわね…。」
小松「モーツァルト時代にタイムスリップしたみたい…」
千里「てか、今にも彼本人や、ドレスのお姫様とかが出てきそうな…」

   ブルッと身震い。

西脇「何というか、ロマンティック…」
八千代「ファンタジー…」
知晃「デリシャス!!」
糸織「いや、ちきちゃん、ほれは“美味しい”って意味だで…」
知晃「そっか、てへへへ、ごめなしゃーい。」

   てれわらい。

麻衣「っつーかここに、フィオルディリージ達が住んどったってこんなっとるんね。…てか、ほれより私達って修学旅行ん時からさぁ…」

   目をやる。

麻衣「こいのに縁があるねぇ。」
すみれ「本当ね。」

   全員、顔を見合わす。

糸織「とりあえずは又、みんなで着てみるか。」
全員「賛成ーっ!!」
健司「てか一体誰がどれ着んだよ?」
西脇「んまさ、深くは考えないで今はとりあえず、試着してみようよ!!」
知晃「それもそうね。」
麻衣「んだんだ、ほーしまいな。」

   しばらくご。

糸織「おほんっ、僕は、作曲者のモーツァルトであーる!!」
西脇「で、僕は原作のダ・ポンテさ。」
マコ「私は哲学者、ドンアルフォンゾ!!」
小松「僕は、士官フェルランド。」
みさ「私が士官グリエルモ。そしてぇ?」

   麻衣、健司、千里も出てくる。全員、吹き出す。 

麻衣「私は、姉娘フィオルディリージ!!」

   男子たち、麻衣に釘付けで大歓声。

健司「(声色)私は妹娘のドラベッラよ。」
千里「(声色)私は侍女のデスピーナよ。」

   麻衣、首に下げたプレートをうっとり。

   『妹よ見てごらん』

   メンバー以外の人の声や室内楽の伴奏が聴こえる。

メンバー「…」

   固まる。

メンバー「キャーーーーーっ!!!」

   一目散に逃げでる。

   日にちは過ぎる。麻衣のレッスンを挟みながら楽しく過ごす。

柳平家
   紡、一人。インスタント麺を食べている。

紡「んもぉーーーっ、ムカつくっ。一体私は何回こんなもん食っとるんよぉ!!いい加減飽きたーっ。何か作ってよぉ、誰かぁ!!」

   不貞腐れてごろんと仰向けになる。

紡「チキショー、しおと麻衣のやつだけいい思いしやがってぇ!!ふんとぉーにムカつくーーーっ!!!」

ホテル・レストラン
   ビュッフェをするメンバー。

麻衣「うっわぁーー、どれも美味しさそぉ!!迷うわやぁ。」
すみれ「麻衣、元気になって良かったわね。」
麻衣「うんっ。へー私お腹ペコペコーーーっ!!!」

   『ディナーの歌』
   近くでおかずを選ぶ千里を見る。

麻衣「わぁ、せんちゃん、あんたの盛り付け可愛いっ!!」
千里「えへっ、そうかな?わぁ、君のもとっても可愛い!!何かプロみたい…ねぇ、一緒に食べてもいいかな?…ごはん…」
麻衣「勿論いいに。一緒に食べまいー!」
千里「やったぁ!!」
小松「じゃあ僕も。」

   千里、小松、睨み合う。そこへ健司。

千里「ちょっとぉ、何で僕の真似するんだよぉ!ー」
小松「真似何てしてないっ。僕が先に言おうとしたら、君が先越したんだろ。君こそ僕の真似するなよ!!」
千里「はいいいっ?」
健司「てっめぇーらなぁ!!」

   二人をこずく。 

健司「人の女を易々と取り合うんじゃねぇよ!!」

   麻衣の手を引いて別所へ行く。

健司「千里、お前は特別にいいよ。こっち来いよ。」
千里「うんっ!!」

   千里、嬉しそうに付いていきながら小粋に小松にあかんべーをする。小松、少しむくれて千里。睨み付けている。

全員「いっただっきまぁーす!!」
麻衣「んーっ、これうんめぇー!!」
糸織「じゃじゃじゃじゃーん!!」
麻衣「ほれ、運命…」
糸織「てへっ。」
麻衣「はいっ、」

   フォークにパスタを巻き付ける。

麻衣「せんちゃん、あーんっ!!」
千里「え、え、…ここで?」

   キョロキョロして恥じらいながら

千里「あーんっ!!!」
麻衣「パクッ。ほれうんめぇー!!」
千里「…。」
麻衣「まいぴうのおまじない。蜂の子さんと同じ効果があるんだに。」
小松「疲れが吹き飛ぶってこと?じゃあ僕にもおくれよ、あーっ!!」
麻衣「全く、仕方ないなぁ…ほいじゃあ…あーん、パクッ。」
西脇「んじゃーリネッタ、勿論僕にもくれるだろ?おくれよ。その甘いー、君の口づけのようなパイがいいな。」
麻衣「パイな。OK!!クリームパイだたけどいいか?」

