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石楠花物語中学生時代
物語の終わり
下宿先・麻衣の部屋
   六月も終わり。外は強い雨風。眠っていた麻衣が目を覚ます。

麻衣「んーっ…」

   時計を見る。

麻衣「朝なんね…」

   ベッドを出てカーテンを開く。

麻衣「すごい雨…」

   着替えをして部屋を出る。

同・キッチン
   麻衣、千里、健司、磨子、聖二が食事をしている。

聖二「なぁ…」

   パンをかじりながら

聖二「みんなも知ってると思うけど…今年、この6月が終われば…この下宿先も取り壊されてしまう。」
磨子「そうね…しかも」
健司「明日がその日…」
千里「僕らこれからここを終われたらどうするのさ?」
麻衣「いく宛もないわ。」
聖二「あぁ…問題はそこなんだ…今は15世紀…。と言うことは、日本に戻っても15世紀…」
千里「と言うことは?」
聖二「つまり、日本は今室町とか、そんな辺りの時代じゃないか?」
健司「足利か…」
磨子「つまりは早い話、日本に戻ったところで日本にいてもここにいても私たちは死ぬ運命って事ね。」
聖二「あ…あぁ…」

   口ごもる。

千里「そんな…そんなぁ…」  

   泣き出しそう。

千里「じゃあ何?僕らはもう、元いた時代には戻れないの?友達や、妹たちや、ママたちにもう会えないの?」

   手でかおをおおう。

千里「嫌だよぉ僕、そんなの嫌だよぉ!!」
麻衣「小口くん…」

   とても切なそうにしながらも千里を慰める。

麻衣「あの輝くような…」
健司「は?」
麻衣「輝くような…夢の世界が現実だったら言いにな…」
健司「何?」
麻衣「何てな…」

   切なげにフッと笑う。

麻衣「嘘よ。いつまでも生きられる世界に、幸せで平和な世界にいられるのなら…」

   麻衣、ゆっくりと考え事をするように目を閉じる。


千里の声「ロジェーラ嬢、ロジェーラ嬢よ!!」
麻衣(!?)

   目を開けてキョロキョロ

麻衣「伯爵様っ!!」
千里「ロジェーラ嬢、」

   切なそう。

千里「どうしたのです?泣いているのですか?」
麻衣「ごめんなさい…」

   涙を拭う。

麻衣「私ね、今…考えていたのです。今日のこの日が終わってしまえば全ては最後なんだって…私はもう、一生ここへは来られない…あなた様にもお会いできない…」
千里「何故にその様なことをお思いに?」
麻衣「私は…きっともうすぐ死ぬのです…親も知り合いもいない、このフィレンツェの地の上で。だから、死んでしまえばもう、なにもすることは出来ません。ですから今日は、あなた様にお別れを…」
千里「ロジェーラ嬢…何を…」

   麻衣を抱き寄せる。

千里「何をおっしゃるのだ。その様なことを申してはならぬ!!ほら、」

   麻衣は泣き出す。

千里「もう泣かないで下さい。今夜も楽しく、全てを忘れてしまい、踊りましょう。大丈夫です、きっと。あなたの身にその様な不幸は起こりません。」
麻衣「えぇ、伯爵…」

   そっと笑う。

麻衣「ありがとう…」

   千里に腕を組む。二人は石畳を歩く。

千里「ロジェーラ嬢、今日のドレスは一段とお美しい…」
麻衣「ありがとう、自分で作ったパーティードレスです。」
千里「わぁ!!最高だ。とてもお似合いですよ。」


ネッビアロザンナ・中央広場
   全ての人々が飲んで歌って踊り騒いでいる。

磨子「ロジェーラ嬢、」
麻衣「コルデーリア!!」
磨子「楽しんでる?」
麻衣「えぇ、勿論。」

   そこへ健司と聖二。

麻衣「あ、」
健司「ロジェーラ嬢、噂は聞いていたが会うのは初めてだね…」 
麻衣「あなたは?」
健司「羊飼い、オズミーノ。」
聖二「小姓のジョルジアーノです、スィニョリン。先日お会いいたしました。」
麻衣「あぁ!!」
千里「さぁ、ロジェーラ嬢、」

