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石楠花物語中学生時代
不思議な出会い
小口家・寝室
   2003年12月31日、大晦日。小口千里がすっかり熟睡している。朝の3時半。目覚まし時計がなる。

千里「んーっ…」

   薄目を開ける。

千里「何ぃ?もう朝ぁ?」

   時計を見る。

千里「何だよ…まだ3時半じゃん…」

   そこへ小口珠子が飛び入ってくる。
 
珠子「せんちゃんっ!!起きた?起きたわねっ!!」
千里「あー?ママ、何だよこんな時間にぃ…まだ夜じゃん…」
珠子「今日はなんの日か忘れたの?大晦日でしょ?大晦日と言えば?」
千里「大晦日と言えば…あぁ。」

   うとうと

千里「丸高鮮魚店の朝市か…」

   再び寝入る。珠子、千里を叩き起こして布団を剥ぎ取る。

珠子「こらっ、又寝るなっ!!」

   千里、寒さに震えて縮こまる。

珠子「今年も…」

   不気味にニヤリ

珠子「勿論、行ってくれるわよね?」
千里「えーっ?」

   嫌々眠そうに欠伸をし、起き上がる。


丸高鮮魚店・駐車場
   4時。すでに沢山すぎる人々が並んでいる。千里、震えながら買い物かごをもってやってくる。

千里(ふーっ、寒い…。何で毎年こんなこと僕にやらせるんだよぉ…僕が一年間のなかでこの日は…大晦日なんてもっとも大嫌いな日なんだ…。)

   千里、列に並ぶ。

千里【そして、必ず…この大晦日の寒空の下で何もせずにぼさーっと待っていると僕はいつも】

   震えながらもじもじ。

千里【トイレに弾んじゃうんだよな…。これ、毎年のこと。そして、5時開店と同時に店に雪崩れ込む人の波に乗って僕も入り…買い物前におトイレを借りるためにダッシュ。】

    腕時計を見る。まだ4時半。

千里【あと、30分か…。でも、僕にはここに参加する一つの楽しみもあった。ママも無償で僕にこの朝早く出掛けろといっているわけではない。ご褒美に僕の好きな食べもの何でも買ってきていいんだって。だから僕はいつも…】

   そのうち開店時刻になり、雪崩れ込みが始まる。千里も人の波に押されて入っていく。

千里「ーっっ。」

   トイレへと駆け込む。


   暫くして出てくる。

千里【はぁ…サッパリ。で、僕の好きなものというのは?】

   店の中に入る。

   オードブルセットを手に取る。

千里【これこれ。これが僕の大好物。この時期限定の丸高名物。マグロ料理のオードブルセットさ。これがすっごく美味しいの。】

   他の買い物をしながら

千里【僕が初めて諏訪に来た四年生になる年の大晦日…パパが初めてこれを買ってきてくれたときから僕の大好物で楽しみとなっているんだ。】

   しばらく買い物をしてからレジにいく。

千里「お願いしまぁーす!!」


小口家・台所
   夜が明ける。

千里「ただいまぁ!!」
珠子の声「あ、せんちゃんお帰り。ご苦労様。朝ごはん出来てるわよ。」
千里「はーい、うーっ寒いっ。もーママ!!大晦日くらい、ゆっくり寝坊させてくれよ。」

   欠伸。

千里「二度寝する…」

   台所を出ていく。

珠子「こらっ、せんちゃんっ!!…んもぉっ。」

   鼻を鳴らして食卓に着く。

珠子「いただきまぁーす…。」

   朝七時。

同・千里の部屋
   千里、再びベッドに入って気持ち良さそうに眠っている。


高橋家・麻衣の部屋
   麻衣、布団で目覚める。

麻衣「んーっ、よく寝たぁ。いま何時ぃ?」

   時計を見る。

麻衣「七時か、ぼちぼち起きようかや…」
 
   布団を出てネグリジェを脱ぐ。

麻衣「ふーっ、寒っ。」

同・台所 
   房恵が食事の支度をしている。

麻衣「おば様、おはよう。」
房恵「あら、麻衣ちゃん今日も早いわね。おはよう…学校ないからもっと眠ってても良かったのに。」
麻衣「いえ、何かへー目が覚めちゃった。ご飯食べます。」
房恵「そう?なら私もこれからなの。一緒に食べましょ。」
麻衣「はい。」

   二人、食卓に着く。食べ出す。

房恵「でも麻衣ちゃん?大丈夫なの?」
麻衣「何がです?」
房恵「寂しくない?お正月くらい、ご実家に帰って良かったのよ。」
麻衣「いえ、いいです。ほいだって、おば様といるのは楽しいしほれにおば様、私がいなくなったらお寂しいでしょ?」
房恵「麻衣ちゃん…。」

