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石楠花物語中学生時代
不思議な時間旅行
フィレンツェ市内・カフェ
   麻衣、千里、健司、磨子、聖二。

麻衣「あれから一週間か…」
磨子「何か分かった?」
千里「ぜーんぜん…」
健司「でも、ほんな簡単にわかって帰れても面白くねぇーだろうに。」
聖二「本当に、そう簡単に知れるわけないさ。僕でさえ、もう三年はここでこうしているんだもの。」
千里「そんな…」

   泣き出しそう

千里「じゃあ…当分は僕ら、お家に帰れないってこと?」
聖二「あぁ、何か手がかりと方法を見つけない限り…」
千里「そんな…」

   隣にいた麻衣の肩に顔を埋める。麻衣、千里を慰める。

麻衣「大丈夫よ、小口君…きっと、いえ、絶対に帰れるわ。来れたんですもの帰れないわけないわ!!ゆっくり待ちましょう。」
千里「う、う、…」
麻衣「私達がいるじゃないの。ね。」
磨子「そうよ。帰れるまでは私たち、助け合って生きていきましょう!!」
健司「あぁ。」
聖二「うんっ、そうだね。」
千里「みんな…」
健司「恐いのは…心細いのは、千里、お前だけじゃない。俺たちみんなほーなんだ。だから、」

   全員、微笑む。軈て千里も弱々しく微笑む。


郵便局
   5年後

語り【あれから早、5年の月日が流れた。私たちは何も分からぬのまま、この青春の年月を中世のフィレンツェで過ごしていた…もう誰も何も言わない…最早現世の事は忘れかけ、戻ることも諦めかけていた。私達も今年で二十歳になるわけだ…みんなはへー大人。友達に今あったって分からないだろう…。】

   麻衣、郵便局で郵便をとる。

麻衣(ん…?私宛?)

   手紙の束をショルダーバッグに閉まって大通りを急ぐ。


下宿先・麻衣の部屋
   麻衣一人。その日の夜、深夜。麻衣、手紙を読んでいる。

麻衣『(手紙文)親愛なるロジェーラ嬢に捧ぐ…今晩深夜2時、あなた様を夜霧祭にご招待致します。霧の町より、私、伯爵ルイーズ卿があなた様をお迎えに上がります。』

   ぽわーんとしながら一人っきりの部屋を行ったり来たり。
 
麻衣(これは一体なんなの?霧の町って何処?夜霧際なんて…)

   頬を叩く。 

麻衣(いいえ、夢よ…こんなの夢よ!!第一私なんかが舞踏会に誘われるなんて、あり得ないわ。だって私は…)

   ボロボロの庶民のドレスを着ている。

麻衣(フィレンツェの貧しい娘。)

   ベッドに座る。

麻衣(でも、例え夢でももし本当に…一晩だけ夢が見られるのならば…あぁ…)

   外は強い風が吹き荒れている。

麻衣(怖いわ…こんな日に私は一人ぼっち…)


   麻衣、自らを忘れている感じ。

麻衣(弟には戦で先立たれ…両親にも…助けて…今はとても怖いの。恐怖で死んでしまいそう…)

    暗い部屋。麻衣、ベッドに震えながら泣いている。そこへ千里。美しい礼服を着て、キリリとしている。

千里「ロジェーラ嬢」
麻衣「誰っ?」

   キョロキョロ

千里「ロジェーラ嬢」

   麻衣、千里を見る。

麻衣「小口君っ!!」
千里「しっ!!」

   指で言葉を遮る。

千里「あまり大きな声を出してはいけない。私の事は人に知られてはならぬのです。」
麻衣「よく似ているわ…でもあなたは、小口君ではないの?」
千里「申し遅れました、私は…」