   少しにやりとする。

西脇「く、く、クリームパイだって?リネッタ、君と言う女は…そんな男心を擽るような甘くとろけるようなものをこの僕に…何てこった…あーん、」
麻衣「あーん。パクッ。」

   パイを顔面に投げつける。

麻衣「ほらうんめぇ!!」

   全員笑う。

西脇「く、く、く、くっそぉー!!酷いよリネッタぁ!!うぉーっーー!!」


   健司、恨めしそうにスープを啜りながら上目遣い

健司「っつーかてめぇーら、人の女と易々イチャイチャすんじゃねぇーやい!!麻衣も麻衣だぞ!!ほんな男たちにどいで“あーん”して、俺にはやってくんねぇーんだよっ!!」
麻衣「ったくほーやってすぐに妬かんだ、可愛いの。いいにあなた、あーんしてやる。何が食べたいだね?」
健司「ウインナーっ!!」
麻衣「あんたはお子ちゃまでちかって!!いいに、分かったわよ。はい健司ちゃん、お口を開けて。あーんちまちゅよ。あーん!ー」

   健司、口をつぐむ。

健司「いやっ!!」
麻衣「はぁ、どいでよ!!」
健司「ほれじゃあ嫌っっ。こうすんのさ。」

   ウインナーの端と端を自分と麻衣にも加えさせてウインナーチューをする。大歓声をあげるメンバーと、恥ずかしそうに下を向く麻衣。健司、恥ずかしそうに悪戯っぽく。

健司「へへっ。俺さ、千里にお前のこんは任せても、お前の唇だけは誰にもとられたくねぇーんだ。お前のチューは、俺だけのもん。レイミーテンデ、麻衣?」

   麻衣も赤くなって健司をこずく。

同・ロビー
   グランドピアノが一台ある。

健司「あー、俺へー腹一杯だわ。」
麻衣「ほりゃほーよ。だってあんたってば、へーパン五つもくうだだもん。ほれにプラス、大盛りを何皿も。」
健司「ほいだってさ、腹減ってたんだもん。とってもうまかったんだもん。」

   千里、目を輝かせる。

千里「あ、ねー見て見て!!麻衣ちゃんに健司くん、グランドピアノがあるよ!!」
麻衣「ふんとぉーだぁ!!」
健司「おいっ。誰かなんか弾いてみろよ。」
千里「麻衣ちゃんだ!!」
麻衣「あら、ほーゆー健司にせんちゃんだって、弾けんじゃない!!先にどちらか、あんたらが弾きなさいよ。」
健司「えーー…嫌だよ俺、こんなところで。」
麻衣「ほいじゃあ、せんちゃん…あんたね。」
千里「えー、僕も…」
麻衣「いいで、やりなっ。」
千里「分かったよ。でもその代わり、君が歌えよ。」
麻衣「いいわ、分かった。でも何を?」
千里「君も歌えるやつさ。では、オグオグとまいぴう、一曲だけのミニコンサート、始まりますよぉ!!」
健司「んなら俺、バイオリン弾くわ。持ってきて良かった。」

   健司、バイオリンを構えて三人、演奏を始める。
   『二人でお茶を』

   メンバーの周りには徐々に宿泊客も集まり出す。

  
   終わる。大拍手。三人も頬を火照らせて恥ずかしそうに笑ってお辞儀をする。

同・個室
   健司、千里、麻衣

健司「んなら千里、今日が最終夜だでさ、特別に…お前がベアトリスと寝ろよ。」
千里「え?え、いいの?」
健司「あぁ…但し、」

   仁王立ちをして睨む。

健司「変なこんはすんじゃねぇーぞ!!チューも勿論すんじゃねぇ!!」
千里「ま、まさかぁ…」

   ちらりと麻衣を見る。

千里「そんなこと、しないよ…」
健司「あぁ、今お前、嫌らしいこん想像しただろ、少し!!」
千里「してない、してない、してないっ!!」

   健司、鼻をフンッと鳴らす。

健司「例え俺は、麻衣と同姓の女だとしても、こいつにチューしたりするやつにぁー容赦しねぇーぜ、な、千里姫。」
千里「せ、千里姫?ぼ、僕は女じゃなぁーーーいっ!!」

   千里、真っ赤になって叫ぶ。


   しばらくご。健司はいない。千里、お風呂に入っている。麻衣、ベッドに座って本を読んでいるが、突然顔をしかめて胸を擦り出す。

麻衣「んんっ、…何かしら…嫌だわ、何かまた…。変なもんでも食ったかやぁ…困ったわ。」

   暫くして、千里が上がってくる。

千里「麻衣ちゃん、おまたせー!!」
麻衣「…。」
千里「…おい…」

   髪を拭きながら近付く。

千里「麻衣ちゃん、君どうしたんだよ…」
麻衣「あ、せんちゃんお帰り…。分からんのよ。突然気分がなんだか悪くなっちまって…」
千里「大丈夫か?お風呂入れる?」
麻衣「無理かも…ううっ、」