   笑う。

房恵「お味噌汁のお代わりは?いる?」
麻衣「あ、ありがとう。お願いしまぁーす!!」


   食事が終わり、二人、お茶を飲んでいる。そこへ、電話が鳴る。

麻衣「あ、」
房恵「いいわよ、麻衣ちゃん。私が出る。」

   出る。

房恵「はい、高橋にございますが?あら、まぁ。はいはい、おりますよ。ちょっとお待ちくださいね。」
麻衣「誰から?」
房恵「麻衣ちゃんのお母様よ。」
麻衣「うちの母さん?なんだら?こんねに朝っぱらからどーしたっつーだら?」

   代わる。

麻衣「はーいっ、おはようございます。代わりました、麻衣です。」

   柳平紅葉が電話の相手

紅葉「あ、麻衣?はーるかぶりね。」
麻衣「母さん、どーしたんです?何?」
紅葉「あのね麻衣、急で又申し訳ないんだけどね…」
麻衣「はい?」

   話を聞いている。


   麻衣、電話を切って台所へと戻る。

房恵「あ、麻衣ちゃん。お母さん何だって?」
麻衣「おば様、ふんとぉーにごめんなさい。ほれがな…」

   話をする。

房恵「え?まぁ!!又あんた転校かい?」
麻衣「えぇ。諏訪地域で決められている事ですので、転校はどうしても仕方ないんです…こういう場合…。」
房恵「で?次はどこへ?理由は何なんだい?」
麻衣「あぁ…原村のアパートの期限が切れるもんでこれを期に、金沢のおば様の家でおいでといって下さったので金沢へ行くんですよ。」
房恵「まぁっ!!金沢ってあんた…今度は北陸まで出ちまうんだねぇ。寂しくなるよ。」
麻衣「おば様、何いっているんですか。違うに決まっています。金沢地区ですよ。茅野市の。ですから私は、今度からは、茅野市の東中に行かなくちゃ行けないんです。」
房恵「何だ、ビックリしたよ。茅野市か。私ゃ、麻衣ちゃんが今度は県外へ出ちまうかと寂しくてしょうがないと思っていたんだが、それなら良かったよ。又会えるね。いつでも遊びにおいで。」
麻衣「嫌だわおば様。ほれじゃあへー別れの挨拶みたいじゃあ!!私はまだ、今すぐにいくって訳じゃないんですから。」
房恵「ごめんごめん、それもそうだね。で、いつからだい?」
麻衣「まぁ、多分きっと春休み明けでしょう。春休みまでに荷を積めて引っ越しと言う形になるんだと思います。でも今度は」

   嬉しそう。

麻衣「私一人じゃないから嬉しいんです。家族がね、花蒔に家を建てるっていって、ほの繋ぎまでに金沢のおば様の所へ居候として置いていただくの。金沢のおば様の家はかなり広いもんで、私達家族は全員入るわ。」
房恵「まぁ、新築か、剃りゃ良かったねぇ。あんたも楽しみだ!!」
麻衣「ええっ、はいっ!!」

   二人、笑って語り合っている。


岩波家
   岩波、幸恵、悟が総出でせっせと大掃除をしている。

岩波「健司は?どうした?」
幸恵「さぁね…」
悟「あぁ、あいつならまだ寝てるよ。」

   時間を見る。

悟「へー九時になるぜ。お袋、起こした方がいい?」
幸恵「全く、休みだからっていつまでも寝てて仕方のない子ねぇ。」

   健司の部屋へと階段を上っていく。

同・健司の部屋
   健司、まだベッドに熟睡している。幸恵、素早く布団を剥がして健司をベッドから転げ落とす。

健司「いたっ、」

   驚いてキョロキョロ

健司「何だ、…お袋かよ?一体何なんだよ。いてぇじゃねぇーか?」
幸恵「何なんだよじゃありませんっ!!いま何時だと思っているのっ!!早く起きなさいっ!!」
健司「ったくうっせぇーな、今は冬休みなんだししかも大晦日だろ?年末年始くれぇーゆっくりと寝かせてくれよ…。」
幸恵「普段から休みっていったらお昼まで寝ている人は誰でしたっけ?せめて年末年始位は早く起きて貰いたいわ。ほら、大掃除よ。お兄ちゃんもやってるのよ。だからあんたも早く着替えて家の事をやってちょうだい!!分かったわね。」
健司「ほーいっ。」