   手を出す。

千里「まずは一曲この私と…」
麻衣「はい、伯爵…」

   手を重ね合わせて踊り出す。

磨子「それじゃあ私も」

   健司に手を出す。

磨子「お兄さん、私とどうだい?」 
健司「いいだろう、一曲なら相手をしてやろう。」

   聖二はリュートを抱えて木のベンチに座り、微笑みながら踊りを見ている。


   何時間かが経つ。
   
麻衣「見て…」

   少しずつ陽が差し込んでいる。

麻衣「山の方が少し明るくなってきたわ。」

   悲しげ

麻衣「霧も段々に濃くなってきたわ。」

   自分の体を見る。

麻衣「あぁ、これは何て事?私の手を見て!!霧に支配されていくわ!!」
千里「どう言うことか!?私もだ!!」
磨子「霧は私達を消すつもりなんだね…」
健司「一体何のために!?」
千里「いいだろう…」

   決心したように

千里「覚悟はできている…」
磨子「伯爵?」
健司「伯爵?」
聖二「伯爵様?」
千里「私はもう決めたのだ…ロジェーラ嬢」

   麻衣、涙を流す。

麻衣「これで本当にお別れなんだわ。お別れを物語っているのよ…」
千里「泣かないでロジェーラ嬢、私はあなたの側におります。」
麻衣「でも、」
千里「あなたが一生消えてしまうのであれば、私もあなたの側で死にます。私はあなたを愛しています。」
麻衣「いけません伯爵!!私からお離れ下さい。あなたは死んではなりません!!」
千里「もしあなたと共にいられないのであれば、これから先もう、一生あなたに会えないのであれば私は」

   短刀を取り出す。

千里「あなたが去った後、この短刀で一思に…」
麻衣「なりません!!伯爵っ!!それは絶対になりません!!私は…あなたと生きた日々は一生涯忘れはしません…。だからせめて…」

   近付く。

麻衣「最後に私の心の印を、あなたの胸に残させてください…」

   麻衣、段々に消えかかる中、千里にそっと口づけをする。健司、磨子、聖二、驚いて二人を見つめる。

   霧は徐々に消え、美しい星空が現れ出てくる。

麻衣「あら?」

   空を見上げる。

麻衣「伯爵様、見て?」
千里「霧が晴れて、星空が…」
麻衣「私の手も…体も…元に戻ってる。まぁ!?」

   千里を見る。

麻衣「あなたは…どなた?」

   千里は、まるで王子のような美しいなりになっており、キラキラと輝いている。

麻衣「あなたは、王子様?」

    千里、微笑んでそっと頷く。

麻衣「まぁ…では、」

   キョロキョロ

麻衣「ルイーズ伯爵様は?どこにお行きに?」
千里「ロジェーラ嬢、よくご覧なさい。」
麻衣「えぇ?」
千里「私です。王子です。ルイーズ伯爵は、私なのです。」
麻衣「えぇ?」

   マジマジ。

麻衣「そんな…ですて、」
千里「今まで黙っていてごめんなさい。実は私が、ネッビアロザンナの王子なのです。」

   麻衣、混乱して動揺。磨子、健司、聖二も動揺をして驚きを隠せない。

千里「ロジェーラ嬢…改めて…私の后になってくれるか?」
麻衣「伯爵様…」
 
   喜んで嬉し泣きに大きく頷く。 

麻衣「はいっ!!喜んで。」
千里「ロジェーラ嬢っ!!」
麻衣「王子様っ!!」

   二人、強く抱き合って口づけをする。

健司「ではコルデーリア、俺達も…」
磨子「バカ言いなさんな。」

   健司を思いっきりこずいた後に抱き寄せて強く口づけ。聖二は、赤くなって微笑みながらベンチに座って、ネッビアロザンナの星空を見上げる。流れ星が一筋二筋と落ちていく。


   大拍手

大ホール・ステージの上
   麻衣、千里、健司、磨子、聖二、其々驚いてキョロキョロ。

   会場には多くの観客。

麻衣(ん、ん?一体何?ここは何処?)
千里(僕は今、フィレンツェのネッビアロザンナに…)
健司(足利の時代…15世紀…)
磨子(一体どう言うこと?)