   トイレに駆け込む。千里も着いていって麻衣の背をさする。麻衣、トイレで吐いてしまっている。

   麻衣、一晩中苦しみ続けている。時間はどんどんたって明るくなり、結局そのまま朝が来てしまう。

   麻衣と千里、二人とも隈が出来て寝不足と言う感じでゲッソリ。

同・エレベーターの中
   麻衣、健司、千里。千里、腕時計を見る。

千里「ヤバイな、急がなくっちゃね…国立歌劇場に何時だっけ?」
麻衣「ほれはまだ午後だで大丈夫よ。でも今日は忙しいわ。終わったらすぐに最終便の飛行機で帰るのですものね。」
千里「そうだね、今みんなは何処にいるんだろ?」
健司「さぁーな。…てかさ、」

   千里を睨む。

健司「遅くなったのは千里姫、お前のせいだろうに!!…どうせまた寝坊したんだろ?寝坊してんじゃねぇーよ!!」
千里「え、えぇ、僕寝坊なんてしてないよぉ!!」
健司「ほいじゃあどいで、こんねに大幅に遅れてんだよ!!」
千里「それはぁ…そりゃあ…そのぉ、えーと…ですねぇ。」

   口ごもる。

麻衣「これっ、健司へーやめなっ!!」
健司「へへんっ、となるとさては便所だな。下痢ピーか?んともお便秘か?」
千里「違うわぁ!!」

   恥ずかしそうに

千里「そ、そ、そう言う健司くん、君こそひょっとして結局寝坊してんじゃないか?」

   にやり。健司、ドキリ。

千里「ま、僕は…おあいにく、寝坊どころか麻衣ちゃんも、」

   欠伸

千里「昨日は一睡もしてないよ。」
健司「は、はぁ?ほれって一体どいこんだよ…まさかぁ?」

   千里を睨む。

健司「てっめぇー…」
千里「違う、だから違うってば!!僕の話をよくお聞きよ!!」

   落ち着く。

千里「麻衣ちゃん昨日、ずっと具合が悪くてさ、吐き気と下痢が突然…とても酷かったんだ。」
健司「ふーん、下痢ピーは、お前じゃなくて麻衣だったんか。」

   麻衣、赤くなって思いっきり健司をこずく。

健司「いてぇっ!!」
千里「だからさ、僕が一緒に付き添って、」
健司「てっめぇー、付き添ったってまさか…」
千里「だから、だから違うってば!!それはしてないし何も見ちゃいないよ!!」

   健司、胡散臭い目で千里を見る。

千里「だから僕も麻衣ちゃんも一晩中、眠れず終いって訳。」
健司「ほー…で?」

   麻衣を見る。

健司「お前へー体大丈夫なのか?」
麻衣「ありがとう健司、へー治ったみたい。元気だに、大丈夫。何ともないえ。」
健司「吐き気も?下痢ピーもか?」
麻衣「余計なお世話、ありがとう。お陰さまで何ともないありませんっ!!」
健司「何怒ってんだ?」
千里「そりゃ怒るに決まってるよ。彼女だって女の子なんだから、そんな下痢ピー下痢ピー連発しちゃいけないよ。」
健司「ふーん、ほっか。で、千里、お前は?お前も大変だったんだろ。体は平気か?大丈夫?怠くないか?」
千里「うん、ありがとう…僕は平気。何ともないよんっ。」

   ガタン。

三人「何っ!?」

   互いに顔を見合わす。

三人「…。」
麻衣「え、まさか…」

   エレベーターのボタンを押す。

麻衣「止まっちゃったみたい…私達、閉じ込められちゃった…どうしよう。」
健司「何?故障?」
麻衣「分からんけど…」

   千里、サァーっと青ざめる。

健司「ほんなぁ、弱ったなぁ…」

   麻衣、チェコ語で必死に助けを呼んでいる。

麻衣「ダメだ、今はなんの応答もないに。…ほーだわなぁ、まだ朝早いもんでかやぁ…仕方ないけど、まぁ誰か気が付いて助けに来てくれるのを気長に待ちましょう。」
健司「ん、ほーだな。」
千里「そ、そ、そ、そそそ、そんなぁ…」

   青ざめて目眩を起こし、壁にもたれ掛かる千里。

   30分後。

三人「…。」

   麻衣、携帯を弄っている。

健司「おいっ、何やってんだ?」

   千里、そわそわもじもじ。

千里(はぁーーーっ…くっそぉ、まただよ、こんなときに勘弁してくれよ…バカァ…早くしてよぉ…)
麻衣「私バカよ!!どいで今まで気が付かんかっただけやぁ!!ここ、普通に携帯が繋がるじゃないの!!これでみんなにもSOSを送ればいいんよ!!」
健司「ほっか!!おぉ麻衣、お前、冴えてるぅあったまいいな!!下痢ピーでスッキリしたか。」