   幸恵、出ていく。健司、めんどくさそうに舌打ちをして幸恵の後ろ姿を恨めしそうに睨み付けながら着替えを始め出す。

同・台所
   健司が欠伸をしながら入ってくる。

悟「おい、タケっ!!お前いつまで寝ているんだ。遅いぞ。」
健司「ったく、大晦日くらい、もう少しねかせろっつーの。」

   お腹が鳴る。

健司「あー、腹へった…お袋朝ごはんは?」
幸恵「色々とあるでしょ?自分で装って食べなさい。」
健司「チェッ。」
岩波「お前が遅いからへー片付けちまったんだ。自分でやるのが嫌だったら朝早く起きて、家族で揃って食べるようにしなさい。」
健司「ほーいっ。」

   ご飯やおかず、お味噌汁を色々と盛ったり準備している。


小口家・千里の部屋
   千里、伸びをして起きる。

千里「ん、ふぁーっ、よく寝たぁっ…と。」

   目覚まし時計を見て青ざめる。

千里「嘘だろっ、やばっ!!どうしよう…」

   正午。お昼の鐘も鳴っている。千里、頭を抱える。

千里「どうしよう…ついついこんな時間まで眠っちゃったよ…年末年始早々、又お説教されちゃうよぉ…」

   肩を落としながら着替え始める。

千里「ふーっ、寒いっ。早くご飯食べて暖まろっと。」

   部屋を出ていく。

同・台所
   珠子、夕子、頼子、忠子。お昼を食べている。そこへ千里。

千里「おはよ…」
夕子「何がおはようだよっ!!」
千里「ひぃっ」
夕子「あんたは…しかも二度寝したんだってね。姉さんから聞いたよ。全く呆れた人だよあんたって子は!!ほれ、書き初めは?やったのかい?」
千里「書き初めはは二日だろ…」
夕子「冬休みの宿題は?」
千里「うるさいなぁ!!年末年始くらいは宿題や勉強の話は頼むからしないでくれよ!!」

   席についてレモンティーをくーっと一杯一気飲みする。

千里「冬休み中やるのは嫌だからね、そんなのもうとっくに済ましたさ。」

   自信満々。 

千里「とにかくママ、もう僕お腹ペコペコだよ。早く食べたいな。お昼は何?」
珠子「クルミのお汁粉よ。」
千里「わぁやったぁ!!美味しそう。」
珠子「せんちゃん、あなたお餅幾つ入れる?」
千里「んーんとねぇ、三つかな?いや、四つ。」
夕子「おいおい千里、よくばっいゃいけないよ。まずはとりあえず…せめてもの二つにしときな。」
千里「大丈夫だって!!」
夕子「新年早々お腹痛めたって知らないよ。私ゃへー見てやんないからねぇ。」

   千里、嬉しそうにお汁粉を頬張っている。

夕子「それに今日は、大阪から私の夫…つまりお前の叔父の寧々が来るからね。きちんとおし。」
千里「やったぁっ!!」

   夕子、千里をきっと睨む。千里、びくりとしてしゃんとする。

千里「はいっ!!」

語り【こうして、大晦日を得て、それぞれ三人の男女の新年は始まっていくのであった。この年は受験生の年…三人にとって一体どんな年になっていくのでしょうか…?】

   それぞれの家では三人が家族たちと共に思い思いに色々を食べたりして楽しそうに過ごしている。

   各各地で除夜の鐘が鳴り響く。

諏訪中学校・教室
   
麻衣「え、パフォーマンス大会?何それ?」
真亜子「うん、何か藤森先生が学年総出で今年はやるらしいよ。」
眞澄「何だか、何でもいいからグループ作っても個人でもいいから、パフォーマンスをステージで発表する会だとか。」
マコ「得意なこと…好きなこと…。私はまぁ、チャールダーシュかしら?」
麻衣「ほっか。北山は昔からチャールダーシュやってただっけ?」
眞澄「最近はなんか流行ってるもんね。」
真亜子「確かに…」

   そこへ、後藤、小平も来る。

後藤「何かめんどくせ、俺発表するこんなんてねぇーよ。」
小平「おいおい、秀はつれないなぁ。俺はもう決めてあるよ。」
後藤「小平、お前もかっ!!」
千里「ブルータスっ、お前もかっ!!」

   迫真の演技をするが我に帰ると真っ赤になって下を向く。

麻衣「小口君は?」
千里「ぼ、僕っ?」

   おどおど。

千里「僕は…無理だよっ!!絶対にいやっ!!」
後藤「いいじゃん?お前は又、女装でもして?源チサとしてステージに出れば。それだけでも充分にパフォーマンスになるぜ?」
小平「んだんだ、それ言えてる。」
千里「いや、絶対にいやだっ!!」
眞澄「それでぇ?ピアノ弾く?チーちゃんピアノ得意だし。」
マコ「それとも私と一緒に踊るとか?教えてあげるわよ、チャールダーシュ。」
真亜子「それとも、女性もののレオタードでバレエ?あんた確かバレエやってるんでしょ?」
千里「…。」