アナウンスの声「それでは、優勝いたしました演劇“ネッビアロザンナ”を演じてくださった皆様にもう一度大きな拍手っ!!」

   四人、顔を見合わせる。

麻衣(て、事は?)
千里(もしかして僕たち…)
健司(俺達も…)
磨子(私達…)
4人「帰ってこれたってことか!!!」

   5人、改めて、わっと泣いて抱き合う。


文化会館・控え室
   休憩をする出演者たち。

小町「でも、驚いたわ。結局私達みんなが」
操「力を会わせてやることになるとはね。」
公子「でも…それよりも驚いたのは、即興で東中の柳平さんが即興で考えたこのシナリオで話が進んで、」
孝太「これで、しかも優勝しちまったってこんさ。」
小町「来年も又、このメンバーで出たいわね。」
操「そうだね。」
麻衣「お、いいねいいねぇ、私大賛成っ!!」
磨子「私もっ。」
千里「僕はもう絶対に嫌だからね。」
健司「お前もやるのっ!!」

   千里をこずく。

千里「やだぁーっ!!!!」

   泣き出す。

健司「んなら、今度の演目は…公子、あんたを主演にした劇何てどーだ?」
公子「何々?私を主演にしたですって?」

   有頂天になって気取る。

健司「ほ、お前確か、名前…小松公子だろ?」
公子「えぇそうよ。」
健司「だもんで略して、小公子…なんちってな。」
公子「てっめぇーっ、この野郎…岩波健司っ!!」
 
   血相を変えて健司を追いかけ回す。

公子「待てっ、この野郎っ!!」
健司「やべっ。」

   あかんべをしながら小粋に逃げ惑っている。他のメンバーたち顔を見合わせてクスクスと笑いながら紙コップのお茶を飲みながら、それをあきれがおで見つめている。

諏訪中学校・教室
   それから数日後。千里、後藤、小平

後藤「よ、」
千里「あ、」
後藤「でも、良かったな千里。」
千里「は?」
小平「この間の演劇だよ。内気なお前が、責めて劇の中だけでもヒーローになれて。」
後藤「しかも、お前の愛するモナリザのお相手役。」
 
   千里、かぁーっと赤くなって下を向く。

後藤「男の千里もかっこ良かったぜ。」
小平「あぁ、だから自信もてよ。お前もまだまだ充分男として生きていかれるからさ。」
千里「おい、」

   顔をあげて二人を睨む。

千里「それどういう意味だよ…」
後藤「い、いや、」
小平「わりぃ…」
千里「僕は女の子じゃないっ!!男だっ!!」  


富士見高原中学校・教室
    磨子、小町、操、公子、孝太

小町「でも、あなたたちのお陰で楽しかったわ、ありがとう。」
磨子「いや、私こそ。」
操「僕たちはもうライバル校じゃなくて仲間だよね。」
公子「えぇ、来年も又一緒にやりましょうよ。あの三人と一緒に。」
磨子「えぇ、是非。小公子の劇をね。」
公子「てっめぇーっ、」
孝太「まぁまぁ、やめろよ。ごめんな、初めの内は俺たちお前のこと。」
磨子「いいってこんよ。仲良くやろ。」
公子「でも…磨子、あなた本当にいっちゃうの?」
小町「せめて今年一杯だけでも…」
磨子「いんや、」

   立ち上がる。

磨子「初めから演劇祭が終わるまでって約束だし…。ほれにいいじゃん。戻るったって、私は宮川だよ。すぐ近くなんだもん、遊びにおいでよ。」
小町「そうね。」
公子「是非っ!!」
操「じゃあ、すぐにでも遊びに…」
磨子「こらこら、」
孝太「なら、今度はお前の家であお髭ゲームを…」

   磨子、青ざめる。

磨子「嫌っ!!それだけは絶対に嫌っ!!」

   震える。

小町「磨子?」
公子「あんたなんでそんなに怖がってるの?」
操「大丈夫?」
孝太「おいおい、罰ゲームとかねぇーんだしさ、ただ大砲であお髭が飛ぶだけのゲームじゃんか。あんな子供だまし、保育園児だって面白がってやるぜ。」

   メンバー、怖がっている磨子をからかって遊んでいる。


東中学校・教室 
   麻衣、加奈江、すみれ、高橋、宮澤、向山。向山は机で弁当をがっついている。麻衣たち、それを見て呆れ笑い。

すみれ「でも麻衣、この間はありがとね。大成功だった!!」
加奈江「しかもライバル校と手なんか組んじゃったりして…」
高橋「しかもしかも、優勝だぜ?」
宮澤「それに、君をヒロインにして良かったよ。」