   麻衣、健司の脛をおもいっきりけったくる。

健司「兎に角、俺にも携帯がある。ちょっと、俺も小松達に連絡してみる。」
麻衣「ほいじゃあ私も北山達に…」
健司「千里、お前も…」

   千里を見る。千里、蒼白な顔をしてもはや泣きそうであり、それを通り越して寧ろ死にそう。

健司「お、おいお前…大丈夫か?何だか顔色悪いぞ…。」
千里「う、う、うるさいなぁ!!放っておいてくれよっ!!」
健司「おいっ、麻衣、麻衣ったら。」
麻衣「んー?」
健司「連絡もいいけどほれよりさぁ…」
麻衣「ん、何よこんなときにぃ?どーゆーだ、健司。またくだらんこんだったら怒るに!!」
健司「違ぇーよ。」
麻衣「じゃあ、ほいだったらなんなんよ。」
健司「さっきっから千里の様子がおかしいんだよ。…あいつ、大丈夫か?」
麻衣「ん、」

   千里を近寄る。

麻衣「どーゆーだ、せんちゃん…大丈夫?」
千里「大丈ばない…」
麻衣「気持ち悪いの?吐きそう?」

   千里、首を横に降る。

麻衣「!!!」

   今にも泣き出してしまいそうな千里。

麻衣「分かった。…ひょっとしてあんた…」

   こっそりと耳打ち。

麻衣「御手洗いに行きたいの?」
千里「え、えぇっ?」
麻衣「隠さんで、大丈夫…笑わんで、誰もからかう人おらんでね。…でも困ったわ…」
健司「どうしたの?」
麻衣「健司どーしよ、」
健司「だで、一体どーしたってんだよ?」
麻衣「あとどれくらいかかりそう?」
健司「うん、ほーだなぁ…俺も今小松達に連絡とって状況伝えたら向こうもSOS出したりして動いてくれるとはいっとったけど…早くても、30分はかかるんじゃね?…ほれがどうかしたのかよ?」
麻衣「せんちゃんが、せんちゃんが大変なのよ。」
健司「はぁ?へ?」
麻衣「せんちゃんが…」

   ジェスチャー。健司、やっと察する。

健司「はぁっ?マジでかよ…。」

   困り果てておどおど。

健司「どうすんだよ、こんなとこどうしょうも出来ねぇだろう!!もう少し我慢しろよ!ー」
千里「そんなこと…僕だって分かってるよぉ…」
麻衣「あぁ、どうしましょう…どうしましょう…」

   麻衣も究極的におどおど。

健司「バカ野郎、どいで部屋出るときに確りと済ましてこなこったんだよぉ!!」
千里「行ってきたよ!!したけど僕…」

   紅くなる。

千里「こういった状況にはとっても弱くていつもトイレに行きたくなっちゃうし更に…今日は今朝から矢鱈とトイレが近かったの…そんなに水分もとってないんだよ…ティティーズのレモンティーを500ペットボトル一本飲んだだけ…」

   麻衣と健司、呆れて顔を見合わす。

千里「冷えたのかな、少し…僕って男の癖にかなりの冷え性だからさ…。」

   遂にしゃがみこむ。

千里「う…んんんんんっ…」

   麻衣も健司も大パニックを起こしておどおどと右往左往しているばかりで何もできてはいない。健司は自分のリュックやポシェットをがさごそとあさりだしている。

健司「うーん、お前も男だでな、ペットボトルとかビニール袋とかありゃ緊急用には何とかなるんだけど…生憎俺は…」
麻衣「私もだに…」
千里「じょ、冗談じゃないよ!!例えあったとしても嫌だよ、こんなところで…するなんて…」

   更に30分が経過している。

千里「僕…もうダメ…っ、」

   直後、一気にもらしてしまう。

麻衣「きゃっ。」

   顔を覆う。

健司「あーあ…」

   千里、がくりと崩れ去る。

健司「…やっちまった…大丈夫か、千里…」
千里「これが大丈夫に見えるかっ!!」

   静かに泣き出す。

麻衣「…せんちゃん…」
千里「頼むよ二人とも…この事は誰にも、絶対に言わないでくれっ。特に、特に…」

   しくしく。

千里「マコにしれたら一体なんてバカにされるか…」
麻衣「北山ねぇ…確かに…」
健司「あの強姉ちゃんだろ?ありゃ…想像つくな…」
麻衣「だら?でも、」
健司「へへっ、安心しな。分かってるよ。約束する。」
麻衣「勿論よ、言うわけないじゃない、大丈夫だに。」
千里「ありがとう、本当にありがとう、みんな…」