   丁寧に挨拶。

千里「霧の町の伯爵、ルイーズ卿です。ルイーズ・ポロネーゼ・アルフォンザ。ロジェーラ嬢よ、私はあなたを霧の晩餐会へとお連れすべく、王子の遣いでここへ参りました。」

   懐中時計を見る。

千里「さぁ、お時間がございません。ロジェーラ嬢、参りましょう。」

   麻衣の手を引くが、

麻衣「行けないわっ!!」
千里「何故です!!?」
麻衣「ですて、」

   俯く。

麻衣「あなた様も見ての通りですわ…私は郊外の田舎村から出てきた貧しい田舎娘ですの。こんなドレスで舞踏会など、とてもでないけど行けるわけありませんわ。私には一生縁のないことです。」
千里「ロジェーラ嬢…」

   微笑んで指をぱちんと鳴らす。麻衣はまるで貴族のような美しいドレスになる。

麻衣「まぁ!」

   ドレスをまじまじ。

麻衣「私のお洋服が…」

   千里を見る。

麻衣「あなたは一体…」
千里「さぁ、」

   微笑んで手を差し出す。麻衣、恐る恐る千里の手をとる。

千里「では、参りましょう。霧の町へ…」 
麻衣「分かりましたわ。私とっても嬉しい。さぁ、お美しい伯爵様よ、私を何処へでも連れていって下さいませっ!!」
千里「さあ、私にしっかりとお捕まり。」

   再び指を弾くと白い靄に包まれ何も見えなくなる。

麻衣「まぁ、何てこと!!何も見えない、怖いわ。」
千里「大丈夫ですよ、ロジェーラ嬢…離れてはなりません。しっかりと私にお捕まり下さい。」


   軈て霧も晴れてくる。


深い森の中
   人影もない。遠くにはフィレンツェの町。麻衣、固く目を閉じている。

千里「ロジェーラ嬢よ、目を開けてごらんなさい。もう大丈夫ですよ。ほら、」
麻衣「ここは?何処?」

   キョロキョロ

麻衣「まぁ、何故ここに?ここはいつも教会へ行くときに通る道だわ。」

   千里を見る。

麻衣「お願いです、お教えください。あなたは一体何者なのですか?」
千里「私ですか?」

   小粋に。

千里「私は霧の精です。妖精の国の伯爵なのです…」
麻衣「妖精の国の?」
千里「はい、私たちの国の者は、皆一人一人違う力を持っているのですしかし使い方を誤れば国を滅ぼしてしまう…さぁ、」

   麻衣を見る。

千里「霧の町へ行くにはこの森を通ります。この森を抜けた先が霧の町、ネッビアロザンナなのです。行きましょう。」
麻衣「まぁここを!?」

   目を見開く。

麻衣「バカをおっしゃらないで!!この森は私毎日通っていますのよ。ここを抜ければ町の教会に出てしまいます!!」
千里「ロジェーラ嬢よ、いいから私とついておいでなさい。」

   麻衣、腑に落ちないかおで森の中へついていく。


   (しばらく)

麻衣「あら?この森ってこんなに長かったかしら?いつもならばもう聖堂の茶色い鐘楼が見えるはずなのに…」
千里「あぁ…恐らくあなたはご存じないはず。この森は六月の深夜には霧の町へと通じる通り道となるのです。」


   しばらく。大きな石楠花の花がある。そこに、磨子が座ってリュートを弾いている。

千里「コルデリーア!!こんなところで何をしているのだ?」
磨子「これはこれは、ルイーズ伯爵殿。私はいつも通り、ここを練り歩きながら、町の石畳まで…歌いながら踊っているのです。何故って私はジプシーの女!!あなたこそ何故この様なところに?パーティーはとっくに始まっていますわ。」

   麻衣を見る。

磨子「おやっ、この子は?随分とご身分のありそうなご令嬢ね。」
千里「あぁ…彼女は今年、ブリエラ女王に選ばれた、フィレンツェいちの女性、ロジェーラ・ヴァレッタ嬢さ。」
磨子「これはこれは、噂には聞いておりますわ。ではあれですわね。あなた様がフェルランド王子様に…」