   うっとり。

宮澤「やっパリ君はヒロインって器だよね。君みたいなピンクのモナリザは…」
向山「宮澤、なんかその言い方…嫌らしいな。」
高橋「確かに…」

   クスクス。

向山「でも、ピンクといって思い浮かぶのは色っぽいものばかりじゃねぇーよな。」

   加奈江をいたずらに見てニヤリ。

向山「メス豚の色だ。つまりは?」

   ニヤニヤ。

向山「メス豚たぁ、」

   食べながら目を細める。

向山「小1の頃から年々太って止まらない佐藤、お前の事だぁ!!」

   加奈江、向山の背中を思いっきりキック。

加奈江「デブのお前が言うなっ!!私ねぇ、小1の頃からあんたのことはだいっきらいなのよ。デリカシーのないこのボンレスハムが!!」
向山「はぁ、なんだとぉ?へんだ。だからお前みたいなのは適役ねぇーもんでエキストラとしても演劇に出してもらえなかったんだよ。大体…」

   小バカにして鼻を鳴らす。

向山「歴史物の時代物にデブはいねぇーもんなぁ。そりゃしゃーねぇー。」
加奈江「うっさいボンレスハムが!!その言葉、そっくりそのまんまあんたに返してやるわっ!!」

   麻衣と他のメンバー、やれやれと首を降る。 
 
すみれ「ところで麻衣、」
麻衣「ん?」
すみれ「あなた、又転校しちゃうのね。」
麻衣「えぇ…転校ねぇ…」

   動きが止まる。

麻衣「えぇっ?はいっ!?」
加奈江「何?違うの?」
麻衣「ほれ…誰がいっとったんか?誰に聞いたの?」
加奈江「担任と…あなたのご両親…」

   麻衣、頭を抱えてへなへな。

麻衣「てか私…ここへ転校してきてから、殆ど登校してない気がする…」

   クラスメート顔を見合わせる。

高橋「殆ど登校してなかったってお前…ほれ本気?正気でいってんのか?」
麻衣「はぁ?」
向山「あれで殆ど登校してなかったって言うんならお前、俺たちは一体どうなるんだ?」
宮澤「休んでばかりになっちゃうよ。」
麻衣「はい、どいこん?みんな何を言いたいだ?」
加奈江「まいぴう…あなたってさ、転校してきてからここずっと、」
すみれ「皆勤賞だったじゃないの。」
麻衣「は、はいっ!?この、私が!?」
すみれ「えぇ。…でもきっとあれよ、毎時覚悟ないのはさ。」
加奈江「休み時間とか休みの日、放課後とかもずっと私達とは遊ばないで、演劇祭のシナリオの構成立てんくちゃ…っていって、ずーっと一人で机にかじりつきながら殆ど没頭してたもんね。」
麻衣「へ?ぇ?」

   机の上には一冊のノート。麻衣、手にとって中のページを開く。

麻衣「あ…」

   中にはあの、麻衣たちが体験した物語の内容が全て綴られている。

   (チャイム)
   そこへ担任。

担任「はいっ、皆さん席について。」

   全員が席につく。

担任「本年度、夏休み明けから柳平麻衣さんが茅野市の北部中学校に転校してしまうことは皆さんもご存じですね。柳平さんが行ってしまい、寂しくはなりますが、変わりに男の子が一人、我がクラスに転入してくることとなりました。…紹介いたします。入っていらっしゃい。」

