[携帯モード] [URL送信]

石楠花物語中学生時代
千里のお漏らし

同・男子トイレ
   行列。その頃の千里、トイレの列に並んでいる。

千里(早くっ、早くっ!!)

   時間を気にしながら。

 
   やっと千里一人になる。
 
千里(やっと空いたっ…)

   チャイム。千里、ギクリとしてキョロキョロおどおど。

千里(どうしよう、チャイムなっちゃった…でも、かなりおしっこしたいしなぁ…でも、次は音楽で僕が伴奏…遅刻すると音楽の小池先生、恐いんだよなぁ…んー、どうしよう。)

   外から

後藤の声「おーい、千里、いるのか?早くしろよ、先生カンカンだぞ。」
千里「え?は、はーいっ…」

   千里、トイレを出ていく。


払沢公民館・会議室
   その頃。幸恵、清水綿子、平出文子、菊池瑛子、名取真矢が深刻な顔をして会議を開いている。

高橋家・果樹園
   房恵、高橋芳惠、須山隆彦(23)、諏訪市商会の人々がいる。其々に打ち合わせをしている。

諏訪中学校・音楽室
   千里のピアノ伴奏で歌うクラスメートたち。

千里「…。」  

   表情はだんだん険しくなり、引き吊る。


   (チャイム)
   千里、少し微笑む。

千里(良かった…やっと終わった…)
小池先生「皆さんっ、未だ帰らないで。」

   変える準備に取りかかっていた生徒、手を止めて小池先生を見る。

眞澄「何でしょう、先生?」
小池先生「いいからっ、みなさんもう一度整列して立ちなさい」

   全員、並び直す。千里、愕然としてそわそわ。

小池先生「今日の歌う態度は何ですっ!?私は見ていてとても情けなかったわ!!」

   お説教が始まる。

千里(くそぉ、どうしよう…先生の話いつまで続くのかな…このままだと、トイレ間に合わないよ…)

   小池先生、千里を見る。

小池先生「小口君っ、小口千里くんっ、」

   千里、びくりとして下腹から手を離すが足をもじもじ。

小池先生「私が話をしているときは確りとお聞きなさいっ、どうしたの?ほらっ、真っ直ぐ立ちなさいっ!!」
千里(どうしよう、先生に言おうかな…。でも勇気ないし、でももう我慢できないし…)
小池先生「小口君っ、私の言うことが聞こえないのですか?」
千里「あの、あの…その、先生…」
小池先生「何です?言いたいことがあるのならはっきりと言ってご覧なさいっ!!」
千里「あの、その…」

   意を決して
 
千里「先生、トイレに行かせてくださいっ!!」
小池先生「まぁ、そいこと…」

   時計を見る。

小池先生「分かりました、もう終わりにします。もう少しお待ちなさい。」
千里「もう我慢が出来ないんですっ。お願いしますっ、トイレに行かせてくださいっ!!」
小池先生「どうして授業前に済ませないのですっ!?」

   又お説教が始まる。千里、泣き出しそうになって目を固く綴じる。

千里(ダメだ…どうしよう、もう我慢できないよ…もれちゃう…)

   直後、一斉に千里の元に注目が集まる。

千里「…先生…」

   小池先生、イライラと鼻を鳴らす。

小池先生「終わりにします、みなさんは片付けてお戻りなさい。小口君、君は床を掃除してから医務室に行きなさい…今度からはきちんとトイレは授業前に済ませなさい。藤森先生にも話しておきます。」