   咳払い。

磨子「良いでしょう…私が案内致しますわ。伯爵殿にヴァレッタ嬢、私についていらっしゃい。」

   リュートを弾き、歌いながら歩く。麻衣と千里もついていく。


霧の町・市街
   森を抜ける。さぁーと嘘の様に濃い霧が晴れている。多少靄はかかっている。

磨子「ほら、つきました。ここがネッビアロザンナです。」
 
   人形のような可愛らしい町並みが広がる。

磨子「急いでくださいな、もう3時ですよ。パーティーが終わってしまいます。早く参りましょう!!会場はあちらです。」

   三人、静かな夜の町を歩いている。


中央広場
   仮面をつけたすみれ、加奈江、マコが楽士たちの演奏に会わせて踊って歌っている。すみれはタンブリン、加奈江はマンドリン、マコはバイオリンを抱えている。踊る町民たちも皆、仮面で顔を覆っている。

   『夜霧の歌』

すみれ『いつもは眠るこの町も、今日から始まるこの一ヶ月間…その夜だけは違うのよ。踊りましょう夜明けまで…貴族であろうと平民であろうとそうでなかろうと、みんなで仲良くてを取り合って、楽しく一緒に踊りましょう。』
加奈江『そうよ、今宵を楽しみましょう!男も女も集まってほら、靴をならして踊りましょう。軽快なステップ、タラッタラッタ、タラッタラッタ、』
すみれ、加奈江『タラッタラッタ、タラッタラッタ、楽しみましょう!歌いましょうほら!!タラッタラッタ、タラッタラッタ、ほら早く皆様も。踊りましょう!手を取り合って、互いを見つめ会うのです。さぁ恥じらわないで。それでは次の曲に参りましょう。皆さん準備は如何ですか?』
マコ『美しく…』
加奈江『そして可憐に』
すみれ『軽やかに…』
ソプラノ歌手たちとジプシーの女たち『靄で覆われた夜を踊り明かしましょう!!この闇夜の中。ただ月明かりとランタンの灯の中で…最高にドラマチックな夜を過ごしましょうよ。』
全員『さぁみんなで踊り明かそうではないか!!』

   バイオリンを抱えたマコが得意気に咳払い。

マコ「ではまずは、私が歌うわ。」
加奈江、すみれ「いいぞ、コルビーラ!!」


   『アップルティーはお好き?』

マコ『ねぇあなた、アップルティーはお好き?あなたのために入れてみたの。もしもあなたがお望みならば、甘いシュガーもたっぷりと入れてあげるわ。それから私、お菓子を焼きます。あなたの愛した故郷のお菓子、オレンジ味のワッフルを…。とてもさっぱりしてる、私自慢のワッフルなの。きっとあなたも気に入るわね。だから愛しいあなたよ』

   健司がマコにベタベタ。マコも笑って恥ずかしそうに健司を払い除けながら

マコ『あなたはあの丘へ行ってバラの花を積んできてください…咲き乱れているなかでも一番美しい花を束にして。そしてそれをリボンで結んで…そしたら私はその花を一番綺麗な花瓶に飾るわ。そうすればきっと小さな花束もいつのまにか、私達の心の庭一面に広がって、幸せの花園となり、真っ赤な太陽も昇る筈よ。』
マコ、健司『あぁ、なんと幸せな二人…私たちはいつも一緒なのね…なんと嬉しい事でしょうか…』

   麻衣、うっとり

麻衣(素晴らしいわ…)

   千里、磨子も微笑んで麻衣を見る。


   歌は終わる。

加奈江「ところであなた?今の歌はなんの歌?」
すみれ「聞いたことがないわ。」
マコ「これ?これはね、昔母がよく歌ってくれた故郷の民謡なのよ。」  
すみれ「そんなの…あら、ほら見て?あんな子、このまちで見たことがあったかしら?」
加奈江「本当だわ…とてもお綺麗な…」
マコ「おやおや、まぁまぁ!」