   礼音聖二が入ってくる。

麻衣「!!?っ」
聖二「フィレンツェから参りました、礼音聖二と申します。みなさん、これからお世話になります。どうぞよろしくお願い致します。」

   礼儀正しく頭を下げる。聖二、麻衣と目が合うと、驚いたような顔をして軽く微笑んで会釈。麻衣も驚いた顔をして聖二をじっと見つめている。


北部中学校・教室
  
語り【それから夏休みが開けると麻衣は転校した。友達も早速出来た。と言うのも、その中の殆どは小学生の頃の顔馴染みと言うこともあったのだけれど…】

   10月。

語り【そんなある日…】 

   片倉キリ、湯の脇チカ代がやって来る。

キリ「ねぇまいぴう、」
麻衣「え?あぁキリ。何?どーゆー?」
キリ「君さぁ、11月の第一週目の金曜日って開いてる?」
麻衣「11月の?」
 
   スケジュール帳を見る。 

麻衣「あぁ、学校が休みになる日だ。空いてるに。でも、土井で?どっか遊びにいく?」
チカ代「うんっ。」
麻衣「何処何処何処何処?私もいきたぁーい。」
チカ代「そう言えばさ、まいぴうがよくとても親しい幼馴染みのお友達がいるって話してくれるよね。」
麻衣「えぇ。磨子ちゃんと健司のこん?」
キリ「そうだよ。その二人も誘ってさ!!ね!」
麻衣「えぇ…分かった。声かけてみるに。でも…何処へ?」
キリ「それは、行ってみてからのお楽しみ!!」
チカ代「まぁ、まいぴうが好きかどうかのお話だけどね…あれこそ好き好きがあるからさ。」
麻衣(…?…一体何?どんなものずらか…。)


白樺高原・コスモス湖岸
   健司、磨子、リータ、麻衣

健司、磨子、リータ「え、行き先がわからない?」
麻衣「ほーなんよ。行き先は教えてもらえないままだだに、二人に来いとさ…」
健司「ふーん、俺は別にいいけどさ。暇だし。磨子は?」
磨子「私も。」
リータ「私は…」

   不貞腐れる。

リータ「誘われてないって訳ね…どーせ私はいつも仲間はずれですよぉーだ。」
麻衣「リータ、ほんねんやって拗ねんでや。ね。多分みんなきっとリータのこんは…」
リータ「私のことなんて知らない…どうせ話してないんだろ。」
磨子「そうやってすぐ拗ねるなよ。又私達はさ、私達で何処かにいこうよ。その時は、」

   ニヤリ。

磨子「あの、小口千里君も一緒に誘ってみようよね。」

   健司、不機嫌そうな顔をする。

健司(おぅぇーっ…あいつも誘うのかよぉ…)

   不貞腐れる。

麻衣「あれあらまぁまぁ、」
磨子「健司、今度は何あんたまでが不貞腐れてんのよ。」

   笑っていたずらっぽくなだめる。

磨子「ほれほれ、よしよしっ。」
健司「うるさいっ、やめろ。」

   磨子を手を払う。

磨子「何よ、人が折角慰めてやってるダに。感じ悪っ。」
健司「感じ悪くて結構ざますっ!!」

   つんっとする。麻衣、クスクスと笑いをこらえている。

麻衣「ほいじゃあ、行けるっつーこんでいいだずら?」
磨子、健司「うんっ。」
麻衣「分かった。ほいじゃあ、二人にほー伝えとくな。」
磨子「宜しくぅ。」
健司「なーにっかなぁ、なーにっかなぁ。」

   わくわく。

リータ(健司…あんたって単純なやつ…気持ちの切り替え早っ…) 


千里の家・千里の部屋
   千里が勉強をしながらもじもじ。そこにお茶を持った珠子。

千里「あ、ママ。」
珠子「せんちゃん、お勉強頑張ってるわね。頑張ってるから特別にご褒美。」

   三つのお皿にもうひとつシュークリームを乗せる。

珠子「シュークリームおまけしとくわね。本当は、ママのだけどあげるわね。」
千里「わぁやったぁ!!ありがとうママ、いただきまぁーす!!」

   シュークリームを頬張りながら紅茶をごくごく。珠子、微笑む。

珠子「こらこら、そんなに慌てて飲んだら又おトイレ行きたくなるわよ。」
千里「大丈夫さ。僕今すごく喉が乾いているんだよ。それに近くなっちゃったって平気さ。」

   お代わりとコップを差し出す。

千里「お代わりっ!!」
珠子「はいはいっ。」
千里「だってここは、僕のお家だもん。気兼ねなくいつでも行きたいときにトイレなんて行けるだろ?」

   シュークリームを全て平らげると、お煎餅をバリバリと食べ出す。

千里「んーおいしっ。ねぇママ。このお煎餅ってどこんの?」
珠子「まぁこの子ったら、」

   クスクス。

珠子「せんちゃん、ゆっくりとよくかんで食べなさい!!それと、あまり食べすぎないようにね。お夕食食べれなくなってしまいますよ。」
千里「はーいっ。」
珠子「それとせんちゃん。」
千里「ん、何?」
珠子「あなた今年はピアノの発表会ね…」

