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石楠花物語中学生時代
恐怖のテストとお説教

諏訪市役所・駐車場
   諏訪中が集まって閉会式が行われている。

市長「それでは、平成15年度から七年間、諏訪市振興観光大使を努めていただく看板娘を発表致します。」

   諏訪の看板娘たちが息を呑む。マコはツンッとした態度で堂々としており、眞澄も気が強そうに堂々と仁王立ちをしているが、二人とも千里に気が付くとクスクスと笑っている。千里、二人をキッと睨み付けるがすぐに又しゅんと下を向いてしまう。

市長「観光大使、グランプリは…」

   会場を見回す。

市長「諏訪市上川城南地区、ハンガリーレストラン“永延”の看板娘、中学二年生の源チサさんです。おめでとうございます。」

   千里、キョロキョロと動揺をしてあり得ないという顔をする。人々、千里を見て笑顔で大拍手。後藤、小平、眞澄、マコ、真亜子も驚いて千里を見る。須山、芳惠、房恵は千里を一斉に抱き締める。

市長「それでは、チサさんに色々とお話をお聞きしたいと思いますのでね、源チサさん、ステージの方へ上がってきてくれますか?」

   千里、戸惑い気味に須山たちを見るが須山、千里に目配せ。千里、意を決したように堂々と、でも固く緊張気味にステージの上へ登る

市長「はい、ありがとうございます。それではね、優勝した源チサさんに色々とインタビューを…」
千里「ちょっと待ってください。」

   戸惑い気味に

千里「その前に…一言言いたいことがあるんです。僕にお話しさせて貰えませんか?」
市長(僕?)

   千里にマイクを渡す。

市長「は、はい分かりました。どうぞ…」
千里「ありがとうございます…」

   緊張気味にマイクを受け取って生唾を飲み込む。須山、芳惠、房恵も何が始まるのかわからずに不安げな顔をして千里を見つめている。千里、戸惑ってはいるが意を決したように重い口を思いっきり開く。

千里「皆様、本年、僕を看板娘に選んでくださいまして誠にありがとうございました。僕が、ただいまご紹介に預かりました源チサ…ではありませんっ。」

   会場、ざわざわ。須山、芳惠、房恵も困惑している。

千里「須山さん、女将さん、そして…房恵さん…ごめんなさい。」

   頭を下げる。

千里「僕は本当は、源チサ何て名前じゃない!!それどころか女の子でもない!!」
須山「え?」
千里「僕は、外見も中身も、勿論戸籍上も男の子なんだ。本名は…真の名は…」

   三人を見る。

千里「小口千里、と言います。」
房恵(小口千里君…?)

   少し考えて以前麻衣が連れてきたことを思い出す。

房恵(まぁ!!)
千里「僕は、看板娘としての仕事をしているときに一度だけ…お客さんたちの目の前で」

   顔は真っ赤で泣きそう

千里「トイレを我慢できずにもらしてしまったことがあります。僕は、女装の身だったから、仕事中はトイレに行けなかったんだ!!」

   泣き出す。

千里「外見はいくら女の子に見えても僕は男。中身は全て男…。だから、女子トイレなんて申し訳なくて入れるわけがない!!かといって、男子トイレには入れない。」

   話を続けている。

千里「ここ、市役所でしょ?嘘だと思うのなら戸籍書を調べてください。源チサ何て女の子、存在しません。代わりに、小口千里という男の子なら存在します。だから僕は…嘘をついて詐欺をしたくはありません。よって」

   掛けられた襷を外す。

千里「この様な名誉を受けるわけには行きません。」

   涙笑い。

千里「嘘をついていることはずっと辛かった…今やっとスッキリしています。」
市長「でも、なにか動機はあるのかな?君はなぜ女装をしてまで…」
千里「友達や友達の親戚の店を助けたかったんです。友達は、事情があって今、城南の親戚の家にお手伝いをするために住み込みで働いています。本当は彼女が看板娘をやるわけでした。でも、彼女が休養で出られなくなってしまい…」

   話を続ける。

千里「だから…」

   会場から大きな拍手が起きる。

千里「え?」
声「チサちゃん、打ち明けてくれてありがとう。」
声「君が男の子でも、俺達は君のファンだ、嫌いになんかならないよ。」
声「なぁ、市長さんや。チサちゃん、…いや、千里君をどうか…失格にはしないでおくれ。」
千里「みんな…」

   首を降る。

千里「でも、いいえ。いけません。」
市長「では改めまして…優勝を発表致します。」 

   会場からブーイング。千里、寂しげに笑う。

市長「同じく、城南の“永延”から…ウェイターボーイの、小口千里君。」
 
   会場から大歓声。千里、驚いてキョロキョロ。

市長「おめでとう。これからも頑張ってくださいね。優勝の小口千里君には、七年間のPR大使を努めていただく他、七年間、諏訪市内のどこの食堂でも使える食事1品無料サービス券と、賞金200万円を贈呈致します。」
千里「市長…」
市長「さぁ小口君、この賞金、何に使いたいですか?」
千里「僕は…僕は…本当に、僕なんかが貰ってもいいのでしょうか?」