   涙を拭って弱々しく微笑む。

健司「おふくろが言ってたろ、お前、おしめしてねぇーのかよ?」

   千里、ポット赤くなる。

千里「じ、実は…この外国旅行では…ずっとしてたんだ…でも…」

   だんだんと声が小さくなる。

千里「今日は、一回のロビーのトイレへ入ろうと…思って…」
麻衣「これっ、健司っ!!あんま変なこん聞かんで!!せんちゃん困っとるらに!!」
健司「俺は千里のこんを心配していってんだよ!!」
千里「いいよ麻衣ちゃん、健司くんもありがとう…」
麻衣「でも、とにかくせんちゃん、あんたズボンと下着だけでも早く着替えんと…風邪引いちまうに!!」
千里「こ、ここでっ?」

   ぎょっとする。

千里「えぇ…」

   赤くなる。

千里「無理だよ…女の子の君もいるんだし…」
健司「大丈夫だよ、お前も女の子なんだし…」

   千里と麻衣、健司を睨み付ける。

麻衣「大丈夫、私は見ないわよ。ほれよりも今はあんたの体を心配しなくちゃ…」
千里「うん…」

   トランクをがさごそやって着替えを取り出す。麻衣、顔を覆って真っ赤になりながらそっぽを向く。千里、ベルトを外している。健司、まじまじ。

千里「おいっ、何見てるんだよっ!!」

   健司、意味深にふふっとわらう。

千里「っておいっ!!一体なんなんだよ…」
健司「千里、お前…顔やスタイルだけじゃなくて…下まで女みたいなんだな…がりの痩せで、体には少し丸みもあって…」

   千里、真っ赤になって健司をこずく。麻衣、更に赤くなる。


   しばらくご、チェコ語で案内がかかる。麻衣がチェコ語で対応。

千里「何だって?」
麻衣「あと15分くらいで動くってさ。」
健司「ん。んで、北山ちゃんと西脇と小松がここへ来てくれるって。」

   固まる千里。

千里「こ、ここまで来るっーっ!?しかも依りにもよって…」

   へなへなと頭を抱える。

千里「ヤバイよ、どうしよう…早く片付けなくちゃ…マコになんかしれたら又僕は笑い者だぁ…うわぁーーーんっ!!」
健司「っていったってでも拭くものが…」
麻衣「分かってる、大丈夫よ。」

   麻衣、笑ってバスローブを取りだし、ふきだす。二人も呆然とするが、同じようにやりだす。


   ガタン。

麻衣「あ!!」
健司、千里「動いたっ!!」

   三人、顔を見合わせてハグ。健司の携帯がなる。

健司「お、小松だ。もしもしぃ?」
小松の声「あ、健司くん?小口くんと麻衣ちゃんも大丈夫か?」
健司「あぁ、三人とも無事だよ。」

   エレベーターが動きだし、下へ下がるとドアが開く。千里はメールを打っている。


同・ロビー
   マコ、小松、西脇がいる。

三人「みんなぁ!!」
マコ「麻衣、」
小松「健司くん、」
西脇「千里、」
麻衣「みんなは?」
西脇「あぁ。もう国立歌劇場にいるよ。」
麻衣「早っ、」 
健司「さぁ、俺達もとっとと行こうぜ。」
千里「ん、」

   6人、歩き出す。

麻衣「でもせんちゃん、」
千里「ん?」
麻衣「あんたの携帯…可愛いっ。ピンク好きなんか?」
千里「う、ううっ、…」

   照れながら大きなクマのストラップをパフパフと触る。まだ泣き腫らした瞳。マコ、千里の顔を何気無く覗き込む。

マコ「ふーん…」 

   歩きながら携帯メールを見ている。

マコ「どーでもいいけどさ、私、麻衣からも千里からもメール貰ったんだけど…」

   立ち止まってメールをみんなに見せる。

マコ「麻衣も千里も、あんたたち危機的状況の中にいたんでしょうに…よくもまぁこんな、絵文字萌え萌えのメール、打てる余裕があったわね。」

   『絵文字メールの歌』

麻衣、千里「え、えぇっ。…アハハハハハハ…」

   全員、笑う。健司、呆れて肩を竦める。

国立歌劇場・大ホール
   麻衣が舞台に立って歌っている。

   終わると健司がステージ下からキザっぽくバラの花束を手渡す。観客は大歓声で幕が降りる。

機内
   ビジネス。

麻衣「うううっ、」
健司「…麻衣?」
千里「どうした?」
麻衣「…」
千里「又、気分悪くなったか?」
麻衣「え、えぇ…私、今回又うっかりムカケシン忘れちまって…ううっ、…気持ち悪い…ちょっと失礼っ、」