   千里、思いっきりお茶を吹き出して蒸せ変える。珠子が背をさする。

珠子「あらあらまぁ、せんちゃん、大丈夫?」
千里「大丈夫、大丈夫だよママ、ありがとう。」
珠子「練習してる?ママも凄く、とても楽しみにしているのよ。今年は何弾くの?又せんちゃん、難しいやつやるのでしょ?」

   千里、しゅんと下を向いて俯く。

珠子「どうしたの?何か悩みごとがあるの?」
千里「ママ…」

   下を向いたまま。

千里「僕、とっても楽しみなんだ…ピアノはとても好きだし。だから毎年このピアノの発表会はとても楽しみにしているの…でも、僕…僕…不安なの。とっても心配なんだ。」

   震え出して今にも泣き出しそう

千里「昨年…僕、おもらししちゃったろ?それから全てが不安で、怖くて仕方ないんだ。特に人前に出ると、今まで以上に上がっちゃって…恐怖とか緊張とかプレッシャー感じるとすぐにトイレ行きたくなっちゃって…今にも漏れちゃいそうなほどすぐに我慢が出来なくなっちゃう…だから今年も…もし、もしピアノ弾いているときに最悪なことが…」
珠子「せんちゃん、あなたそんなことを気にしているの?」

   抱き寄せる。

珠子「大丈夫よ、あなたならきっと大丈夫。ママ、そんなことに負けて、あなたに大きな夢諦めて欲しくなんてないわ。芸術高校受験するのでしょ!!ならば、失敗したっていい。それくらいの勢いでいなさい。」
千里「ママ…」
珠子「最悪なことばかり考えていると、本当にその最悪なことが現実に起きてしまうのよ。さ、」

   千里の手を弾いて立たす。

珠子「ママ、せんちゃんが学校に合格したらピアノ買ってあげるから…」
千里「本当にっ!?」
珠子「ええ勿論よ。ママ、せんちゃんの大きな夢、心から応援しているのよ。ね、せんちゃん。あなたのピアノ一曲何かママに聴かせてくれるかしら?」
千里「いいよ、今やってる曲でいい?」
珠子「えぇ。何でもいいわ。せんちゃんが好きで得意な曲を…」
千里「分かった…」

   千里、るんるんと幸せそうにピアノの椅子に座って弾き出す。珠子、うっとりと千里の演奏に耳を傾けて聞き惚れている。千里はとても気持ち良さそうに弾く。

茅野芸術文化会館・ロビー
   キリ、チカ代が待っている。そこへ麻衣、健司、磨子。

麻衣「おーいっ!!」
キリ「あ、」
チカ代「来た来た、」

   磨子と健司を見る。

チカ代「この二人?磨子ちゃんと健司くんってのは?」
麻衣「えぇ、ほーだに。」
磨子「田中磨子です、宜しくな。」
健司「俺、岩波健司。」
キリ「はじめまして、私、北部中学校でまいぴうのクラスメート、片倉キリと」
チカ代「湯の脇チカ代です。」
麻衣「で、」

   キョロキョロ

麻衣「ここに来いって…これからどーするだ?」
キリ「これから?」
チカ代「セレブの様なことよ。プチセレブを楽しみましょ。」
麻衣(プチセレブ…?)

   首をかしげる。そこへ偶々リータ

リータ「あ、」

   近寄る。

リータ「あんたら、」
麻衣「ん?」
磨子「リータ!!」
健司「お前、何しに来たんだよ?」
リータ「そりゃ私の台詞だよ。何?」

   いたずらっぽく。

リータ「まさか…あんたらも見に来たのか?」 


同・マルチホールの中
   前景の人々。  

磨子「何だ、オペラ!!」
健司「俺オペラなんて見たことねぇーや。」
磨子「ほんなの私もよ。」
麻衣「私もだに。」

   キリとチカ代を見る。

麻衣「でもどいで?言ってくれても良かっただに…」
キリ「いやぁ、」
チカ代「だってぇ…」
キリ「ねぇ?」

   顔を見合わせる。

キリ「始めに話したら、そんなの行かないって言われるかと知れないから嫌だったのよ。」
麻衣「ほんなこんいわんに!!」
磨子「でも、どうして?又どうしてオペラのチケットなんて?」
チカ代「湖東納涼祭の福引きイベントで一等がこれだったの。」
健司「へぇすげぇ!!納涼祭でほんな豪華な景品があったのかよ?」
チカ代「そうよ…でもこれだけ…あとはみんなショボかったよ。」
磨子「で?」