   市長、微笑んで頷く。

千里「ピアノを買いたい!!」

   わっと泣き出す。会場からは大きな歓声と拍手。

夕子「まぁ、あの子ったら呆れたねぇ、あんなこと言ってるよ。」
珠子「せんちゃん…」

   千里、泣いて微笑んで挨拶をしている。 


小口家・台所
   夕食。夕子、珠子、千里、頼子、忠子。

珠子「おめでとうせんちゃん、頑張ったわね。まさか私、あなたが優勝しちゃうなんて思わなかった。見直したわ。」
千里「ありがとう…これでもう、女装はしないで男の僕としてこれからは活動できるから嬉しいよ。」
夕子「良かったね。でもなんだい、賞金の使い道!!本気であんなの考えてるんじゃないだろうねぇ?」
千里「勿論本気だよ!!使わずに貯金しておいていつか必ず、ちゃんとしたお家に住めたときに、グランドピアノ買うんだ!!」
夕子「いけないよっ!!ピアノとバレエなんてへーいいだろう!!やめちまいな。」
千里「嫌だ!!それは絶対にいやっ!!」
夕子「千里っ!!」
千里「僕もう決めてあるんだもん!!中学を卒業したら、京都の芸術高校ピアノ科を受けるんだ!!」  

   立ち上がる。

千里「叔母さんになんと言われようが、考えは変えないから…。僕は、僕は、ピアニストになるんだっ!!」

   台所を出ていく。

夕子「これっ、まて千里っ!!私は絶対に認めないからねっ!!」
珠子「何で夕子、そんなにせんちゃんにやめろやめろっていうの?別にいいじゃないの。」
夕子「私ゃ、あの子のこれからの将来が心配なんだよ。音楽やったってなんの役に立つ?プロんなれるのなんてほんの一握りなんだよ。そんな叶わぬ夢を追うより、あの子にはちゃん土地に足をつけて生きてほしいんだ。今だって、ただでさえ勉強が送れてるのに…」
珠子「私は、そうは思わない。せんちゃんの才能を信じているわ。」
夕子「姉さん!!」
珠子「言っておくけど夕子、せんちゃんの母親は私なのよ。」

   珠子も立ち上がって部屋を出る。夕子、やれやれとため息をつき、お茶を啜る。

同・千里の部屋
   千里、イライラと電子ピアノを弾いている。そこへ珠子。千里、鍵盤をがーんと打ち、鍵盤の上に崩れ込む。

珠子「せんちゃんっ!?ちょっとせんちゃん大丈夫?」
千里「こんなピアノ…これじゃあ…全然弾けないよ…全然ダメだよ…」

   泣き出す。珠子、千里の肩を抱く。

珠子「せんちゃん、大丈夫よ。せんちゃんの夢はママが応援してあげる。ママ、せんちゃんの為にお給料のいい職場探して働くから…。よく自分の夢、話してくれたわね。とてもママ嬉しかったわ。」
千里「ママ…」
珠子「せんちゃんの選んだ学校、受けなさい。その代わり、しっかり練習するのよ。」
千里「ママ…」

   嬉し泣き

千里「うんっ!!僕頑張るよ。ありがとう。」
珠子「叔母さんにはママから言っておきますからね。」

   千里、珠子の胸に抱きつく。

珠子「よしよし、ほらほら甘えん坊さんね。」

   千里を優しく叩きながら

珠子「せんちゃんは今、どんな曲をやっているの?」
千里「いまはまだ、チェルニー60番を始めたばかりなの…。」
珠子「あなたは、ピアノの才能がとってもあるんだから!!大丈夫よ。来年はどう?コンクールとか受けてみましょうか?」
千里「コ、コ、コ、コンクールっ!?そんなの僕にはまだ無理だよ!!」
珠子「無理かどうかはやってみなくちゃ分からないでしょ?」

   静かに微笑んで部屋を出ていく。


通学路
   千里一人。

語り【この間はあんなに優しかったのに…】

   千里、肩を落としてとぼとぼ。そこへ麻衣。

麻衣「オーイっ、せんちゃん!!元気ないな。どーった?」
千里「あ、麻衣ちゃん…」

   しょんぼり

千里「きっとうちに買えったらおばさんとママにこっぴどく叱られる。」
麻衣「どいで?」
千里「テストの点数…悪かったから…」
麻衣「何点?」
千里「…君は?」
麻衣「私なんてとても低いに…平均点、350いってないもの。」
千里「350か…」
麻衣「あんたは?」
千里「誰にも言わない?」
麻衣「勿論よ、秘密厳守…」
千里「平均点…210点なの…」
麻衣「ほーか、」

   励ます。

麻衣「大丈夫よ、次があるんですもの。次頑張ればいいに。私も、一年の頃はよくほんくらい、や、ほれ以下の点数だったこんあったに。」

   励ましながら歩いている。

千里「ありがとう…君、この後は?」
麻衣「えぇ、今日は何もないに。遊ぶ?」
千里「うん。」

   二人、途中で別れる。


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