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石楠花物語小学校時代
可哀想な男の子
京都・ホテル
   10月。柳平家家族9人。

柳平「みんなお疲れ、それでは…正三と八重子がベッドのツインルームで。」
正三「わかった。」

   八重子、きっと睨む。

八重子「正三、あんた何か嫌らしい事、考えてないわよねぇ?府設楽な事…」
正三「ねぇーよ!!」

   小粋にウインク

正三「いくら姉貴が美人でも、俺は姉妹に手を出す様なやけだものじゃないよ。てか、元々…けだものじゃねぇーよ!!」

   柳平、紅葉、笑う。

柳平「で、あすかはまだ赤ん坊だし、と子もまだ小さいから、私たちはみな、川の字で寝よう。」
三つ子「やったぁ!!」
紅葉「決まりね、とりあえずはまず一休みしてから何処かに行きましょう。」
八重子「なら私がお茶入れるわね。」
紅葉「ありがとう、八重子。」

   八重子、お茶を入れ出す。

正三「姉貴はふんとぉーに、何やらせても」

   にやにやうっとり

正三「美人だよなぁ…」
八重子「こらっ、正三!!」

   家族、わいわい。


コンサートホール・控え室
   千里、珠子に身嗜みを整えて貰っている。

珠子「よしっと、せんちゃん出来たわ!!格好良く決まったわよ。」
千里「ありがとう。美代ちゃんは?」
珠子「さぁ…でも、お母さんと一緒に来るって行っていたし、発表もまだだから、まだ来ないんじゃないかしら?」
千里「そうかっ!!」

   ドキドキワクワク。手にはプレゼント包みを持っている。

千里「まだかなぁ、まだかなぁ、」
珠子「せんちゃん、そんなに焦らないの。それはまだ置いておいていいでしょ。」
千里「だってぇ、」

   恥ずかしそうにもじもじ。

珠子「宗一郎君と、元助君は?」
千里「うん、二人も来るって行ってたよ。」


田夢家
   美代と母親

美代「ねぇお母さん!!早く早く!!」
母親「まだ大丈夫よ。千里君の出番までにはちゃんと着きますからもう少し待っていなさいっ!…」
美代「んもぉっ!!」

   部屋を出る。

母親「美代っ、ちょっと何処行くの?」
美代「すぐ近くのお花屋さんよ。千里ちゃんにあげるお花買ってくの。」
母親「そう、気を付けていきなさい。早く戻るのよ。」
美代「はぁーいっ!!」

   走って出ていく。


河原町通り
   美代がるんるんと歩いている。柳平一家とすれ違う。

麻衣「なぁなぁ、まず最初は何処いく?」
糸織「僕なんか、まずは食べたいな。」
紡「京都グルメぇ!!」
麻衣(千里君、どの辺に住んどるだら?)


花屋さん
   美代が入ってくる。

店員「いらっしゃいませ!!」
美代「お花下さい。ブーケにしてね。」
店員「畏まりました。お使いものですね?」
美代「はい!!」
店員「何のお花にしましょうか?」
美代「千里くん、ユリとすみれが好きなの。出来る?」
店員「えぇ、勿論出来ますよ。少々お待ちくださいね。」

   店員、花を作り出す。美代、頬を紅くしてにこにこしながらるんるんと待っている。


コンサートホール・廊下
   正装をした千里がうろうろ。

珠子「せんちゃん、まだそこにいたの?あなたの出番、始まって割りとすぐなのよ?おしっこ行った?」
千里「ううん、」

   心配そうに首を降る。

千里「だって美代ちゃん…」
珠子「約束したんでしょ?心配しなくてもちゃんと見に来てくれるわ。」
千里「でも…でも、」

   うろうろ

声「小口千里くん、千里君いますか?」
珠子「ほらほら」
千里「はーいっ、」

   呼ばれた方へとかけていく。


   軈て、千里の演奏が始まる。会場荷は美代の姿はない。

   終わると、拍手。一礼をして裾へと帰る。唇を噛んで涙をこらえている様子。


岩波家・居間
   その頃。岩波幸恵、岩波悟、健司

健司「えぇーっ、嫌だよぉ!!おれ嫌だ!!」
幸恵「嫌だじゃありません!!じゃあ何で犬なんて飼ったの?あなたがちゃんと世話するって言ったから飼ったのよ!!ほらっ、つべこべ言わずにとっとと行きなさいっ!!」
健司「はい、」