   リータを見る。

磨子「あんたは?」
リータ「あぁ私?」

   得意気に。

リータ「私はねぇ…実は、ミラノの実母がオペラの歌手なんだ。で、今日のこの公演に出る…だからさ。」
麻衣「わをぉ。」
磨子「すげぇ…」
健司「リータ…」
キリ「あんたって…」
チカ代「何者…?」

   ブザーがなって公演が始まる。麻衣、聴いている内に感動で目を潤ます。磨子、チラリと麻衣を見る。

磨子(麻衣ちゃん…?)


同・ロビー
   終わる。全員がぞろぞろと出てくる。

健司「はぁ…すげぇ迫力だったな…」
磨子「えぇ、ありがとう。私達まで誘ってくれて」
キリ「いえいえ、どういたしまして。さぁ、帰ろうか?」
チカ代「そうね…」

   キョロキョロ

チカ代「あれ?まいぴうは?」
磨子「え?」
健司「トイレじゃねぇーの?」


同・スタッフルーム入り口
   麻衣と警備員。

麻衣「だでお願いしますよ!!そこを何とかっ!!ね!ね!」
警備員「行けませんっ、帰りなさいっ!帰りなさい!!」

   そこへボスワニー・ロマノフ

ボスワニー「どうしたんだ!!」
麻衣「あ、」

   必死。

麻衣「Ach, pane! ! Jak si přeji, zeptejte se ho, protože jsem najednou můj zpěv! ! Dovolte mi, abych Apprentice! Já, já chci být operním zpěvákem! !」

   ボスワニー、黙って聴いている。

麻衣「pene!!」 
ボスワニー「いいでしょう…」

   警備員に

ボスワニー「そこ手を離しておあげなさい。」

   麻衣に手招き。

ボスワニー「入って来なさい…」
麻衣「はいっ、ありがとうございます!!」

   ボスワニーについて、スタッフルームへと入っていく。


同・ロビー
   磨子、健司、キリ、チカ代、リータ。健司、少々イライラと足を鳴らす。

健司「ったく、麻衣の奴は一体何やってんだよ…」
磨子「本当に…やけに彼女、遅いわね。」
キリ「もう三十分近くたつのに…」
チカ代「何やってんだ?」
リータ「さぁ…」

   スタッフルームの方に目をやる。


   やがて麻衣が顔を綻ばせてにこにこと戻って来る。

リータ「お!」
麻衣「遅くなってごめんなぁ!!」
健司「てっめぇ…」

   薄目で麻衣を睨む。

健司「何やってんだよ、へー一刻だぜ。」
磨子「一刻ってあんた…いつの時代よ…」
健司「便秘か?とも、下痢か?」

   麻衣、健司を思いっきりこずく。

麻衣「違うわよぉバカ!!」
リータ「んなら?何だ?」
麻衣「実はな…実は私…」

   もじもじ。


柳平家・台所
   麻衣、柳平紡、柳平糸織、柳平と子、柳平あすか、柳平、柳平紅葉が夕食をしている。

全員「え、プラハへっ!??」
麻衣「えぇ、」

   真剣な顔をして

麻衣「私、本気で…人生ではじめて本気でやってみたいと思ったの。だで、だで、」

   深々と

麻衣「お願いしますっ!!滞在費用、レッスン費用、渡航費用はロマノフさんが持ってくださると仰有っていました。」

   柳平、腕を組み、目を閉じる。

麻衣「父さんっ!!」


   しばらくして

柳平「分かった…」

   真顔でまじまじ

柳平「麻衣、お前が信じた道ならやってみなさい。」
麻衣「父さん!!」
紅葉「いいわ、負けました。母さんも応援するわ。やってみなさい。」
麻衣「ありがとう!!」

   紡、糸織、と子、あすか、ポカーンとして麻衣を見つめる。

語り【こうして一週間後…柳平麻衣は、チェコ・プラハへと旅たつことになるのでした。】


上川バイパス
   千里と麻衣。

千里「え、君外国へ行っちゃうの?」
麻衣「えぇ、たったの三ヶ月だけどな…。だで、発表会には出れるか出られんか分からんけど、もし出られんくても必ず見に行く。だで、あんたは…」