   皮肉っぽくつんっと鼻を鳴らして、千里に近付く。

マコ「これはこれは伯爵殿、あなたのお連れのこの娘は?」
千里「あぁ、彼女はフィレンツェから連れてきた貴族の娘です。彼女は、今年、女王様に選ばれた娘…もしかしたら、王子の妃となるかもしれぬ娘…」
麻衣「后ですって!?伯爵様、お止めください。私のようなものが后など…」

   千里、微笑んで麻衣に手を差しのべる。

麻衣「え?」
千里「ロジェーラ嬢よ、私と踊りましょう。」
麻衣「伯爵様…」

   恥じらいつつも手を差しのべ、二人は踊り出す。二人は町の娘たちの注目を浴びる。

女「ご覧なさい、ルイーズ様と踊ってらっしゃるわ。」
女「本当…何てお美しいお方なの…?」
女「あんな方なら、王妃に選ばれるに決まっているわ…」


   しばらく。

千里「疲れたねロジェーラ嬢、少し休もう。」 
麻衣「えぇ、ほーね。」


町のバール・野外テラス

麻衣「風が涼しいわ…いい夜ね。」
千里「あぁ本当に…ロジェーラ嬢、ワインを少し如何ですか?」
麻衣「ありがとう、では少し頂こうかしら?」

   千里、ワインをグラスへと注ぐ。

麻衣「ありがとう。」
千里「それにしてもあなたは本当に美しい…后には相応しい女性だ…」
麻衣「まぁ!!伯爵様、少し酔ってらっしゃるの?」

   千里、微笑んで手を差し伸べる。

千里「ほら、ロジェーラ嬢、私ともう少し踊りましょう。」
麻衣「はい…でも私、もう少し酔いたいわ。」
千里「では、もう少し…」
麻衣「では、もう少し…」

   他の人たちは踊ったり飲んだりしている。

麻衣「では伯爵様、私と共に踊ってください。」
 
   千里、麻衣を手をとって躍りの輪の中へ入る。二人は踊り出す。


   明け方。

千里「ロジェーラ嬢…」
麻衣「…。」
千里「ロジェーラ嬢ったら、どうなさったのです?」
麻衣「…。」

   千里の腕に抱かれたまま眠っている。

千里(おやおや、眠ってしまったのだね…)

   空を見上げる。

千里(間もなく世も明ける…さてではあなたを一度家に送っていってあげよう…)

   太陽が靄から差し始めている。千里は麻衣を抱いて指を弾く。辺りには深い靄がかかり、何も見えなくなる。

 
下宿先・麻衣の部屋
   千里、麻衣をそっとベッドに寝かす。

千里「では、ロジェーラ嬢…ゆっくりとおやすみ。また明日の2時に会いましょう…」

   指を鳴らすと霧と共に消えていく。陽はすっかりと差し込んでいる。麻衣、その後すぐに目を覚ます。

麻衣「あら…朝なのね…私ったらとっても変な夢を見ていたみたい…」

   頭を押さえる。

麻衣「っったぁー…何か頭がガンガンする。」


同・千里の部屋
   千里もぼわーっとして起き上がる。

千里「おはよぉー…もう朝か…。僕、何かとっても変な夢を見ていたみたい…」

   頭を押さえる。

千里「何か頭がガンガンする。」

   思い出したようにうっとりにやにや。

千里「でも、とってもいい夢だったな…又見たいな…僕はまるでヒーローのようにかっこよかったし…しかも、夢の中だけでも、彼女と一晩楽しい夜を過ごしたんだ…とっても僕は今、幸せなんだよぉーっ!!!」

    パジャマを脱ぎ捨ててくるくると部屋中を下着姿で躍り回るが、

千里「くしゅんっ!!うーっ、寒いっ。」

   震え上がる。

千里「寒くなったらトイレ行きたくなっちゃった…起きよっと…」

同・居間
   麻衣、千里、健司、磨子、聖二が集まってご飯を食べている。が、全員何か物思いげに心ここにあらず。 

磨子「ねぇ?昨日の夜って…私達…何かしてた?」
健司「は?」
聖二「何いってるんだ君、行くわけないじゃないか!!」
千里「夢でなら行ってるけどね…」
磨子「夢…で?」
麻衣「えぇ、私もよ。」