   悟をちらり

健司「お兄ちゃん…」
悟「いいよ、一緒にいこう。」
幸恵「なら二人で行って来なさぁーいっ!!」
悟「ほれ、タケ!」
健司「うん…」

   二人、家を出ていく。


深い林の中
   ざわざわごそごそ。健司、確りと悟にしがみついている。

健司「お兄ちゃん、怖いよぉ。」
悟「大丈夫だよ、タケ…だだの風だ。」
健司「うふっん〜」

   泣きそう。


   暫くして、健司、不安げにキョロキョロ

健司「あれ?あれ?お兄ちゃん?お兄ちゃんってば…お兄ちゃん何処いっちゃったの?お兄ちゃんっ!!」


   別の場所。悟もキョロキョロ

悟「あれ?タケ?タケ…ったくあいつ、はぐれるなって行っただに何処行っちまったんだよ?」

   健司、泣き出す。

健司「わーんっ、お兄ちゃん、お兄ちゃんがいないよぉ!!お兄ちゃん!!」

   犬、鳴く。

健司「チコぉ、」

   者繰り上げて犬を撫でる

健司「お兄ちゃんとはぐれちゃったよぉ!!」

   更に大泣き

健司「お兄ちゃん!!」

   チコ、健司の手を離れて走り出す。

健司「あ、チコ!!チコ!!俺を一人にしないでよ!!チコぉ!!」

   チコ、見えなくなる。健司、踞ってしくしく。


   悟も心配してキョロキョロ。そこへチコ

悟「!!チコっ!!おいっ、タケが迷子になっちまった!!どうしたらいい?」

   チコ、鳴いて走り出す。

悟「お、い、何処へいくんだよ!!なぁ、チコ!!」


   健司、まだ泣いている。そこへチコと悟。

健司「!?っチコ!?」
悟「タケーっ、おーい、タケ!!」
健司「お兄ちゃん?」

   泣きながら悟にかけよって抱き付く。

健司「お兄ちゃんーっ!!」

   悟も健司を抱き止める。

悟「おい、バカだなぁ。はぐれるなって行っただろう!全く、一人で何処にいたんだよ、心配したじゃないか!!」
健司「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!!怖かったよぉ!!俺、一人でとっても怖かったよぉ!!もう、会えないんじゃないかって思ってた…うわぁーんっ!!」

   悟に泣きついて林の中で大泣き。チコ、安心して微笑んだように二人を見つめながら尻尾を振っている。


コンサートホール
   千里、泣きながらロビーに出てくる。

千里「美代ちゃん…美代ちゃん約束したのに…どうして来てくれなかったの?僕、ちゃんとお菓子焼いてきたのに…酷いよ…約束破るだなんて…酷いよっ…」

   そこへ、入り口から清原、園原

清原「おーいっ、おーい、」
園原「千里君ーっ!!」
千里「ん?」

   涙を拭って顔をあげる。

千里「二人とも…二人も今来たの?」
清原「あぁ、ごめんね千里君、ピアノ聞けなくて…」
園原「でも、それどころじゃない、大変なんだ!!ちょっと…」
千里「え、へぇ?」

   二人、千里の手を引いて会場を出ていく。

千里「何だよぉ、ちょっと!!一体何処へ連れていくんだよぉ!!んもぉっ!!」


病院・霊安室
   前景の三人

千里「え?ここ?何、何処?」

   恐る恐る中に入る。美代の母親がいる。

母親「あ…千里君…あなたも来てくれたのね。」
千里「おばさん…美代ちゃんは?何処にいるの?」
母親「ごめんね、千里君…ピアノの発表会に行けなくて…あのね…」
千里「え?」