   急いで立ち上がる。

千里「お、おい…大丈夫か?僕もほら、一緒にいくから…ね!ん、歩ける?」

   麻衣を支えて歩く。

麻衣「ありがとう…な、せんちゃん…」
健司「バカっ、喋るんじゃねぇーよ、ブスベアトリスっ!!」

   二人を見つめる。

健司「ほいだけど…頼りないところもあるけどさ…あいつ、時々男んなるんだよなぁ。」
小松「あーあ、ありゃ本当は僕のポジションなのに…」
健司「や、お前に俺の麻衣は任せられねぇーな。あいつだもんで、大事な女を預けられるんだよ。」
小松「ちぇっ。」
西脇「んだんだ、生徒会長だからって小松、女なら誰でも惚れると思ったら大間違いだぞ。お前は前から少し自惚れ過ぎなんだよ。てか、」

   髪をかきあげる。

西脇「大体、千里がいいわけでも健司がいいわけでもないさ。真のリネッタの彼氏は、この僕なんだから、」
健司「だーで、」
全員「いやいや、少なくとも君の女でないことは確かだよ…」

同・トイレ
   便器に吐く麻衣と、背を擦る千里。

千里「麻衣ちゃん、大丈夫か?…折角今まで元気だったのに…」
麻衣「大丈夫だに、私は大丈夫。ダでほんねに心配せんで、せんちゃん…。ごしたいら、あんたはへー席戻っとってに。」
千里「何言ってんだ、君が一人苦しいときに、僕だけ戻って楽することなんて出来るかっ!!僕、頼りないけど…これでも君の彼氏なんだよ。君が落ち着くまで、楽になるまで僕はずっとここにいるさ。」
麻衣「バカ…あんたって人は…いつでも優しすぎるんよ…。」
千里「バカ、喋るなよ…な、安心して。」

   背を擦りながら。

千里「ごめんよ…こんなことしかしてあげられなくて…」
麻衣「いえ…」
千里「どう?少し収まってきたかな?…いつでも君、可哀想だよ…見てて僕も辛いよ。」
麻衣「う…っ、ありがとう…ううっ、せんちゃん…」

   そこへ健司。

健司「麻衣っ、」
麻衣「ほの…声は…健司…?」
健司「どうだ?」
千里「うん、…大分収まってきたみたいだけど…」
健司「ほーか…麻衣、薬と水、貰ってくるな。」

   急いで去ろうとするが小粋に頭を叩き出す。

健司「えーっと、…ほーですねぇ…」
千里「どうしたんだ、健司くん…」
健司「ほーいや、この便のスチュワーデスって、確かみんなチェコ人だよな、えーっと、水と薬…何て言うんだっけかなぁ…俺、チェコ語なんてほんねに出来んだだもんこんなの知らねぇーよ。」
麻衣「ほれ…なら…簡単…だに…。薬は…レー…カルッヴィ…水は…ヴォドゥ…ニー…。で、prosim vodu a leky…だに…。後は、ジェスチャーで…何とか…な。」
健司「うっせぇー、シャラップっ!!お前は無理してしゃべんじゃねえーよ!!」

   ふんっとして得意気に出ていく。

   しばらくご、席に戻って席で麻衣が酔い止めを飲んで、千里に凭れて寝入る。



岩波家・健司の部屋
   オフ会。麻衣、健司、千里、マコ、西脇がいる。千里は部屋の片隅で体操座りをしてブルーになっている。他メンバーは小さな卓袱台でジュースとお菓子を囲んで盛り上がっている。

マコ「それでは、皆様プラハ土産でかんぱーい!!」
全員「かんぱーい!!」
健司「って、どいでマコちゃん、あんたまでいんだよ?」
マコ「あらいけない?だってあのプラハ旅行を企画したのは私よ。いて当然じゃない?ねぇ、」
麻衣「えぇ。いいじゃないの、健司。」
マコ「ほら見なさいっ、だからいうじゃないの!!」

   全員、苦笑い。健司、オレンジジュースを一気のみ。

健司「クッパァーッ!!でもやっぱ本物は旨いぜぇ!!」
麻衣「ほう?…日本で作られたんと同じ風に思うただけど?」
健司「全く違ーうっ。こりゃなぁ、日本で売られとるようなほんじょほこらの安物たぁ訳が違うってんでぃ!!何てったってこりゃ…」

   立ち上がる。

健司「生まれはナポリ、育ちはプラハの、100%ナポリの太陽さんの恵みを受けて育った物をプラハで…」

   マコ、パックを読む。

マコ「でもこれ、バレンシア産オレンジってハンガリー語で書いてあるわ。しかも、製造はブダペスト、ハンガリーよ。」

   健司、がくりとなるが軽く咳払い。廻り、クスクス。

健司「と、とにかくだ。俺が言いたいんは本場の外国の農家でとられたってこん。レイミーテンデ、トゥッティ?」
西脇「本場も何もあるか、健司!!オレンジは、何処でとれた果実だとしてもオレンジはオレンジだろ?何口にしたって極々普通さ、ごくごく飲める…なんちって…」