   俯いてモジモジと泣き出しそう。 

麻衣「やめなみんなっ!!彼、泣いちゃってるじゃないの!!」
千里「僕は…僕には…」 

   教室を飛び出ていく。

同・男子トイレ
   個室に籠って泣く千里。そこへ、恐る恐る麻衣。

麻衣「失礼しまぁーす…」

   中へ入る。

麻衣「小口君、いる?」

   個室から泣き声が聞こえる。

麻衣「小口君?」
千里「僕には無理だ!!無理なんだよ!!」
麻衣「何いっとるんよ。大丈夫だに。ほれに…」
千里「だって僕は、臆病だし、プレッシャーにはとても弱い…緊張すぐしちゃう…。」
麻衣「でもあんたはこの間、あんなに度胸のあることをやったじゃない。最後に、ちゃんとカミングアウトしたあんたはとてもかっこよかったに。」
千里「源チサの時だって、僕はあんなたくさんの人前でおもらししちゃった…だから怖いんだよ…僕にはもう自信がないんだ。…又同じ過ちを…」
麻衣「小口君、考えすぎよ。あんたのほの考えすぎが、余計に不幸を呼んでしまうんよ!!」
千里「…」
麻衣「さ、へーほこから出てきて?教室へ戻りましょう。」

   千里、そっと出てくる。

麻衣「恐かったら、二人でやりましょう。いつも私がついてるで、あんたはモーマンタイン…だに。」

   いたずらっぽく笑う。

麻衣「♪大丈夫、大丈夫、あんたはモーマンタインっ!!てな。」

   千里の背中をポーンっと叩く。

麻衣「今日の放課後、私んちへおいで。」

   千里を支えてトイレを出ていく。


高橋家・麻衣の部屋
   麻衣と千里。

麻衣「はい、まずとりあえずはお茶どうぞ。」
千里「ありがとう…」
麻衣「で?」
千里「で?」
麻衣「パフォーマンス大会のこんだだけど…」

   千里、肩を落として俯く。

麻衣「私と共にやるか?」
千里「き、君と!?何を?」
麻衣「ほれは?」

   あるパンフレットを見せる。

麻衣「これ。私がピアノ伴奏するでだで、あんたは又源チサとして出る。今度は踊り子として踊ってね。」
千里「又…源チサ?やだよぉもう僕女装なんて!!」
麻衣「これも、あんたに度胸をつけさせるためよ。な、よしっ。」

   立ち上がる

麻衣「これで決まりっ。日もあまりないに。練習だ!!練習!!」

   千里、不安そうに小さくため息。


   (しばらく)

麻衣「ところであんた、今年は受験だら?どこ希望しとるの?」
千里「うん…でも、僕の希望なんて叔母さんに蒙反対されてるから…」
麻衣「叔母さんに?お母さんは?」
千里「ママはとっても応援してくれているんだけど…」
麻衣「ほんなの、お母さんが応援してくれるんならほの道進めばいいじゃないの。」
千里「でもいま僕んちでは叔母さんが権力を握ってるようなもんだからさ…叔母さんの言うことは絶対…。逆らえないんだ…。」
麻衣「ほんな…で?あんたはどうしたいの?」
千里「僕?僕は…」

   恥ずかしそうに上目を向く。

千里「絶対に笑うなよ…?」
麻衣「笑わないわよ。笑うわけないわ。言ってみて…」
千里「京都…芸術高校…」
麻衣「京都芸術高校?」
千里「うん、京都にある全国的にも有名な名門校なんだ…。でも、僕みたいな赤点続きの人が到底試験なんて受けられっこないし。だって、そうだろ?どうせ行ったって負けにいくようなもんさ。でも、叔母さんが反対するのはそんなことじゃないんだ。ま、それも大いにあるけどさ…一番は…」

   悔しそうに

千里「僕がピアノをやることをとても嫌っているんだ。ピアノとバレエは早くやめちまいなっていつも言ってくる…」
麻衣「どいで?いいじゃないの!!」
千里「男らしくないからだって。叔母さんは、僕を本当に男らしいことをやる、男らしく育てたいらしいんだ。でも僕は…」
麻衣「いいに小口君、」