   母親、そっと布を外す。美代が眠っている。

千里「美代…ちゃん…?」

   蒼白になって母親を見る。

千里「どうして…美代ちゃんは…?」
母親「あなたの発表会にね、お花を持って行くって言ってて…お花屋さんに行った帰りに…車に跳ねられたの。緊急の処置はして頂いたのですけどね…助からなかった…そのまま逝ってしまったわ…。」
千里「そんな…そんな、美代ちゃんは、死んじゃったの…?」

   泣いて震え出す。

千里「美代ちゃん?美代ちゃん、僕だよ、分からない?千里だよ。ねぇ、目を開けてよ!!美代ちゃん!!約束したろ?」

   お菓子を取り出す。

千里「僕、美代ちゃんの誕生日だから、美代ちゃんの為にお菓子を焼いてきたんだよ!!出来は悪いけど、ちゃんと焼いて持ってきたんだよ。」

   体にすがる。

千里「それなのに、美代ちゃんが僕との約束破るだなんて酷いじゃないか!!そんなのって酷すぎるよ!!」
清原「千里君…」
園原「もう行こうよ…」
千里「嫌だ嫌だ、僕はずっとここにいるんだ!!だって大きくなったら美代ちゃんのお婿さんになるんだもんっ!!」

   泣きじゃくる。母親、そっと千里の背を擦って慰める。


冠婚葬祭式場
   五日後。千里、外の階段に黒い礼服を着て座ってお菓子を食べている。そこへ偶々麻衣。

麻衣「?」

   近付く。

麻衣「どうした?ほんねなところに座って…」

   千里、顔をあげる。

麻衣「あ!」
千里「あ…」

   慌てて涙をぬぐう。

千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「あんた、せんちゃん…よね。どーゆー?」

   隣に腰かける。

麻衣「誰かのお葬式か結婚式に来たの?」
千里「お葬式…」

   涙を堪えているが麻衣にそっと顔を埋める。

千里「麻衣ちゃんーっ、えーんっ!!」
麻衣「どうしたの?悲しい?ほりゃ、切ないわねぇ…よしよしよし…」

   黙って千里を慰める。

 
   暫くして話を聞くと麻衣も涙をぬぐう。

麻衣「ほう…ほんなこんが…」
千里「うん…でももう大丈夫…」

   涙を拭って弱々しく笑う。

千里「何か麻衣ちゃんが来てくれて麻衣ちゃんと話していたら、少し元気になった…はい、」

   麻衣にお菓子を渡す。

千里「これ…よかったら君が食べて、僕が焼いたの…。」
麻衣「ありがとう…でも、私なんかが食べちゃっていいだ?」

   千里、頷く。

麻衣「では、頂きまぁーす。ん、シュークリーム!!これ君が作ったのね、凄いわ、お菓子作り上手なのね。」

   二人、わいわいとしている。

千里「ところで、麻衣ちゃんはどうしてここ、京都に来ているの?いつから?」


麻衣「私?あぁ…私は、父さんの仕事の都合…昨日から四日間の滞在だに。」
千里「そうか。」
麻衣「あんたのお母さんは?どうしたの?」

   千里、悲しげに会場を指差す。

麻衣「この中?ひょっとして…せんちゃんの親族の方の…誰かのお葬式?」 

   千里、静かに頷く。

千里「僕のクラスメート…。」
麻衣「ほーか…クラスメート…って…」

   目を見開く。 

麻衣「ええっ、クラスメートっ!?」

   千里、再び泣き出す。

麻衣「ごめんごめん、」

   麻衣、千里をそっと抱き寄せる。千里、泣きながら事を話し出す。

麻衣「ほーだったの。辛いこん話してくれてありがとう。どうする?君も…」

   千里、強く首を降る。

麻衣「でも…最後に美代ちゃんと会った方がいいと思うに…あんたが後悔するわ…。辛いだろうけど…大好きだったのでしょ?ほいだったら…」
千里「…。」