   シーン。西脇、笑って髪をかきあげながらナルシスっぽく誤魔化す。

健司「シャラップっ!!全然ちがーうっ!!オレンジなんつったらナポリやバレンシアに失礼だろうに!!こりゃオレンジじゃなくて、ラランチャータ。レイミーテンデ?はいっ、アミーチ、リピートアフターミー、バモスッ!!」
全員「…ラランチャータ…」
健司「ペルフェット。」

   全員、ため息。

健司「んだよぉ、ほのため息はぁ!!レイミーテンデ?ちゃんと分かったんだろうなぁ!?」
全員「ほーいっ。」
健司「ほーいっ。…じゃねぇーだろうに!!相槌は?」
全員「si,si,signor…」
健司「ペルフェット。良くできました。」

   健司、満足げに頷いている。全員、互いに顔を見合わせて呆れて肩をすくめる。
   『ナランハ』

健司「ん、みんなどーかしたかぁ?」

   全員を見回す。

   麻衣、キョロキョロ。

健司「ん、何?どうした麻衣、便所か?」
麻衣「違うわよ、バカ。…せんちゃんは?」
健司「あぁ、千里か?」

   部屋の片隅でブルーになる千里を指差す。

健司「あっこ。」
麻衣「まぁ、どうしただ?」

   近付こうとするが健司が止める。

健司「止めとけよ、今は。」
麻衣「どいでよ。」
健司「あいつ多分」

   麻衣に耳打ち

健司「お前に会わせる顔がなくて、ほれでずっとあっち向いて落ち込んでんだよ。」
麻衣「私に会わせる顔がなくてって?どいこんよ、ほれ…」
健司「ほれ、あいつってナイーブでデリケートな男だろ?だでさ、ほれ、あれよ…あれ。」
麻衣「あれ?…」

   考える。

麻衣「あれ…まさかっ。」
健司「ほ、ほのまさかだよ。」
麻衣「まぁ、バカな子!!」

   そこへ幸恵がお菓子をもって入ってくる。

幸恵「みんな楽しんでる?」
全員「おばさんっ!!」
幸恵「フフっ、ほら、私からもおやつ持ってきたわよ。お食べなさい。」
全員「ありがとうございますっ!!」
幸恵「でもあらっ?…小口くんは?確か彼も来ていたわよねぇ?」
健司「あぁ、千里か?千里ならぁ…」

   指差す。

健司「ん。」
幸恵「まぁ、小口くん?君一体どうしたの?又何かあったの?」
千里「おばさん…」

   後ろを向いたまま膝に顔を埋める。

  

   夕方。
   全員が帰り、麻衣、健司、千里のみとなる。

幸恵「どうしたの小口くん、切ないことがあるのならおばさんに話してみなさい…」
千里「…。」
健司「麻衣とお前のこんはおふくろも知ってるからさ…」
千里「おばさん…僕、」

   堪えているが堪えきれなくなる。

千里「う、う、う、…僕、もうダメです…」

   膝に顔を埋めて乙女のように泣き出す。幸恵、千里の背中を抱いて優しく宥める。

千里「もう、もう今年に入って何回も、もう何回も、…う、う、18にもなるのにトイレが我慢できなくて…う、う、…失敗してしまってるんです。この間のプラハの旅行でも、エレベーター事故があって、そのエレベーターの中でおもらしをしてしまいました…。又、そんな姿を麻衣ちゃんに見せてしまった…。」
健司「でもこいつは、ほんなお前を怒ってもいないし笑ってもいないだろう。」
千里「そう…麻衣ちゃんは黙って僕を助けてくれたし後始末まで手伝ってくれた…でも、でもだから、何も言わない彼女が、余計に怖いし、辛いんだ…」
麻衣「まぁ、どいで?」
千里「だって君が…本心ではこんな僕の事…避けてるんじゃないかって…高3にもなって2回以上も子供みたいにおもらししてさ、女の子に不快な想いさせてるんだもん…君は僕を少し遠ざけて嫌になってるんじゃないかって…。君にいっつも迷惑かけて深いにさせている自分自身が情けなくて仕方ないんだよ…僕はもう、君に向けられる顔がない…。いっそのことどこか深い穴に入ってしまいたいくらいだよ…」

   泣き続ける。

麻衣「バカな子、ほんなこん思っとっただ?」
健司「ほーだよ、麻衣がほんなこんで人を嫌うやつだと思うか?ほんなのお前も良く分かりきったこんだろうに!!」
千里「ぐすっ、ぐすっ、…」
幸恵「そうよ、自信を持ちなさい。麻衣ちゃんは、決してそんなことであなたを嫌うような子じゃないわ。私も良く分かってる。家の健司だって何回おもらししちゃってちっちゃい頃から麻衣ちゃんの世話になっていることか…しかも、ついこの間まで…」