   『夜中の2時の鐘が打つとき』

麻衣『夜中の2時の鐘が打つとき…素敵に輝くあの霧の町から、美しい伯爵様がやって来たのよ…そっと私を連れ出すの』
千里『あの霧の町へ…そして伯爵と彼女は一晩踊り明かすのです…』
麻衣『彼は言いました、夢を覚ますその時に…』 
麻衣、千里『明日、又会おう…霧の町で』

   麻衣と千里キョトンと顔を見合わせる。

千里「なんで君…」
麻衣「まさかあんた、私と同じ夢を…?」 

   磨子、うっとり

磨子「でも、例え夢だとしてもロマンティックよねぇ…」
健司「あぁ…俺も変な夢見てたな…ほーいえば…」

   ため息。

健司「5年もここにいるんだ…頭までおかしくなって俺たち、夢、現実も分からなくなってるみたいだな…」
聖二「あぁ…」


同・麻衣の部屋
   麻衣、ベッドの中で本を読んでいるが微笑んで本を閉じると明かりを消して寝入る。

麻衣「お休みぃ…」


同・千里の部屋
   千里は部屋をうろうろ。

千里(あー…寒い…眠る前にトイレしたいなぁ…でも、もうみんな寝てるし…夜怖いよぉ…)

   ドアをそおっと開ける。

千里(でもトイレ行きたいし…)

   シーンと静まった中でカタリ、コトコトっと音が聞こえる。

千里(わあっ…)

   急いでベッドに潜って布団を被る。

千里(やっぱり怖いよぉ…本当に僕、帰れるのかなぁ…ママぁ…)

   ベッドに潜って泣いているが軈そのまま眠ってしまう。


   (深夜2時)
   鐘が鳴る。強い風が吹く。麻衣、風の音で目を覚ます。

 
同・麻衣の部屋

麻衣「何…?」

   そこへナイトの正装をした千里。

千里「ロジェーラ嬢、ロジェーラ嬢よ…」
麻衣「?」

   千里を見る。

麻衣「あなた様は!!」
千里「ロジェーラ嬢、今宵も約束通りお迎えに上がりました。」
麻衣「嬉しいっ!!」 

  千里の手をとる。

千里「ロジェーラ嬢…」

   指を鳴らす。麻衣のドレスが又変わる。

千里「あなたは何を着てもお美しい…さぁ、私と参りましょう。私に確りとお捕まりください。」

   麻衣を抱き抱えて指を鳴らすと霧と共に消えていく。

ネッビアロザンナ・町中
   麻衣と千里。

千里「さぁ、ロジェーラ嬢よ…今日はあなたを連れていきたいところがあるのです。」
麻衣「まぁ、どこかしら?」
千里「私についておいでなさい…」

   二人、石畳を歩いていく。


王宮
   公子、眞澄、小町がいる。

小町「もう始まってしまいますよ!!」
眞澄「王子様はどちらへ行ってしまったのかしら?」
公子「宮殿の中にはいらっしゃらないわ。」

   そこへ宮澤。

公子「あぁ、小姓ちゃん!!王子様がいらっしゃらないの。どちらかご存じないかしら?」
宮澤「あぁ、ファウスティーネ…僕は何も存じ上げません。今日は一度も王子様のお顔を見てないのです。」
眞澄「そうなの…」
小町「だったら走っていって探しておいで。」
宮澤「はいっ…今すぐに!!」

   走って外に飛び出す。


王宮・門前

千里「サァ着きましたよ、ここです。」
麻衣「まぁ、大きなお屋敷…」
千里「ここは我が、ネッビアロザンナの王宮…つまり、女王様、国王、そして王子様がお住まいなのです。」