   千里、寂しそうに肩を落とす。

麻衣「ほんな顔せんで。すぐに戻るわよ。戻ったら又、必ずあんたに会いに来る。」
千里「麻衣ちゃん…」

   寂しげに微笑む。

千里「うんっ。」

    飛行機が空を飛んでいく。

飛行機内・ヒジネス
   麻衣とボスワニー。

麻衣「ロマノフさん、本当にありがとう。」
ボスワニー「いやいや、こちらこそですよ。柳平さん、」

   二人、色々と話ながら乗っている。


白樺高原・白樺湖
   ぼわーっと湖岸に腰を下ろす健司、磨子、リータ

リータ「あーあ…行っちまったな…」
健司「ほいこんだったのか…」
磨子「でも麻衣ちゃん、度胸あるわ…凄い。感心しちゃう。」
健司「なんかあいつ、ふんとぉーに大した女だよな…」

   立って石を蹴る。

磨子「ははーん、やっぱりあんたも麻衣ちゃんいなくて寂しいね。」
健司「ば、バカいえっ!!寂しくなんて…ないよ。」
リータ「ほらほら又ぁ、強がっちゃって。」

   二人、健司を冷やかす。
 

柳平家・台所

紡「なぁ…あいついないと、なんか静かだな…」
糸織「確かに…」
あすか「僕、麻衣姉いないと寂しいよ…」
と子「大丈夫、望まなくたってすぐに帰ってくるさ。」
紡「と子っ…あんたって人は…薄情な人だねぇ。なんつう薄情ずらっ!?」
糸織「まぁ、しょーがねぇーら?君と姉妹だだもん」

   紡、糸織をキッと睨む。

紡「ちょっとしお、あんたほれどーユー意味よ?えぇーっ?」


上川バイパス
   千里、後藤、小平

後藤「おいおい千里、いつまでもくよくよするな、元気出せよ。」
小平「そうだよ、数ヵ月外国行ったくらいで何だ、永遠の別れじゃあるまいし…」
千里「そうだけどさぁ…」

   震え上がる。

千里「うーっ…なんか急に寒くなってきたね。」
後藤「そうだな。んなら千里、柳平が帰ってくることまでに、変身でもしてみるか?」
千里「変身?どんな風に?」
後藤「見違えるような強く逞しい男に、ここ数ヵ月で…」
千里「無理だよぉ、僕になんて!!しかも数ヵ月でって…」
小平「愛のためなら努力も惜しまない男にならないと、」
千里「ええ?」
小平「柳平が好きなんだろ?だったら、あいつが一発で振り向くような男にならないと…あんな可愛い子、すぐに取られ地舞うぜ。早いもん勝ちさ。」
千里「う、うーん…それはそうなんだけどさぁ…」
小平「なら、いいな?」
千里「で?どうすればいいの?」
後藤「まず基本は…」
千里「基本は?」
後藤「水泳さ。」
千里「ほー、水泳かぁ…って」

   目を見開く。

千里「冗談じゃないよ!!嫌だよ僕、水泳なんて!!だって、君たちだって知ってるだろ?僕は水が怖くて温泉にさえおっかなびっくり何だよ?うちのお風呂にも浮き輪なんだよ!!そんな僕に…」
小平「でも水泳続けて体を鍛えれば風邪も引きにくく、寒さにも強い逞しい…」
千里「それ以外のことだったらいいよ…僕、水泳だけは、それだけはどうしてもお断り致しますっ!!」
後藤「そんなこん言わずにさぁ、やってみろって。」
小平「やってりゃなれて好きになるかもよ?ではそーれっと、」

   二人で千里を抱えあげる

後藤「せーのっと」

   千里が物を言う間もなしに上川へ千里の体を放り込む。

千里「うわあっ!!!」




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あきゅろす。
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