   他生徒は、千里を見てクスクスと笑ったりひそひそ話しながら其々に戻っていく。小池先生も出ていく。千里、水溜まりの上に崩れ去ってワッと泣き出す。

麻衣「せんちゃん、」

   麻衣、モップを持ってきて床を拭き始める。

千里「誰…?」

   泣きながらかおをあげる。

千里「…麻衣ちゃん?どうして…?」
麻衣「大丈夫?」
千里「フッ、フッ、」

   再び泣き出す。麻衣、千里の手をとって立たせて抱き寄せる。

麻衣「大丈夫よ、誰にだってあるこんだわ。ほれ、ここは私がやるわ。医務室一人で行ける?」

   千里、未だ泣いている。

麻衣「いいわ、私も行ってあげる。へー泣かんで…大丈夫よ。今度からはちゃんと我慢しないでトイレ行くのよ。」
千里「…。」

同・廊下
   麻衣、千里。音楽室を出て廊下を歩く。麻衣、しゃくりあげる千里の肩を抱いている。

千里「麻衣ちゃん…ごめんね、こんなことやらせちゃって…ありがとう。」
麻衣「いいの、大丈夫。ね、」

   すれ違う生徒、千里を見るとくすくす。麻衣、その度に睨み付けて千里を庇う。
 
同・医務室
   小山先生がいる。

麻衣「小山先生ぇ、いるぅ?」
小山先生「どうぞ、」 

   麻衣、躊躇う千里を庇いながら入る。 

小山先生「どうしたの?あら、」

   千里を見る。

小山先生「トイレに間に合わなかったのね。」
千里「はい…」

   又泣き出す。

小山先生「泣かなくてもいいのよ、君だけじゃないからね…。小さいわね、サイズは?」
千里「Sです…女の子の…」
小山先生「分かったわ、ちょっと待ってて…あのカーテンの内側に入って着替えなさい、柳平さん、あなたは見てはダメよ。」
麻衣「ほんなこん分かってますっ!!」

   麻衣、小粋に近くにあった椅子に座る。千里、しゃくりあげながらカーテンの内側に入っていく。

   少しして、千里、ジャージのズボンを履いて出てくる。

千里「麻衣ちゃん、待っててくれたの?」
麻衣「えぇ。でもサイズ、女性のSなんて、小口君って!!」
千里「うん…僕、チビだから…。背も135しかないんだ。」
麻衣「ほうだだ、でも男の子ならすぐに大きくなるに。んで、」
千里「ん?」

   二人、医務室を出る。

同・廊下
   麻衣がジャージのズボンを履いて、千里が麻衣のスラックス。

千里「でも麻衣ちゃん…」
麻衣「いいってこんよ。実はね、私去年も同じこんがあったの。ほれ、燃えドランのイベントで一緒にいた男の子いたら?あの子が中一の初めにおもらししちゃって…やっぱりあんたと同じくズボンのサイズが私とぴったりだったもんで、」
千里「そうだったんだ…」

   微笑む。

千里「でも、本当にありがとね。僕、この恩は忘れない。」
麻衣「何よ、大袈裟ね…」
千里「だって僕、君ほど優しくて親切で思いやりのある子に出会ったの初めてなんだもん。初めてだから、とっても嬉しい…ねぇ、」

   恥ずかしそうに。

千里「もし、君が嫌じゃなかったらさ…僕と、改めてお友達になってくれませんか?」
麻衣「私と?」
千里「いや…ごめん、やっぱり駄目だよね、嫌ならいいんだ…」
麻衣「何いっとるんよ、嫌なわけないに。私も、あんたと正式にお友達になりたい。宜しくな。」
千里「本当に?」
麻衣「えぇ。困ったこんがあったらいつでも言ってな。今日みたいなことがあったとしても、いつでも力になるし、あんたを支える。」
千里「ありがとう…僕も、頼りないかもしれないけど…君の力になるよ。」

   二人、握手をする。

麻衣「ほれ、四時間目はへー始まってるに。どーする?」
千里「どーするって?」
麻衣「ボイコットしちゃうか?」
千里「えぇっ!?」
 
   麻衣、千里の手をとってそっと学校の外に出る。

麻衣「行っても行かなくてもどうせは怒られるだで、どうせ怒られるんなら得した方がいいら?」
千里「で、でも。」
麻衣「大丈夫よ、怒られるのは私も一緒。私のせいにすりゃいいんだで。ほーすりゃあんたはあまり怒られんら?」
 