   健司、真っ赤になる。

健司「お、おいおふくろっ!!何余計なこんべらべらしゃべってんだよ!!」
幸恵「あら、小口くんを元気付けるために決まっているじゃない。」
千里「…ううっ、…健司君…君も?」
健司「あ…あぁ…」

   ばつが悪そう。

幸恵「でも麻衣ちゃんは、家の健司を嫌うなんて事しなかったわ、あれほど迷惑と心配ばかりかけているのに…。それどころかいつも何かと健司の事を気遣ってくれて心配してくれる。あなたに対しても、きっとそうでしょ?」
千里「う、うぇ、」
幸恵「大切な人との繋がりって…そう言うことだと思うの…麻衣ちゃんにとって、健司と同じくらい、あなたも大切な存在だと思うの。だから、」
麻衣「ほーよ、せんちゃん…嘘じゃない。私、あんたのこんほんな風には決して思わんに…ほれよりも、あんたがいつも可哀想で仕方ないの…私もとても心配しとるんよ。何とかしてあげられるもんならば、私も何とかしてあげたいけれど…」
幸恵「あれからどう?病院には行ってみた?」
千里「いえ、未だです…怖くて…なかなかいく勇気がないので…」
幸恵「でも小口くん、やっぱり行かなくちゃ…治らなくちゃいつまでも辛いのはあなた自信じゃないの…」
千里「おばさん…」

   千里、ワッと幸恵に泣き付く。

幸恵「まぁまぁ、よしよし…あなたも、泣き虫さんね…もう高校生の男の子でしょう。」

   千里を抱き締めて慰める。健司と麻衣、顔を見合わせて静かに笑う。

同・玄関先
三人。

麻衣「ほいじゃあね健司、ありがとう。」
健司「お、又来いよ。千里、お前もな。」
千里「うん…ありがとう、健司君。」
健司「来週は、確か音楽部で“ちのどんばん”出んだろ?」
麻衣「えぇ、ほーよ。あんたも来る?ちのどんばん…」
健司「んー、どーしっかな?折角だで…行くか?」
千里「なら、一緒に踊ろうよ。君も踊れんだろ?」
健司「あぁ、勿論さ。幼稚園と宮川小ん時に踊ったでな。オンべもまだ持ってるぜ。」
麻衣「私もっ。」
千里「へー?」
麻衣「オンべよ。せんちゃんも今年貰えるに、踊りんときにな。」
千里「へー、楽しみ。じゃあそのオンべを持って踊るんだね。」
麻衣、健司「ほいこんっ。」
健司「ってか千里、」

   微笑んで千里の体を思いっきり強くパーンと叩く。

健司「すっかりお前も元気になったな。」
千里「うん、ありがとう。君たち二人のお陰だよ。それと、おばさん…本当に色々とお世話になりました、自分が情けなくて恥ずかしいです…ありがとうございました…」
幸恵「いえいえ、元気になってくれて良かったわ。又いつでもいらしてね。」
千里「はいっ。そうさせていただきます。ねぇ、健司君、君も浴衣持ってんのか?」
健司「あぁ勿論さ。このベアトリスの為に自分で作った勝負浴衣がな。」
千里「おーっ、凄いっ!!君、お裁縫やるの?」
健司「へんっ、まぁな。」

   えへんと鼻をならす。

健司「顔には似合わずとは良く言われるが…こう見えても俺、何てったって諏訪実服飾科だからな。将来はデザインに携わる仕事したいんだ。」
幸恵「まぁ、健司っ!!」

   健司、あかんべーをして庭へと飛び出る。

同・庭先
   健司はベティにゃんこを抱いている。

健司「んで、お前も浴衣?」
千里「あったりまえだろ!!」

   得意気に仁王立ちをしてふんぞり返り、鼻をふんっとならす。

千里「麻衣ちゃんの前なんだもん、僕だってとっておき、自前の勝負浴衣があるんだ、それを着てくるんじゃいっ!!」

   健司、千里の頭をこずく。

健司「すぐに調子に乗りやがって、お前は時々少し生意気なんだよぉ!!俺の真似して自慢すんじゃねぇやい!!お前なんかなぁ…」

   健司、どこからともなく取り出した旅館の地味な浴衣を千里に投げつける。

健司「これを着てりゃあいいんだよっ!!」

   千里、受けとるが目をぱちぱちさせて健司と浴衣を見つめながらきょとんとしている。麻衣も少々クスクス。健司、知らん顔をして、技とらしく口笛を吹いている。ベティにゃんこは、健司の脛の裏に逃げ込んで、警戒しながら二人を見つめている。

やがて三人は笑い合い、千里もすっかり元気が戻っている。段々と辺りも暗くなり、夜になっていく。庭先にはもうだれもいない。田舎の村の夜はほぼ真っ暗である。
  


 


   























[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!