   励ますように

麻衣「あんたの人生だだもん、あんたのやりたいことをやりゃいいんよ。な。」
千里「麻衣ちゃん、でも…」
麻衣「あんたも自分の意思を言えるもっと強い男になりな。叔母さんに立ち向かって抗議しないとダメよ。あんたがしっかりと自分の意思を主張すりゃ、叔母さんだってきっと分かってくれるんじゃないかやぁ?」
千里「んー…」

永延・フロアー 
   千里が女装をして躍り歌っている。伴奏は麻衣。

千里【それから僕は、何だかんだで結局再び、源チサとしての舞台をやることになり、毎晩永延のフロアーステージで練習をすることになりました。】

   『青いパゴダのサロンでは』

客「チサちゃんいいよぉ!!」
客「又戻ってくれてありがとな!!」
客「夜のこの時間だけはよぉ?小口千里君じゃなくて、どうか源チサとしていておくれ!!」

   客たち、大盛り上がり。千里も照れながら頬を赤らめて踊っている。麻衣も笑顔で千里を見つめながら伴奏をしている。


諏訪中学校・体育館
   パフォーマンス大会当日。二年生全員が集まっている。麻衣と千里は隣同士。

千里「ふーっ、ふうっ、」

  緊張でどうにかなりそう。麻衣、宥めながら千里を落ち着かせる。

麻衣「大丈夫よ、小口君。あんたなら出来る。練習通りにやればいいのよ。」 
千里「でも…」
麻衣「間違ったってへっちゃら。私がおるに。」

   どんどんと過ぎていく。笑ったり、歓声をしたり、清聴して泣き出したりしている。

千里「ひぃーっ、次だ…次だっ…」
麻衣「落ち着いて、小口君深呼吸。落ち着いて…」

   麻衣、千里の背を擦る。

藤森先生「続きまして、二年一部…小口千里君と柳平麻衣さんのペアです。お願いします。」

   二人、ステージの方へ登っていく。

藤森先生「では、準備が整い次第始めていただきたいと思います。」

   ステージ裏で千里は女装、麻衣は男装に着替えている。

藤森先生「それではよろしいでしょうか?」
麻衣、千里「はいっ。」
藤森先生「では、お願いします。」

   二人、ステージに出る。麻衣はピアノにスタンバイ。千里はタンバリンをしゃらしゃらとならしながら登場。会場からどっと笑いが起きる。 

後藤「あいつをからかって言ったのに…」
小平「千里のやつ本当に女装してきやがった…」
眞澄「チーちゃん…」
真亜子「へぇー、あれが源チサか。可愛いじゃん。」
マコ「少しも男には見えないわ。本当に女の子そのものね…あれなら。」

   全員、顔を見合わせる。

5人「例え女子トイレだって堂々と入れちゃう…」

   一斉に吹き出してクスクス。

   千里、麻衣の伴奏で歌いながら舞出す。
   『青いパゴダのサロンでは』

通学路
   麻衣と千里が並んで帰っている。

麻衣「でも小口君、今日は良かったに。あんた、溌剌堂々としとってかっこよかったに。」
千里「本当に?なら良かった…」
麻衣「ん!!これで少し自信ついた?」
千里「まぁ、ちょっとはね…でも、そのときはついたと思っても…」

   下を向いたままもじもじ。

千里「数週間、数ヵ月と日をおいちゃうとダメなんだ…又すぐに逆戻りさ…」

   ため息。

千里「どうしよう…僕、今年の九月がピアノの発表会なんだ…」
麻衣「まぁ、ほーなの?実は私も。あんたどこのピアノ教室?」
千里「僕はね…少し遠いけど…富士見の富里の、芳江先生のところへ行ってるの…」
麻衣「まぁ!!実は私も!!」

   千里、驚いて立ち止まる。

千里「それ、本当に!?」 
麻衣「えぇ!!小口君もそうだなんてビックリ!!でも、諏訪からなんてえらい遠いな…どいで?京都から来たばっかの頃は富士見の方に住んでいたとか?」
千里「いや、そうじゃないんだ。ママがこっちでも僕がピアノやりたいっていったら色々と探してくれて、見つけたのがそこだったんだ。お月謝安いのに、結構名門らしいから…」
麻衣「確かに!!」

   二人、笑いながら歩いている。


岩波家・和室
   岩波、幸恵、健司。健司、座蒲団の上に正座をしている。岩波はテストの答案を持っている。

岩波「健司っ!!お前ってやつは…又もこんな点をとって!!岩波の次男として恥ずかしくないのかっ!!」
幸恵「そうよ!!もっとちゃんとお勉強しなさいっ!!やらないからこうなるのです。」
健司「俺だってちゃんとやってるよ!」
幸恵「ちゃんとやっているのなら、何でこんな点数になるのです!?あなたは、本当に岩波の息子として」
健司「別に恥ずかしくねぇーよ!!」
岩波「分かった…こうしよう…」