   麻衣、千里の手をとって走っていく。

図書館
   麻衣と千里、一緒に楽しそうに本を読んでいる。

諏訪中学校・職員室
   麻衣と千里、お説教を藤森先生から喰らっている。麻衣、横目でちらりと千里を見て小粋な目配せ。千里も弱々しく微笑む。

帰り道 
   麻衣と千里。

麻衣「なぁ小口君、」
千里「何?」
麻衣「あんた、後で私んちに遊びにおいでなさいよ。」
千里「いいの?」
麻衣「勿論。友達だもん。私な、今は叔母ちゃんの家に居候しとるんよ。ほれ、今年諏訪市内の大イベントがあるら?ほの為になんか私を呼んだみたいで…。花梨の紅茶が美味しいのよ。ご馳走するわ。」
千里「わぁー、ありがとう!!でも…」

   しゅんとなる。

千里「僕のママも叔母さんもとっても厳しいんだ…遊びに行くんなら勉強やってからじゃないと怒られる…。しかも今日なんて…」
麻衣「宿題は沢山。だったら、二人でやらまい!!一緒にやりゃあすぐ終わるわよ!!」
千里「麻衣ちゃん…ありがとう!!だったら先に僕んちへおいでよ、近くだからさ。」
麻衣「分かった。」


小口家

千里「ただいまぁ、」
麻衣「お邪魔しまぁーす…」

   珠子と夕子が飛び出てくる。

珠子「せんちゃんっ!!どうしたの?」
夕子「一体どいこんだい?」
千里「え、え?」
珠子「今、担任の藤森先生から連絡がありました。あなた今日、音楽の時間におもらししちゃったんですって?」

   千里、俯く。

千里「う…うん…」
夕子「どうしたんだい、お前!小学校低学年じゃあるまいし!!どいでそんなになるまで我慢したんだ!」
千里「ごめんなさい…」
珠子「だからママがいつも言っていたでしょう?何かの前には必ずおしっこ済ませなさいって。言うこと聞かないとこう言うことになるのよ!!」
千里「ごめんなさい…」

   俯いて泣きそう。

麻衣「もうやめて下さいっ、彼、泣いてます!!」

   珠子、夕子、麻衣をまじまじ。

夕子「おや、あんたは?」
珠子「まぁ、もしかして…あなたは、柳平麻衣ちゃん?」
麻衣「はい、ほーです。この春から転校してきました、麻衣です。」
珠子「あらまぁ!又あなたと一緒になれるだなんて…いいわ、ゆっくりして行ってね。お見苦しいところを…ごめんなさい。」
麻衣「いえ、でももう今日の事で彼を責めないであげてください。彼だってしたくてした訳じゃないですし、この事でとても傷付いているんです。」
珠子「そうなの…わかったわ。せんちゃん」
千里「…。」
珠子「又麻衣ちゃんと一緒になれて良かったわね。麻衣ちゃん、」

   微笑む。

珠子「こんなだらしなくて頼りない息子だけど、これからもせんちゃんを宜しくね。」
麻衣「はい、こちらこそ!!」
千里「じゃあ、僕これから彼女と勉強やるから…麻衣ちゃん、」
麻衣「では、お邪魔しまぁーす。」
千里「どーぞ、どーぞ。」 
 
   二人、アパートの中へと入っていく。珠子、夕子、微笑む。

珠子「せんちゃんったら、女の子連れてくるなんて今までなかったのに」
夕子「あの子も男だねぇ…初恋か…いいねぇ?」
珠子「夕子、それは少し大袈裟よ。せんちゃんはまだ13歳よ。恋なんて…」
夕子「いんや、千里はもう13歳。そろそろ初恋してもおかしくないよ。」
珠子「そうかしら…」
夕子「いつまでも千里も子供じゃないんだよ。いくら姉さんが寂しくても、いつか千里も彼女を作って結婚をする…大きくなったもんだね。」

   珠子、寂しかったり嬉しかったりの複雑な表情。夕子、フフっと笑う。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!