   そこへ宮澤。

千里「おぉっ、ジョルジアーノ!」
宮澤「あなたは、ルイーズ伯爵様!!」
千里「どこかへ出掛けるのか?」
宮澤「はい、霧の境森まで…」
千里「霧の境森だって?一体何の用がある?」
宮澤「王子様がまだお戻りにならないので、町中をお探しに…」
千里「その心配はない、」
宮澤「え?」

   千里、微笑む。

千里「王子様にはお会いした。間もなくお出でになるそうだ。」
宮澤「そうですか!」

   ホッと胸を撫で下ろす。

麻衣「まぁ、可愛らしい坊や…何方?」
千里「あぁ…彼は王子様にお仕えする小姓です。頭がよくて気立てもいい子なんだ柄少しドジでおっちょこちょいなんです。」  
宮澤「言い過ぎですよぉ、伯爵様!!ところで…」

   麻衣を見る。

宮澤「こちらの姫君は?」
麻衣「ジョルジアーノって言ったわね。私は、フィレンツェから来た、ロジェーラ・ヴァレッタ。」

   千里も微笑む。

千里「ではちょうどいい!先にロジェーラ嬢を案内しておくれ。私は王子様をお連れする。」
宮澤「分かりました。では、ロジェーラ嬢よ。早くこちらへ…」

   宮澤に案内されるまま麻衣、千里を気にしながらも着いていく。


   二人がいなくなると千里、仮面をつけた王子に変身して歩いていく。


同・ある一室の広間
   多くの女性たちが集まっている。その中に麻衣もいる。そこへ、王子に変身した千里。

眞澄「あぁ、やっといらした!!お帰りなさいませ、王子様!!」
公子「今まで何処に行っておられたのです?もう女王様はお待ちです。」
小町「他の娘たちも集まっておられます。」
千里「すまない。」

   千里、広間へと進んでいく。 

千里「母上。」

   真亜子が玉座に座っている。

真亜子「王子、今まで何処に行っておられたのです!?」
千里「申し訳ございません、母上…」

真亜子「宜しい…。では早速、妃選びの義を…」
千里「お待ちくださいっ、母上っ!!」
真亜子「何ですか?」
千里「そのような儀式は要りませぬ。」
真亜子「しかしながら王子…」
千里「何故ならば…私は、心に決めているおなごがございます。」
真亜子「何ですって?誰ですか?」

   見渡す。

真亜子「ラリーアですか?」

   すみれを見る。

真亜子「お前はこの宮殿の中で一番の美貌と美声を持っているが…」
すみれ「とんでもございませんわ!!私ごときの身分も地位もなき、卑しい宮廷歌手が王子様の様な高貴なお方の妃になれるはずございませんわ!!」
千里「母上、彼女ではございません。」
真亜子「では、ミネシーターかい?」

   加奈江、鼻をつんっと鳴らす。

千里「いいえ、ミネシーターでもございません。私が心に決めているのは…」

   麻衣の手を引いて近くにつれてくる。

千里「この、ロジェーラ・ヴァレッタ嬢なのです。」

   加奈江、嫉妬に食って掛かる。

加奈江「何故ですのっ!?王子様、何故です?何故にこのような小娘をお選びになるのです?」
千里「ミネシーター…」
麻衣「ほんな…王子様…」

   手を振りほどく。

麻衣「なりません、絶対になりません王子様!!私はフィレンツェの卑しき身分の娘です。その様な私が、世間知らずの私が、王子様の妃になど…あってはならぬこと!!」
加奈江「聞きましたでしょ、彼女も…」
千里「ミネシーター…」

   まじまじ。

千里「君は昔から変わっていないね…君のそんな野心の強い性格…見栄っ張りなところ、私にはどうも合わぬらしい…しかし、このロジェーラ嬢は…」

   口をつぐむ。加奈江、嫉妬に泣く。

加奈江「分かりました…さようなら!私は、王子に見捨てられるくらいなら自決致しますっ!!」

   泣きながら退場。

麻衣「自決って…王子様!!お止めにならなくてよいのですか!?彼女、死んでしまいます!!」
千里「なーに、本気で言っているとお思いですか?いくら彼女でも本気で自決するようなことはない。」
 