   麻衣、千里をそっと支えて中に入っていく。


冠婚葬祭式場内
   讃美歌が聞こえる。多くの人が参列。

   その内に美代の棺が運び出され、みんなが泣いて見送る。 

千里「美代ちゃんっ!!」

   泣いて駆け寄る。

千里「本当に!本当に死んじゃったの?もうこれで…お別れなの?」

   上から覗き込むと涙が溢れる。

千里「美代ちゃん…」 

   泣きながら歌い出す。

   『♪可愛いお利口なポニー私持ってます』

千里「美代ちゃん確か、この歌大好きで一緒によく歌ったよね…」 

   棺が運び出される。

千里「美代ちゃん?ねぇ、美代ちゃん、美代ちゃんったらぁ!!」
 
   棺が車に入れられると千里、泣き崩れる。廊下にいた麻衣が飛んでくる。

麻衣「せんちゃんっ!!」

   泣いて抱き締める。
 
麻衣「辛いわね、いいの、いいのよ。思いっきり泣いていいの。」 

   千里、麻衣にしがみついて泣き出す。珠子、清原、園原もかけてくる。 

清原「千里君っ!!」
園原「千里君!!」
珠子「せんちゃんっ!!まぁ…」

   麻衣を見る。

珠子(この子確か…どうしてここに…?)


ホテル・一室
   バス・トイレの麻衣一人、

麻衣「…。」

   便器に座りながらトイレットロールに美しい刺繍をしている。

   ドアを叩く音。 

糸織の声「おいっ、麻衣?麻衣なんだろ?早く出てくれよっ!!」
麻衣「まーだーだーめっ。今忙しいの。」
糸織「忙しいって…トイレで何がほんねに忙しいんだよ!!使いたいんだよぉ!!」
麻衣「うるさいっ!!」 
糸織「へーもれそうなんだって!!」
麻衣「ほいだったらもらしな。」

   そこに紡。

紡「どーゆー?」
糸織「なぁ、父さんと母さんは?つむ、君からもなんか言ってやってくれよ!!」
紡「だで何を?」
糸織「トイレだよ!!麻衣のやつがちっとも出てくれないんだ!!」
紡「ほいだったら…」

   指差す。

紡「ん、廊下のトイレ行ってこいよ。」
糸織「あ、ほーか。」

   そこへ麻衣、とぼとぼと出てくる。

糸織「やっと空いたぁ!!うぅーっ、もれるっ!!」

   飛び込むが

糸織「ん?」

   刺繍を施されたトイレットロールを見て目を細める

糸織「な、んじゃこれ…?」


   麻衣、紡。お茶を飲みながら

紡「んで?どーゆーだ?何かあんたらしくないに…。話してみ?何かあるだら?」
麻衣「可哀想な男の子…」
紡「は?」
麻衣「今日な、この間のキスゲのバイトで泊まりに来た、幼稚園のせんちゃんに偶然あったの…彼、京都の子だもんで…」
紡「ほー…?で?」
麻衣「ほの子、冠婚葬祭式場の前であったんだけどな…泣いてたわ…。クラスメートの女の子が交通事故で亡くなってしまったんですって…」

   事を話ながら麻衣も泣いている。

麻衣「私だもんで、ほの子の泣いた顔が頭から離れんくて可哀想で可哀想で…。」
紡「麻衣…」

   しんみりと話を聞いている。

   糸織が出てくる。

糸織「あー、スッキリした…で?何の話、しとっただ?しんみりとしちゃって?…てかさ、」

   刺繍を施されたトイレットロールを持ってきて見せる。

糸織「麻衣…これ君だろ?何だよ…これ?」
麻衣「あぁほれ…?トイレットロールにし刺繍してみた…な、綺麗だら…。」
糸織「綺麗だらって君…わざわざこんなこんするために何時間もトイレの中に立て籠ってたのかよ?全く!!」

   あきれてやれやれする糸織、大笑いしたいのを必死で堪える紡。


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