   立ち上がる。

岩波「健司、お前のために家庭教師を雇うことにする!!」
健司「か、家庭教師をっ!?」
幸恵「そうよ。いいでしょう…家政婦兼、家庭教師をやってくださるいい方がいらっしゃるらしいのよ。あなたたちも大きくなったから、母さんもそろそろ仕事に復帰したいと思ってる。だから母さんも丁度…」
健司「ならいいだろう、家政婦だけで!!」
幸恵「いいじゃないの。そんな方がいらっしゃるのなら一石二鳥だわ。いつまでも悟にあなたの勉強付き合わせるのも可哀想ですものね。」
岩波「では健司、これで決まりだ。意義はないな…解散。」
 
   二人、部屋を出ていく。

健司「お、おいっ、ちょっと待てよ!!俺家庭教師についての勉強なんて絶対に嫌だからなっ!!おいっ!!きんてんのかよぉ!!親父!!お袋っ!!」
幸恵「少し考えますっ!!嫌ならしっかりと勉強やりなさいっ。もしこの次でいい点が取れないようなら…おやつとお夕飯は抜きにします。そして、家庭教師もつけさせていただきますっ!!いいですね。」

   健司もむっつりとして立ち上がり、部屋を出る。出入り口には岩波悟。

健司「兄貴…盗み聞きかよ…?」
悟「タケ、お前はいつでも説教の種がつきないな。」
健司「ったく、怒らなくていいこんで怒られてんだぜ?俺は!!どいで!!」

   悟にテストの答案を見せる。

健司「国語85点、数学76点、理科89点、社会99点、英語90点の平均点439点であんなにお説教されなくちゃいけねぇーんだよ!!俺にはさっぱり意味わかんねぇ。」

   ツンッと鼻を鳴らして自分の部屋へと階段を登っていく。

白樺高原・コスモス湖岸
   麻衣、健司、田中磨子、リータ

健司「ってわけ。どいで400点以上もとってるだに怒られなくちゃいけないんだ?」
麻衣「確かにねぇ…今回はあんたのいうこんも一理あるわ。」
健司「おいっ、今回はってどいこんだよ!!今回はってのはよぉ!!」
磨子「ほりゃ、あんたの家系が如何に優秀かってことね。みんなつまり、あんたよりいい点数とったのよ。だからあんたが赤点に見える。」
健司「てっめえまーらなぁ!!」
リータ「で?あんたは家庭教師がつくのかい?つかんのかい?」
健司「家庭教師なんていやっ!!絶対にいやっ!!」

   ツンッとして湖に思いっきり石を投げ入れる。

磨子「で、麻衣ちゃんの方は?最近の暮らしはどう?仕事終わってからも上手くやってる?」
麻衣「えぇ、今かりん水の生産を始めたの。ほれを手伝っとる。三月までな。後はまぁ、凍み大根。」

   ため息をつく。

麻衣「春が来たら…又私は転校させられる。」
健司「は、又転校かよ?」
磨子「今度は何処へ?」
麻衣「茅野だに。…茅野の東中…」 
リータ「何?又って?」
磨子「麻衣ちゃんね、気の毒なくらい小学校の頃から転校が多いのよ。」
リータ「何で?」
磨子「この地域の決まりなのよ。ある地域に引っ越しをしたり住むのであれば、学校も変わらなければならないって決まりがあるの。」
リータ「そんなぁ、めんどくさいぜ…」
麻衣「だらぁ?」
健司「ふんとぉーにな。どいでこんな掟を作ったんだ?こんなのさえなければ俺だって…」

   ため息。
 
磨子「あんたはダメさ。」
健司「どいでだよ?」
磨子「だって、原村に新しいお家を建てて永住することが決まったんだら?なら転校は当たり前よ。私たちが言ってるのは、麻衣ちゃんみたいな引っ越し娘の事よ。」
健司「ちえっ、ん?」

   ニヤリ

健司「なら、千里は?」
麻衣「小口君?あぁ…彼にはまだ話してないんよ…」

   申し訳なさそう。

麻衣「きっと彼、寂しがるだろうなぁ…折角お友達になれたのに…」
磨子「小口君って、去年のエレベーターの子でしょ?」
麻衣「ほーよ。」
磨子「諏訪にいるんでしょ?」
麻衣「えぇ…」
磨子「なら又いつでも会おうと思えば会えるじゃない!!もしあれなら彼もコスモス湖岸に連れておいでよ。私も又あの子に会いたいし…みんなで遊べばいいわ。」
リータ「そうだよ!!私も会ってみたいしさ。まぁ…去年のエレベーターっつーのは全く分からないけど…」
麻衣、健司、磨子「去年じゃなくて、一昨年だっ!!」
磨子「あれ、リータ…あんたに話してなかったっけ?」
リータ「いやっ、何も聞いてないよ。」
磨子「あのね…」