    陽気に笑う。麻衣、心配気味に眉を潜める。


同・石畳の道 
   歩く麻衣と千里。

麻衣「伯爵様、どちらに行って要らしたの?」
千里「いや…」

   言葉を隠す。

千里「それよりも、私の思った通りだ。」
麻衣「何がです?」
千里「王子はあなたをお選びになりました。」
麻衣「何故それを?」
千里「勿論、王子のプロポーズをお受けするだろう?」
麻衣「…えぇ…」

   俯く。

千里「どうしたのです?何やら気乗りが…」
麻衣「しかしもし、この国の妃になどなってしまえば、私はもうフィレンツェへは戻れません。それどころかこの体まで…」
千里「ロジェーラ嬢…」

   二人、暫く黙って歩いている。

   空は少しずつ明るくなる。千里は懐中時計を見る。

千里「空が明るい…もうこのような時刻になってしまった…では、あなたをフィレンツェに送り届けてあげよう。早くしないとあなたは、あの森を通ることが出来なくなってしまうし、私達も朝日を浴びると、溶けて霧の泡となってしまうのです。さぁ、急いで行きましょう!!」
麻衣「ほうですね…あぁ、私もなんだか疲れてしまいました…早く帰って眠りたいわ…」

   二人で指を弾き、深い霧の中へと消えていく。
 

下宿先・麻衣の部屋
   麻衣が目覚めてベッドの上。

麻衣「もう明るい朝ね…うーっ…」

   伸びをする。

麻衣(私昨日の事は今でもまだ、はっきりと覚えている。あれは確かに夢でも幻でもないわ!!私は実際に霧の町、ネッビアロザンナへと行ったのよ!何もかもが美しくて、神秘的で…ちょっぴり不思議な町、ネッビアロザンナ…)
 
   うっとりと胸を押さえて目を閉じる。

麻衣(それと…何かしら?この気持ち…不思議な気持ち…胸が熱いわ…鼓動が高鳴る…今夜も又お会い出来るかしら?)

   ルンルンと着替えを始める。


同・千里の部屋
   千里、うっすらと目を開ける。

千里「ん…もう朝か…?」

   ハッと目を見開いて固まる。

千里(っ!!トイレっ!!)

   そっと布団の中を見る。

千里(…どうしよう…。)

    泣きそうになって暫く布団を出られずにいる。

同・キッチン
   麻衣、健司、聖二、磨子が食事をしている。

磨子「ん、そういえば…あの子は?」
麻衣「あ、小口君…」
聖二「どうしたの?」
麻衣「小口君がまだ起きてこないんよ…大丈夫だけやぁ?具合悪いだかやぁ?」
健司「俺、ちょっと見てくるよ…」

    キッチンを出ていく。


同・千里の部屋
    千里の啜り泣き。健司、ノックしてはいる。

健司「おい、千里?どうした?早く飯食いにこいよ。」
千里「…」
健司「それとも?…具合悪いか?」
千里「健司君…」
 
   涙をためた目で健司を見る。

健司「どうしたんだよ?」

   千里に近付く。

健司「ん?」
千里「どうしよう…僕…僕」

   泣き出す。健司、何かを察してそっと布団を捲る。

千里「…。」
健司「ほいこんだったんだな…」

   泣く千里を慰める。

健司「大丈夫だでほれ、泣くな!!」
千里「だって…だって…」
健司「安心しな、誰にも言わねぇーよ。これは…俺が、何とかしてやる。」
千里「健司君…ありがとう…」

   者繰り上げて布団を出る。

健司「あーあー、派手にやっちまったなぁ…ほいだけど、急にどうしたんだ?」
千里「分からない…」
健司「いいで早く着替えろよ。」
千里「うん…」
 
   パジャマを脱ぎ出す。

千里「パンツぐしょぐしょ…気持ち悪い…」
健司「ったく、しょーがねぇやつ。」

   フッと笑いながら濡れた布団を片付け始める。


同・居間
   健司と千里。

麻衣「あぁよかった。元気そうで…小口君、おはよう。」
千里「あ、…あぁ…」
聖二「ほら、君も一緒にご飯を食べよう。」
千里「うん…」

   席につく。

磨子「でもどうした?あんた顔色悪いよ。やっぱり具合悪いか?」

   千里、困ったようにもじもじ。

千里「健司君っ、やっぱり僕…隠し事なんて出来ないよっ!!」
健司「千里っ、」
千里「実は…僕…僕…今朝…」

   涙をためて下を向く。

千里「ごめんなさいっ、おねしょしちゃいましたっ…」

   暫く沈黙。

麻衣「なんだ…」

   弱く微笑む。
 
麻衣「小口君、ほれを気にしとったんね…大丈夫よ、誰も笑わん。ほれは小口君のせいじゃないだだもん。怒る人も誰もおらんに。」
磨子「そうよ。そんなことでくよくよしてたらこの中世の世、渡っていかれないわ。」
聖二「あぁ、大丈夫。君だけじゃないよ。僕にもあった。」
千里「みんな…本当に?」
全員「勿論っ。」
麻衣「だでさ、ね。小口君、笑って。笑ってご飯食べましょ。」
千里「はいっ。」

   涙を拭って食べ始める。

千里「おいし…」
 
   弱く微笑む。

麻衣「良かった…」


   その夜。

同・トイレ
   千里一人、用を足している。

千里「ん?」

   近くの棚に、赤いバッチが置かれている。

千里「なんじゃこれ?」

   手にとってまじまじ。

千里「んー?」

   ズボンをあげる。

千里「まぁいいや…寝よ。今日はどんな夢を見れるかなぁ…でも、おねしょだけはもう絶対にしないようにしなくっちゃ」

   トイレを出る。外には健司。

千里「あ、健司君。待っててくれて本当にありがとうね。」
健司「ったく、お前へー今年で二十歳になったんだろ?いい加減トイレくらい一人で入れるようになれよ。」
千里「ごめん…」

   健司、微笑んで千里の肩を叩く。

健司「バカ野郎。今夜はでも…又おねしょだけはするんじゃねぇーぞ。」
千里「うん…」
健司「お前先帰ってていいよ、俺もトイレ。」
千里「いいよ、ここで待ってる…だって、怖いんだもん…」
健司「わかったよ、この弱虫千里っ!!」

   笑いながらトイレに入っていく。


ネッビアロザンナ・中央広場
   閑散としている。麻衣一人。

麻衣(まだ少し早かったみたい…誰も来ていないわ…でも)  

   わくわく。

麻衣(私今日は我慢ができず、一人できてしまったのよ!!待てなかったの。いいわ、ここに待っていましょう…そうすればその内に…)

   そこへ千里。

千里「ようこそロジェーラ嬢。今日はお早いのですね。」
麻衣「えぇ、ですて私じっとなんて待っていられなかったのです。心が躍り、そわそわとしてしまって…。」
千里「それは私も同じです。」

   微笑む。

千里「この時期は一番楽しいとき。若いものなら誰でもが心踊るのは当たり前だろう。」

   懐中時計を見る。

千里「パーティーが始まるまでにはまだ時間もある。ではまずは、人々が来る前に私と一曲…」
麻衣「何を?」

   そこに磨子。

磨子「伴奏は私がしましょう。」
麻衣「コルデーリア!!」
千里「さぁ、ロジェーラ嬢よ。」

   手を差しのべる。麻衣も恥じらいつつ手をとる。二人、磨子のマンドリン伴奏で踊り出す。


   その内軈て、たくさんの人々が集まりだし、楽士たちに会わせてとても賑やかくなる。麻衣と千里もとても幸せそうに見つめあって踊っている。磨子は悪戯っぽく微笑んで二人を見つめている。




 


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