   話をし出す。リータ、ほーほーと聞き入っている。


小口家・千里の部屋
   千里、勉強机に向かって勉強をしながら頭を悩ませている。

千里(あー…どうしよう、どうしよう…でも僕にはやっぱり言う勇気なんてないよ…あの叔母さんに立ち向かうだなんて…僕には一生無理だ…)

   時計がなる。

千里(タイムリミット…5問も解けなかったよ…。これじゃあ又叔母さんにこっぴどく叱られる。)

   震え上がる。

千里(ふーっ…何かトイレ行きたくなっちゃったよ…)

   部屋を出ていく。


同・トイレ前
   千里が入ろうとする。そこへ電話。

千里(あ、電話!!)

   電話の元へ行って受話器を取る。

千里「はい、こちら小口…」

   嬉しそう 

千里「あ、麻衣ちゃん!?何?」
麻衣の声「あ、小口君?もしこれから空いていたら私のお家へ来ない?丁度美味しいかりんのお煮物とかりんのクッキーを作ったのよ!!」
千里「わぁ!?本当に!?行く行く行くっ!!絶対に行くっ!!」

   ルンルンと有頂天で防寒をすると家を出ていく。


高橋家
   チャイムがなる。

千里の声「麻衣ちゃんーっ!!来たよぉ!!」
麻衣「はーいっ!!」

   千里が入ってくる。

麻衣「いらっしゃい。さぁ、上がって。」
千里「ありがとう、お邪魔します。」

同・麻衣の部屋

麻衣「どうぞ。」
千里「うんっ!!」

   畳に座る。 

麻衣「ちょっと待っててね、今お茶用意するわ。」

   出ていこうとする。

麻衣「何して遊ぶ?」
千里「えーとねぇ、何がいいかなぁ…」

   キョロキョロ

   麻衣、台所で食事の支度をしている。

千里(へー…彼女、本当に本が好きなんだなぁ…色々ある…)

   そこへ麻衣。

千里「あ!!」
麻衣「どうぞ。今年取れ立てで、作りたてのかりん水と初物のかりんで作ったんよ。お口に会うかどうか分からんけど…食べてみて。」
千里「やったぁ!!いただきまぁーすっ!!」

   食べる。

千里「ん、すっごく美味しいや!!ありがとう!!」
麻衣「ほー?良かったわ。どんどん食べてね。はい、」

   お茶をつぐ。

麻衣「ほしてこれがかりんの紅茶だに。これも今年初物のかりん水で作ったの。」
千里「うわぁーっ!!!」

   ごくごく

千里「どれもすっごく美味しいやっ!!お代わりっ!!」
麻衣「はーいっ!!」

   千里にどんどんと紅茶をついでいる。

千里「僕、何かフルーツの紅茶にはまっちゃいそうだよ。」
麻衣「ほれは良かった。」

   トランプを取り出す。

麻衣「なら、トランプでもやる?」
千里「二人で?」
麻衣「ほれもほーね…なら折角だわ。みんなも呼ぼう!!」


   しばらく後、眞澄、マコ、真亜子、後藤、小平も来ている。七人でトランプをしている。

麻衣「はぁー、楽しかった!!なぁ…ところでみんな…」
眞澄「何麻衣?」
麻衣「折角みんな集まっているんだから私…みんなに言いたいことがあるの。」
マコ「言いたいこと?」
麻衣「えぇ…」
真亜子「どんなこと?」
後藤「何だよ…早く言ってみろよ。」
小平「そうだよ…」
麻衣「では言いますっ!!…実はな…」

   話し出す。


   暫くして

他六人「えーーーーーっ!!!!?転校ーーー!?」
麻衣「ほーなの…ごめんな急で…。地域の慣わしにならって従わなくちゃ…」
眞澄「で!今度は何処に行くのさ?」
麻衣「東中だに、茅野の…」
真亜子「茅野か…少し遠くなっちゃうね。」
麻衣「でもまぁ、すぐお隣で…諏訪圏の内だし…又会おうと思えばすぐに会えるに…いつでも遊ぼ。」
 
   千里、少し俯いて寂しげ

麻衣「小口君…」
千里「いつ?」
麻衣「三学期中はずっとおる。来春からよ…」

   察する。

麻衣「みんな、小口君に何があっても決してからかったり苛めないこと。もし彼がそんな目に遭っていたら助けてあげるのよ。そしてもし…もしも、昨年の初めのようなことが彼にあったとしても決して笑わないって約束して。友達なら庇って守ってあげてな。」
千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「もしっ、彼を泣かせるようなことをしたらこの柳平麻衣が黙っちゃいないに!!分かった?」

   他、5人びくりとしてシーンとなってポカンと麻衣を見つめる。

麻衣「レイミーテンデ!?」

   千里、寂しそうにずっと俯いている。


   夕方…全員が玄関で別れて帰っていく。


上川城南の道
   千里、ハッと立ち止まる。

後藤「ん?」

   振り向く

後藤「千里、お前どうした?」
小平「早く帰ろうぜ。」
千里「わ…忘れてた…」
小平「何を?」
千里「トイレ行きたいっ!!」
後藤「なら家でやれよ、お前んちもうすぐだろ?」
千里「もうダメっ!!家までもたない!!」  
小平「ったく、じゃあ何で柳平ん家で借りてこないんだよ!!」
千里「…今思い出したんだもん…トイレ行きたかったこと…」  

   泣き出しそうに立ち止まっている。数百メートル先にはコットン1/2。

後藤「しょーがねぇーなぁ…ならコットン1/2までは我慢しろよ。そこで借りてけ。」
千里「う…うん…」

   小平、後藤、千里を支える。

小平「おい、鈴木に永田、北山、お前らは先に帰ってていいよ。俺ら、こいつに付き添うで。」
眞澄「分かった。」
真亜子「気を付けてな。」
マコ「もらすなよぉ!!」

   三人、冷やかすように走って帰っていく。

   千里、後藤、小平のみ。

小平「千里、おい…コットンまで歩けるか?」
後藤「てか頑張って歩けっ!!」

   二人、千里を支えて励ましながら歩いていく。


コットン1/2・男子トイレ
   千里、後藤、小平

小平「ほれ、着いたぞ!」
後藤「早くしろよ。」
千里「ありがとうっ…うぅぅっ、もれちゃうっ…」

   個室に飛び込む。二人、顔を見合わせる。

後藤、小平(何で個室…?)

   やがて千里が出てくる。

千里「お待たせ、ありがとう。」
後藤「おい、どいでお前…個室に入ったんだ?」
小平「腹痛かった?」
千里「あ、いや…」

   照れたように頭をかく。

千里「いっけない!!源チサん時の癖がついちゃったんだ!!」
後藤「さ、帰ろうぜ。」
小平「もうこんな時間だ。お前の母ちゃんも心配してるだろ。」

   千里、腕時計を見て青ざめる。

千里「やばっ、早く帰らなくっちゃ!!」

   急いで手を洗ってトイレを飛び出す。他二人をあとをおってコットンを後にして駆け出していく。


高橋家・麻衣の部屋
   その頃。勉強をしながら時々カーテンを開いては月を眺める。満月。 

小口家
   千里、恐る恐るはいる。

千里「た…た…ただいまぁ…」
珠子と夕子の声「千里っーーーーっ!!!」
千里「ひぇーっ、はーい…ごめんなさいっ!!」
珠子の声「ごめんなさいじゃありませんっ!!ちょっと奥間に来て座って待っていなさいっ!!」

   千里、怖々ながらもしゅんとして靴を脱ぐととぼとぼと奥間に入っていく。


同・奥間
   珠子、夕子、千里。千里がガミガミと長いお説教を受けている。

   終わると泣きながら部屋へと戻っていく。

同・千里の部屋
   千里、ベッドに泣き伏せている。

千里(麻衣ちゃん…麻衣ちゃんが…転校しちゃうなんて…折角再会してお友達になれたのに…もう会えないのかな…彼女と遊ぶことは出来ないのかなぁ…) 

   しばらく泣いているが、パッと起き上がる。

千里(あ…あんなに紅茶飲んだから又トイレに行きたくなってきちゃったよ…叔母さんーっ、ママぁーっ!!トイレぇーっ!!)

   部屋を勢いよく飛び出ていく。

岩波家・健司の部屋
   その頃。健司、そこへ幸恵と藤宮つぼと藤宮太郎が入ってくる。

幸恵「健司、紹介するわ。新しく家に入ってくださることになった家政婦の藤宮つぼさんと、あんたの家庭教師をしてくださる息子の太郎くんよ。」

   健司、嫌々二人を見つめて小さく会釈。つぼはぶっきらぼうに頭を下げ、太郎はツンッとした態度で健司に笑いかける。健司、少々いらっとして二人を見つめている。
   
   















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